NARUTO
〜九妖忍法帳〜 49話目




―奴ら・・・あの時の・・・。

頭上を見上げる大蛇丸は、濃密な殺気を纏った2人の顔に覚えがあった。

過去、気紛れに足を運んだ土地で見つけた稀少なサンプル。

それを手に入れるだけの至極簡単な仕事の筈だった。

ところが大蛇丸は、歯牙にも掛けていなかった一介の追い忍に手痛い反撃を受け、目的を果たす事なく撤退を余儀なくされた。

「クジラの仇だ。 その首、置いてってもらおうか」

「無論、嫌とは言わせませんがね」

復讐に燃える鬼人と紅姫。

2人はかつて、無力な獲物でしかなかった。

絶望に彩られ、ただ逃げ惑うのみだった。

当時、大蛇丸と2人の間には、どうしようもない力の開きがあった。

しかし、7年という歳月がその差を埋めた。

2人の力は、以前とは比べ物にならない。

単独では太刀打ち出来ずとも、2人掛りならば互して渡り合う事も出来るだろう。

「隊長。 アンコさんを安全な所へ。
 すぐに呪印を封印しないと命に関わります」

鋭く細めた両眼を大蛇丸に向け、穏やかな声で雪が言う。

「んなっ!? 母体!? 子供!? ど、どっち!?」

「両方です」

「!!?」

途端にオロオロし出すナルト。

面を被っていても、泣き出す手前だという事が丸分かりだ。

しかも隙だらけ。

今大蛇丸が攻撃したとすれば、確実にあの世逝きである。

「せっちゃん! なんとかして!!
 金は、金は幾らでも用意するから!!」

「いや・・・お金云々は兎も角、その術は私の専門外です」

一応封印術は使える雪だが、大蛇丸の呪印を封じる【封邪法印】は会得していない。

しかし、そんな事はお構いなしに、ナルトは益々錯乱する。

雪や再不斬がシリアスな空気を纏ってようが、んなのは知ったこっちゃない。

「少し落ち着きやがれ!!」

「ぐごっ!!」

いい加減鬱陶しくなってきたのか、再不斬は喚き散らすナルトの脳天にクナイの柄を直撃させた。

「要はなんとか出来そうな奴のとこに連れてきゃいいだけの話だろうが!
 グダグダ喚いてる暇があったら、さっさとその女を連れて行きやがれ!」

その言葉でハッと我に返るナルト。

「安心しな・・・この変態野郎はオレ達で始末しといてやる」

「じゃ、じゃぶじゃ・・・」

ひどい鼻声と、神仏を崇めるような眼差し。

再不斬は気色悪さのあまり、蕁麻疹が出そうになった。

「ふ、ふん! オレ様を見くびるなよ!
 あっちは手負いだ、テメェの手を借りなくとも十分過ぎる!」

再不斬はナルトの視線から逃れようと、そっぽを向きながら大刀に手を掛ける。

「ちょっと待ちなさい! そいつは私が」

大蛇丸は自分の獲物である。

そう主張しようとするアンコだったが、しかし。

「任せたぞ!」

物言いを付けようとしたところ、ナルトに最後まで言わせてもらえず強引に抱き上げられた。

「アンコ、しっかり掴まってろぉ!」

「えぇ!? きゃああああ!!」

たちまちナルトは疾風となり、アンコの悲鳴が彼方に遠ざかっていく。

「再不斬さん、相変わらず優しいですね」

ナルト達が居なくなると、雪は再不斬の方を見て小さく笑った。

「ふん、そんなんじゃねぇ。 野郎に借りを返しただけだ」

「・・・ツンデレってやつですか?」

「違う! 断じて違う!」

根っこからもげそうな勢いで首を振り、必死に否定する。

再不斬は闘う前から余計な体力を消耗していた。

「・・・・・・ねぇ、そろそろいいかしら」

さっきから放置されていた大蛇丸が、不愉快そうに口を開いた。

「ああ・・・そう言えば、始末しなきゃいけねぇ奴がいたな」

「ふふ、忘れちゃダメじゃないですか再不斬さん。
 あの人の場合、隊長よりももっと大きな借りがあるんですから・・・」

雪と再不斬は軽口を叩き合うと、瞬身の術で地上に移動する。

「(・・・速い)」

正面に再不斬、背後に雪。

既に臨戦体制に入っている2人が、殆ど同時に構えを取る。

最強の実力者が去ったとはいえ、2対1という状況。

加えて先程の戦闘によって、体力もチャクラも大幅に消耗している大蛇丸の不利は動かない。

「どうやら、素直に通してはもらえないみたいね」

「当たり前じゃないですか。 私が、この日をどれだけ待っていたと思っているんです?」

雪は交差した両手の先端にチャクラを集中させた。

その気になれば、何時でも斬糸を放てる状態である。

「無駄話はこの辺でいいだろ。 さっさと始めようぜ!」

―ほんと、面倒な事になったわね。

振り抜かれた大刀の風圧に黒い長髪が靡く。

大蛇丸は余裕とも思える笑みを浮かべているが、その頬には一筋の汗が伝っていた。














―春野サクラ―

再不斬、雪と大蛇丸の戦闘開始とほぼ同時刻。

サクラは負傷したサスケの看病に追われていた。

―段々呼吸は整ってきた・・・けど、まだ凄い熱・・・・・・。

サスケの額に手をやり、体温を確認する。

最初のように叫び声を上げる事はなくなったが、容体はお世辞にもよいとは言えず、気を抜けない状態が続いている。

しかも周囲には、巻物を狙う受験生だけでなく猛獣や毒虫が犇いている。

そうした外敵達は、自分達の都合などお構いなしに襲い掛かってくるだろう。

彼らにとって弱っている7班は、恰好の獲物なのだ。

今は大木の根が密集した場所に身を隠してはいるが、ここも何時嗅ぎ付けられるか分からない。

万が一敵に発見された場合、意識のないサスケを連れて逃げ切る事は到底不可能だ。

もしもそうなった場合は、自分が戦うしかない。

―私が・・・私が守らなきゃ・・・!!

サクラはいざと言う時の覚悟を決め、自分に言い聞かせた。

だが、彼女は気付いていなかった。

「フフ・・・見つけた。
 大蛇様の命令通り、夜明けと同時にやるよ。
 あくまでターゲットは、うちは サスケ」

「邪魔するようならあの女は殺していーんだな」

「勿論」

決断の時が、すぐそこまで迫っている事を・・・。












刻一刻と過ぎていく時間は、不寝番を努めるサクラの体力を確実に奪っていった。

睡魔と闘いながら懸命にサスケの看病を続けるも、現状で出来る事と言えば、汗を拭いたりタオルを換えると言った気休め程度。

献身的な介護を続けてもサスケは意識を取り戻さず、頼みの綱であるナルトも戻ってこない。

極度の緊張が体力の消耗に拍車を掛け、弱っていく体は休息を求める。

―ダ・・・ダメ! 眠っちゃダメ!

サクラは慌しく首を振り、襲い掛かる睡魔を振り払った。

更に眠気を覚まそうと、背筋を伸ばして顔を上げる。

と、木々の隙間から光が差し込んでいる事に気付いた。

―あ! もう夜明け・・・!?

そう思った時だった。

「!!」

背後の茂みから物音がした。

サクラは体を硬直させながらもクナイを構え、恐る恐る振り返る。

―・・・・・・・・・リス?

だが、振り向いた先にあったのは限りなく無害な小動物だった。

サクラは毒気を抜かれ、間の抜けた顔になる。

「何よ、あんまり驚かさないで・・・・・・」

そうぼやきながら安堵の息を零していると、リスが小走りで近寄ってくる。

―あ!

サクラは驚いた表情を浮かべ、クナイを抜いた。

そしてそれをリスに、正確にはリスの手前の地面に投げた。

―フー・・・危ない危ない。

一目散に逃げ去っていくリスを確認すると、サクラは額の汗を拭った。

「えらく気を張ってやがるな・・・リスに付けた起爆札に気付いたのか?」

木に隠れて様子を伺う音忍達の1人、ザクが言った。

「いや・・・そうじゃないよ・・・」

「? 何だよ、ドス。 どういう事だ?」

自分の意見をあっさり否定されたザクは、ドスに説明を求める。

「・・・多分、近くまで行けば分かるよ・・・。 だから、そろそろ行こうよ」

だが、明確な答えは返ってこなかった。














―ロック・リー―

同じ森で規格外の実力者達がぶつかり合っているとも知らず、受験生達は与えられた試練を乗り切ろうと四苦八苦していた。

昨年度No,1ルーキーを擁するガイ班班員、ロック・リーもその中の1人であった。

彼のチームはリーダーであるネジの方針により、開始直後の戦闘行為は極力避けた。

相手が態勢を調える前に襲うのも有効な手ではあったが、それはリスクが大きいと全員で却下した。

敵チームに強力な感知タイプが居た場合、奇襲は失敗に終わる可能性が高いからだ。

開始早々8班を狙ったチームが返り討ちに遭ったのがいい例と言える。

ガイ班はなるべくリスクの少ない作戦を選択し、開始直後の巻物争奪戦には加わらず、まず食料と水の確保を優先した。

そうする事によって、自分達は体力の消耗を大幅に抑えた。

やがて丸一日が経過し、現在は明け方間近。

戦闘を行ったチームは、消耗した体力を回復させるべく活動を休止している。

そうしたチームはかなりの僅かな例外を除き、大なり小なり手傷を受け、体力と集中力も低下している。

ガイ班はその機に乗じ、漸く偵察を始めた。

しかもより気配を消し易くする為にバラバラになった上、敵を見つけようが見つけまいが一旦集合場所に戻る事を義務付けるという念の入れよう。

だが、こうする事で最も疲労が著しいチームを狙え、自分達の消耗を避けられるのである。

・・・避けられるのだが、

―この葉っぱ20枚・・・地面に落ちるまでに全て取れたら・・・。

リーは今まさに、余計な体力を使おうとしていた。

偵察の為に木々の上を駆けている途中ふと足を止めた枝の上で、リーは地面に向かって舞い落ちる木の葉を見付けた。

―サクラさんがボクの事を好きになる!!

すると、いきなり闘志を燃やし始めたのだ。

右手は力強く握られ、眼はギラリと光っている。

―もし・・・もし1枚でも取れなかったら・・・・・・!!
 一生、片想いで終わる・・・つーか『アンタ、ゲジゲジじゃん』とか言われる・・・。

先程とは一転して肩を落とすリー。

普段見せている頼もしげな背中が、鶏のように縮こまってしまった。

だが、それも一瞬の出来事。

「とおっ!!」

瞳の中で真っ赤な炎を燃え上がらせると、煮え滾る情熱に身を任せてダイブした。

リーは、いつでもどこでも『自分ルール』で修行する。

ガイから伝授されたソレは最早、骨の髄までしみ込んでしまっている。

飛び降りたリーは目標の20枚を目指し、次々と木の葉を掴み始める。

15、16、17、18・・・そして19枚目。

19枚目の葉を掴んだところで、横に伸びた枝に腰を激突させてしまった。

木の葉に集中するあまり、障害物の存在を見落としていたようだ。

―あと1枚!

リーは海老の様に仰け反って唾液を吐き散らしたものの、気力で最後の木の葉を追う。

木の葉は地面に落ちる寸前だが、リーのスピードならばまだ十分間に合う。

―あれは!?

だが右手が木の葉に届く寸前で、リーはある異変に気が付いた。

「キー! キー!」

その異変とは、火に炙られてもがいている一匹のリスだった。

燃えているのは背中に張られた起爆札。

それを見たリーは、木の葉を諦めてリスの方に突っ込んでいく。

爆発音が響き渡ったのは、その直後だった。

「フー・・・間に合った。
 これは起爆札って言って、時間が立つと爆発するんだ」

辺りに充満していた徐々に煙が治った頃、埃に塗れたリーとその腕に抱かれたリスの姿が露になった。

ギリギリのタイミングではあったものの、札を剥ぎ取る事に成功したのである。

暫くして、リーは起爆札を握り潰し、まだ燃えていた炎を消した。

「それにしても、誰がこんなに非道い事を・・・」

そう言ったリーの声には、ハッキリと怒りの色が篭っていた。














―日向ネジ―

同じ偵察でもネジのそれは、リーとは違い散歩をしているような感じだった。

いや、事実それは散歩だった。

白眼という血継限界を持つネジにとって、偵察など造作もない事だ。

何せその場から数km先までの景色を、遮蔽物を透過して観察する事が出来るのだから、他の受験生のように森中を駆け回る必要も、隠行を駆使して接近する必要もない。

僅かでも人の気配を感じたら、白眼を発動させればいいだけの話である。

しかし、そんな朝飯前の任にも拘らずネジは不機嫌だった。

不愉快でもあった。

何故なら、

「何してんのよ。 突っ立ってないでさっさと進みなさいよ」

すぐ後ろをテンテンが着いてきているのだ。

「・・・・・・・・・」

ネジは頭を抱える。

「テンテン・・・何故着いてくる」

「着いてきちゃ悪いのかしら?」

「一緒に行動したら偵察の意味がないだろう」

「そう思うんだったらネジが進路を変えればいいだけの話じゃない」

『ふぅ〜やれやれ』と肩を竦め、抗議をにべもなく両断するテンテン。

一応チームリーダーの言葉なのだが、耳を貸す気はないらしい。

無言で睨みを利かせても、柳に風といった態度である。

「それとも、進路を変えたくない理由でもあるのかしら?」

テンテンはそう言っていやらしく目を細めた。

「な、なんの事だ!? 変な言い掛かりは止せ!」

目に見えて動揺し始めるネジ。

頬を伝った油汗が、顎先からポタポタと滴っている。

テンテンはその反応に気を良くしたのか、プッと口元を押さえせせら笑った。

「あら、違うんだったら別に文句ないでしょ?
 この近辺の偵察は私に任せて、あんたはアッチを探しなさいよ。
 ゆっくり、じっくり、たっぷり、出来る限り時間を掛けて心行くまで」

棘をたっぷり含んだ台詞を言い放ち、ネジの進路とは真逆の方向を指差す。

その露骨なまでに反抗的な態度を見る限り、説得が不可能だという事は明白。

だが、ネジは引き下がらない。

自身の進路変更とテンテンの前進を、白眼まで発動させて頑なに拒む。

当初の目的や二次試験を乗り切る為のプランは、既に忘却の彼方である。

ネジは、それ程に必死だった。

必死こいてまで、テンテンを先に行かせたくなかった。

―ふん、抜け駆けしようったってそうは行かないのよ。

その理由をテンテンは知っていた。

試験開始直後から、ネジが月隠れ・・・つまり白の動向を逐一確認していた事。

どうやって接触しようか悶々と悩んでいた事。

好き・・・嫌い・・・と溜息混じりに花占いをしていた事。

そして、同じく白を狙っている自分を出し抜こうと画策していた事。

幾らネジが黙した所で、それらは全てお見通しであった。

「と、兎に角だ。 この先の偵察はオレが引き受ける。 お前は今すぐ引き返せ」

「嫌よ。 私はこの先に用があるの」

僅か1秒で即答し、テンテンはプイとそっぽを向いた。

ブチ。

ネジの血管がそんな音を立てたのは、0,1秒後の事だった。

ちなみに2人の戦いは、この後偶然通り掛った10班が、あまりの馬鹿さ加減を見るに見かねて仲裁に入るまで続けられた。













―春野サクラ―

長かった夜が開け、サスケの看病で疲れ果てたサクラはうとうとと船を漕いでいた。

「クク・・・・・・寝ずの見張りかい?」

だが、突然投げ掛けられた言葉が、彼女の眠気を吹き飛ばした。

―こ・・・こいつら!!

慌てて振り向いたその先には、ドス、ザク、キンの音忍達。

3人全員が眼をギラつかせ、臨戦態勢に入っている。

サクラは戦闘を避けられないと悟り、不安に震える腕を押え付けた。

「でも、もう必要ない・・・。
 サスケ君を起こしてくれよ。 ボク達、そいつと戦いたいんでね!」

「な・・・何言ってるのよ! 大蛇丸って奴が陰で糸引いてるのは知ってるわ! 一体何が目的なのよ!?」

「「「!!?」」」

大蛇丸。

その名を耳にした途端、音忍達に動揺が走った。

「サスケ君の首筋の変な痣は何なのよ! サスケ君をこんなにしといて・・・何が戦いたいよ!!」

「・・・さーて、何をお考えなのかな・・・あの人は・・・」

ドスは捲し立てるサクラを無視し、思案に耽り始める。

「しかし・・・それを聞いちゃあ黙っちゃられねーな・・・」

だが好戦的なザクは、待ち切れないといった感じで体を沈めた。

まるで獲物を前にした猛獣の様に、今にも飛び掛りそうな雰囲気である。

「この女もオレが殺る。 サスケとやらもオレが殺る」

「・・・・・・・・・」

ザクの口元が吊り上り、殺気を孕んだ眼がサクラを捉える。

「待てザク」

しかし飛び出そうとするザクをドスが止めた。

「あ? 何だよ?」

水を差されたザクが不機嫌そうに顔を向けると、ドスは構えもせずに前進し始めた。

そして数歩進んだ所で足を止め、右手で草の根元を掻き分けた。

「ベタだなあ・・・・・・。
 引っくり返されたばかりの石・・・土の色。
 この草はこんな所には生えない。
 ブービートラップってのはさ、バレないように作らなきゃ意味ないよ?」

「クッ!」

悠々と草を剥ぎながら講釈を垂れるドスに、サクラは唇を噛み締めた。

「チィ・・・下らねェ・・・。 あのクナイはリスがトラップに掛からないようにする為だったのか・・・」

「まあ、この女なんか用無いからさ。 ・・・すぐ殺そ」

その言葉を合図に、音忍達は一斉に飛び上がった。

サクラの実力から考えれば、例え1対1でも音忍の相手は荷が重い。

しかもそれは、体調が万全であると仮定した上での話。

現在のように消耗し切った状態では、万が一にも勝ちは望めない。

その事は、サクラも解っていた。

解っていて尚、サクラは笑みを浮かべた。

直後、ドスの眼が大きく見開かれた。

「丸太!!?」

ロープで吊られた特大の丸太が、木々をへし折りながら音忍達に襲い掛かる。

サクラが、予め仕掛けておいた罠を発動させたのである。

「上にもトラップが―――ヤバイ!!」

地上なら兎も角、今居る場所は身動きの取れない空中。

ドスの顔に焦り色が浮かび、直撃は確実と思われた。

・・・しかし。

「なーんてね」

ドスが丸太に手を添え印を結んだ瞬間、丸太は木っ端微塵になった。

―え!?

サクラは愕然とした。

半ば勝利を確信していただけに、罠を破られたショックは相当なものであった。

「はっきり言って才能ないよ、君は・・・。
 そういう奴はもっと努力しないと駄目でしょ!
 弱い君がボクらをナメちゃいけないなぁ!!」

頭上から迫るドス達との距離が無くなると、サクラの瞳に大粒の涙が浮かんだ。

罠を破られたのでは、最早どうする事も出来ない。

回避も、防御も、反撃も、サクラには如何なる手段も残されていなかった。

―・・・サスケ君! ・・・ナルト!!













―うずまきナルト―

「っくしょい!! ちきしょ〜」

サクラが絶体絶命の危機に陥っている最中。

「父上きたな〜い」

「ああ、ゴメンゴメン」

ナルトは娘と一緒に朝食を摂っていた。

「『ちくしょう』って・・・親父臭いわよアンタ」

「親父になって少し老けたのかのぉ」

「でも、まだ15ですよ? ・・・ボクもだけど」

アンコに自来也、白も一緒である。

ちなみにメニューはキャンプの定番、(山菜)カレー。

そんな匂いの強いもん作ってたら、他の受験生に居場所を知られる事受け合いだが、忘れるなかれ。

如何なる強者が襲ってきたとしても、例え襲撃者が大蛇丸だったとしても、待ち構えているのは自来也である。

巻物を奪うのは至難の業。

というよりも、九割九分返り討ちにされる。

実際、自来也によって脱落させられたチームが既に1チーム存在している。

誠に以って気の毒、そして理不尽な話だ。

だが、運が悪いとしかいいようがない。

よりによって、伝説の三忍を的に掛けてしまったのだから。

しかし、侮れないのは自来也だけではない。

白にしてもそうだ。

幾ら正規の忍ではないとは言え、実力だけならその辺の上忍よりも上なのだ。

再不斬と共に数多の戦場を駆け抜け、任務経験も半端ではない。

BやAは勿論、Sランクに相当する任務も多少こなしている。

故に白は、血反吐を吐くようなプログラムもまったく苦にしていない。

山菜を集めて料理を作り、湯を沸かして風呂に入る余裕さえある。

自来也程ではないにしろ、十分化け物である。

そして、知られざる化け物がもう1人。

「おかわり」

大蛇丸、レンゲ。

既に人の域すら逸脱した強者との戦闘を経たにも拘らず、まったく堪えていないこの男。

消耗したチャクラを食で補うように、3回目のおかわりを要求するうずまきナルト。

レンゲによって付けられた刃傷は勿論、体力も殆ど全快している。

「よく食べるわねアンタ」

呆れたように呟くアンコだが、手元の皿に盛られているのは二杯目である。

彼女も回復したようだ。

「一応今は敵同士なんだし、ちっとは遠慮したらどうだ」

ツクモの隣に座るナルトに、棘のある態度を取る自来也。

孫娘との絆を一層強められるこの一時に、邪魔者が入り込んだのが気に食わない御様子。

『さっさと失せろこんちくしょう』と、腹の中ではそう思っている。

流石に口に出したりはしないが、思いっきり顔に出ている。

「・・・自来也さん、アンコさんが担ぎ込まれた時はノリノリだったと思いますが?」

白は昨夜の光景を思い出し、軽蔑の眼差しを向けた。

そう、ナルトがアンコを連れて駆け込んできた時、自来也は寧ろ歓迎していた。

何故か?

それは、【封邪法印】という術にある。

この封印術は、術者の血を媒体に呪印の効力を押さえ込むのだが、その為には術者の血で対象の皮膚に術式を書き綴らなければならない。

皮膚にという事は、勿論服を脱がなければならない。

・・・ここまで説明すれば、もうお分かりだろう。

「治療されてる間、視姦されてるみたいでずっと気分悪かったわ」

アンコは蔑んだ瞳で、自来也を睨み付けた。

忘れてはならないが、仮にも命の恩人である。

「それに血を塗る時の手付きが変態っぽかったし、どさくさに紛れてオッパイ触ろうとした」

しかしそれを差っ引いても、自来也に対する酷評は揺ぎ無い物だった。

「・・・流石、ナルトの親代わりなだけあるわね」

「何故でしょう・・・その一言で納得してしまうのは。 ナルト君を弁護しようにも言葉が浮かんでこない」

「いや、少しぐらい褒めてくれよ。 俺も一生懸命頑張ったんだからさぁ」

本人としては非常に不本意なレッテルを貼られ、思いっきり凹むナルト。

今更ながら、自来也の元にアンコを連れてきた事が悔やまれる。

こんな事になるのなら、三代目に見せるべきであった。

大蛇丸の呪印を封印出来る人間といえば、真っ先に候補に挙がるのは三代目火影だ。

最初はナルトもそう考えていた。

そう考えてゴールの塔に向かっていたのだが、森を駆ける途中にある事を閃いた。

『師匠(自来也)が居るじゃん!』

と。

冷静に考えれば、それが運の尽きだったのだ。

まぁ今更嘆いた所で、後の祭りである。

だが、それでも嘆かずにはいられなかった。

やがてすっかりいじけてしまったナルトと、ナルト以上にいじけてしまった自来也は、アンコと白から離れた場所で三角座りを始めた。

背後からは、『色魔』だの『ケダモノ』だのと、容赦の無いコメントが聞こえてくる。

「父上、お祖父ちゃん」

唯一の救いは、ツクモが何時もと変わらない態度で接してくれる事だけ。

しかし。

「視姦って何?」

無邪気な笑顔で発せられた一言によって、救いは潰えるのであった。







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