NARUTO
〜九妖忍法帳〜 52話目
唐突に訪れた静けさ。
言葉を発する事も、身じろぎをする事も出来ない。
気配はおろか、呼吸さえも気取られる。
今のサスケには、そんな人間離れした雰囲気があった。
「どうした、来ないならこっちから行くぞ?」
真っ先に沈黙を破ったのは、やはりサスケだった。
瞳孔に浮かび上がる巴の紋が、獲物を求めるような輝きを放つ。
あまりにも異質なチャクラが、味方である筈のいのやチョウジにも不安感を与える。
直に対峙しているドスやキンは生きた心地がせず、戦々恐々としていた。
「サスケ君」
ドスは必死に平静を装い、懐から巻物を取り出した。
地の書である。
「これは手打料・・・。
虫が良すぎるのは十分承知しています。
けれど、今回だけは見逃していただきたい」
元より選択肢などない。
ドスは巻物を足元に置いて数歩後ろに下がった。
それは、サスケが大蛇丸に対して取った行動と同じものだった。
「・・・・・・」
サスケは無造作に前進し、巻物を拾った。
―・・・どうやら助かったみたいですね・・・。
それを見たドスは、密かに安堵の息を吐いた。
だがその矢先、正面から拳が飛んできた。
「ぐはっ!!」
頬に食い込む拳。
サスケがそのまま腕を振り抜くと、ドスは頭から地面に叩き付けられた。
「え!?」
「サ、サスケ君!?」
傍で見ていたサクラ達に動揺が走る。
「な、何故・・・」
ドスは眩暈を堪え、体を震わせながらも何とか立ち上がる。
「・・・何故?」
サスケは冷め切った視線を投げ付け、陰鬱な笑みを浮かべた。
「そんな事、お前が一番分かってるんじゃないのか?
オレにその気があれば、巻物なんて何時だって奪える。
なのに、何で交渉する必要があるんだ?」
言い終わると同時に、チャクラが跳ね上がる。
大蛇丸に酷似した醜悪な波動がドスの・・・更にはサクラの危機感を煽る。
「それより続きだ。 もっとオレを楽しませてくれよ」
「っ・・・!」
ドスはサスケの一挙一動に怯え、じりじりと後退る。
だがそうする内に、巨木の傍に追い込まれた。
「さぁ・・・もう後がないぜ?」
毒蛇のような眼光が、ドスの全身に絡み付く。
完全に退路を経たれたドスの取れる道は、二つに一つ。
黙って死ぬか、戦って死ぬかだ。
それは、誰の目にも明らかだった。
「・・・やめて」
サクラの口から、自然と声が漏れた。
今の無慈悲なサスケの姿を見ていると、どうしようもなく悲しい気持ちになる。
大切な物を失ってしまうのではないか。
そしてそれは、もう二度と戻ってこないかもしれないのではないか。
そんな不安が込み上げて来る。
「サスケ君! 止めて!」
気が付くと、サクラは駆け出していた。
「お願い・・・止めて・・・」
ただ失いたくない一心で、サスケの背中に縋り付いた。
「・・・サクラ」
放出していたチャクラを緩め、サクラに振り向くサスケ。
だが。
「折角楽しんでるんだ。 邪魔するなよ」
その両目に宿っていたのは狂気だった。
「!!?」
サスケはサクラの手を振り払うと、次の瞬間には地面を蹴っていた。
ドスとの間合いを一気に縮め、救い上げるように拳を放つ。
「ぐぉっ!!」
下からの打撃は見事に腹を抉り、ドスの体がくの字に折れる。
サスケは間髪入れずに、前に突き出た顔を思いっ切り蹴飛ばす。
グチャという音がして、ドスは力なく崩れ落ちた。
しかし、サスケはまだ止まらない。
夜叉のような笑みを貼り付け、倒れたドスに攻撃を加え始めた。
意識が途切れ、すっかり緩んでしまった腹部に、サスケの爪先が何度もめり込む。
その都度、ドスは血反吐の混ざった液体を吐き出す。
が、サスケが攻撃を止める気配はない。
既に勝負が着いているにも拘らず、執拗に蹴り続ける。
まるで、息を吸うように自然に。
動揺も、躊躇いもなく。
自分の手で人が壊れていく様を、楽しんでいるようにも見えた。
「・・・あ・・・ぁ」
サクラは夜叉のようなサスケの顔に、今までにない恐怖を感じた。
「ね、ねぇ! そろそろ止めた方がいいんじゃない!?」
「ダメだ。 あのバカ、見境なくなってやがる。
今出て行ったらこっちまで巻き添えくらう破目になんぞ」
「で、でも、このままだと殺しちゃうって!」
それは、チョウジやシカマルといったかつての級友達も同じだった。
「うちはサスケ・・・。 ・・・これは、少しばかり評価を改める必要があるな」
流石にネジは冷静だった。
隣で顔を強張らせているテンテンとは対照的に、腕を組んだまま涼しい顔をしている。
やはり日向の名を持つだけあって、その胆力は並大抵のものではなかった。
「ちょっとそこのアンタ!」
そして、胆力だけならいのも負けていなかった。
「ん?」
「『ん?』じゃないわよ! んな所で気取ってる暇があったら、さっさとサスケ君止めなさいよ!!」
不思議そうに振り向いたネジに、アバラの痛みを堪えて怒鳴り付ける。
「・・・何故オレがそんな事を・・・」
あからさまに眉が吊り上がる。
命令口調、しかもそれが年下のいののものであった為、自尊心の高いネジが機嫌を損ねない筈がなかった。
「アンタ達が内輪揉めしてる時に不意打ちしなかった上に、喧嘩の仲裁までしてあげたの誰だと思ってるのよ!!」
「む・・・」
だが、痛い所を衝かれ反論出来なかった。
「ホラホラ! ボーっと突っ立ってないですぐ動く!」
「・・・なんて傲慢な女だ」
ネジは小さく舌打ちして、木から飛び降りる。
ブツブツ文句を言いつつも、洞察力に長けた白眼のお陰なのか面と向かっては逆らわなかった。
「うちはサスケ。 もうその辺で止めておけ」
ネジが足を止めたのは、サスケの間合いギリギリ一歩外。
声を掛けられたサスケはドスへの攻撃を止め、不機嫌そうに振り返った。
「・・・何故止める?」
「この戦い、お前の勝ちだ。 その事実は何があろうと動かない。 ならば、これ以上は無意味だ」
ネジがそう言うと、サスケの肩が小刻みに震え始めた。
「くくっ・・・丁度いい。
こいつらじゃ物足りなかったんだ。
アンタが相手をしてくれるのなら、退屈せずに済みそうだ」
挑発的な言葉と共に、圧縮した殺気をぶつける。
「フッ」
ネジはその殺気の中で目蓋を降ろし、失笑するように小さく息を吐いた。
「面白い冗談だ!」
だが、次の瞬間には白眼を発動させていた。
「ちょ、何でそうなるのよ!?」
結果的に新たな火種を作ってしまったいの。
そもそもの間違いは、争いの収拾に気位の高いネジを起用した事である。
だが今更間違いに気付いたところでもう遅い。
「冗談かどうかは自分で確かめろよ」
「後悔する事になっても知らんぞ」
うちはと日向。
木ノ葉の双璧を成す血脈が散らす激しい火花。
サスケとネジの闘気は臨界点に達しており、後は破裂するのを待つだけになっていた。
「ぬぁぁぁぁぁぁ」
ところが、そこへ冷や水を浴びせるように、どこからともなく間の抜けた叫び声が聞こえた。
しかも、妙に聞き覚えのある声だ。
サクラと猪鹿蝶だけでなく、殺気だっていたサスケとネジでさえ、声のする方向へ注意を向けた。
「っセ―――フッッ!!!」
ズシャーッ!
そんな喧しい音と盛大な土埃を巻き上げて、ナルトが滑り込んできた。
「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」
最初とは違った意味で静まる空間。
何時もの事ではあるが、タイミングを外し過ぎている。
「せ、セーフじゃないの?」
「何を基準にしてるのか分かんないけど、ビジュアル的には完璧アウトよ。 アンタ」
いのの一言に皆が皆、全く同じように頷いた。
何故ならナルトの恰好は、森を最短距離で突っ切ってきた所為でボロボロ。
埃塗れの上に、頭に大量の蜘蛛の巣や木の葉が張り付いている。
おまけに汗だくでゼェゼェ言っていればそりゃアウトだ。
「ま、まぁともかく」
やっとどっ白けの空気に気付いたナルトは、いそいそと身嗜みを整えつつ辺りを見渡す。
「今んとこ死人は出てないみてぇだな」
「・・・足元見てから言え」
「・・・・・・あ」
若干引き攣ったシカマルのコメントで、死ぬ一歩手前のドスに気付く。
「こりゃあひどい・・・誰がこんな事を」
実行犯はサスケで、そうなるように仕向けたのが大蛇丸。
そして直接的ではないにしろ、責任の一端はナルトにもある。
まぁそこの所は本人も承知しているが、今回はあえて考えないようにした。
―すまん。 誰かは知らんが、君の犠牲は忘れない。
だがやはり、多少の罪悪感はあるようだった。
「お〜い!」
ナルトが自らのやってきた方向に声を掛ける。
すると頭上の木々が揺れ、小柄な人影が飛び出してきた。
「ハァハァ・・・やっと追い付いた」
「お、お前・・・いや貴女は!?」
殺気立っていた筈のネジが、頬を朱色に染め上擦った声を出す。
人影の正体は白であった。
ナルトは一応最悪の事態も想定して、医療術の心得のある白を引っ張ってきたのだった。
「で、怪我人は・・・って、確認するまでもありませんね」
「ん。 早速で悪ぃけど、よろしく頼む」
「わかりました」
白はドスの前に膝を突き、触診を始めた。
「胸骨にヒビが入ってますね。 それに内臓のダメージが酷い。
手持ちの器具とボクのスキルだと完治はまず望めませんね。
一応出来る限りの事はやってるつもりですが・・・どうします?」
素早く容態を見極め、ナルトに確認を取る。
「OK。 死にさえしなきゃ上等だ。
仮にも忍なんだし、後は自分らでなんとかするだろ。
なぁ音忍のねえちゃん。 あんたもそれでいいな?」
「!?」
突然話の水を向けられ、目を丸くするキン。
まぁ自分達の敵が仲間の治療を申し出たのだから、驚くのも無理はない。
「た、助かるのか?」
「さぁな。 俺は専門じゃねぇからこっちに聞いてくれ」
地面に医療器具を広げ、治療に取り掛かろうとする白を親指で指すナルト。
キンは半信半疑と言った感じだったが、現状でこの提案を断れる筈がなかった。
「・・・本当に助けてくれるのか?」
「静かに。 集中力が乱れます」
白はキンの問いを切り捨て、真剣な面持ち印を結ぶ。
練り込まれたチャクラは青白い輝きとなって、白の手を包み込んだ。
そしてその掌がドスの腹部に添えられると、光が波紋のように広がっていく。
「うそ・・・!?」
「顔色がどんどん良くなってく・・・」
瀕死の状態から瞬く間に回復させる白の手腕に、サクラやいのは度肝を抜かれた。
―これは・・・。
全身に浸透させたチャクラで細胞を活性化しているのか・・・。
中でも白眼を持つネジは、損傷した臓器が修復されていく様子が直接見える為、白のレベルの高さが他の者よりも深く理解出来た。
―お、お姉しゃま・・・。
ただテンテンだけは、医療術の凄さではなく白の横顔にハァハァしていた。
そんな具合に、色んな角度から色んな視線を受けながら、白は治療を進めていく。
やがて、ドスの呼吸がある程度安定したのを見計らい、白が千本を手に取る。
白は垂直に構えた千本をドスの眉間に突き立て、刹那の内に素早く引き抜いた。
「・・・う」
先程まで死人同然だったドスが、なんとか意識を取り戻した。
「ぐっじょぶ! さすが本職」
白に向かって親指を立てるナルト。
「まぁそれはいいとして、次は誰を治せばいいんです?」
「そうだな。 とりあえず症状の重い順で頼む」
「え〜っと、彼もですか?」
彼とは、地面でもがいているザクの事。
「あ〜・・・あいつは治療しなくてもいいだろ。
さっきの奴と違って、放っといても死ぬような怪我じゃねぇし」
ナルトがドスを治療させたのは、ほんの気紛れにすぎない。
『自分の所為で死なれたとあっては寝覚めが悪い』
主な理由はそれだけであり、命に別状がないのなら例え四肢が砕けていようと知った事ではなかった。
「・・・そうですか」
ナルトの考えを察した白は、それはそれでどうかと思った。
だが、一々道徳観念を説いて聞かせる程暇ではない為、自分の仕事に専念する事にした。
「じゃあボクは仕事にかかりますので、何かあったら呼んで下さい」
軽く手を振ってナルトに背を向ける白。
向かう先は傷の度合いが最もひどいリーのところだ。
ネジとテンテンは白の後ろを着いていっているが、その事に気付いているかはかなり疑わしい。
というか、絶対気付いていないだろう。
「ま。 そう言う事なんで、お前らも診てもらった方がいいぞ」
ナルトはリーの元へ向かう白を指し、サクラといのに治療を勧める。
「いや・・・あのね・・・」
「それは確かにありがたいんだけど・・・」
2人は揃って微妙な表情になり、その場から動こうとしない。
原因は2人の目が向けられている、ナルトの背後にあった。
「おい」
「あん?」
低い声に振り向いた瞬間、握り固めた拳が見えた。
「ナルト!!」
サクラが叫ぶよりも早く、ナルトは上体を逸していた。
その為、飛んで来た拳は皮一枚のところで空を切った。
「危ねぇな、いきなり。 どーゆーつもりだよ」
「ざけんなウスラトンカチ。 そりゃこっちの台詞だ」
殴り付けようとしたのはサスケ。
自分の存在を在って無きが如く振舞うナルトに、余程頭に来ている様子だ。
「はぁ・・・何かお気に召さない点でも?」
「後からしゃしゃり出てきて仕切ってんじゃねーよ」
サスケの怒気に比例して、呪印の侵食が活発になる。
ザクやドスを相手にした時よりも、遥かに高密度なチャクラが大気を焦がす。
―マジかよ! シャレになんねぇぞ!!
―な、なんてチャクラ!!
―・・・ヤバイ!
サスケの放つ殺伐とした空気に、周囲の顔色が変わる。
「い、いや! いやだ!!」
特に、仲間を殺されかけたキンの怯え方は尋常ではない。
きつく目を閉じ、耳を塞ぎ、背中を丸めてガチガチと歯を鳴らしている。
「そうか、そいつは悪かった」
ナルトはとりあえずこの場を収めようと、あっさり頭を下げた。
―相手にするの面倒だし、適当に頷いとこ。
でも心の中では全く反省していなかった。
しかも最悪な事に、その考えが顔と態度にはっきりと表れていた。
「てめぇ、嘗めてんじゃねーぞ」
「いや、嘗める以前に関心がないんだが」
ナルトがそう口にした瞬間、水を打ったような静けさが訪れる。
「・・・・・・・・・・・・あ」
やや間があって、本人が気付いた。
言ってはいけない事・・・つまり日頃から思っている本音を漏らしてしまった事を。
「なん・・・だと・・・!?」
ナルトの一言は、サスケにとってこれ以上ない侮辱だった。
憎まれる事、恨まれる事、妬まれる事、罵られる事、蔑まれる事。
そのどれよりも、何らかの形で意識している相手に無関心であられる事が、サスケにとっては一番屈辱である。
兄であるイタチを頑なに憎悪し、執着するのもその為だ。
―あ〜・・・そうだったそうだった。
こいつ普段クソ生意気なくせに、人一倍ナーバスなんだよな。
ナルトは発言を撤回すべきか否か、真剣に悩んだ。
―フォローした方がいいんだろうけど、今から取り繕ってもうそ臭ぇし。
かと言ってほっといたら、試験の間中鬱の気引き摺られそうだし・・・。
・・・いっその事、記憶失うまでぶん殴っちまおうかな。
かなり嫌な思考を巡らせ、邪悪な微笑を浮かべる。
「ちょっとアンタ!! 仲間になんて事言うのよ!!」
それをどう取ったのか、サクラがナルトを叱責した。
が。
「え? 仲間だったの?」
上の空だったナルトは、更に拙い本音を漏らしてしまった。
―しまった!!
もう遅い。
何もかもが手遅れである。
少し離れた場所でリーを治療していた白も、あっちゃ〜!と言ったような顔をしている。
ここまでくると、どう足掻いても言い繕う事は不可能。
ナルトもそう馬鹿ではない。
・・・・・・とは必ずしも言い切れない点が多々あるが、少なくとも見苦しい言い訳はよしとしない。
こそこそ隠すぐらいなら、胸を張って堂々と開き直る。
まぁどうせ木ノ葉に居るのもあと僅かだし、気に食わねぇうちはとの対人関係が修復不能なぐらい拗れようがどうしようが、もう関係ねーじゃん。
例えこいつが、俺の髪の毛入れた藁人形に五寸釘叩き込むようになっても、今みたいに毎日顔付き合わせるわけじゃねんだし万事OKじゃね?
俺は自分の理想を実現する努力してりゃ、他人にどう思われようが構わないんから。
う〜ん、そう考えるとここでこいつを徹底的にこき下ろしてやるのもアリだな。
情も湧かない程嫌われてりゃ、こっちも後腐れなく縁切り出来るし。
木ノ葉をおさらばした後も、里の建設に専念出来るってもんだ。
ああ、何か知らんけどわくわくしてきた。
まずは何から始めようかな?
え〜っと、まずは公共設備を整えなきゃダメでしょ。
上下水道整備して電気引いて医療と福祉施設を充実させて、忍の任務だけじゃなくて農業と産業の基盤を確立させて、教育制度も樹立させなきゃいかんなぁ。
まぁ最初は青空教室みたいな感じになるだろうけど、楽しそうだなぁ。
あ、それに法律も作らなきゃ。
細かい所は人生経験豊富なじじい(自来也)に任せるとして、まず何より里長の特権として一夫多妻制を認めさす。
そうすりゃ夜はウハウハ・・・ぐへへ、たまりませんな。
と言う欲望まみれで大分アレなものが、ナルトの下した結論だった。
発つ鳥後を濁さず。
そんな細やかな気配り、ある筈がなかった。
「な、仲間じゃないなら何なのよ!」
「はっ!?」
ひどく狼狽したサクラによって、ナルトの意識は現実に戻ってくる。
そしてナルトは、涎の伝う口元を拭いてから静かな声で言った。
「知り合い。 ・・・かな」
悟りの境地に至ったような顔。
しかし、顔とは正反対のエグい一言。
(((ひどッ!!)))
結構頻繁に毒を吐く猪鹿蝶トリオも、明らかに引いていた。
「だったら遠慮はいらねーよなッ!!」
直接言われた本人が、傷付かない筈がなかった。
自制心と自尊心を破壊されたサスケは、呪印を開放すると同時に間合いを詰め、脇腹目掛けて至近距離から蹴りを放った。
「おおっと」
ナルトはおどけた声を出しながらも、腰を引いてきっちりかわす。
「馬鹿が!」
サスケは反転し、前に出た顔を後ろ廻しで狙った。
大蛇丸に与えられた力によって、スピードもパワーも桁違いに跳ね上がった一撃。
当たればただ事ではない。
だがナルトは左手一本で払い除け、サスケとの距離を縮める。
「ほれ」
踏み込むと同時に、地面に残った軸足を刈る。
「くっ!」
サスケは咄嗟に受身を取ったが、間髪入れず真上から踵が落ちてきた。
大きな音がして、地面に深い亀裂が入る。
死んだ。
誰もがそう思った。
「ナルトくーん。 なるべく患者は増やさないで下さいねー」
白以外。
しかし。
「消えた!?」
よく見ればサスケの姿がない。
「うそ・・・あんな体勢から?」
「多分、さっきよりスピードが上がってる」
「え!? じゃあ今まで本気じゃなかったって事!?」
「んーなのオレが知るか!」
サクラやチョウジだけでなく、いのやシカマルでさえ見失っている。
―完璧に当たったと思ったんだけどな・・・今のは。
サスケの動きが予想を遥かに上回っていた為、ナルトも少々面食らっていた。
もっとも他の者と違って見失ったりはしておらず、その両眼は確実にサスケの居所を捉えているが。
―んじゃ、少し真面目にやるか。
ナルトはギアを一つ上げる事に決め、首をポキポキ鳴らす。
するとそこへ、夥しい数の火球が殺到した。
「おーおー、こりゃ豪勢だこと」
緩い口調とは対照的に、ナルトの指先は目にも止まらぬ速さで印を刻む。
【風遁 大突破!】
吐き出される風の息吹は、降り注ぐ火炎を残らず掻き消していく。
だが炎は消えたものの、内側に仕込まれていた手裏剣はそうもいかなかった。
若干風の影響を受け軌道が逸れているが、数が数なだけに殺傷力は大して変わりない。
―考えやがったな。
鋼の凶器が目前に迫っているのに、暢気に感心しているナルト。
果たしてそれは、油断しているだけなのか余裕の表れなのか。
「ハッ!!」
どうやら後者だったようだ。
気合と同時にチャクラを放出し、全ての手裏剣を弾き飛ばした。
「え!? 何今の!?」
「まさかチャクラだけで弾いた!? うそ!? そんな事出来るの!?」
「だからオレに聞くなって!!」
猪鹿蝶の3人は、ずっと驚きっぱなしである。
まぁやる事なす事常識外れなので、仕方ないと言えば仕方ない。
「あのさ・・・盛り上がってるとこ悪ぃんだけど、もう少し静かにしてくれねぇかな。 気が散るから」
大部分は自分の所為だが、何時の間にか見世物になっているサスケが、哀れに思えてきたナルトだった。