NARUTO
〜九妖忍法帳〜 50話目




ナルトに忘れ去られたサクラの窮地を救ったのは、思いがけない人物だった。

「木ノ葉旋風!!」

颯爽と現れたのはロック・リー。

彼はガイ直伝の体術で、サクラに襲い掛かる音忍達を蹴り飛ばした。

「!!?」

「くっ!」

予期せぬ攻撃をまともに食らったものの、彼らは大蛇丸の部下である。

昏倒していてもおかしくない一撃に耐え、すぐさま体勢を立て直した。

―え・・・こいつ・・・。

サクラは自分を庇う様に音忍達の前に立ち塞がるリーを見て、驚くと同時に困惑した。

しかしそれは、ドス達に比べればそう大したものではなかった。

「な・・・何者です・・・!?」

「木ノ葉の美しき碧い野獣・・・・・・ロック・リーだ!」

リーは名乗りを上げながら構えを取った。

サスケと戦った時と同じ、独特の構えだ。

「な・・・何でアンタがここに?」

「ボクは・・・アナタがピンチの時はいつでも現れますよ・・・」

リーはサクラの問いに答えながら、肩に乗っていたリスを地面に下ろす。

それは、戦いに巻き込んで怪我をさせないようにとの配慮だった。

―なんてね・・・。 ホントは君のお陰だよ。 さあ、お行き・・・。

リーの意図を理解したのか、リスは別れを惜しむように幾度か振り返りながらも去って行った。

「とにかくありがと・・・助かったわ!」

「前に一度言ったでしょ・・・」

「・・・え?」

「死ぬまでアナタを守るって・・・」

そう言い切ったリーの背中が、サクラにはこの上なく頼もしいものに感じられた。

『死ぬまでアナタを守りますから!!』

一次試験が始まる前はただの口説き文句だと思っていた台詞。

だが、この状況で言われると言葉の重みがまるで違う。

敵に囲まれた命懸の局面において、自分の信念を曲げずにいられる男はそうはいない。

サクラはそう思い、リーの評価を改めた。

―く〜! 決まった! 決まりましたよ! ガイ先生!!

しかし、当のリーは1人拳を握っていた。

どうやら自己陶酔しているようだ。

「仕方ないなぁ・・・。
 ザク、サスケ君は君にあげるよ・・・。 こいつらはボクが殺す!」

ドスは自分が持っていた地の書を後ろ手で放ると、姿勢を低くした。

―サクラさんも見る限り・・・もう戦える状態じゃない。

リーはドスを牽制しながら、サクラに視線を流す。

無論、彼女のコンディションは最悪である。

クナイを取って応戦するつもりのようだが、まともな戦力とはなり得ない。

―あのゲジマユさん、かなり体術に長けてる・・・少しは遊べそうだな。

ドスは右腕の袖を捲りつつ、リーに向かって疾走する。

それを見たサクラは、クナイを放って出鼻を挫こうとする。

しかしドスは、跳躍してクナイをかわす。

「!!」

だがサクラのクナイが外された刹那、リーは地面に向かって右拳を振り下ろした。

「!?」

地面に深々と突き刺された右腕。

リーの行動の意図が解らず、困惑するドス。

だが、既に攻撃の態勢に入っていた為、振り上げた右手をそのまま走らせる。

と、次の瞬間。

リーは地中から巨大な木の根を引きずり出し、それを盾として使用した。

「君の攻撃には何かネタがあるんだろ・・・? バカ正直には避けないよ」

「!!」

「君の技は前に見せて貰ったからね・・・」

―この人・・・強い!!

リーの実力を再認識させられたドスとサクラは、思わず息を呑む。

―とはいえ、1対3は分が悪い。
 賭けに出るしかないな・・・一人ずつ、全力で潰す!!

だが周囲の反応とは裏腹に、リーは一抹の不安を抱いていた。













―10班(猪鹿蝶トリオ)―

周囲の様子に気を配りながら、森を歩く10班。

3人の体には、殴られたり引っ掻かれた痕がちらほら見られる。

「なぁ・・・」

無言で黙々と前進するいのに、シカマルが声を掛けた。

「・・・なに?」

いの足が、ピタリと止まる。

振り返ろうとしない為、彼女の表情がシカマルには見えない。

だが背中を見れば、どんな顔をしているか大体分かった。

「さっき、巻物奪っちまえばよかったんじゃねーか?」

シカマルが言っているのは、ネジとテンテンの事だ。

「言わないで。 私だって後悔してるんだから」

いのの肩が小刻みに震え出す。

通り掛った自分達に気付きもせず、掴み合いの喧嘩をしていた2人組。

・・・チャンスだった。

その事は重々承知していた。

シカマルの術で身動きを封じ、巻物だけ奪ってさっさとトンズラすれば万々歳だった。

だが、いのは仲裁に入った。

何故か?

無視されたのが悔しかったからである。

合格を目指して一生懸命頑張っている自分を尻目に、女の取り合いなんかやっている連中が許せなかったからである。

「あ〜も〜!! 思い出したらまた腹立ってきた〜!!」

近場の木にゲシゲシと蹴りを入れるいの。

大層ご立腹である。

そりゃそうだ。

真剣に取り組んでる立場の人間からすれば、ネジ達の行動には腹も立つ。

特にナルトみたいなのは、万死に値するだろう。

「シカマル! チョウジ!」

八つ当たりにももう飽きたのか、いのは振り向きざまに叫んだ。

「んだよ」

シカマルはいつもと同じように、やる気のない表情で返事を返す。

すると、いのが再び叫んだ。

「作戦変更よ! これからは弱そうな奴らじゃなくて、出来るだけ張り合い甲斐のある奴らと戦うわよ!!」

「ハァ!?」

「『ハ!?』じゃない!! 弱い奴を狙うなんてみみっちい真似してるから、さっきみたいな屈辱的な目に遭うのよ!!」

「いや、別にオレらは何とも思って「うるさーいッ!!」

反論しようとしたシカマルの声は無視された。

「もう見付けた奴は全員ギタギタにして、試験管や受験生全員に『私の』力を見せ付けてやるのよー!!」

拳を振り翳すいの。

怒り心頭と言った感じに血走った眼を見て、シカマルは理屈が通用しない事を悟る。

「ナルトだろうがサスケ君だろうが、目が合ったら即バトルよー!!」

―サクラとサスケはまだしも、ナルトは無理だろ・・・。

以前サスケを病院送りにした時、ナルトが見せた修羅の如き形相が脳裏を過ぎった。

「あ! ・・・・・・サスケがぶっ倒れてる」

そんな時、今まで会話に参加せずにいたチョウジが呟いた。

「何処!?」

かなり殺気立っているいのは、即座に反応を示した。

ぶちのめす気満々である。

「―――で、サクラが戦ってる」

「え?」

だがサクラの名を耳にした途端、殺気が戸惑いに変わった。













―ネジ・テンテン―

後輩達の仲裁によって本来の目的を思い出し和議を結んだネジとテンテンだが、それは形式上のものであり真の和解ではなかった。

その証拠に、2人とも一度も視線を合わせようとしないし、苛々しっぱなし。

どちらにも、歩み寄ろうとする気配が感じられない。

「・・・・・・」

腰に手を当てて、爪先を小刻みに揺らすテンテン。

袖のない服を着ている所為もあって、肌に出来た真新しい擦り傷が目立つ。

「・・・・・・」

半目のままポケットに手を突っ込んでいるネジ。

頬に出来た紅葉型の痣と鼻に詰めたティッシュが、名門日向家の威厳を台無しにしている。

実力はテンテンを凌いでいる筈なのに、何故か怪我の割合は3:7といった感じだ。

「「・・・・・・ふん!」」

やっと目が合ったと思ったら視殺戦で火花を散らし、鼻息を荒くしてソッポを向く。

・・・現在雄雄しく戦おうとしているリーとは裏腹に、ダメダメな2人だった。













―リー―

―ガイ先生・・・。

リーは追憶する。

『やったー!!』

我武者羅に修行した日々。

不断の努力が実り、歓喜の涙を流した日を。

『遂に会得出来たぞ―!!』

真っ二つに裂けた巨大な丸太の前で、天高く両手を突き上げるリー。

『はしゃぎ過ぎ』

修行の一部始終を見守っていたガイは、足取りさえ覚束なくなったリーを窘めた。

だがそう言いながらも、嬉しそうな顔をしていたのをリーは覚えている。

(くっ・・・)

そして、泥に塗れて悔しがるネジの表情もよく覚えている。

『(この技・・・結局リーだけしか体得できなかったな) おいリー・・・』

ガイは愛弟子の成長を手放しで賞賛してやりたいところではあったが、緩む頬を引き締めながら声を掛けた。

『ウッヒャー!』

しかし、喜びのあまりハイになっていたリーは、師の声を無視した。

『オイ・・・』

『やったぞ! やったんだ! やっちゃった!!』

狂喜の叫びが、再びガイの呼び掛けを掻き消す。

別段、リーに悪意があるわけではない。

が、二度に渡って無視されたガイは、やや表情を険しくした。

『・・・・・・』

どうしたものかと考え、とりあえずリーが落ち着くのを待ってみる。

『あちゃー!!』

しかし数秒と経たない内に、ガイは作戦を変更した。

それは一発ぶん殴るという、一番手っ取り早い方法だった。

『私の熱いメッセージを聴け!』

『は・・・何でしょう!? ナウい言葉でお願いします!!』

正気に戻ったリーは、涙を流しながらガイを見る。

傍から見ていたネジとテンテンが引いているが、それはこの際無視だ。

『この技。 『蓮華』は―――これより禁術として扱う』

何時になく真剣なガイ。

『え!!? ど・・・どういう事ですか?』

『この術は筋細胞に多大な負担を強いる。
 ・・・いわば『捨て身の技』なのだ。
 普段、人間というものは、筋肉が本来持つ『力』の・・・せいぜい20%程度しか使い切れてない。
 100%に近い【力】を出せば筋肉自体が崩壊する・・・よって、普段は脳が『力』を抑制している。
 しかし、この技はチャクラでその脳のリミッターを無理やり外し・・・。
 高速連続体術を、一連の技として繰り出すだけの筋力・・・。
 つまり人間の限界に近い『力』を練り出す事を極意とする危険な術なのだ・・・』

蓮華という術は、下手をすれば術者の生命そのものが危ぶまれる術だった。

『だから、この技を使っていいのは・・・ある条件の時だけだ・・・』

『それは・・・どんな時ですか?』

ガイの真剣な表情に、リーの顔が強張った。

『いいか、肝に銘じておけ。 ・・・それは』







―今なら、心置きなくあの技をやれます・・・。

リーは目を閉じたまま、両手の包帯を解き始める。

―何故なら今が、その―――。

「フン・・・」

ドスは嘲るように鼻を鳴らし、一直線に走り出す。

―大切な人を守る時!!

顔の前で印を結んだリーは、両膝を深く曲げた。

―!! 消えた!?

その直後、リーの姿が消えた。

ドスは慌てて気配を探るが、すでに遅い。

懐に滑り込んだリーが、真下から顎を蹴り上げる。

完璧に顎を捉えた一撃は、ドスの体を空に打ち上げた。

「まだまだ!」

リーは急上昇するドスの背後に張り付くと、両手の包帯を使ってその全身を縛り上げた。

特に特殊な術を繰り出す厄介な両手は、印を結べぬように念入りに固めてある。

これによってドスは、反撃どころか身動きさえ封じられた。

するとリーはドスの体を両腕でガッチリと固定し、空中で頭の位置を反転させた。

2人分の体重を掛けた状態で頭から落下させる気である。

「あれじゃ受身もとれねェ!! ヤ、ヤバイ!!」

この技が決まればどうなるかなど、考えるまでもない。

焦りを覚えたザクは、慌ただしく印を結んだ。

「喰らえ!!」

リーは落下の勢いが増す中、駄目押しとばかりに回転を加えた。

【表・蓮華!!】

地面に激突する寸前、リーは素早く離脱。

ドスは地面に垂直に突き刺さり、辺りに大量の土をばら撒いた。

―! この感触・・・。

技そのものは完璧に決まったが、リーの表情は険しいままだ。

「やれやれ・・・どうにか間に合ったぜ」

逆に、ザクには余裕のようなものが浮かんでいる。

「フ〜・・・」

ドスは四つん這いになって地面から頭を抜く。

ダメージが無いわけではなさそうだが、致命傷とは程遠い様子である。

「バ・・・バカな!」

蓮華は確かに決まった。

それは技を掛けたリー自身が一番解っている。

だからこそ、致命傷を回避したのが解せない。

両手を塞がれたあの状態でドスが何かをやれたとは思えない。

また、蓮華に耐えるだけの肉体的な強度を備えているとも考えられない。

リーは、目の前で起こった不可解な現象に閉口してしまう。

「恐ろしい技ですね・・・。
 土の『スポンジ』の上に落ちたのに、これだけ効くなんて・・・」

頭を振って土を払ったドスは、立ち上がって右腕の袖を捲る。

「次はボクの番だ・・・」

言うと同時に、ドスの爪先が地面を弾く。

―くっ・・・ヤバイ・・・今ので体が・・・。

リーは対処出来ない。

蓮華の反動により、立ち上がるのもやっとである。

体が鉛のように重く、手足が自分のものでないように感じる。

眼では視えていようとも、体が着いてこない。

「!!」

ドスの右腕が、横薙ぎに襲い掛かる。

リーは気力を振り絞り、後ろに下がる。

結果、辛うじて直撃だけは避けられた。

しかし、強烈な吐き気と眩暈で昏倒しそうになった。

「君の技が高速なら―――ボク達の技は音速だ。
 努力だけじゃどうにもならない・・・壁と言うものを教えて上げるよ」

「ぐはっ!」

高みから見下ろしたような言葉も、今のリーには届いていない。

「げほっ! げほっ!」

胃液を吐き出し、口内に広がった酸の香りに咽る。

リーは失念していた。

ドスの攻撃には何らかのネタがあり、バカ正直に避けるだけでは意味がない。

奇しくもそれは、先程自身が付言した事であった。

「リーさんッ!!」

サクラの悲鳴が上がり、リーの左耳からどす黒い血が溢れ出す。

―左耳が・・・。

出血した箇所に手を当てた時、リーは左耳の聴覚が損なわれている事に気付いた。

「ちょっとした仕掛けがあってね。
 かわしてもダメなんだよ・・・ボクの攻撃はね」

ドスはわざわざ右腕を掲げ、無骨な手甲を得意気に見せ付ける。

「アンタ、一体何を・・・!?」

「フフフ・・・音だよ。 拳はかわしても、音が君を攻撃したのさ・・・」

―音!?

―・・・・・・!!

リーは驚いたように、そしてサクラは何かを察したように目を見開いた。

「音ってのはそもそも何なのか・・・知ってますか?」

「・・・振動・・・」

「御名答・・・。
 音が聞こえると言う事はつまり、空気が揺れているのを耳の鼓膜がキャッチするという事。
 そして、人間の鼓膜は―――150ホンを越える音で破れる・・・。
 また、更に奥深くにある三半規管に衝撃を与える事で・・・バランスを失う。
 フフ・・・君は当分、満足に身体を動かす事も出来ないよ」

ドスは自分の耳に触れながら、淡々と語る。

一端の忍がこうも簡単に術の種明かしをするという事は稀だ。

即ち、生きて返さないと言っているようなものだった。

「オレ達に古くせー体術なんて通じねーんだよ」

「くっ!」

ザクの一言で、リーの顔が怒りに染まる。

「まあ、途中までは良かったが…俺の術まで披露したんだ、そう上手くはいかねーよ」

ザクはそんなリーの様子に満足しつつ、土中に潜り込ませていた手を引き抜いた。

「オレは超音波と空気圧を自由に操り・・・岩ですら破砕する力を持つ。
 土に空気を送り込んでクッションに変える事も思いのままだ」

交差したザクの手から、シューシューという音が聞こえる。

よく見てみると掌の中心部に穴が穿たれ、人工的に埋め込まれた排空口から空気が噴出されている。

サクラは、ザクの力を求める凄まじいまでの執着心に身震いした。

「お前の下らねー技とは違うんだよ」

―ちくしょう・・・。







『この技を使っていい時。 それは・・・大切な人を守る時だ』

『それにしても、よく体得しやがったなコイツー!』

『よくやったぞリー!』







―ちくしょう・・・。

リーはガイの顔を思い出し、悔しさのあまり歯噛みする。

必死で磨き上げた技を否定される事は、自分の信念を・・・ひいては師であるガイを否定されたに等しい。

「よーし・・・次は君だ!」

既にリーが戦力にならないと思ったのか、ドスは目標をサクラに移した。

「くそッ・・・!!」

「(来るっ!)」

サクラは気力だけで立ち上がり、クナイを構える。

だが死に体の筈のリーが、捨て身で突進してきた。

「何!!? (馬鹿な!!)」

―リーさん!!

「木ノ葉旋風!!」

完全に不意を衝いた一撃が、大きく見開かれたドスの視界に飛び込んでくる。

「くっ!!」

ところが左耳のダメージの所為で、直撃の手前で蹴りの勢いが半減した。

「やはり、さっきの攻撃が効いてるみたいだね」

「!!」

「少々驚かされましたが・・・あの閃光のような連続体術が面影もないじゃないですか!」

ドスは顔に飛んでくる蹴り足を片手でいなし、手甲を装着した方の手で殴り掛かった。

「くっ!」

回避が間に合わないと判断したリーは、両腕を引き上げ側頭部をカバーする。

ドスはその時、勝利を確信した。

次の瞬間、リーの腕に手甲が叩き付けられ、金属特有の甲高い音が響く。

「この腕は内部で発した小さな音を極限にまで増幅する・・・言わば、スピーカーなんだよ!!」」

普通ならば消失していく筈の音が、徐々に徐々に大きくなっていく。

「しかも衝撃音は腕の方向に捕らわれずボクのチャクラにより狙った獲物に必ず収束される!!」
 
「うわぁああああぁ!!」

ドスのチャクラでMAXレベルに増幅された音が、再びリーの左耳を襲う。

これにより、傷付いていたリーの三半規管は完全に破壊された。

「リーさん!!」

「ぐオオあ!!」

サクラの悲痛な叫びも空しく、リーは地に伏して苦悶の声を上げ続ける。

「さぁーて・・・じゃあ仕上げだ」

「させないわ!!」

トドメの一撃を加えようと腕を振り上げたドスに、サクラの放ったクナイが襲い掛かる。

「あー・・・もう・・・」

だが手甲に阻まれ、傷一つ負わせられなかった。





(ねェ! 逃げよー! アイツら相当ヤバイよー!!)

(サスケが気絶してんのは兎も角、何でナルトが居ねーんだよ!?)

(だからヤバイって言ってるんだよー! もしナルトがやられたって言うなら、ボク達じゃ勝てっこないって!!)

茂みに伏せて様子を窺っていた猪鹿蝶の3人は、予想外の事態に驚きを隠せなかった。

そこにあるべきナルトの姿が、影も形も見当たらない。

何かの間違いかと思い周辺の気配を探ってみたが、それらしきものは感じられなかった。

(チィ! とことん面倒な事になってきやがった・・・。
 おいいの! 『あの』リーもボコられてサクラ1人だ・・・お前はどーすんだ!?)

(・・・お願い・・・少しだけ時間を頂戴)

シカマルに話を向けられたいのは、重苦しい呟きを漏らした。

いのの見立てだと、音忍達の単純な能力値はそう高くない。

戦闘になった場合、恐らく自分達が勝つ。

しかし、迂闊には飛び出せない。

忍の中には、圧倒的な戦力差を覆せる能力を持つ者もいるのだ。

シカマルの影真似のように、術の使い方一つで格上の相手を打ち破る能力もある。

もしこの類の術が音忍の誰かに備わっていたとしたら、ナルトが遅れを取ったとしても不思議ではない。

シカマルという具体例が身近に居るだけに、いのは慎重にならざるを得なかった。

そして、ナルトが敗北したという誤った先入観も、決断を鈍らせる一つの要因であった。

(つーか、サクラやべーぜ! いいのかよ!? お前ら、昔親友同士だったんだろ!?)

「!」

思案に耽っていたいのだったが、シカマルの言葉にハッとなった。







『ねぇねぇ・・・・・・』

『何よーサクラ、かしこまっちゃって〜?』

『いのちゃんもさ・・・』

『何よー!』

『サスケ君のこと好きなんだってね・・・・・・』

『え?』

『じゃあ、これからは私達・・・・・・ライバルだね』







―・・・何であんな時の事なんか思い出してんのよ・・・。

ふと過ぎった記憶に、いのは冷静さを失い掛ける。

―オイ・・・! いの! どうすんだよ!

―わ、分かってるけど、どうしようもないじゃない!! 迂闊には出てけないでしょ!!

助けたいのは山々だが、今はまだ行動を起こせない。

いのは拳を握り締め、唇をきつく噛み締めた。







―私だって・・・! 私だって・・・!!

力尽きたリーを庇い、サクラは戦う。

当たらぬと判っていながら、放てるだけの手裏剣を放った。

ドスは余程やる気がないのか、避ける素振りさえ見せない。

代わりとばかりに、暇を持て余していたザクが動いた。

「はっ!!」

手裏剣とドスの間に滑り込み、両手の排空口から衝撃波を発生させ、全ての手裏剣を跳ね返す。

―空気圧・・・・・・手裏剣が跳ね返された!

戻ってきた手裏剣に皮膚を裂かれ、サクラは短く悲鳴を上げた。

「痛ッ!!」

その隙に、第三者が髪の毛を鷲掴みにした。

突然の痛みに尻餅を突きながら、サクラは後ろを見る。

するとそこには、どす黒い笑みを貼り付けたキンの姿があった。

「私より良い艶してんじゃない・・・コレ。
 フン・・・忍の癖に色気付きやがって・・・。
 髪に気を使う暇があったら修行しろ、このメスブタが」

「痛い!」

髪を掴む手に力が篭り、サクラは苦悶の表情を浮かべる。

「ザク・・・この男好きの目の前で、そのサスケとか言う奴を殺しなよ」

「!!」

「コイツにちょっとした・・・余興を見してやろーよ」

「お! いいねー!」

「オイオイ・・・」

恐ろしい事を平然と言い合う音忍達。

サクラの顔から、一気に血の気引いた。

―そ・・・そんな事やらせるわけには!!

「動くな!」

「くっ!」

抵抗を試みるサクラだが、音忍達に隙は皆無。

―サ・・・サクラさん・・・。

唯一の味方であるリーの助けも、最早期待出来そうにない。

―体の力が入らない・・・。
 ・・・私・・・また・・・足手纏いにしかなってないじゃない・・・!!

サクラは、小さな肩を震わせて泣いていた。

―何時だって守られてるだけ・・・・・・。
 悔しい・・・・・・今度こそは・・・って思ってた。
 今度こそは・・・大切な人達を私が守らなきゃって・・・。

だがそれは、恐怖によるものではない。

不甲斐ない自分に対する、歯痒さの現れだった。

「じゃあ、やるか」

ザクはくつくつと喉を鳴らし、サスケの方に歩き出した。







(オイ! サスケがやべーぜ!)

(・・・まだよ。 まだ、待つの・・・)







サスケを狙うザクが目の前を横切ろうとした時、サクラはきつく目蓋を閉ざし、右足のホルスターからクナイを抜いた。

「ムダよ! 私にそんなモノは効かない」

居丈高に言い放つキン。

「何を言ってるの?」

だがサクラはクナイの柄を強く握り締め、不適な笑みを浮かべた。

そして次の瞬間、桃色の髪が空に散った。

「何!?」

サクラの行動に驚愕したのは、キンだけではなかった。

そこに居た全ての者が、決して小さくない動揺を与えられていた。

―私はいつも・・・一人前の忍者のつもりでいて・・・・・・。
 サスケ君の事、いつも好きだって言っといて・・・。
 ナルトに、いつも偉そうな事言っといて・・・・・・。
 私はただ―――いつも2人の後姿を見てただけ・・・。

髪留めのように身に着けていた額当てが、髪の毛と一緒に宙を舞う。

―それなのに・・・2人はいつも私を庇って戦ってくれた・・・。
 リーさん、あなたは私のこと好きだって言って・・・・・・。
 私を背に命懸けで戦ってくれた・・・・・・。
 あなたに教えて貰った気がするの・・・。
 私も貴方達みたいになりたい・・・・・・。

立ち上がって拳を握ったサクラは、自分の体から震えが消えていくのを感じた。

―みんな・・・今度は私の後ろ姿を―――・・・しっかり見てて下さい!!

覚悟が決まった。

完全に吹っ切れたサクラは、一人前のくノ一の顔になっていた。







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