親父は、俺の憧れだった。
強くて、優しくて、立派な忍だった。
火影という責務を果たし、多くの命を救った英雄だった。
だから俺も、親父の名誉を傷付けないように、どんな扱いをされても涙を流さなかった。
英雄の息子として顔を伏せる事だけはしないよう、子供ながらに意地を張り続けていた。
それが、俺の誇りだったから。
・・・でも、今は親父を恨んでいる。
憎んでもいる。
人柱力にされたとか、その事で里から冷遇されたとか、そう言った理由ではない。
寧ろそっちはどうでもいい。
自分が選んだ道であり、とっくに過ぎた過去の出来事だ。
じゃあ、何を憎んでいるのかというと――――――。
「ナルトさん!! 大変です!! あなたのお父さんとお兄さんが!!」
これである。
死んだと思っていた親父は、実は生きていた。
【屍鬼封尽】なんて禁術を使っておきながら、ピンピンしていやがった。
散々カッコイイ背中を見せておいて、実は卑怯くさい裏技を使っていたのである。
それは、【象転の術】という特殊な忍術。
これは親父が独自に開発した術で、木ノ葉の旧家山中家の【心乱身】と少し似た部分がある。
類似点は、相手の体を乗っ取って術者の意のままに操るという所。
だが、親父の【象転の術】はその先が決定的に違っている。
何故なら【象転の術】は、乗っ取った相手の体を術者の完全なコピーと出来るのだ。
姿形は勿論、身体能力や保有スキル、果てはチャクラの性質や術の系統に至るまで。
触媒に与えるチャクラ量で使用出来る術が制限されるとは言え、全てのチャクラを渡せば全く同一の能力を発揮出来る。
まぁハッキリ言って反則くさい術だ。
だがこの術の最大の利点は、触媒が受けたダメージが術者に反映されないという所にある。
例えば、使用した反動で肉体が崩壊してしまうような禁術。
これを使った場合も、術の反動によるダメージは全て触媒が肩代わりしてくれる。
つまり、術の代償として術者の魂を死神に引き渡す【屍鬼封尽】を使って親父が生き延びたのは、九尾と対峙する直前にどこかから掻っ攫ってきた忍の体を利用し、【象転の術】を使用していたからである。
思い付いても躊躇って実行出来そうに無い外道な手段だが、親父は木ノ葉の里が信用出来ないという理由で、あっさりと実行してのけやがったのだ。
んでもって生き延びた後、俺が幽閉されて表に出ていなかった為、てっきり死んだものと勘違いした。
そして、木ノ葉に復讐するつもりでテロリストに転職してやがったのである。
かつての英雄が今や、各国から指名手配されるような重罪人を集めた組織・・・【暁】の首領である。
まぁそう言う俺もその一員なのであまり偉そうな事は言えないが、恨み言の一つや2つ言ったところでバチは当たらないだろう。
いや・・・そりゃあ生きててくれたってのは嬉しいが、もうちょっとこう・・・こうさぁ・・・。
ガキの頃の決意とか想いとか憧れとか、牢に繋がれた7年間とか、どうしてくれるんだって話だ。
過去は取り返せないと分かっていても、願わずには居られない。
返して下さい。
お願いだから返して下さい。
薄暗い牢で費やしてしまった僕の7年間。
影も形も見れなくなったカッコいい親父。
そして親父に毒される前のイタチ。
全部諸々、耳を揃えて返して下さい。
「ナルトさんってば!!」
「ハッ!?」
耳元で叫ばれ、現実に戻る。
「すまん鮫っち。 聞いてなかった」
目の前に立つ大男に精一杯謝罪の意を示す。
彼の名は【干柿 鬼鮫】、通称【鮫っち】。
元【霧の忍刀七人衆】の1人で、怪人の異名を取る凄腕忍者だ。
その魚類みたいな外見とは裏腹に、暁の中で最も常識のある人間である。
そしてイタチとコンビを組まされているが為に、度々迷惑を被っている不幸な男でもある。
俺も親父とコンビを組まされている為、その苦労は痛い程理解出来る。
互いに共通するものがある所為か、俺達は暁の中でも割と仲がいいのだ。
「んで、今日は何しでかしたんだあいつら・・・またバイト先で問題でも起こしたのか?」
暁には金が無い。
S犯罪者が集まった集団とは言っても、犯罪組織としてはまだまだ新興。
あまり目立つわけにも行かないので、知名度はゼロに等しい。
勿論そんな組織に対し、資金提供してくれるようなスポンサーが出来る筈がない。
一応メンバーの中で【角都】ってのが金持ってんだけど、こいつは財布の紐が固くて組織にはびた一文回さないのだ。
その為、軍資金は皆でバイトして稼いだ金でやりくりしている。
だが親父とイタチ、こいつらは頻繁にバイトをクビになる。
まぁそれももう毎度の事なので、これといって騒ぐ必要もない。
今回も先方に出向き、しこたまぶん殴っとけば済む話だ。
だが。
「バイトじゃありません!! 木ノ葉に行くって言い残して出て行きました!!」
「なにぃ!!? マジでか!?」
「大マジです!!」
やべぇ。 マジでやべぇよそれは。
つーか、今更木ノ葉になんの用が・・・・・・。
「ん?」
ふと、壁のカレンダーに目が行った。
今日の日付が赤丸で囲まれ、下に短い覚書が記されている。
『愛しいあの子の卒業式』
「あんのバカ共が〜〜〜!!」
俺はこれ以上ない危機感を覚えた。
主に、暁存亡の危機だ。
親父もイタチも、木ノ葉に置いてきた妹を溺愛している。
何せ、自分達の存在が明るみに出る危険性も省みず、木ノ葉に潜入して隠し撮りした写真を、肌身放さず持ち歩いているぐらいだ。
もし・・・もしも妹に何か起きたら、間違いなく暴走するに決まっている。
俺は自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
「鮫っち! 動ける奴を総動員して親父とイタチを連れ戻す!!
俺が先行するから他の奴指揮して、後から来てくれ!!」
「あの〜・・・とても言い難いんですが・・・」
簡潔な指示を出したが、鮫っちは苦虫を噛み潰したような顔でポリポリと頬を掻いた。
「・・・・・・またか」
多分どいつもこいつも行方を晦ませ、どこぞで油を売っているのだろう。
「鮫っち。 俺とお前の2人だけだが、一緒に来てくれるか?」
かなり情けないと思いながらも、縋るような視線を向けてみる。
「勿論ですよ。 だって、私達は友達じゃないですか」
すると鮫っちは静かに、そして頼もしげに頷いてくれた。
俺は涙腺が開きそうになるのを堪え、趣味最悪な赤雲模様入りの黒装束を羽織った。
そして10歳で里抜けして以来、一度たりとも足を向けなかった木ノ葉隠れに向った。
実に、4年振りの帰郷であった。
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