NARUTO
〜九妖忍法帳〜 54話目




あなたは、神を信じますか?

奇跡を信じますか?

ボクはそのどちらも信じていない。

もしそんなものがあるのなら、もっとましな人生を送っている筈だ。






―第2試験開始直後―

『カブト。 ミッション追加よ』

大蛇丸様は突然やってきたと思ったら、わけの分らない事を言い出した。

生まれつき頭が弱いのは知っているが、思い付きで行動するのは止めてほしい。

ていうかそれ以前に、久しぶりに会った部下に労いのひとつも言わねーのかよ。

『だがことわ・・・冗談ですよ冗談。
 聞くだけ聞きますから、チャックに手を掛けるのは止めて下さい』

『やぁねぇ、こっちだって冗談よ・・・うふふ』

冗談という割に、両目がボクの下半身に釘付けだった。

両刀はこれだから困る。

『で。 追加の任務ってどんな内容なんです?』

さっさと本題に入って貰いたい。

1秒たりとも同じ空気を吸うのはゴメンだ。

『一次試験の時、サスケ君の近くに居た白髪の子・・・あなた覚えてる?』

無駄に長い髪の毛の先端を指でいじりながら、頬を染める大蛇丸様。

正直気持ち悪いのだけれど、仮にも上司。

嫌悪感を顔に出すわけにもいかない。

『はぁ・・・まぁ覚えていますが、それが何か?』

『ねぇカブト、彼の事・・・どう思う?』

『・・・・・・仰る意味が解かりかねます』

『・・・鈍い子ね』

舌打ちされた。

・・・死ねばいいのに。

『タイプだって言ってるのよ』

大蛇丸様から発生する瘴気で、大自然の空気が汚染されていく。

ボクは慌てた呼吸を止めたのだが、間に合わず僅かに吸い込んでしまった。

肺が腐りそうだ。

『ちょっとカブト。 ちゃんと聞いてるの?』

『ええ聞いてますよ。 どうせデータ取って来いって言うんでしょ』

『そう、出来るだけ詳しくね。 趣味とか好みとかスリーサイズとか』

『あの〜・・・本人に直接聞いた方が早いのでは?』

ボクが心の底で『馬鹿じゃねーねこいつ』と呆れていると、大蛇丸様は神妙な顔で溜息を吐いた。

こっちだって我慢して相手をしてやってるんだから、もう少し気を使ってほしい。

『いいカブト? 恋は戦いと同じ。
 戦いを制す為には、より多くの情報が必要なのよ。
 昔から言うでしょ? 敵を知り己を知らば百戦危うからず・・・てね』

そうだね。

敵を知るのは大事だけど、己を知るのはもっと大事だね。

『・・・何よその顔は? 何か言いたい事でもあるのかしら?』

『いえ、特に何も』

勿論言いたい事は山程あるが、言うつもりはない。

どうせ無駄だし。

それよりも、早くこの人の傍から立ち去りたい。

今だけでなく、半永久的に。

『ふん、嫌な子ね。 ・・・そんなんだから、何時まで経っても彼女出来ないのよ』

今のはグサリと来た。

殺意も湧いた。

幾ら主従であっても、言ってはいけない事はある。

『・・・大蛇丸様には関係ないじゃないですか。
 ボクにだって事情ってものあるんですよ。
 上司だからってプライベートにまで口を挟まないでもらえますか』

大体彼女が出来ないのではない。

忙しくて作る暇がない・・・いや、作らないだけだ。

その気になれば、ボクだって彼女の1人や2人・・・。

『はいはい。 能書きはいいからさっさと行きなさい、この童貞』

大蛇丸様・・・いや、大蛇丸。

今日この時より、ボクはあなたの敵となる。

そして今の発言を何時か必ず後悔させてやる。

ボクはそう固く誓って、大蛇丸に背を向けた。

『ちっくしょう!! 覚えてろよぉぉおおおぉ!!』

・・・・・・泣いてなんかない。

ボクは強い子だから。






―試験開始4日目―

「・・・・・・死にたい」

煤けた頬に、つぅ〜っと涙が伝う。

こうして空を見上げるのも、これで3日目。

この3日間、よく敵に遭遇しなかったなぁと思う。

もしこの状態で襲われたら、一巻の終わりだ。

今のボクは精根尽き果てて、動くのがやっとといった感じだ。

それもこれも元はと言えば、大蛇丸の所為だ。

奴の命令通り、白髪の少年・・・【蝦蟇野ブン吉】に近付いたばかりにこんな目に遭っている。

あれは鬼だ。

一方的に叩きのめされ手も足も出なかった。

命辛々逃げ出せたのは幸運だったが、その時負わされた傷はまだ癒えていない。

持ち合わせの兵糧丸を使い3日間死ぬ気でチャクラ搾り出し回復に努めたのに、起き上がるのがやっとだ。

やっぱり、ボクの人生は本当に碌なもんじゃない。

今の今まで幸せな事なんてなかったし、まともな主に巡り合った例もない。

まぁ人に尽す事はそう嫌いではないが、やはりせめて普通の人に尽したいと思う。

一年中人形の中に引き篭もってるような人や、オカマでホモでロリでショタでマッドでサイコなヒトモドキなんて嫌だ。

特に2人目、今の主はね。

彼を表するに相応しい罵倒用句は幾らでもあるが、もうこれ以上説明するのは止めよう。

不毛だ。

とにかく、大蛇丸は色んな意味で超越しちゃってる奴だ。

正直なところ、もう嫌だ。

主も嫌だけれど、そんな主に使えている自分が嫌だ。

逃げて自由になりたい。

両手を広げて大空に羽ばたきたい。

今の境遇から開放されるのであれば、崖から羽ばたいたって構わない。

というか、いっそ死んで楽になりたい。

しかし、死んだところで無理矢理蘇生させられるのがオチだ。

したがって、何の解決にもならない。

腐りきってるクセに、実力だけはあるのだ。

それ故大蛇丸から逃げる為には、大蛇丸よりも強い人間の庇護が絶対に必要不可欠。

しかし、それは難しい。

先程も言ったように、オツムはアレなクセに実力はあるのだ。

彼に匹敵する実力者など、世界中探したってそう見付かるもんじゃない。

ぶっちゃけた話、五影でも勝てません。

実際ちょっと前、五影の1人を殺ってました。

ボクの目の前で殺りました。

3分足らずで殺りました。

五影は世間一般では忍の最高峰と考えられているが、真っ赤な出鱈目だった。

勝てないにしても、せめて刺し違えるぐらいの根性は見せてほしかった。

期待していただけに、無念でならない。

折角応援したのに・・・・・・使えない。

この分だと、木ノ葉の長にも期待は持てないだろう。

・・・鬱だ。

何でボクばかりが、こんな目に。

「!」

愚痴に熱中していたボクを正気に戻したのは、藪の中から聞こえた物音だった。

「よりによってこんな時に・・・」

何かが居る。

こちらの様子を窺いながら、徐々に近付いてくる。

気配の消し方からして、多分人間ではない。

おそらくは森に生息する猛獣の類だろう。

「フー・・・まぁこれが普通か」

寧ろ、今まで遭遇しなかった方が不思議なのだ。

ボクは自嘲気味に笑いながら、生きる事を諦めようとした。

しかし、藪の中から顔を出したものを見て気が変わった。

・・・・・・何故ならよりによって、出てきたのが大蛇だったのだ。

「やっぱり死んでたまるか!!」






ナルトは今、すごく悩んでいた。

食料を調達する為に単独行動を取ったはいいが、中々獲物が見付からない。

動植物の宝庫であるこの森で?

と思う人もいるだろうが、ナルトは少し変わった食材を探しているのだ。

その食材とは、なるべく気味の悪い造形で生理的嫌悪感を誘うようなもの。

一目見ただけで食欲が失せそうなものだ。

何故そんなものを探しているのかというと、サスケに嫌がらせをしたいから。

これに尽きる。

知っての通りナルトは、音忍達と揉めた時白に多額の金銭を毟り取られた。

最初は自業自得であると無理矢理自分を納得させていたが、よくよく考えたらサスケとサクラにも責任があると気付く。

音忍やリーの治療費は、自分は殆ど関係がない。

これは直接怪我をさせた人間、またはその原因となった人間が支払うべきものだ。

ナルトはそう考え、2人に半額負担するように交渉した。

サクラは分割払いという条件でOKしたが、サスケの返事はNOだった。

それだけでも十分腹が立つというのに、

『頼んでもねぇのに余計な事すんじゃねー』

と言って鼻で笑われた。

あまりと言えばあまりな態度に、ナルトは今度こそ完全に息の根を止めてやろうかと思った。

しかし、寸での所で我慢した。

この先の中忍試験を円滑に進める為とは言え、記憶のないサスケに真実の大部分を覆い隠し、且つちんけなプライドが満たされるように誇張&脚色した情報を与えるようサクラに指示した自分も悪いのだ。

サスケの中では、音忍に襲われ泣き叫ぶ自分達を救った事になっている筈。

まさか真に受けるとは思わなかったが、増長するのも無理からぬ内容になっている。

現実を見せて子供の夢を壊すのは簡単だ。

しかし、それではあまりにも大人げないというものだ。

そう思ったナルトは、怒りを納め生暖かい目で見守る事に決めた。

しかし、やはりムカつく事に変わりはなかったので、ささやかな嫌がらせをする事にしたのだった。

とばっちりを食わされるサクラが気の毒な気もするが、彼女はサスケが寝ている間に散々ゲテモノを食わされ、既に免疫が付いているので大丈夫だろう。

「ふっ。 大人って辛いな」

前髪をイジリながら、ニヒルな笑みを浮かべるナルト。

本人は恰好付けているつもりだが、ちっとも格好よくない。

というかそんな暇があるのなら、もう少し回りに気を配るべきである。

ナルトは姿を隠すとか音や気配を絶つとか、忍として当然行うべき気配りをしていない。

敵? 叩き潰しゃいいじゃん。

不意打ち? 出来るもんならやってみれ。

とでも言わんばかりに、小面憎い顔で堂々と歩いている。

まぁ襲ってきたのが余程の者でもない限り大丈夫だろうが、それでも些か無用心である。

「む! この鳴き声は!」

しかし隙だらけに見えても、ナルトの感知能力はズバ抜けていた。

遠くから微かに聞こえた声をキャッチし、目の色を変える。

そして。

「うっしゃあ! 待ってろ昼飯!!」

目的地に向かって一直線に飛んで行った。






大蛇の噛み付いた大木が、強い酸を含んだ唾液で融けている。

横に飛ぶのが少しでも遅れていたら、ボクもああなっていた。

もっとも、このままでは時間の問題だ。

一度目をかわせたからと言って、二度目も上手くいくとは思えない。

初撃をかわすのになけなしの体力を使ってしまったボクに、次の攻撃を防ぐ手立てはないのだから。

大蛇もそこの所を理解しているようで、攻撃をかわされたのに慌てもしない。

舌をちらつかせながら、悠々と鎌首をもたげる。

まったく気に食わない奴だ。

誰かと同じじゃないか。

「ボクはお前にだけは殺られるつもりはないぞ」

熊でも虎でも構わないが、蛇だけはごめんだ。

しかし、意気込んだところで事態が好転するわけもなかった。

大蛇がはとぐろを巻いて、攻撃の準備を整える。

そして首の筋肉を収縮し、溜め込んだ力を解放したその時。

「昼飯ゲットぉ!!」

よく分からない大声と共に振り下ろされた拳が、大蛇の頭を地面に縫いつけた。

その見事な一撃は、雷と呼ぶに相応しいものだった。

分厚い皮膚に包まれた大蛇の頭蓋を粉砕し、地面に蜘蛛の巣状のヒビまで入れるとは・・・。

今の芸当だけでも十分な驚きに値するのだが、更に驚くのはその一撃を放ったのが意外な人物だった事。

「お、あんた確か・・・」

ボクを救ってくれたのはナルト君だった。

彼の事は知っている。

勿論彼が九尾の器である事や、その為に酷い仕打ちを受けてきた事も。

しかし、ここまでの力があるとは知らなかった。

ボクの調べた限りでは、ナルト君の成績はお世辞にもいいとは言えないもの。

アカデミー時代の記録まで遡っても、特に目を引くようなものは見当たらない。

・・・筈なのだが、どうやらこれは認識を改める必要がありそうだ。

さっきの一撃を見れば、ナルト君は只者ではないと解かる。

あれは単純な筋力によるものではなく、練達したチャクラコントロールによるものだ。

打撃が当たる瞬間にチャクラを爆発的に開放する事で、通常では有り得ない破壊力を可能にする。

しかしこれは、実践で使用可能なレベルになるまで長い時間を費やさねばならないものだ。

とても一石一丁で身に付くものではない。

即ちそれは、ナルト君が今まで力を隠していたという証拠だ。

まぁ何故そんな事をしなければならないのかは、大凡の見当が付くが・・・。

「ありがとう・・・助かったよ。 ナルト君」

ボクは木ノ葉の人間のように、ナルト君に妙な感情は持っていない。

それどころか、たった今命を救ってもらったばかりだ。

故に好感こそ持つものの、その逆の感情など持ちようがなかった。

「あれ? 自己紹介したっけ?」

「サスケ君にも言ったけど、今期の受験者の情報は一通り集めてある。 当然、君の分も」

もっともナルト君のデータに関しては、後で大幅に修正する必要がある。

「そう言やそんな事言ってたな・・・あ、そうだ」

ナルト君はポンと手鼓を打ち、ボクの方を見る。

「あのさ。 厚かましい気がするんだが、ちょっと頼み事していいか?」

命を助けた恩があると言うのに、それを誇らない態度に益々好感が持てる。

自分の都合だけで部下の仕事を増やす大蛇丸に、爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。

「危ないところを助けてもらったんだ。 ボクに出来る事なら喜んで協力させてもらうよ」

ボクは内容を聞かされる前に二つ返事でOKした。

「最初に会った時、あんたがうちはに見せてた札。 あれで検索してほしい奴がいる」

「・・・・・・すまないが、それは出来ない」

「あー・・・やっぱタダで情報貰おうなんて考え甘いか」

マズイ。

ガッカリさせてしまった上に、何か誤解されている。

こんな事になるなら、でかい口叩かなきゃ良かった。

「違うんだ。 見返りを求めてるわけじゃない。
 今のボクには認識札を開くチャクラが残ってないんだ」

「じゃあ、それさえどうにかすりゃ情報くれんの?」

ボクがその言葉に頷くと、ナルト君はごそごそと着物の袖を探り出した。

「手」

「・・・?」

言われるまま差し出した手に、携帯用の袋を乗せられる。

紐を解いて中を見てみると、黒い丸薬が沢山入っていた。

「・・・これはひょっとして」

「ん、兵糧丸」

「貰ってもいいのかい?」

「じゃなきゃ渡さねぇって」

・・・・・・こんなに親切にしてもらったのは何年振りだろうか。

ひょっとしたら初めてかもしれない。

彼がボクの主人だったら、どんなに良かった事だろう・・・。

「!? ちょ、ちょっと!?」

「すまない。 目にゴミが・・・」

ナルト君から顔を背け、貰った兵糧丸の1粒を噛み締める。

それは何故かしょっぱくて、ずっと忘れそうにない味だった。

「ありがとうナルト君。 はい」

兵糧丸の袋を返そうとするが、ナルト君は片手を突き出して受け取りを拒否した。

「1粒じゃ全然足りねぇだろ。 全部持ってっていいよ」

・・・・・・神は居る。

今ならそう信じられる。

ボクの人生観が覆った瞬間だった。







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