忍を夢見る子供達が通う木造の学び舎。
その校庭の隅に根を張る大木の枝の上に、生徒というには些か歳をとり過ぎた2人組の姿があった。
赤い雲模様の入った黒装束と、顔を全体を隠すように目深に被った編笠。
その下から僅かに覗くのは、里に対する決別を顕示しているように木ノ葉の紋章を分断する横一文字の傷が入った額当て。
百歩、千歩、一万歩。
どれだけ桁を増やしたところで、堅気には見える筈もない。
怪しい。
どうしようもなく怪しさ爆発の格好だ。
だがこの2人組が真に怪しいのは、格好ではなく頭の中身だったりする。
『ハァハァ』と口から漏れ出す鬱陶しい吐息。
真っ赤に血走った両目。
手に持ったビデオカメラ。
その3つが動かぬ証拠だ。
近隣の住民に通報されれば豚箱に放り込まれても文句は言えないが、残念な事にこの2人は世界でもトップクラスの忍。
元火影にして世界最強の忍と、うちは一族始まって以来の鬼才である。
如何に多くの精鋭が集う最強の忍里と言えど、捕まえる事は愚か発見する事すら困難を極めるのだ。
故にこいつらは、人の身には余る才覚を無駄に垂れ流し、やりたい放題し腐っている。
主に覗きを。
んで、現在覗いているのは忍者アカデミーの一室。
正確には2階の教室の最前列。
机に両肘を突き、頭を抱えてそわそわしている少女。
適当な長さに切り揃えた金髪は大して気を使っているようにも見えないが、枝毛一つ見当たらず鮮やかに輝いている。
少女の名は、【中華 メン】。
12年前、ナルトが全てを投げ打って救った妹である。
そして、河矢久にとっては眼に入れても・・・例えその全身が唐辛子の粉末に塗れていても・・・全然痛くない娘である。
腹は違えど、イタチにとっても似たような存在だ。
「うぅ・・・暫く見ない内に、また一段と可愛くなって・・・」
ドバドバと涙を垂れ流し、ハンカチで鼻を噛む河矢久。
「本当に・・・・・・子供の成長は早いものですね」
晴れ渡る空を見上げ、懸命に涙を堪えるイタチ。
2人とも長年会っていないような口振りだが、割と頻繁に木ノ葉に足を運んでいたりする。
しかも、バイトをサボってだ。
ナルトには口が裂けても言えないが、仕事をクビになった原因の八割はそれである。
「次、【中華 メン】!」
河矢久とイタチの事はさておいて、メンの名が呼ばれる。
今日は忍者アカデミーの卒業試験の日である。
課題は忍の基礎である分身の術。
この術は忍なら誰しもが使える簡単な術なのだが、メンは個人的に苦手としていて、前回と前々回の試験も課題が分身の術であったが為に卒業を逃している。
「メーン? 落ち着いてやれば大丈夫よー」
「が、頑張ってね・・・」
くノ一クラスの友人達からの励まし。
メンはあまり成績は良くないが、明朗快活で裏表の無い性格の為、男女問わず人に好かれ易い。
「い、行ってくるってばよ」
立ち上がって隣りの教室へ向おうとする。
しかし表情が不安でガチガチになっている上に、手と足が左右同時に出ている。
その様子を見て、窓の外に居る2人の変態が『萌え〜』とか言ってるのは無視だ。
「よし、始めろ」
「お、おっす!」
担任であり試験の審査員である【イルカ】の前に立った時、メンの緊張はピークに達した。
体に力が入りすぎ、精神も不安定な状態である。
このままでは十中八九失敗する。
忍が術を使用する上で最も重要な物はチャクラコントロールであり、チャクラコントロールに必要不可欠な要素は術者の集中力に他ならない。
メンの様子を見れば、パニくっているのは一目瞭然。
そんな状態で術が成功するかと言えば、答えは限りなくNOだ。
(大丈夫かメンの奴・・・)
平静を装ってはいるが、イルカは内心穏やかではなかった。
イルカは面倒見が良い。
授業で分からないと言われれば分かるまで根気よく教えるし、悩みを相談されれば親身になって応じる。
まぁ一言で言ってしまえば、無類のお人好しなのである。
加えて、12年前に両親を亡くし孤独な幼少期を過ごしたが故に、少なからずメンに対する親近感を覚えている。
本音を言えば合格してほしいのだが、教師という立場上特定の生徒に肩入れするわけにはいかない。
イルカの胸中は複雑だった。
(お、落ち着け〜! 落ち着くんだメ〜ン!!)
(ああ〜! もどかしいッ!! いっそ今から近づいて直接アドバイスしてやりたい!!)
それに引き換えこの父兄の対応ときたら、忍とは思えない程素人じみていた。
何時の間にか木から移動し、校舎の外壁にトカゲのように張り付き、窓ガラスに顔を密着させている。
それでも気取られないのは凄いのだが、何というか、馬鹿丸出しだった。
その頃、半日遅れでアジトを発ったナルトと鬼鮫は・・・。
≪主、見ろ!! イルカの群れだぞ!!≫
海の上に居た。
「玉藻ぉ! スピード落とせっつってんだろぉが!!」
正確には、海上を爆走する九尾こと玉藻の頭上に居た。
何故かというと、暁のアジトから木ノ葉まではどんなに急いでも3日は掛かる。
亜空間忍術を使って一瞬で木ノ葉に移動したであろう河矢久に追い付く為には、玉藻に望みを託すしかないのである。
だが急いでいるとは言っても、流石に全力疾走させるわけにはいかなかった。
何せ、体のサイズが尋常ではない。
≪はぁ? なんだ? よく聞こえぬぞ―――?≫
『わはははは』と上機嫌に笑いながら、ジグザグ走行でイルカを追い始める玉藻。
本人?は遊んでいるだけなのだが、方向転換の度に海面が爆発している。
比喩でも誇張でもなく、今の玉藻の体積は小さな島に匹敵する。
全力疾走は勿論、急ブレーキも禁止である。
一挙一動に気を配っておかねば、津波を引き起こしかねない。
しかし、ナルトが減速を訴えている最大の理由は他に在った。
「ぜぇ・・・ぜぇ」
鬼鮫が酔っているのだ。
スピードがとてつもない反面、乗り心地は最悪だった。
左右の揺れも凄まじいが、兎にも角にも上下の揺れが激し過ぎる。
お陰で鬼鮫は、元から青い肌がドドメ色に変わっている。
虚ろな眼差しで水平線の彼方を見つめ、懸命に嘔吐感と戦っているものの、吐くのは時間の問題だろう。
鬼鮫自身、吐けば楽になるとは解り切っている。
というか、いっそ吐いてしまいたい。
が、生憎それは叶わぬ願い。
如何せん今居る場所が悪い。
今立っているのは、玉藻の頭上なのだ。
僅か一滴、一滴でも胃液を漏らせば、その瞬間に殺される。
「な、ナルトさん・・・そろそろ、限界です・・・うぷっ!」
「が、頑張れ鮫っち! もう少し、もう少しで火の国だ!」
ナルトは気休めにしかならないと知りながらも、土遁による急造のバケツを手渡し、小さく丸まった鬼鮫の背中を摩っていた。
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