NARUTO
〜九妖忍法帳〜 55話目




「約束の物だ。 忘れない内に渡しておくよ」

兵糧丸でチャクラを補充したカブトは、約束通りナルトに認識札を差し出した。

カブトにとって、ナルトは大蛇丸を消すための大切な協力者・・・になる予定だ。

ここで恩に報いて誠実さをアピールしておけば、後々の行動も楽になるというもの。

チャクラの回復量に比例して、頭の回転も元に戻り始めたようである。

「頂戴仕る」

ナルトは一礼してから札を受け取ると、さっそく中身を確認する。

一次試験で見たカブトを真似て、背表紙に指を当て札にチャクラを通してみる。

「お、出た!」

「渡す前に術式を組み替えておいたからね。
 ナルト君以外のチャクラには反応しないよ」

「おっけーおっけー」

返事はしているものの、もう聞いちゃいない。

お目当ての情報にご満悦の様子。

ちなみに札の中身だが、テマリの個人情報だったりする。

「・・・・・・あれ?」

数秒もしない内に、ナルトの鼻歌は止んだ。

札の中身に不可解な点がある。

それも一つや二つではなく大量に、というか寧ろ札そのものが不可解と言っても過言ではない。

「助けてもらったお礼も兼ねて、多少色を付けておいたよ」

―多少? これで多少?

多少どころの話ではなかった。

住所、生年月日、身体データ、血縁関係、友好関係、その他諸々。

挙句の果ては行き付けの服屋なんつー蛇足この上ない情報まで書いてある。

一次試験の時サスケ達に見せた札とは、情報量は勿論札のデザインからして大違いである。

それもその筈。

これはカブトが大蛇丸への報告+個人的な趣味の為に収集した情報をたっぷり詰め込んだもので、怪しげなブラックの背表紙に相応しい極秘情報が盛り沢山の代物。

人に渡す事などまず有り得ないし、見られただけでもかなりやばかったりする。

何せ記載されている情報は砂の姫君の個人情報。

テマリは肩書きこそ下忍だが、間違いなく砂の要人である。

そんな人間の個人情報をここまで知っているとなると、かなり条件が限定されてくる。

身内、担当上忍、砂の上層部、または暗部。

外部の人間で知っているとすれば、それは余程地位のある人間。

もしくは飛び抜けた力を持った忍という事になる。

少し頭の回る人間なら、まず普通の下忍ではないと気付く。

流石に大蛇丸の関係者とバレる事はないにしろ、素性について勘繰られる事は必定。

かなりのリスクが伴う。

無論、それはカブトとて理解している。

しかし自身の目的を果たす為には、多少疑われようがここで力の一端を見せておく必要があるのだった。

「・・・・・・」

で、当のナルトの反応はと言えば・・・。

―うそくせ・・・。

だった。

残念な事に、ナルトはカブトが飛び抜けた実力を持つ忍とは微塵も考えなかった。

何故ならついさっき、蛇に食われそうになっていたのを見ているから。

―こんなガセネタ掴ませるたぁどういう了見だ、この野郎・・・。

ナルトさん、お怒りの様子です。

みっともないので感情には出していないが、内心では烈火の如く怒り狂っておられる。

「折角だけど、これ返すね」

「!?」

口元をピクピクさせたぎこちない笑みを浮かべて札を突っ返され、思いっきり動揺するカブト。

そこへ畳み掛けるように、疲れ果てた溜息が吐き出される。

「あの程度の事で恩に着ろなんて言わねぇけどさ。
 やっぱり人間、恩を仇で返されたら悲しいよね」

「いやいやいやいや!! だから現にこうして・・・」

「ついでだからアドバイスしとくけど、嘘はもう少し上手に吐こうな。
 自分の身の丈にあった嘘を吐かないとすぐバレるからさ」

「いや・・・だから嘘じゃないってば」

「はいはい」

必死に誤解を解こうとするカブトだが、ナルトは端から聞く耳を持たず。

暖簾に腕押しという感じだ。

弁明すれば弁明した分だけ、注がれる視線は生暖かいものになっていった。






―一時間後―

カブトはまだ説得を続けていた。

話の途中で帰ろうとするナルトをその度に引き止め、根気強く粘り強く。

しかし、成果はあまり芳しくなかった。

「・・・ナルト君、いい加減信じてくれよ」

「信じるとか信じないとか、宗教じゃないんだから。
 まずは証拠を出せ証拠を。 話はそれからだ」
 
ナルトは長時間の押し問答にすっかり飽きており、カブトの話よりも草毟りに集中している。

対比でいうと3:7といった感じで、もう完全に人の話を聞く態度ではない。

「じゃ、10秒だけ待つからその間に出してね。 でなきゃ帰るよ俺」

待つと言ったくせに、既に帰り始めている。

―・・・証拠ねぇ。 まぁ、あるにはあるんだけど。

ナルトを納得させる手段はあるようだが、カブトはあまり気乗りしないようだった。

―・・・・・・一か八かやってみるか。

少し迷った後、一度は仕舞ったブラックカードの束を取り出す。

そしてそこから何枚かの札を選んで、手裏剣の要領でナルトに投げた。

カブトの手を放れた札が、キレイな孤の字を描いてナルトに向かう。

力を計る意味合いも兼ねてか、回転も速度もかなりのもの。

小振りの枝ぐらいなら容易く断ち切れそうだ。

「逆ギレした上に不意打ちとは恐れ入った。
 こいつは宣戦布告と受け取っても構わねぇんだ・・・な!」

ナルトは前を向いたまま難なく札を受け止め、振り向きざまに札を投げ返した。

回転と速度は行きの2倍だ。

当ればかなりまずい事になる。

しかしカブトは落ち着き払っていた。

その場から一歩も動く事なく、人差し指と中指だけで札を止めてみせる。

「いや。 宣戦布告とかじゃなくて、ナルト君が証拠を見せろっていうから」

こうして刃を交えるのが一番手っ取り早く力を見せる方法ではある。

だがそれをやると、今のように相手の心象を悪くする恐れがある。

だから嫌だったのだ。

―・・・確かに、タダの下忍じゃねぇわな・・・。

それでも一応、伝えたい事の半分ぐらいは伝わっているようだ。

ナルトは今の動作から、カブトの力をある程度読み取っていた。

札の軌道を瞬時に見切った眼力、無駄のない身のこなし。

その2つを見て、明らかに下忍の範疇を超えていると分析した。

「これで信じてくれるとありがたいんだけど・・・」

心配そうな面持ちのカブトだが、ナルトの評価は確実に変わっている。

ただし、良くない方向に。

―チィ、迂闊だった・・・。
 こんな所まで出張ってくるバカがいるなんてな。

カブトは刺客だと思われていた。

―ここなら殺したって試験中の事故で片付けられる。
 つーかやべぇな・・・だったら完全に殺る気じゃねぇか。

間の悪さと環境の悪さ故に、事実とかけ離れた結論に行き着くナルト。

―誰かの敵討ちか、それとも人に頼まれてか・・・。
 ・・・どっちにしろ碌なもんじゃねぇな。

過去の経験上自分に近付く実力者・・・特に所属が木ノ葉とくれば、碌な手合いではないと相場は決まっている。

しかもそういう手合いは形振り構わず、目的を遂げる為ならどんな手も使ってくる。
 
実際にそういった連中を見てきただけに、今目の前に居るカブトが本物になりすました偽者で、自分に近付く為にわざと危機を演じていた可能性も捨てきれなかった。

―クソ・・・。 
 ちっとも殺気がねぇから今の今まで気付けなかった。
 ・・・・・・・・・待てよ。
 そういや全然殺気がねーな・・・。

しかしカブトの場合、黒と断定するには不可解な点があった。

まず第一に、最初に会った時から今に至るまで殺気というものを微塵も向けられていない。

―・・・・・・おかしいな。

改めてカブトを観察してみると、自分に対する悪意の類をまるで持ち合わせていない事が分る。

何らかの理由で感情が欠落しているか、殺気を読ませない程の手錬というのなら分るが、そう考えるには無理がある。

感情がない人間は気配やチャクラにブレがなく、常にリズムが一定しているものだ。

しかし最初に会った時、カブトのチャクラは乱れに乱れていた。

故に前者ではない。

後者の可能性については、ゼロではないがかなり低いだろう。

木ノ葉の忍で自分に殺気を読ませない程の実力者なら、まず記憶に残っている筈だ。

記憶の中から目ぼしい上忍や暗部をサルベージしてみるが、やはり該当する者はいない。

もっともそんな推論を巡らせるまでもなく、少し考えればカブトが敵意を持っていない事は分かる。

―・・・もしかして勘違い?

そう思い始めたナルトは、少し状況を整理してみる。

まずカブトと遭遇した時の状況。

あれは実にみっともない光景だった。

などという失礼な感想はさておき、カブトの力を考えればこの程度の試験で醜態を晒すのはどう考えても不自然だ。

だからこそ疑いの眼を向けたのだが、

―よく考えると最初から怪我してたような・・・。

冷静に振り返ってみると蛇に襲われて負傷したのではなく、負傷したところを襲われただけかもしれない。

―けど、こいつをボコれる奴なんて・・・・・・・・・あ。

いた。

2名いた。

内1人は自分の身内。

―ん〜・・・。

ナルトは目を細め、カブトの全身を観察する。

カブトの体に刻まれた無数の傷は、どれも間違いなく本物だ。

少なくとも自ら付けたものではない。

カブトの傷がどの角度からどれぐらいの力で殴られたのか逆算すれば、相手の体格などが大体は推測出来るのだ。

医療術はからっきしのナルトだが、傷の診断ぐらいはお手の物だった。

―・・・シロだなこりゃ。

診察の結果、犯人が自来也であると解った。

「・・・断っておくけど・・・敵対する気は全然ないからね?」

しかし傷を観察していたナルトの視線は、知らない間に間違ったメッセージを送っていた。

―このままじゃまずいな。
 口で言っても信じてもらえるとは限らないし・・・。
 ・・・・・・仕方ない。

カブトはひとり覚悟を決め、最終手段に打って出る。

「!?」

急速に高まっていくチャクラを感じ、ナルトが顔色を変えた。

だが、本当の驚きはここからだ。

カブトは練り込んだチャクラを負傷した箇所に送り、細胞を内側から活性化させる。

すると体の至る所にあった傷が見る見る間に塞がっていき、数秒もしない内に全ての傷が消えてしまった。

「・・・医療忍術・・・の一種か?」

初めて見る術。

医療という専門外・・・というか苦手な分野。

しかし、今の術に要求される技術の高さは察するに余りある。

カブトを観察するナルトの眼差しが、初めて良い方向に変化した。

「細胞を作り替えて傷口を塞いだのさ」

その反応を見て、とりあえずホッとするカブト。

「印を必要としないっていう利点はあるけど、チャクラの消耗が激しいって欠点もあるけどね」

「てか、そんな簡単にタネ明かししていいのか? 聞いた俺が言うのもなんだけど」

「言ったろ、敵対するつもりはないって。
 これでいい加減信用してもらえたかな」

忍者が自分の手の内を明かす。

それが意味するところは大きい。

「・・・わかった。 とりあえず敵じゃないつーのは信用するよ」

カブトはまだ自分の素性も、本来の目的も明かしていない。

だが敵対の意思なしという、最も重要な事を伝える事に成功した。

ここにきて、ようやく一歩前進したカブトであった。






「ま、何にせよ身の潔白が証明出来てよかった」

何度も言うが、完全に信用されたわけではない。

敵という認識が改まっただけであって、ナルトにとってカブトの存在が胡散臭いものである事は変わらない。

本題を切り出すのには、まだまだ長い時間が掛かる。

―そう。 例えどんなに短い距離だったとしても、前進する事に意義があるんだ。

その点はカブトも重々承知しており、長期的なスパンでやっていこうと考えている。



@友好関係を築く。

Aナルトの詳細なデータを収集する。

B収集したデータを分析し、戦略を立てる。(場合によっては修行も有り)

C自分の素性を明かし、協力を求める。

D作戦実行。



めちゃくちゃ大雑把に説明するとすればこんなところだ。

この調子だと目的を果たすのは随分先になりそうである。

しかしカブトは目的達成を第一条件として、時間が掛かるのは仕方のない事だと考えている。

万一失敗すれば、自分だけでなくナルトの身も危うくなるからだ。

色々苦労の多い人生を歩んできた所為ですっかり腹黒さが染み付いてしまったカブトだが、命を救われた恩義はしっかりと胸に刻んでいた。

「じゃあ、信用の第一歩として改めて」

「あ、ああ。 ありがとう」

手渡されるカブト印の認識札。

しかも束である。

ちょっとばかり量が多いので戸惑ってしまったものの、さっきのように突っ返したりしない。

―いくら助けたっつても、ここまで親切にされるとなんかな・・・。

好意は伝わってくる。

だが、真意が分らない。

チラッと横目でカブトを窺ってみると、ニコニコしながらこっちを見ていた。

しかも目が合うと笑顔が倍になった。

その瞬間、居心地の悪さまで倍になった気がした。

ナルトはカブトの視線から逃れるように、受け取った札に改めて目を通す。

―しかし、こうして見ると出鱈目な情報量だな。
 訴えられたら敗訴確定じゃねぇか。
 一体全体どうやって集めたんだか・・・でもまぁ。

情報の中身がやや偏っている気がしなくもないが、悪くはない。

―情報部隊としちゃ即戦力だな。

この機を逃せば滅多にお目にかかれない逸材だ。

カブトの素性や目的は謎だが、この情報収集能力は捨て難い。

幸い向こうは自分に対して友好的だ。

この際味方に引き入れてしまえば、後々役に立つかもしれない。

そんな狡っからい考えが頭を過ぎる。

だが一度あんな態度を取った手前、話を切り出しにくい。

ナルトは何か良い口説き文句はないものかと知恵を絞ってみた。

―さて、どうしたもんかな・・・。

普段からあんまり脳みそを使わないのが災いしてか、これといった閃きがない。

なるべくゆっくり札を確認して時間を稼いでみても、やはり結果は同じ。

何のアイデアも浮かばないまま、時間だけが過ぎていった。

「ん?」

札の山が終わりに近付いた時、ナルトの表情に変化が表れた。

妙案を閃いたからではない。

今、とんでもないものが目の前を通って行った気がする。

ナルトはスルーした札を急いで確認してみた。

「な!? これは・・・!!」

札が小刻みに揺れている。

いや、それを持つナルトの手が痙攣している。

今までの情報もそれはそれで衝撃的だったが、ここまでのインパクトはなかった。

これに比べると、他の札など可愛いらしく見えてくる。

「フッ、お気に召してもらえたようだね」

ナルトのリアクションを確認したカブトの顔に、勝ったと言わんばかりの笑みが浮んでいた。







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