10月9日 夜
身重だった妻が産気づいた。
大至急産婦人科に連れて行く。
だがふざけた事に、ドアにカギが掛かって休診の札がぶら下っていた。
あまりにもむかついたのでドアを蹴破り、寝ていた医者を叩き起こし強制的に診察させた。
そして念のため、
『妻にもしもの事があれば、お前を殺した後ここの看護婦を全員犯す』
と脅しを掛けておいた。
・・・・・・妻にしこたま殴られた。
10月10日 早朝
妻が無事に出産した。
産まれた赤ん坊は、女の子だった。
妻に似て凄く可愛らしいのだが、オレ似てないのが少し残念だ。
でも、無事に産まれてくれて本当によかった。
それに今日3歳の誕生日を迎えるナルトに、これ以上ないプレゼントが出来た。
イタチも妹が欲しいと言っていたので、喜んでくれるだろう。
10月10日 朝
一度家に戻り、2人の息子を連れて病院に行く。
イタチをうちは家に向いに行った時、フガクに絡まれたのが少し腹立たしかった。
だが兄妹の顔合わせに怒った顔は禁物なので、なるべく顔に出さないよう注意する。
病院に着いて、妻の病室を訪ねる。
妻の腕の中には、布に包まれた赤ん坊。
内緒にしていたので、ナルトとイタチは凄く驚いていた。
でも、それ以上に喜んでいた。
2人の兄に手や頬を触れ娘も、嬉しそうに笑っていた。
10月10日 昼
ナルトの誕生ケーキを買いにケーキ屋に行く途中、三代目に出くわした。
道端だと言うのに、小言を言われた。
『溜まっていた書類には目を通したのか』とか、『会議はどうしたんだ』とか、ぐだぐだ五月蝿かった。
こんなおめでたい日に、仕事などやってられるかって感じだ。
そんなに里が心配なら、嫌がるオレを火影になんてしなければよかったんだ。
というかそれ以前に、猿飛先生が現役復帰すればいいとだけの話だと思った。
そしたらオレも、火影なんか止めて子供達に構ってやれるのに・・・。
10月10日 夕
1万両(10万円)も叩いて購入した特大ケーキを囲んで、親子水入らずの誕生パーティーが始まった。
病院に居る妻と娘が出席出来ないのが残念だが、ナルトが嬉しそうにしていたので良しとする。
聳え立つ糖の塊の頂上にロウソクを3本立て、マッチで火を灯して部屋の灯りを消す。
ナルトがロウソクを吹き消すのを、フラッシュを焚いたカメラを構えつつ待った。
だがケーキの背がナルトよりも高く、中々吹き消す事が出来なかった。
ナルトは背伸やジャンプをしたりして、どうにかしようと四苦八苦していた。
我が子のあまりの可愛さに、夢中になってシャッターを切った。
オレが撮影に熱中していると、見かねたイタチがナルトを肩車してあげた。
すかさず予備のフィルムを装填し、めまぐるしいフットワークでシャッターを押しまくった。
そして、イタチの協力を得たナルトがついに目的を達成しようとしたその時。
大地を揺るがすような、魔獣の咆哮が聞こえた。
10月10日 夜
咆哮の主は世界最強の尾獣、九尾の妖狐だった。
かつて木ノ葉が保有していた九尾と姿形は同じだが、力の方はまるで比較にならない。
奴と相見えれば、一瞬で消滅させられるだろう。
おそらく奴は、妖狐の眷属を束ねる長だ。
伝説の三忍が使役する魔獣や他の尾獣・・・・・・いや、天災すらも超越した力を感じる。
奴にとっては、五影と呼ばれる忍ですら羽虫のようなものだろう。
あれは、人では抗いようのないもの。
あれは、決して対峙してはならないもの。
あれは、絶対的な生殺与奪の権限を持った神に等しい存在だ。
だがオレは、その神に歯向かった。
無論、後悔している。
泣き出したい程恐怖もしている。
だが。
だがそれでも。
・・・・・・背を向けるわけにはいかない理由があった。
オレは此処に立つ前、最低の選択をしようとした。
滅びを免れる為に、生まれたばかりの娘を犠牲にしようとした。
他に手段がなかったとしても、許される行為ではない。
『里の者は皆家族』
三代目は口癖のように言うが、そんなものは詭弁だ。
人はそれ程強くない。
自分達と違うものを否定し、差別し、白害し、排斥しようとする。
妖魔の入れ物にされた子が、他者に受け入れられる筈がない。
現にこの里は、里人は家族と言いながら人柱力を白害してきた。
そしてオレも、里を抜けた咎人の子として白い眼を向けられて育った。
だがオレには、守ってくれた人が居た。
存在を受け止め、対等に接してくれた人が居た。
だから、ここまでやってこれた。
もしもその人が・・・・・・自来也先生が居なかったら、今日まで生きてこられたかも分からない。
それなのに、オレは最低の選択をしようとした。
世の中の冷たさと人の汚さを知って、尚。
娘を地獄に突き落とそうとした。
男としても、夫としても、親としても、とことん最低だ。
・・・・・・・・・けれど。
最後の一線を越える手前で、息子が・・・・・・ナルトがオレを止めてくれた。
ナルトは母から娘を奪い去ろうとする父親の袖を握り締めた。
怒鳴られても、頬を張り飛ばされても、けして手を離さなかった。
泣きもせず、恐れもせず。
ただじっと、オレの眼を睨み付けた。
そして、言った。
『俺が代わりになる。 だから、その子を母ちゃんに返してあげて』
言葉は鋭い刃物となって、オレの心臓を貫いた。
『妹が生まれたんだ』
その言葉に、どれだけの想いが篭められていたのか。
『今日から兄ちゃんになったんだ』
その小さな体に、どれだけの覚悟が秘められていたのか。
『だから俺、どんなに辛くてもガマン出来るよ』
その笑顔に、一体どれだけの優しさがあっただろうか。
オレのような凡俗には、とても推し量れなかった。
歴代最強の火影などと持て囃されていた男の膝は、たった3つの幼子の前に容易く崩れ落ちた。
そしてオレは兄に妹を返し、兄は妹を母の腕に返した。
妻は、ナルトを抱き締めて泣いていた。
ナルトは少し微笑んで、小さな手で母の髪を梳いた。
それはまるで、今生の別れを告げているようだった。
ナルトは、多分知っていた。
普通の人生を歩けなくなる事も、辛い運命が待ち受けている事も、全て承知の上。
母を泣かせたくない。
兄を悲しませたくない。
妹に幸せになってほしい。
そんな当たり前の理由で、自ら煉獄に飛び込んだ。
・・・・・・・・・オレなんかには、勿体無い息子だった。
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