NARUTO
〜九妖忍法帳〜 51話目




―サクラ・・・!?

今までのサクラとは、明らかに別人である。

その凛々しい佇まいに、いのは一瞬目を奪われた。

「チィ! キン! 殺れ!!」

「!」

ザクの怒声で我に返ったキンは、すぐさま行動に移った。

腰のポーチに手を伸ばし、千本を取り出す。

数は四つ。

がら空きの背中に狙いを定める。

だが、サクラも既に印を結んでいる。

―フン・・・あの印・・・。

ザクはサクラの狙いに気付き、素早くチャクラを練る。

そんな中、キンがサクラ目掛けて突っ込んでいく。

千本を持つ左手を右手でしっかり固定し、体ごとぶつかるようにして突き刺す。

「!! (変わり身の術・・・!!)」

しかし、千本が貫いたのは丸太。

キンの位置からは、サクラが組んでいた印が見えなかった。

―右。 ・・・なめてんのか・・・。
 そんな基礎中の基礎忍術で、オレに向かってくるなんてな!

一方、変わり身の術を読んでいたザクの眼は、両手にクナイを携えて疾走するサクラを捉えている。

「キン! 離れろ!!」

キンが指示通り射程圏内から離れると同時に、ザクにクナイが放たれる。

「無駄だ!(空気圧100% 超音波0%出力!!)」

ザクはサクラに照準を合わせ、術の調整に入った。

すると、サクラは再び印を結び始める。

「バカの1つ覚えか! 【斬空波!!】」

ザクが跳ね返したクナイがサクラに突き刺さる。

だが、今度も変わり身。

「バレバレ・・・上だ!」

「!!」

既に迎撃の態勢を整えているザクを見て、サクラは急いで印を切る。

「2度も3度も・・・通用しねーって言ってんだろが!! てめーはこれで十分だ!!」

変わり身相手にチャクラを消費するのが馬鹿らしくなったザクは、攻撃手段を変えた。

複数のクナイを取り出し、一斉に投擲した。

「!!」

それらのクナイは残らず命中し、サクラは血飛沫を上げた。

「クク・・・次は何処だァ?」

ザクはゲームを楽しむような感覚で、辺りを見渡す。

「ん?」

しかし、突然頭上から水滴が降ってきた。

―何だと!?

顔を上げたザクは、度肝を抜かれた。

血塗れになったサクラが、腕から引き抜いたクナイを振り下ろさんとしていたのだ。

―今度は―――変わり身じゃないだと!!

あまりに無謀な行動に、唖然とするザク。

そこに生じた隙を、サクラは見逃さなかった。

ザクは咄嗟に防御を試みたものの、全体重を乗せた一撃で利き手が串刺しにされた。

そして落下の勢いを受け止めきれず、背中から地面に倒れ込んだ。

馬乗りになったサクラは、右手に突き刺さったクナイに体重を掛け、根元まで押し込もうとする。

「くっ!!」

ザクは苦痛に顔を歪めながらも、無事な左手で斬空波を放とうとする。

「!!」

それに気付いたサクラは、術を封じる為に左手に噛み付いた。

「放せ、コラ!!」

激昂したザクが、傷付いた右手でサクラを殴り付けた。

しかし左手に掛かる力は、緩むどころかますます強くなる。

「くそっ! 放せ!」

鳴り止まない打撃音。

滅茶苦茶に殴られたサクラの顔は、夥しい血と痣に塗れていった。







―サクラ・・・。

殴られても殴られても、必死で喰らい付くサクラの姿が、いのの記憶を呼び覚ました。







初めての出会いは、人気のない雑木林の中だった。

『うえ〜ん・・・うっうっ・・・』

『あんた、いつも『デコリーン』ってイジメられてんのね―』

「! ・・・・・・だれ・・・?」

膝を抱えたサクラは、ひどく怯えていた。

この頃は気も弱く、ちょっとした事でよく泣いていた。

仲間外れにされたり、いじめっ子の玩具にされる事も多かった。

だが、いのにそんな気はなかった。

『私はー、山中いのってーの。 あんたはー?』

『アタシ、サクラ・・・。 春野サクラ・・・』

『ふーん、成る程ー。 あんた、おでこ広いんだ・・・で、デコリーンね・・・』

そう言って、サクラの額を指で突付く。

『それで前髪でおでこ隠してんだー。 『ゆーれー』みたいに・・・』

からかうような口調だったが、それは私の地であって悪意があるわけではなかった。

『うっうっ・・・・・・』

しかし何気なく言った一言は、ものの見事にサクラを傷付けていた。

その上、いのまでいじめっ子みたいに思われてる雰囲気だった。

『・・・サクラだっけー・・・。 アンタ明日もここに来なよ』

誤解されるのは嫌だったので、いのはお詫びの意味も込めてそう言った。

『え?』

『良い物あげるからさ―♪』

キョトンとするサクラにニッコリ笑って、そのまま去っていった。

そして次の日。

『ホラ・・・こっちの方が可愛いよ―サクラは』

いのは持参した赤いリボンで、桃色の髪をキレイに結った。

『そのリボンあげる』

『あ・・・ありがと・・・』

サクラはこういう事に慣れておらず、落ち着かない様子だった。

『・・・でも』

『でもなにー?』

『でも』という否定の言葉で、いのの眉間に皺が寄った。

サクラは何が気に入らないのだろう。

色か?

それともデザインか?

いのは自分のセンスにかなり自信を持っていたので、内心ショックを受けていた。

『おでこが・・・・・・』

しかし、サクラが気にしているのは全く別の事だった。

『それってー、隠してるから余計にバカにされんのよォ!』

誤解が解けて怒りが収まったのも束の間、また新たに別の怒りが込み上げて来た。

『サクラは、顔可愛いんだから堂々としてればいいのー! 堂々とー!!』

言うだけ言って、プイッとそっぽを向くいの。

―いのちゃん・・・。

口調こそ乱暴だったが、サクラは涙が出る程嬉しかった。

・・・ちなみに。

―ちくしょう・・・よく分からねぇが、目からしょっぱい水が止まらねぇ・・・!

当時いのを影ながら護衛していたナルトも、草葉の陰でもらい泣きをしていた。

この頃は今ほど汚れていなかった事もあり、存外涙脆い性格だった。

まぁそれはさておいて、この日から2人は掛替えのない友人になった。

いのはくノ一クラスのグループにサクラを紹介し、いじめられたりしないよう常に気に掛けた。

サクラもいのに懐き、後を着いて回るようになった。

そして時が経つにつれ、2人の絆は強くなっていった。

しかし、そんなある日の事。

『みんな、聞いて聞いて!』

いのと友達の所に駆け寄ってくるサクラ。

何時になく嬉しそうな顔だった。

『私・・・好きな人が出来たの! 誰だと思う!?』

『サスケ君とか言わないでよ』

『え? 何でわかったの?』

サクラはいのと同じ相手に恋をした。

『ねぇ・・・いの。 最近サクラ明るくなったわね』

『フン・・・強がってはしゃいでるだけよ』

友人とサスケの話をするサクラから目を背け、いのは暗い顔で呟いた。

だがその時、チクリと胸の奥が痛んだ気がした。

この日を境に、サクラは自分の庇護を必要としなくなっていった。







―サクラ・・・。

ボロボロになっていくサクラを見ている内に、いのの目に涙が込み上げてきた。

(シカマル、チョウジ)

((!!))

名を呼ばれ、シカマルとチョウジが振り返る。

するとそこには、

(サクラを助ける・・・悪いけど、返事は聞かないわ)

戦う事を決意したくノ一の姿があった。






―私が・・・私が守らなきゃ。

殴り飛ばされたサクラは、血だらけでザクを睨み付ける。

体力はとうに限界を超えている筈なのに、眼光は少しも衰えていない。

『指一本でも動くなら、絶対に諦めない』

サクラの瞳が、そう物語っている。

「このガキィ!!」

その眼を見て、ザクの理性が弾け飛んだ。

サクラに向かって両手を突き出し、チャクラを集中させる。

しかし術を放とうとするザクの目の前を、凄まじい速さでクナイが横切った。

「何だ!?」

驚愕の声を上げながら、クナイの飛んできた方に両手を向けるザク。

驚きはしたがチャクラは乱していない為、斬空波は何時でも発動させられる。

だが。

「ザク! そこから離れろ!!」

術を放つ間もなく、ドスの叫び声を聞いた。

一瞬何の事か分からなかったザクだが、ドスの視線を辿ってその意味を知った。

自分の足元に、起爆札を括り付けたクナイが突き立っていたのだ。

おそらく、一本目のクナイを囮にして投げられたものだと考えられる。

だが、理解した時には既に手遅れである。

「しまっ・・・!!」

眩い閃光の後に、炸裂音が響き渡る。

―な、なに・・・!?

ザクの立っていた場所が硝煙に包まれたのを見て、サクラは呆然となった。

「誰だ!? 姿を見せろ!!」

「言われなくても出て来てやってるわよー」

「!!」

真横から聞こえた声に、振り返ろうとするキン。

その瞬間、首筋にクナイを突き付けられた。

「チィ!」

ドスはすぐに右手を振り上げ、助けに入ろうとする。

だが突然、意思とは相反して指一本動かせなくなった。

「な、何だこれは!?」

いくら力を込めても自由になれず、ドスは苛立たしげに顔を歪めた。

「はいはい、勝手に動かないでもらえるかしら。
 って言っても、動けやしないでしょーけど。 ねー、シカマルー?」

「ったり前ェだ。 意地でも逃がさねーよ」

人差し指と中指を立てた左手の上から右手を被せ、影による縛りを強化するシカマル。

「なっ、影が・・・!」

同じ動きを強制されたドスは、自分の足元を見て驚愕した。

「いの・・・どうして・・・?」

サクラはまだ状況が飲み込めておらず、困惑した顔をしていた。

「べっつにー。 手頃な獲物が見付からなくて、ストレス溜まってただけよー」

―いのの奴、下手な言い訳しやがって・・・。

照れ隠しで質問をはぐらかそうとするいのに、シカマルは密かに苦笑する。

「ちょっといのォ!! やっぱりヤバイって〜!!」

無理矢理引っ張り出されたチョウジは、リーを安全な茂みに移動させ、そこから顔を覗かせて喚いていた。

彼は基本的に争い事が嫌いな為、出来る事なら今すぐにでも逃げ出したかった。

「うるさいわね〜! 男のくせにメソメソするんじゃない!!」

しかし、その望みは叶いそうにない。

「よくもやってくれたなぁ! このクソガキぃ・・・!!」

煙の晴れた爆心地から、ザクの姿が現れた。

ザクは起爆札が爆発するあの瞬間、爆風に斬空波を叩き付ける事で被害を最小限に抑えていたのだ。

だが起爆札の洗礼が余程頭に来たらしく、凄まじい形相で猪鹿蝶を睨んでいる。

「誰がクソガキよー! ボロボロにされたくせに、今更カッコつけてんじゃないわよ」

「確かに・・・カッコはつかねーな」

しかも、いのとシカマルの発言が怒りに火を注いでいる。

「ふ、2人とも何考えてんだよ〜! あんまり刺激するとヤバいって! 絶対に喰われるって!」

チョウジはそんな2人を止めようと必死だ。

・・・が。

「うるせぇ!! ぴーぴー喚いてるとテメェから殺すぞデブ!!」

ザクの言葉に含まれていたある一言で、ピタリと静かになった。

「・・・今、何て言ったのあの人・・・。 ボク、よく聞き取れなかったよ・・・」

―・・・チョウジにその台詞はタブーだ。 二度目言ったら・・・。

「あぁ!? テメェは引っ込んでろっつったんだよ! このデブ!!」

「誰がデブだぁ!! ボクはポッチャリ系だコラァ!!」

シカマルの懸念も空しく、ザクはチョウジの逆鱗に触れてしまった。

「よーしぃ! お前ら分かってるよな!! これは木ノ葉と音の戦争だぜぇ!!」

ついさっきまで腰が引けていたのに、闘志ムンムンで茂みから飛び出す。

―す・・・すごい・・・。

あまりの豹変振りに、味方である筈のサクラまで尻込みする。

―ラッキー、切れたァ!

いのは密かにガッツポーズし、チョウジのマフラーを放した。

「ったく! めんどくせーのは勘弁してほしいんだけどな」

「そりゃあこっちの台詞だぜ・・・」

状況はザクが圧倒的に不利である。

―チィ・・・試験終了までにサスケを刈れって言われてんのによ・・・。

普通なら撤退を選ぶところだが、彼にも引き下がれない理由があった。

ザクは1人でも戦う事を決意し、チャクラを練り上げようとする。

「動かないで!
 あんたがちょっとでも動いたら、このキンっていう子の命は無いわよー!
 ここで終わりたくなければ巻物を置いて立ち去るのね!
 あんた達のチャクラの気配が消え次第、この子は解放したげる!」

いのはキンの首筋にクナイを押し付け、ザクの動きを封じに掛かる。

ところがザク、更にはドスまでもが口の端を吊り上げ、邪悪な笑みを見せた。

―こいつら・・・・・・何がおかしいの?

不気味なまで落ち着いた態度に、いのは悪寒にも似た感覚を覚えた。

「ヤバイ! そいつらは・・・!!」

音忍達の残虐性を痛感しているサクラが、慌てて危機を知らせようとする。

けれど、間に合わなかった。

ザクは当然のように左手を掲げ、キン諸共いのを攻撃した。

「キャッ!!」

予想出来なかったいのは衝撃波をまともに喰らい、樹に背中から叩き付けられた。

「くっ!!」

逆にある程度予想していたキンは、直撃の寸前で拘束から抜け出し、掠り傷で済んでいた。

「な、何て奴らなの・・・仲間ごと攻撃するなんて・・・ゲホッ!」

いのは斬空波が直撃した脇腹を押さえ、口から真っ赤な血を吐いた。

「随分嘗めた真似してくれたじゃないか、ええ!?」

「うッ!」

そこへ追い討ちを掛けるように、自由になったキンが蹴りを入れる。

「いの!!」

「フフ・・・いいんですか? ボクを捕らえていなくても」

「ぐ・・・!」

思わず駆け寄ろうとしたシカマルだが、ドスの一言で動きを止められた。

「フン・・・油断したな」

「我々の目的は下らぬ巻物でもなければ、ルール通りこの試験の突破する事でもない。
 ・・・・・・我々の本当の目的は、サスケ君だよ!」

形勢が一気に逆転し、音忍達は余裕を取り戻した。

「さて、そろそろ術を解いていただきましょうか」

ドスはそう言って、シカマルの視線をキンの方へ誘う。

するとさっきとは逆で、今度はいのがクナイを突き付けられていた。

いのは傷の痛みが酷いらしく、反撃出来るような状態ではない。

―チィ・・・。

その為シカマルは、要求を呑まざるを得なかった。

「一時は肝を冷やしましたが、詰めが甘かったですね」

ドスは何度か右手を開閉し、体の自由が戻った事を確認する。

―ったく、とことんメンドクセー事になっちまったな。

いのを人質に取られ反撃出来ず、交渉に応じるような相手でもない。

完全に八方塞の状況。

だが、幸運は思いも寄らぬところからやってきた。

「フン・・・気に入らないな」

頭上からの声に、全員が顔を上げる。

「マイナーの“音忍”風情が、そんな二線級をイジメて勝利者気取りか」

見上げた先には、音忍への怒りを顕にしたネジとテンテン。

「ワラワラとゴキブリみたいに出て来やがって・・・」

何度も邪魔が入り、ザクの苛々は頂点に達していた。

「ヘマしたな」

「リー」

「う・・・」

仲間の声が聞こえたのか、リーが僅かに呻き声を漏らした。

「そこに倒れているオカッパ君、オレ達のチームなんだが・・・好き勝手やってくれたな!!」

白眼を発動させたネジが、音忍達を睨み付ける。

試験前の行動からは及びもつかないプレッシャーに、そこに居た全員が静まり返った。

―なんだ・・・こいつの全てを見透かすような目は・・・。

凄まじい眼力に圧倒され、ドスは僅かに後退さる。

「これ以上やるようなら・・・全力で行く」

大人しく退くか、叩き潰されるか。

穏やかな物言ではあるが、事実上の脅迫である。

「フフ・・・気に入らないのなら・・・格好つけてないでここに降りて来たらいい」

当然ながら、そんな要求を呑むドスではない。

大人しく引き下がるどころか、逆に挑発するような台詞を投げ掛ける。

「・・・! いや、どうやらその必要はないようだ・・・」

だがネジは明後日の方向に視線を向け、一方的に闘気を鎮めた。

「?」

ドスはネジの行動が分からず訝し気な顔をするが、直後に背後で渦巻く異様な気配に気が付いた。

気配の主はサスケだった。

「サスケ君! 目が覚め・・・(え!?)」

サクラが浮かべた安堵の表情は、一瞬にして凍り付いてしまった。

―アレって・・・サスケ君・・・?

いのも信じられないものを見たように絶句する。

「サクラ・・・・・・誰だ、お前をそんなにした奴は?」

起き上がったサスケの半身は、おぞましい呪印で埋め尽くされていた。

―呪印が・・・体中を取り巻いている!?

それを見たドスの顔に、焦燥の色がハッキリと表れる。

「・・・サスケ君・・・」

「どいつだ・・・」

「オレらだよ!」

ザクは楽観しているのか、薄笑いを浮かべて答えた。

「サスケ君・・・その体・・・!?」

尋常ではないサスケの様子に、サクラは戸惑いを隠せない。

「心配ない・・・。 それどころか・・・力がどんどん溢れてくる。 今は・・・気分が良い」

だが当の本人は、呪印に覆われた左手を見つめ陶酔したような声色で答えた。

サスケは体内に満ちていく活力と、全身を駆け巡るチャクラを感じていた。

収まり切らない力の発露なのか、両の眼は自然と写輪眼になっている。

「アイツがくれたんだ」

「え?」

「オレはようやく理解した。 オレは復讐者だ・・・。
 たとえ悪魔に身を委ねようとも、力を手に入れなきゃならない道にいる」

言葉は淡々と紡がれるが、サクラはサスケの言っている事が理解出来なかった。

―・・・なるほど、やはりか。
 あのサクラとかいう奴が言った首の痣とは、呪印の事だったのか。
 しかし・・・・・・立ち上がって来るとはね。

他と一線を画す異質なチャクラに、流石のザクも冷や汗が滲ませる。

「さぁて・・・・・・お前だったよな」

「チィ」

殺気を開放し始めたサスケを見て、ザクも構えを取った。

「シカマル! チョウジ! すぐにそこから離れて!」

いのは脇腹の痛みを堪え、大声で叫んだ。

「け、けど・・・!」

「私はいいから早く! ボヤボヤしてたらあんた達まで巻き添え喰うわよ!!」

「くそっ! 行くぞチョウジ!」

いのを心配するあまり退却を躊躇うチョウジを、半ば強引に引っ張っていくシカマル。

「あんたも私に構う暇があるなら、仲間の加勢に回るべきよ」

2人が茂みに退いたのを確認すると、いのは自分を拘束するキンに忠告する。

「うるさい! 人の事より自分の心配を・・・ッ!!」

ヒステリックに叫ぶキンだったが、サスケの呪印が広がるのを見た途端、急に大人しくなった。

顔は恐怖に引き攣り、クナイを持つ手も振るえ出している。

―しめた!!

いのはその隙を衝いてキンの腕を掴むと、手の付け根に手刀を見舞った。

「な!? しまった!!」

「じゃあね〜! バイバーイ!」

凶器を叩き落とした瞬間、いのは一目散にシカマル達の元へ走っていった。

そりゃあもう、凄まじい速さだった。

「!」

いのがキンを出し抜いている間に、サスケの呪印はほぼ全身に広がっていた。

―こ、これは・・・。

溢れ出したチャクラは禍々しい邪気に満ちており、大蛇丸のそれに酷似していた。

「チャクラがでか過ぎる!!(い、いくらなんでも、これ程まで・・・!)」

圧倒的な力の開きを感じたドスは、戦う前に戦意を喪失した。

「ドス! こんな死に損ないにビビるこたぁねぇ!!」

しかし、ザクはそのプライドの高さ故に、現実を受け入れられなかった。

恐怖を振り払うように、両手を合わせてチャクラを練り始める。

「よせ、ザク!! 分からないのか!?」

ドスは慌てて止めようとするが、ザクは両手の照準をサスケに合わせた。

【斬空極波!!】

放たれた衝撃波が、草木を薙ぎ地を抉る。

ザクの持つ最強の術だけあって、威力・射程・範囲、全てにおいて斬空波を上回っている。

「くっ!」

「うわぁ!!」

爆風のような余波に、ドスや猪鹿蝶は身を竦ませた。

やがて土埃が晴れると、術の直撃した地点が見えてくる。

そこは元の原型を留めておらず、サスケの姿も消えていた。

ザクは大きく息を切らしながら、勝ち誇った笑い顔を浮かべた。

「へっ! バラバラに吹っ飛んだか」

「誰が?」

だが、それは単にサスケが回避していただけの話。

「!! ぐぉ!」

振り向く間もなく裏拳を打ち込まれ、ザクは無様に地面を転がっていく。

―速い! しかも、あの女を抱えて一瞬で・・・・・・!

人一人抱えた状態でさえ、目が追い付かなかった。

サスケのスピードは恐ろしく速く、かなり優秀なドスでも辛うじて見えた程度。

サクラに至っては何が起きたのかすら理解出来ていなかった。

しかし、これはまだ力の一端に過ぎない。

サスケはザクが起き上がったのを見て、恐ろしい速さで印を組んだ。

【火遁 鳳仙火!!】

「図に乗るな! かき消してやる!!」

四方から迫る炎弾に向かって、ザクは両手を構える。

得意の斬空波で炎をかき消すつもりだ。

「何!?(火の中に手裏剣!)」

しかし炎は防げても、中に仕込まれていた手裏剣までは防げなかった。

「ぐああっ!!」

全身を切り刻まれたザクの口から、苦痛に満ちた悲鳴が漏れる。

この瞬間、僅かではあるがザクの意識はサスケから逸れた。

そして、その一瞬が命取りとなった。

サスケは地を這うような態勢で、一気に間合いを詰める。

「ザク! 下だ!」

「え?」

ドスが切羽詰った声で注意を促すも、ザクの反応が間に合っていない。

いや、サスケの動きがそれを上回っていた。

ザクの右手首を掴み、流れるような動きで背後に回り左手首を掴む。

さらに、背中を踏み付けて体重を掛け、無理矢理膝を畳ませた。

「くっ・・・!」

どうにか抜け出そうと足掻くザクだが、抵抗を見せた瞬間両腕を捩じ上げられた。

「・・・・・・・・・」

圧倒的な力で敵を捻じ伏せ、背筋が凍るような笑みを浮かべるサスケに、サクラは言葉を失った。

まるで戦いを・・・いや、相手を叩きのめす事に愉悦を感じているようにすら見える。

―今までのサスケ君とチャクラの質が全然違う!
 アレがサスケ君!? 何があったの一体・・・?

事情を良く知らないいのは、サスケの豹変振りに眉を歪める。

『サスケ君は、必ず私を求める』

サクラは不意に、大蛇丸の言葉を思い出した。

今のサスケを見ていると、大蛇丸の言葉が正しいと思えてきて、激しい焦燥に駆られる。

サクラは不安で胸が一杯になり、泣いてしまいそうになった。

「クク・・・お前・・・この両腕が自慢なのか・・・」

サスケは低い声で笑うと、ザクの両腕を掴む手に力を込めた。

何の容赦もなく、一切の躊躇いもなく、虫の羽を?ぐ様に関節を破壊した。

「ぐおおおあああ!!!!」

ザクの惨たらしい悲鳴が木霊し、それを聞いた全員に戦慄が走る。

「残りは2人・・・」

「「!!」」

「お前達はもっと楽しませてくれよ・・・」

サスケはドスとキンを視界に入れ、ゆっくりと歩き出した。

「ひっ!」

まだ冷静さを保っているドスとは違って、明らかに怯えているキン。

獲物と捕食者・・・両者の立場は明確である。

ただ満足のゆくまで、喰らい尽くされるのみ。

実力の差は比べるべくもない。

―こんな・・・!! ・・・こんなの! サスケ君じゃない!













―ナルト+月隠れチーム―

さて。

7班、10班、そしてガイ班までもが戦線に加わり、音忍との抗争がいよいよ大詰めというこの時。

当の主役が何をしているかと言いますと・・・。

「何時まで居る気だ。 (一辺シバかれんと分からんのかこんガキャ)」

「さぁ? ツクモ次第だな。 (うるせぇ、ジジイは引っ込んでろ)」

巻物争奪戦ではなく、ツクモ争奪戦を繰り広げていた。

ちなみに回復したアンコは、少し前にゴールの塔に向かった。

念の為、九妖に変化したナルトの影分身の護衛を付けて。

「えへへ〜♪ 父上が嫌じゃなきゃ、ずっと一緒でもいいよ」

左右の父と祖父と手を繋ぎ、すこぶるご機嫌なツクモ。

「そうか? じゃあゴールまで一緒に行っちゃおうかな。(聞いたか? 俺に対する愛の深さがよく表れてるだろ? なぁおい)」

「いやいや、流石にそこまで敵の世話になるわけにはいかんな。(んなもんリップサービスに決まってんだろーが。 勘違いすんなボケ)」

それとは打って変わって、物凄く険悪な、ついでに軽い殺意まで交えた視殺線をやっているバカ2人。

当然ながら、どちらもツクモに気取られるようなヘマはしない。

「ところでナルト君」

3人の少し後ろを歩き、ナルトと自来也の低レベルな争いを生暖かい目で見守っていた白が、思い出したように口を挟んできた。

ナルトは足を止めず、顔だけを後ろに向ける。

ついでに自来也は、白が邪魔者を追い払ってくれるんではないかと、期待に目を輝かせている。

「なんすか?」

「いや、いいのかなぁと思って・・・」

「・・・何が?」

本気で首を傾げているナルト。

白は呆れたように溜息を吐くと、ボソッと呟いた。

「いや、何がって・・・自分のチーム」

「・・・・・・あ」

しまった。

そう言わんばかりの顔で、ナルトは足を止めた。

「やっべぇええぇッ!! 完全に忘れてた!!」

・・・・・・今からで間に合うんだろうか?







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