NARUTO
〜九妖忍法帳〜 47話目




大蛇丸の術で障害物の無くなった森の一角に、鼓膜を破裂させるような轟音が鳴り響く。

轟音から数秒遅れて、大地が大きく揺さぶられる。

吹き上がる火柱が天を焦がし、降り注ぐ雷が地を引き裂く。

チャクラによって生み出された津波が土砂を押し流し、平らな地面に凹凸を刻んでいく。

更地となった森は、既に荒地に変わり果てていた。

妖狐と毒蛇の戦いに、様子見などという生易しいものは存在しなかった。

有り余るチャクラを活用して殺傷力重視の術を連発するナルトと、多彩な術に禁術を織り交ぜながら凌ぎ切り、機を見て反撃する大蛇丸。

その一手一手の攻防は、全て必殺を狙ったものだ。

しかし、それでもまだ温いと言わんばかりに、忍の粋を遥かに超越した人外達の戦いが激しさを増していく。

【土遁!】

ナルトは十数の印を結び、パァンという音を立てて合掌すると、両手の掌を地面を押し付けた。

【大針山!!】

次の瞬間、大地がけたたましい咆哮を上げた。

地の奥底に眠っていた固い地層が、送り込まれたチャクラに呼応するが如く、上の地層を突き破って出現する。

時を掛けて圧縮された土は、鍛えられた鋼と同等の硬度。

一つでもかわし損ねれば、体に大きな風穴が開く。

「面白い!」

殺到する針山を目前に大蛇丸は笑い、一瞬にして印を組み上げた。

【土遁! 土流壁!!】

口から吐き出された土が、絶壁となって針の進路を阻む。

針山と巨壁の衝突で、辺り一面に岩の雨が降り注いだ。

―このままじゃ・・・不味い事になるわね。

土遁によって地中に避難した大蛇丸は、内心で舌打ちをした。

強力無比な術の応酬の余波により、周囲に張った人払いの結界が綻びが生じ始めている。

このままでは、試験官達に騒ぎを嗅ぎ付けられる恐れがある。

無論、大蛇丸の実力ならば試験官如き瞬殺する事は容易い。

だがそんな真似をすれば、自分の存在が明るみに出てしまう。

可能ならば、今はまだ事を荒立てるのは避けたい。

しかし、かといって戦いの手を緩める事は出来ない。

下手な真似をすれば、自らの死を招く事になる。

ナルトの力量は、大蛇丸の予想を遥かに越えていた。

力も、速さも、技も、経験も、判断も、機転も、全てにおいてだ。

それ故に、大蛇丸は腑に落ちなかった。

馬鹿げた身体能力やチャクラ量は兎も角、洗練された技術や高度な忍術が、人柱力として覚醒しただけで手に入る筈がない。

「ナルト君、参考までに聞くけど」

探究心に火が付いた大蛇丸は、地面をすり抜けて地上に姿を見せた。

「これ程の力を一体どうやって・・・」

「ごちゃごちゃうるせぇ!! 黙って死ね!!」

が、回答は拳骨だった。

「オラァ!!」

大蛇丸が姿を現すなり間合いを詰めたナルトは、赤いチャクラを纏った拳で殴り掛かってきた。

音の壁を突き破る速度で容赦なく顔面を砕きに来た拳を、間一髪で避ける。

一見しただけで理解出来る殺傷力に背筋を凍らせながらも、草薙の剣で逆袈裟に斬り上げた。

しかし。

「なっ!?」

古今無双の剣が、腕一本で止められた。

人の身では操る事の叶わぬ高密度なチャクラに押し返され、刃が肉体まで届いていない。

「それで仕舞いか!!」

チャクラの放出量が増幅し、刀が真上に弾き飛ばされる。

ナルトはすぐに身を屈め、開いた懐に飛び込む。

そして、全身のバネを利かせた右ストレートを放った。

肉眼で捉えられるスピードを超越した打撃が、風を鳴かせる。

「!!」

大蛇丸は体を捻ってどうにか回避した、

だが、通過しただけで腹の肉を圧迫する程の拳圧に冷たい汗を流した。

―とてもじゃないけど、接近戦には付き合いきれないわね。

背中に腕を回し、悟られないように指を曲げる。

すると、地面に落下していた草薙の剣が、ナルトの背を目掛けて飛翔する。

これは、【草薙の剣 空の太刀】。

自らの体内に口寄せした草薙の剣を、意のままに制御する術である。

「嘗めんな!!」

ナルトは一瞬だけチャクラを爆発的に放出し、その余波で剣を弾き飛ばした。

しかし、その行動は大蛇丸の狙い通りだった。

身体能力では遠く及ばないものの、実戦経験や習得忍術、更に戦況を覆す引出しの豊富さはこちらの方が一枚上手である。

自分から注意が逸れた一瞬を狙い、間合いを外す大蛇丸。

痩せ細った指が印を組み終えた途端、ナルトの周囲が高熱に包まれた。

【火遁! 炎蛇抱陣!!】

蛇を象った火炎が虚空を旋回し、獲物を締め上げるように輪を縮めていく。

「チィ!! 【水遁! 水陣壁!!】」

ナルトは灼熱の抱擁から逃れようと、炎に包まれる寸前に巨大な水柱を生み出す。

炎蛇を消滅させる水柱は、まるで海上に発生した竜巻のような苛烈さで、局地的な豪雨を降らせるというおつりまであった。

チャクラが有り余っているとはいえ、もう少しペース配分を考えるべきである。

現在までにナルトが使用したチャクラ量は、平均的な上忍であれば10回以上死んでいても不思議はない量だ。

「大盤振る舞いね。 でも、折角だから活用させて貰うわ」

大蛇丸は空から落ちて来る飛沫でずぶ濡れになりながら、厭らしく口元を歪めた。

【水遁!! 水巳双弾!!】

ナルトの術で発生した水を利用し、双頭の蛇を作り出す。

本来なら此処は水辺ではない為、発動にかなりのチャクラを消費した筈だが、ナルトの生み出した水を利用出来たお陰で随分と節約出来た。

「んのやろ・・・狡い真似しやがって!! それでも三忍か!!」

自分のミスを見事に利用され、ナルトは大蛇丸が益々に嫌いになった。

だがどうにか怒りを堪え、戦いに集中する。

ナルトは出遅れた分を取り戻すように、恐ろしい速度で印を斬って行った。

【火遁!! 火龍炎弾!!】

使用する術はBランク、上忍レベル。

もっとも、練り込まれているチャクラが半端ではない為、威力の方はAランクに該当する。

その証拠に本来紅い色をした筈の火龍が、あまりの熱量で白龍に変っている。

やがて、天から滑空する水蛇と地を這う火龍が同時に顎を開き、牙を剥き出しにした。

2匹の魔獣はぶつかり合い、互いの存在を喰らい尽くそうとする。

火と水の鬩ぎ合いで発生した蒸気が、霧となって辺りに漂う。

そしてその霧が、またしても大蛇丸に利用された。

【忍法 霧隠れの術】

かつて再不斬が作り出した霧に匹敵する程の濃霧でナルトの視界を潰し、大蛇丸は白く濁った空間を疾走する。

地面を弾きながら背中に右手を隠し、指先にチャクラを集中させる。

親指から順に木・火・土・金・水と色の異なるチャクラが生じ、五指の先端で炎のように揺らぐ。

この術は古くから木ノ葉に伝わる封印術。

魔に属する者に対して、絶大な効力を発揮する術だ。

・・・ただし。

術の発動は上忍であっても困難を極める為、現在の木ノ葉でこの術を扱えるのは三代目ぐらいのものである。

【五行封印!】

間合いを詰めた大蛇丸が、ナルトの腹目掛けて右手を突き出した。

すると、メリッと肉が潰れた音がした。

「ぐ・・・がぁ・・・!!」

悲鳴を上げたのは大蛇丸の方だった。

ナルトの肘と膝によって、伸び切った腕が上下から挟み潰されていた。

「飛べ!!」

骨を折られ肉を潰された痛みに歪んだ顔に、真横から蹴りが叩き込まれる。

大蛇丸の体は鞠のように幾度も地面を跳ね、埃と泥に汚れていく。

「ぐっ・・・」

100m以上離れた位置まで飛ばされ、散々に乱れた髪から泥水を滴らせて立ち上がる。

その表情は、苦悶というよりは屈辱に歪められていた。

「細胞一つ残さずこの世から消してやる」

ナルトが右手を天に翳すと、上空に青白い光が集い、次第に巨大な渦となり始める。

―死ぬ・・・私が・・・? ・・・こんなところで・・・?

愕然とした表情を張り付かせる大蛇丸に、攻撃を防ぐ手立てはない。

まだダメージが抜けきらず、小刻みに笑っている膝では、撤退も叶わない。

このままでは、宣言通り細胞一つ残さず消滅させられるだろう。

【螺旋丸参式 滅清】

チャクラの圧縮が終わり、ナルトの眼に冷たい殺意が篭る。

そして、掲げられていた腕が振り下ろされ、莫大なチャクラの塊が流星となって大蛇丸を消滅させる。



















―――――――――筈だった。

「悪いんだけど、そのオカマさん殺さないでくれる?」

首筋に添えられた鋼の感触。

馴れ馴れしい口調とは真逆に、鋭利な殺意が後頭部に刺さる。

殺意の主は、あのレンゲだった。

―こいつ・・・一体どうやって・・・。

ナルトは小さく眉を顰めた。

それはレンゲが何処から現れたのか、全く分からなかったからだ。

ついさっきまでは、音もなく、気配もなく、匂いさえも感じなかった。

別に、ナルトは大蛇丸に気を取られていたわけではない。

寧ろその逆で、気を張っていた位だ。

如何なる陰行を用いたところで、行動の際には音・匂い・気配・チャクラのいずれかが必ず生じる。

つまりレンゲは、全ての探知を掻い潜って接近した事になる。

だが、まっとうな生き物ならばそれはあり得ない。

普通の方法では絶対に不可能なのだ。

「ほらぁ、怖い顔してないで早く」

多少困惑しているナルトは、強請るような口調に小さく舌打ちしながら、大蛇丸の寸前で螺旋丸を消滅させた。

「テメェ、邪魔するつもりか」

「うん。 だってボク、一応そのオカマさんに雇われてる身だし。
 君がその人を殺しちゃうと、お給金貰えなくなるから困るんだ」

レンゲとしては、大蛇丸が死ぬ事は別に気にしないらしい。

「・・・助かったわ」

あんまりと言えばあんまり物言いに、少々顔を顰める大蛇丸。

「さて・・・形勢逆転ね、ナルト君?」

砕けた右腕に治癒術を施しながら、薄気味悪い視線を向ける。

「私にこんな無様な姿を晒させたのは、あなたが2人目よ」

ちなみに、1人目は自来也である。

ふとした切っ掛けで口論となり、やがて口論が壮絶な殴り合いを経て忍術合戦に発展。

その時勝ったのは自来也だったが、彼は不幸にも大蛇丸の興味の対象となってしまい、幾度となく貞操の危機に晒された。

「本当ならすぐにでも借りを返したいところだけど、生憎今は忙しいのよ。
 だから、この借りはいずれ必ずお返しするわ。 ・・・覚えてらっしゃい」

吸い込まれるように地面に沈んでいく大蛇丸。

「レンゲ。 少しの間、ナルト君と遊んでてもらえるかしら?」

「ボーナス出してくれるんだったら考えてもいいよ?」

「うふふ・・・分かったわ・・・でも、殺しちゃダメよ・・・。
 ナルト君はいずれ、サスケ君と一緒に私の・・・ふふふふ・・・」

去り際に何故か頬を紅潮させ、レロ〜ンと舌舐めずりをしていく大蛇丸。

「待てコラぁ!! 『私の・・・』の続きは!?」

「まぁまぁ、落ち着いて・・・。 深い意味はないんだよ・・・多分」

「多分じゃ困んだよ!! てか、気になるから最後まで言えェ!!」

レンゲに羽交い絞めにされながら、遠退いていく気配に向って叫ぶナルトは、かなり泣きそうな顔をしていた。

最早、逃げられた悔しさとかはどうでもよかった。

結局、伝説の三忍との戦いでナルトが得たものは、生理的な嫌悪感と後味の悪さだけだった。



















「サスケ君・・・やっぱり戻りましょう」

サスケの手を引きながら森の中を駆け抜けていたサクラが、急に立ち止まった。

「・・・・・・・・・」

一瞬、気まずい沈黙が訪れる。

サスケは黙って俯いたまま、口を開こうとしない。

「ナルトは確かに馬鹿でお調子者よ・・・。
 でも、そんなナルトに助けられてる私達は何なの!?」

悲痛な叫び声を上げるサクラ。

ナルトを置いて大蛇丸から逃げ出した時から、彼女の中で多少なりとも何かが変り始めていた。

普段は散々馬鹿にして見下しているくせに、今回のようにいざなったらナルトに頼りっぱなし。

果たして、自分はそれでいいのだろうか。

忍を志したのはなんの為だったのだろうか。

サクラはここまで逃げてくる間、自分に対する嫌悪感と罪悪感に苛まれ、そんな問答を繰り返していた。

「ねぇ! 私達はナルトの仲間でしょ!!
 スリーマンセルは3人で一つでしょ!!」

涙目でサスケの肩を掴み、乱暴に揺さぶった。

それでも、何の反応も返ってこなかった。

「ふふっ・・・仲間割れかしら?」

「「!!」」

だが、大蛇丸の声が辺りに響いた瞬間、サスケは慌てて顔を上げた。

「あ、あんたが此処に居るって事は・・・ナルトは・・・」

「さぁ・・・どうかしら?」

絶望するサクラを愉快げに眺めると、再び震え始めたサスケに意識を移した。

「さぁサスケ君! 今度は君の番よ!」

言い終わると大蛇丸の姿が消え、サスケが真上に吹っ飛んだ。

密集する細い木々の中に蹴りこまれ、細い枝を幾つもへし折った後、太い枝に背中を打ち付けて落下する。

「ぐ・・・はっ!」

受身も取れず地面に叩き付けられたサスケは、体を痙攣させて赤黒い血を吐き出した。

「サスケ君・・・っ!?」

慌てて駆け寄ろうとするサクラは、急に体が動かなくなった。

「邪魔よ、そこでじっとしてなさい」

【金縛りの術】・・・下忍でも使用可能な術だが、使用するのが大蛇丸のような上位の忍である場合、威力は桁違いのものになる。

「・・・・・・あなた、それでもうちは一族の人間なの?」

指1本動かせなくなったサクラには目もくれず、サスケに顰めっ面顔を向ける。

「ガッカリだわ・・・。 これなら、ナルト君の方を選ぶべきだったわね・・・」

これ見よがしの溜息。

まるで、殺す価値さえもないと告げているような態度。

サスケは、それが無性に気に入らなかった。

『愚かなる弟よ・・・このオレを殺したくば恨め! 憎め!
 そして醜く生き延びるがいい。
 ・・・逃げて逃げて・・・生にしがみ付くがいい』

呼び覚まされる忌まわしい記憶。

目蓋に焼きついた兄の瞳は、虫けらを見るように冷たいものだった。

だが奇しくもそれが、最も憎んでいる兄の姿が、サスケに冷静さを取り戻させた。

確かに目の前の敵は強大だ。

今の自分では、逆立ちしても勝ち目はない。

しかし、サスケには諦めるわけにはいかない理由があった。

それを、たった今思い出した。

―オレは兄貴を殺す為に生き残らなきゃならない・・・そう思った・・・!

手足の震えを押し止めて立ち上がるサスケの背中から、力強いチャクラが立ち昇る。

―だが、間が抜けてたのはオレの方だったようだな・・・ナルト・・・サクラ・・・!!

写輪眼を発動させ、直視出来なかった大蛇丸の両眼を真っ向から睨み付ける。

―フフ・・・一族の血が騒ぎ始めたか・・・・・・。
 どうやら、本番はこれからのようね。
 ゆっくりと実力を確かめさせてもらおうじゃない。

決意したサスケの表情を見た大蛇丸は、沸々と邪悪な感情を湧きあがらせた。

サスケは腰のポーチに両手を入れ、忍具を取り出し両腕を交差した。

右手に4本のクナイ、左手に通常のものよりも大き目の手裏剣、さらに口にクナイを咥えている。

そして、大きく跳躍するや否や、右手に持っていたクナイを纏めて投げ付けた。

―・・・こんな所で命を懸けれないでいるような奴が・・・どうして兄貴に勝てるんだ!

大蛇丸は蛇を連想させる滑らかな動きで、真上から襲ってくるクナイを尽く避けた。

―見えるぞ!

サスケは木の幹に右手と右の足首を引っ掛け、大蛇丸の正面に回り込んで左手の手裏剣を放つ。

「!!!」

大蛇丸は面食らった表情を浮かべたが、跳躍して手裏剣を回避した。

するとサスケは、手裏剣を投げた勢いで体を反転させて木を掴む手を右手に入れ変え、自由になった左手で口に咥えていたクナイを投げた。

―まずまずね。 私の動きを先読みして、確実に急所を狙ってくる・・・見えてるのね・・・。

回避の難しい着地の瞬間を狙われたにも拘わらず、涼しい表情で顔の位置をずらす大蛇丸。

だが、サスケの狙いは別にあった。

―・・・糸?

通過したクナイの末尾に、細く頑丈なワイヤーが結ばれていた。

それは先にかわした手裏剣の穴を通ってサスケの口に繋がっており、サスケの背にある木を支点にしてヨーヨーの原理を完成させている。

―これは・・・【写輪眼操風車 三ノ太刀】!!

気付いた時には、引き戻された手裏剣が既に間近に迫っていた。

だが大蛇丸は、顔面に襲い掛かってきた鉄の塊を咄嗟に歯で受け止めた。

―私の逃げ道を完璧に読んで、そこに見えない三手目を打つとはね・・・。

余裕ぶった感想を抱いているが、結構無理のある受け方だった。

完全には止められず、口が斬れたのは内緒だ。

「フフ・・・残念だった・・・」

当然痛がる素振りなど見せないが、振り返った矢先に次なる不幸が襲い掛かってきた。

「フン!!」

虎の印を結んだサスケの指先に、手裏剣と繋がっているワイヤーが挟まっていた。

【火遁 龍火の術!!】

「!!」

糸を伝ってきた炎に、顔面を焼かれる大蛇丸。

「その歳でここまで写輪眼を使いこなせるとはね・・・・・・流石、うちはの名を継ぐ男だわ・・・」

平気そうだが、やはりちょっと熱かった。

焼け爛れた顔の皮膚が捲れ、素顔が垣間見える。

更に額当てが、草隠れのマークから音隠れのマークに変っていた。

「やっぱり私は・・・『君も』欲しい・・・」

サスケが本命で、ナルトはキープというところだろう。

・・・ついでに自来也もキープしておくつもりでいるが、まぁそれはさておき。

「サスケ君!!」

激しい息切れを起こしているサスケに、サクラが駆け寄ってきた。

大蛇丸の注意が奇妙な方向に逸れた為、金縛りの術が解けたようだ。

「色々と君の力が見れて楽しかったわ。 (予想外の収穫もあった事だしね)」

―ぐっ・・・金縛りか!? ・・・体が動かない!

大蛇丸は不吉なチャクラを叩き付け、サクラとサクラに金縛りを掛け直す。

「やっぱり『兄弟』だわね・・・あの『イタチ』以上の能力を秘めた目をしてる・・・」

「!! お前は一体何者だ!!」

まさか兄の名が出てくるとは思わず、サスケは声を荒らげた。

「私の名は大蛇丸。
 もし君が、私に再び出会いたいと思うなら・・・ふふ。
 この試験を死にもの狂いで駆け上がっておいで・・・私の配下である音忍3人衆を破ってね」

「ふ、ふざけんじゃないわよ!! 私達の仲間を殺しておいて!!」

「安心なさい。 ナルト君ならいずれ戻ってくるわ。
 (アレだけの強さなら、レンゲでも勝てるかどうか分からないしね)」

大蛇丸は一瞬だけ、ナルト達のいる方向に目を向けた。

かなりの距離があるというのに、巨大なチャクラがぶつかっているのを感じる。

それも2つ。

どちらも、自分の数十倍はある途方もないチャクラだ。

「フフ・・・あまりのんびりしている暇はなさそうね」

大蛇丸はサスケに目を戻し、素早く印を組む。

すると、次の瞬間。

「「!!」」

大蛇丸の首が異常な長さに伸びた。

亀が首を伸ばすとか、そんなレベルではない。

分かりやすく例えるなら轆轤首。

いや、例えではなく、今の大蛇丸は轆轤首そのものだった。

色んな意味で人間離れしているが、これは極めつけである。

だが、サスケの首筋に歯を立てた大蛇丸が見せた、至福に満ちた表情はもっと人間離れしていた。

「や、止めろ・・・」

頬を染めて気色の悪い・・・もとい弱々しい声を出すサスケ。

ひょっとすると、新しい世界に片足を突っ込んでしまったのかもしれない。

「・・・・・・」

その光景を至近距離で見てしまったサクラが、金縛りとは違った意味で硬直していた。

ちょっと・・・いや、かなり引いているようだ。

―昔から女の子に興味がなさそうだとは思ってたけど、サスケ君って・・・まさかソッチの人!?
 いや、まさか!! そんな筈ないわ!! ええそうよ!! 気の所為に決まってるわ!! しゃーんなろぉ!!

内と外、両方の人格がふと思い付いた仮説を否定する。

そう、サスケはサクラ達にとってはアイドルのような存在である。

股の間には何にも付いてないし、トイレにだって行かないのだ。

「あ・・・」

故に、大蛇丸の口が離れた時、微妙に残念そうだったのも気の所為である。

「サスケ君は必ず私を求める・・・『力』を求めてね・・・」

求めるのが力ならばいい。

だが、違うものだったら大変だ。

「ぐっ・・・な・・・何だ! 急に・・・苦し・・・!!」

サクラがかなり嫌な想像をしている間に、サスケが首を押さえて崩れ落ちた。

首筋に付けられた傷を囲むように、黒い三つ巴の模様が浮かび上がった。

―ハッ!!

金縛りとショックによる硬直が解け、サクラがサスケに駆け寄った。

「アンタ! サスケ君に何をしたのよ!!」

「別れのプレゼントを上げたのよ・・・」

睨み付けると、大蛇丸はうっとりした顔で言った。

サスケはまだ分からないが、どうやらこっちはホンモノである。

しかも、自らの性質に違和感も戸惑いも感じておらず、寧ろ堂々としているだけに手に負えない。

奴の人格を矯正しようと思ったら、とことん骨が折れそうだ。

だがサクラが思った事を口にする間もなく、大蛇丸は地中に沈み姿を消した。

「ぐわァ!!」

そして、サスケが地面に倒れ伏した。

「サスケ君!!」

「うっ・・・ぐあ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛!!!!」

全身から噴出す異常な脂汗と、口から漏れる獣のような雄叫び。

「しっかりしてサスケ君!! ねェ!!」

異常な苦しみ方に危機感を感じたサクラが、涙を浮かべてサスケの手を握った。

その肌に帯びた熱は、常人の体温ではなかった。

「グ、ガァアッ!! グォォオオォ!!!」

サクラの手を潰さんばかりの力を込め、地面に爪を立てるサスケ。

余程苦しいのか、爪が割れて指先から血が滴っても掻き毟るのを止めようとしなかった。

「ど、どうしよう・・・!」

サクラは助けを求めるように彼方此方に視線を巡らせたが、そんなものは何処にも存在しなかった。

「そ、そうだ・・・試験官に・・・」

言い掛けて、言葉が途切れた。

『ルールとして・・・途中のギブアップは一切無し。 5日間は森の中!』

切迫した状況に追い討ちを掛けるように、アンコの言葉を思い出した。

現在、試験が始まって僅か数時間しかたっていない。

試験終了までは、まだ100時間以上もある。

大蛇丸という特大の嵐が去ったとは言え、周囲には敵がひしめいている。

しかも、ナルトが不在でサスケはこの有様。

頼れるものは己だけだ。

どう考えても、楽観出来る状況ではなかった。

だがサクラは、まるで己を奮い立たせるように掌をきつく握り締めた。

―サスケ君は私が・・・・・・ナルトが戻るまで・・・絶対に私が・・・!!

こうして、サクラの眠れない夜が始まった。







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