ナルトは初めから覚悟していたが、現実はやはり厳しかった。
そして無情であり、残酷だった。
父の予想通り、妖魔の器となった幼子を里は受け入れなかった。
最初の頃は父を亡くした子に同情し、英雄だと担ぎ上げ、涙ながらに感謝していた。
だが事件から数日経って、ナルトから血のように紅いチャクラが漏れ出した。
九尾の力が強大過ぎた為、天才と謳われた父ですら御し切れなかったのだ。
そして、それを目の当たりにした時を境に、里の者達は驚く程あっさりと態度を変えた。
完全だと思われていた封印が僅か数日で崩れ始めた事が、九尾の復活に対する恐れを抱かせたのだろう。
やがて同情は恐怖に、感謝は怨嗟に、喝采は罵倒へと変わっていった。
だがナルトはそれを受け入れ、全てを自分の胸に秘めた。
母親にも、兄であるオレにも知らせようとはしなかった。
火影に返り咲いた老人は、真実を知っていた。
知っていて尚、里の平定を第一とし、生き地獄でのた打ち回る子供に手を差し伸べなかった。
それどころかナルトを母と妹の元から切り離し、厳重な結界を張った牢に繋いだ。
ナルトはその処遇を黙って受け入れ、3歳から10歳までの7年間を暗い穴ぐらで過ごした。
里の者達の中に同情を抱くものはなく、枕を高くして眠れるとさえせせら笑った。
うちはの一族など、殺してしまうべきだと訴えた。
許せなかった。
木ノ葉も、里人も、火影も。
そして何より、弟1人救えない自分が許せなかった。
『イタチ・・・後を頼んだよ。 お前だけが頼りだ』
父との約束を果たせない自分の弱さが憎かった。
だから、強くなろうと思った。
力を求め、力に焦がれ、寝食を忘れて修行に明け暮れた。
他のものには目もくれず、体を蝕む苦痛さえ気にならなかった。
そしてオレは、7年の歳月を掛けて写輪眼の極致に辿り着いた。
漸く弟を救えるだけの力を手にした頃、うちは一族に不穏な動きが現れ始めていた。
連中は以前から父に対し、激しい負の感情を抱いていた。
それは、恨みや妬みの類のものだ。
かつて罪人の息子と蔑まれ、誰からも相手にされなかった男は、里で最も優秀な血族ですら足元に及ばない程の天才だった。
アカデミーに入った頃から頭角を現し、伝説の三忍に手解きを受け、いつしか火影の地位にまで上り詰めた。
しかも、長い歳月を掛けて地盤を固めてきた名門の頭越しにだ。
エリート意識の強い連中には、その事実が我慢ならなかったようだ。
父が死んだ後、執拗なまでにナルトを殺したがっていたのもその為だろう。
一族の連中はオレが力を手に入れようと躍起になっていた7年の間に、幽閉されたナルトを抹殺する計画を練っていた。
もしもバレれば、如何にうちはといえど処分は免れない。
けれど一族の連中は、そんなリスクを犯してまでナルトを殺したがっていた。
しかも陣頭指揮を取っていたのは、戸籍上の父親だった男だ。
そして奴は愚かにも、オレにまで協力を求めてきた。
後にも先にも、この時ほど腸が煮え繰り返った事はなかった。
喋っている最中に首を飛ばしてやろうかと思ったが、オレはどうにか怒りを堪えて従った。
無論、ただ従う振りをしていただけだ。
何故なら、機密扱いになっていた牢の位置を知る必要があったからだ。
そうしてオレは、警備を破りナルトを牢から連れ出すまでは演技を続けていた。
実行部隊はオレを含めて5人。
うちはでも選りすぐられた手錬だった。
他の連中はアリバイ工作の意味も含め、集会所や自宅で待機していた。
そんな中オレと4名の実行部隊は、牢の警備に就いていたうちは出身の暗部に手引きされ、ナルトの牢へと辿り着いた。
オレは7年振りに弟と再会した。
だが、ナルトは変わり果てた姿になっていた。
そこで何があったのか、一目で理解した。
ナルトは四肢を枷に繋がれたまま、暴走する九尾のチャクラと闘っていたのだ。
たった独りで、もがき続けていたのだ。
綻びた封印から漏れ出したチャクラに肉を裂かれ、神経を焼かれた痛みで髪の色が抜け落ちても、父の護った里に災厄を放たぬように、自らの痛みと引き換えに、最強の妖魔を意思の力だけでねじ伏せていた。
どれだけ辛い想いをしたのだろう。
どれだけの苦痛を経験したのだろう。
諦めてしまえば、どれだけ楽だっただろう。
過程が分かったとしても、ナルトの過ごした歳月の重さは理解出来なかった。
想像しただけで膝が震え、眼の奥が焼けるように熱かった。
だがうちは一族の者達は、ナルトの想いを理解しようとさえしなかった。
汚らしいものを見るような眼を向け、口々に罵った。
『化け物が。 お前には生きる価値もない』
暗がりの中で、誰かが言った。
その言葉を聞いた瞬間、理性が弾け飛んだ。
背中の刀を一息で抜き、アバラの隙間から心臓を串刺しにした。
切っ先を引き抜くと同時に、首を跳ねてやった。
汚らわしい血を浴びながら床を弾き、一息の間に3人を殺した。
1人目は体を二つに裂き、2人目は喉を貫き、3人目は火遁で焼き尽くした。
最後に残った1人は、うちはの秘奥によって死よりも辛い地獄を味わってもらった。
そしてオレはナルトを安全な場所まで連れ出した後、計画に参加した一族を皆殺しにした。
同族を殺す事に、戸惑いはなかった。
里から追われる事に、恐れはなかった。
胸にあったのは、ただ一つ。
オレを庇って死んでいった母に対する、深い感謝だけだった。
そしてオレとナルトは、その日の内に里を捨てた。
血に染まりながら見上げた夜空に、綺麗な満月が浮かんでいたのを覚えている。
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