NARUTO
〜九妖忍法帳〜 46話目
雨隠れの下忍による強襲を乗り切った7班は、地面に腰を下ろし作戦会議を開いていた。
一見無防備にも見えるが、3人とも周囲への警戒は怠っていない。
「一旦3人バラバラになった場合、例えそれが仲間であっても信用するな。 今みたいな事になりかねない」
「それじゃどーするの?」
「念の為に合言葉を決めておく。
良いか・・・合言葉が違った場合は、どんな姿形でも敵と見なせ!」
初っ端からトラブルに見舞われた為、少し神経質になっているサスケ。
だが、曲者揃いの受験生達を相手にこの先の5日間を乗り切るには、用心深すぎる位で丁度いい。
「良く聞け、言うのは一度きりだ。
・・・・・・忍歌『忍機』・・・と問う。 その答えはこうだ。
『大勢の敵の騒ぎは忍びよし。 静かな方に隠れ家もなし。
忍には、時を知る事こそ大事なれ。 敵の疲れと油断する時』」
「OK!」
かなり長い合言葉だが、サクラは即座に記憶して力強く頷く。
「ナルト、あんたも大丈夫なんでしょうね?」
「ん〜多分な」
「多分って・・・あんたねぇ・・・」
呆れたような溜息が聞こえるが、ナルトは生返事を返すだけで顔を向けようとはしない。
さっきから眼を向けているのは、サスケの背後だった。
そこには、地面から突き出ている怪しげな竹筒がある。
―おいおい春野・・・いくらなんでも気付こうよ、こん位はさぁ。
ナルトはジトっとした眼でサクラを睨んだ後、サスケの顔色を窺った。
するとサスケは既に気付いているようで、意味ありげな視線を返してきた。
―気付かねぇフリしとけって事か・・・。
ナルトは自分と親しい者となら、目線だけで意志の疎通が計れる。
だがサスケの事はよく分からないので、今一何が言いたいのか判別出来なかった。
「巻物はオレが持つ!」
あまり通じていないアイコンタクトを完了させたと思い込み、サスケは腰を上げた。
と、その時。
3人の正面から、凄まじい突風が吹き付けてきた。
「うわああぁあああ!!」
その風は、まさしく嵐の如く吹き荒れた。
3人の視界を奪うかのように砂埃を巻き上げ、大地に強く根付いた巨木を薙ぎ倒した。
そしてその暴風は、1人の忍によって作為的に起こされたものだった。
「あなた達はその辺で遊んでらっしゃい・・・此処は私1人で行くわ・・・」
少し離れた場所で印を組んでいた草隠れの忍は、仲間の2人にそう言いながら口元を歪めた。
サスケは茂みに身を潜め、砂埃が収まるのを待っていた。
風が徐々に勢いを弱め、白く濁っていた視界も晴れてきた。
「! サクラ・・・」
サスケはサクラの姿を見つけ、茂みから抜け出した。
「サスケ君!」
「寄るな! まずは合言葉だ・・・『忍機』!」
安心したように駆け寄るサクラを厳しい口調で制し、クナイを逆手に構える。
「あ! うん・・・。
大勢の敵の騒ぎは忍びよし。 静かな方に隠れ家もなし。
忍には、時を知ることこそ大事なれ。 敵の疲れと油断する時」
「よし!」
一言一句違える事のない合言葉を聞き、サスケはサクラが本物であると認めた。
「いって〜・・・おい、お前ら大丈夫か?」
サスケがクナイを引っ込めようとした時、姿を現したナルトが近寄ってきた。
「ナルト! ちょい待ちなさい! 合言葉・・・」
「分かってるって・・・・・・」
サクラの言葉を遮ったナルトが、自信満々の笑みを浮かべる。
「大勢の敵の騒ぎは忍びよし。 静かな方に隠れ家なし。
忍には時を知る事こそ大事なれ。 敵の疲れと油断する時」
一度も詰まる事無く、すらすらと紡がれた合言葉。
それを聞いたサクラは思わず胸を撫で下ろす。
だがサスケは何かを確信したように笑うと、ナルトに向かっていきなりクナイを放った。
「うわあ!」
ナルトは咄嗟に横に倒れ込み、心臓を狙ったクナイから逃れた。
「いきなり何しやがんだ!」
「今度はオレの攻撃を避ける程の奴か・・・」
顔を怒りに染めて抗議するが、サスケはまるで取り合わず腰を落とした。
「サスケ君何で!? ナルトはちゃんと合言葉を言えたじゃない!」
「言えたから問題なんだ」
「え?」
「あいつがあんな長い合言葉、言えると思うか?」
「あ・・・」
サクラはハッとしたように、地面に倒れているナルトに目を向けた。
「もし合言葉を聞かれたら、普段のナルトならなんて答える?」
「・・・・・・『悪い。 忘れちまった』・・・」
「しかも、オレの攻撃を避けた時の動き・・・普段のナルトとは明らかに違う!」
「フフ・・・フフフ・・・そういう事ね」
ナルトは薄気味悪い笑みを浮かべ、蛇のように舌なめずりをした。
そして白煙に包まれ、本当の姿を現した。
「でも・・・忘れるのが分かってたんなら、どうしてもっと短い合言葉にしなかったの?」
「てめーが土ん中でオレ達の会話を聞いてるのは分かっていた。 だから、わざとあんな合言葉にした」
「なる程・・・『疲れも油断』もないってワケね・・・思った以上に楽しめそうね・・・」
草忍が被っていた編み笠を脱ぎ捨てる。
露になったその両眼には、禍々しい光が燻っていた。
真っ向から発せられる異様な雰囲気を感じ取り、強く警戒するサスケとサクラ。
だが草忍は構える素振りさえ見せず、自然体のままだ。
「私達の地の書、欲しいでしょ? 君達は天の書だものね・・・」
服の下からサスケ達の欲している巻物を取り出し、あえて見せ付ける。
こんな真似をするのは余程の愚者か、余程の強者か。
目の前の相手がどちらかであるか、それはすぐに理解させられる事となった。
「「!!」」
草忍はいきなり巻物に舌を巻き付け、蛇が獲物を飲み込むのように丸飲みにした。
喉の肉が内側から膨らんだ為、巻物が胃袋へ到達するまでの過程がリアルに想像出来た。
生理的な嫌悪感から、サスケとサクラの全身に鳥肌が浮き出た。
「さァ・・・始めようじゃない・・・巻物の奪い合いを・・・」
草忍は少し俯き口の周りを舌でなぞると、ゆっくりと顔を上げた。
「命懸けで」
目と目が合った瞬間、サスケとサクラは己の死を見せられた。
全身の肉を切り刻まれ、頭蓋に穴を穿たれる凄惨なイメージ。
抵抗すら許されず、痛みを感じる間もなく殺された。
―・・・・・・幻術・・・!?
サスケは荒い息を吐き、怯えたような目で草忍を凝視した。
だが、分析している余裕などなかった。
精神に受けたダメージが肉体に影響を及ぼし、強烈な目眩に襲われた。
「ぐっ・・・うおえっ!!」
サスケは膝を崩し、胃液をぶちまける。
―いや・・・これはただの殺気だ・・・!
何て事だ!! 奴の目を見ただけで、死をイメージさせられた・・・!!
体と瞳が恐怖に揺れる。
―な・・・何者だ・・・コイツ・・・!!
草忍の放つ殺気は、波の国で体験した上忍の殺意さえ上回っている。
あの時はナルト・・・最終的にはカカシに助けられたが、今は頼れるものは己だけである。
しかし、自分1人では到底太刀打ち出来るとは思えない。
「サクラ・・・・・・」
サスケは藁をも掴む思いで、隣りにへたり込んでいるサクラに声を掛けた。
だが、サクラはとても戦闘を行えるような状態ではなかった。
恐怖のあまりボロボロと涙を流し、失禁しながら震えている。
―ダメだ! 此処は逃げるしか・・・そうしなければ・・・『死』しかない!!
サスケの取る道は一つしかなかった。
「クク・・・もう動けまい・・・」
―ほんの少しでいい・・・。
草忍の眼光に硬直する体を無理矢理動かし、サスケはクナイを手にした。
―動け!!
祈るような思いでひたすら念じる。
草忍はそんなサスケの様子を観察し、冷笑を浮かべながら気紛れにクナイを放った。
「!!」
どうにか体の自由を取り戻したサスケは、写輪眼を発動させてクナイの軌道を見切った。
更に震えるサクラを抱え、草忍の前から姿を消す。
サスケの居た場所には、かなりの量の血液が残されていた。
―恐怖で痛みで消し去る為に、咄嗟に自分の身体を傷付けるとはね・・・。
フフ・・・・・・やっぱりただの獲物じゃないわね・・・。
草忍はそれを指先で救い上げ、心底楽しげに笑っていた。
ナルトは草忍の巻き起こした暴風によって、かなり離れた場所まで飛ばされていた。
「・・・・・・うちはと春野じゃ話にもならねぇな」
遠くからひしひしと伝わってくるおぞましいチャクラに、小さく舌を鳴らす。
ぶっちゃけ、ナルト個人にとってサスケの危機はどうでもいい。
だが木ノ葉の忍・・・というか、三代目の配下としてはそうも言っていられないのだ。
近々里抜けするので関係ないといえば関係ないのだが、現状はまだ木ノ葉に籍を置いている身。
その為、正式に申し渡されていなくともサスケの護衛は果たさねばならない。
「しゃあねーか、これも仕事の内だ」
ナルトは重い溜息を吐きつつも自分に言い聞かせ、サスケ達の方へ歩き出した。
しかし、その背中に忍び寄る影があった。
影の正体は大蛇。
それも、全長が20mを越えるような規格外のサイズ。
大蛇は木々の隙間を音もなくすり抜けると、先の分かれた舌を小刻みに揺らし、大きく顎を開いた。
「おい、それ以上動くなよ」
ナルトは振り向きもせず、歩みも止めず、小さく呟いた。
唾液の滴る牙が触れる寸前、大蛇はピタリ動きを止めた。
ナルトの言葉を理解したわけではない。
野生の中で培われた危険回避の感が、大音量で警鐘を打ち鳴らしたのだ。
格が違い過ぎる。
この人間の力は自分を・・・いや、自分の主さえも上回っている。
そう直感した大蛇は、本能のままに動きを止めた。
もしも牙を向けば、己の死は絶対である。
例え主に殺される事になっても、この人間に逆らうよりは遥かにマシだった。
大蛇は石化したように固まり、金色の脅威が去っていくのを待ち続けた。
サスケは逃走したかに見えたが、現在地はまだ草忍からそう離れた場所ではなかった。
というのも、恐怖に打ち勝つ為にクナイで右足を刺した為、近くの大樹の陰に身を潜めるのが精一杯だったのだ。
「ぐっ・・・うっ!!」
痛みに顔を歪めながら、右足に突き刺したクナイを引き抜く。
「サスケ君!」
それを見て漸く我に返ったサクラ。
「大丈―――!!」
反射的に声を上げようとしたが、サスケの手に口を塞がれた。
―早く逃げないと、此処も直に気付かれる・・・どう逃げる・・・どう逃げればいい・・・。
―・・・あのサスケ君がこんなに取り乱すなんて・・・。
こんなサスケ君・・・見た事がない・・・。
ひどく憔悴し切ったサスケを見て、サクラは自分の置かれた状況を痛感する。
そんな時、辺りに奇妙な形の影が射した。
「!」
サクラが上を見上げるとそこに、木の枝を伝って近寄ってくる大蛇の姿があった。
「ん〜〜っ! ん〜〜っ!」
まだ気付いていないサスケに注意を呼びかけようとするが、口を塞がれて喋れない。
「サスケ君! ヘビ!!」
サクラはどうにか手を振り解き、大声で叫んだ。
するとサスケはやっと蛇の存在に気付き、すぐにその場から離脱した。
大蛇は反対の方へ跳躍したサクラではなく、サスケに狙いを定めた。
―チィ・・・気が動転して蛇にも気付かねーとは・・・!
内心で舌打ちするサスケを目掛け、大蛇が牙を剥き出しにする。
「!!」
迫り来る爬虫類特有の細い瞳孔が草忍と重なり、サスケは激しい寒気に襲われた。
「うわあああ!! 来るなぁあ!!」
恐怖に駆られ、手裏剣を両手に持てるだけ持って一気に投げ付ける。
鋼の刃に頭部と口内を貫かれた大蛇は、口を開けたままの状態で躯となった。
だが、すぐに死骸がメリメリッと気色の悪い音を立て始めた。
サスケとサクラが何事かと目を見開いていると、左右に捲れた皮膚の下から草忍が這いずり出る。
それは、この世のものとは思えないおぞましい光景だった。
「お前達は、一瞬たりとも気を抜いちゃダメでしょ・・・。
獲物は常に気を張って逃げ惑うものよ・・・・・・捕食者の前ではね・・・」
まだ熱を失っていない大蛇の体液に塗れ、草忍が長い舌を出す。
生理的な嫌悪感もあるが、それを遥かに上回る恐怖がある。
サスケとサクラの再び四肢の自由を奪われた。
そして捕食者たる草忍は、木に体を巻き付け恐ろしい速さで上に移動する。
されど、その行く手を遮るように無数の手裏剣が放たれ、草忍は咄嗟に急制動を掛けた。
「「!」」
草忍とサスケが、弾かれるように上を向く。
すると、手裏剣の出所にナルトの姿があった。
「チッ、外したか・・・」
「いいわよナルト! イケてる!!」
どんぴしゃのタイミングで現れた助っ人に、サクラの表情が明るくなった。
普段の言動はアレだが、絶望的な局面においてナルトは頼りに出来る。
カカシ・再不斬・白・・・と数々の強敵を相手に、危機を打開してきた実績もある。
その為、サクラは多少なりとも希望を見出していた。
「ナルト、出しゃ張るな! コイツは次元が違い過ぎる!!」
だがサスケは、一向に絶望感を拭い去れなかった。
数手とはいえ直接刃を交え、力の開きを痛感したからだ。
如何にナルトが援護に来て自軍の戦力が増したとはいえ、この草忍が相手では転がる躯が1人分増えただけ。
サスケはそんな事を考えながら、懸命に打開策を模索していた。
「フフ・・・・・・あの大蛇を見事倒して来たようね・・・ナルト君・・・」
―遠くから探ってても十分薄汚ぇチャクラだったが、近くだと余計に際立つな。
ナルトは嫌悪感を丸出しにしたまま、木の枝に体を巻き付ける草忍を見下ろす。
―つーか、何でこんなのが試験に混じってんだよ。
見立てが正しければ、カカシでさえ瞬殺される可能性がある。
自分や自分の身内を棚に上げ、ナルトは面倒臭いとばかりに頭を掻いた。
―マズい・・・このままじゃ3人共やられる・・・。
サスケは既に勝利を諦めていた。
頭を占めているのは、如何に戦闘を回避するかだけだ。
―これしか方法はない・・・。
「!」
―・・・写輪眼を・・・。
サスケの写輪眼が元に戻った。
その行動の意味が理解出来ず、ナルトとサクラは疑問符を浮かべた。
サスケはそんな2人を他所に、天の書を取り出した。
「巻物ならお前にやる・・・。 頼む・・・これを持って引いてくれ」
「え?」
サクラは狐に摘まれたような気分だった。
あのプライドの高いサスケが、全てをかなぐり捨てて命乞いをしている。
アカデミー時代からサスケを見続けてきたサクラにとって、俄には信じ難い光景だった。
「成る程・・・センスが良い・・・。
『獲物』が『捕食者』に期待出来るのは、他のエサで自分自身を見逃して貰う事だけですものね・・・」
草忍は感心したような口振りで言うと、木に腰掛けて殺気を収めた。
「受け取れ!!」
サスケが無造作に巻物を放り投げようとした。
だが。
「ちょい待ち」
何時の間にか背後に移動したナルトに腕を掴まれ、巻物を奪い取られた。
「てめェ! 余計な事するな! この状況が分かってるのか!?」
サスケは掴み掛からんばかりの勢いで怒鳴り付ける。
「お前さぁ・・・バカだろ? つーか間違いなくバカだな」
するとナルトは盛大な溜息を漏らし、やれやれといった感じで肩を竦めた。
「世間知らず・礼儀知らず・身の程知らず・・・。
その上バカで腰抜けときたか・・・・・・いよいよ救えねぇガキだな」
「な、なんだと・・・!」
数々の暴言に、サスケの顔が怒りで染まる。
「交渉ってのはなぁ、対等な力関係があって始めて成立すんだよ。
苦も無く殺せるような相手に、わざわざ情掛けてやる必要があると思うか?
それに、巻物渡したからってこいつが見逃してくれる保証があんのか?」
「・・・・・・!」
そこまで言われ、やっと自分の甘さを理解したサスケ。
「フフフ・・・ナルト君・・・」
途端に空気が凍った。
「正解よ」
草忍は狂喜に彩られた笑みを作ると、唾液に濡れた舌先で唇を舐めた。
「巻物なんて・・・・・・」
左腕の袖が捲られる。
露になった肌には、墨で術式が直接掘り込まれていた。
刺青の入った左腕を水平に掲げた草忍は、右手の親指の腹を噛み切った。
「殺して奪えば良いんだからね・・・!」
血の付いた指を刺青の上に滑らせ、大量のチャクラを練りながら流れるように印を結ぶ。
「俺が時間稼いでやるから、その間にとっとと逃げろ」
ナルトは短く言い残し、チャクラの渦に向って歩き出す。
【口寄せの術!!】
草忍の足元に現れたのは、今までの倍は下らない巨大蛇。
周囲の大木を小枝と錯覚してしまう程の、馬鹿げた大きさだった。
巨大蛇は枝の上を歩いてくるナルトを目視すると、巨木のような尾を真横に薙いだ。
「止せ! 逃げろナルト!!」
森の木々を薙ぎ払う一撃を目の当たりにし、サスケは思わず叫んだ。
「おいおい、自然は大切にしようぜ」
ナルトは上へ跳躍して逃れていた。
「ナルト―――!!」
「ッ!!!」
だがサスケとサクラは今の一撃で潰されたと思いっているようだった。
「チッ、逃げろっつったのにまだ居やがる」
ナルトは苛立たしげに眉を歪めつつ、大きく肺に空気を溜めた。
「おい春野! そこのへタレ担いでさっさと行け!」
「「!!」」
その怒鳴り声でナルトの生存を確認した2人は、驚いたように頭上を見上げた。
「ぼさっとすんな!! 早く行け!!
殺り合ってる最中、横でピーピー騒がれると鬱陶しんだよ!!」
「なっ!! 何バカな事言ってんのよ!! あんた1人じゃ殺されるわ!!」
サクラは頭上からの声に語気を荒らげた。
が。
「いいから今すぐ失せろ!! 巻き添え喰らって死にてぇのか!!」
「ひっ!」
鼓膜を破らんばかりの怒声に身を竦ませ、壊れた人形のように頷いた。
ナルトはサクラ・・・そして半ば無理矢理手を引かれ去っていくサスケを確認すると、掌に意識を集中させ始めた。
「バカな!! その術は!?」
笑みを絶やさなかった草忍の表情が、初めて驚愕に染まった。
「消し飛べ!!」
ナルトは叫び声に構わず、草忍の足場に向って圧縮したチャクラの固まりを叩き込んだ。
鼻先を吹き飛ばされた大蛇が断末魔を上げ、巨体を仰け反らせる。
上に乗っていた草忍は宙に投げ出されるが、すぐさま体を翻し近くの木に降り立つ。
―くっ・・・一体どうなっているの・・・。 何故一介の下忍が四代目の術を・・・。
内心で困惑しながらも、ナルトへの注意は逸らさない。
目にも止まらぬ速さで次々に印を結び、下忍ではあり得ない量のチャクラを練り込んでいく。
【風遁! 大突破!!】
その術は、先程サスケ達を襲った突風の正体。
口から吐き出す息をチャクラで増幅し、風を生み出すだけの術。
難易度もそう高いものではなく、中忍程度の実力があれば可能である。
しかし全ての術に共通するように、忍の術は使用する者の力量によって規模も威力も違ってくる。
草忍から放たれた風は、突風などという生易しいレベルではなく、最早爆風だった。
眼前の木々は根こそぎ薙ぎ払らわれ、森の一角は更地に変わってしまった。
だが、もうもうと立ち込めた砂埃が晴れた時、草忍は信じ難い光景を目の当たりにした。
「終わりか?」
ナルトは抉れた地面の上に立っていた。
傷らしい傷も見当たらず、顔色一つ変えていない。
だが、雰囲気だけはガラリと豹変していた。
試験前に見せていたふざけた素振りを払拭し、今は驚く程静かな空気を纏っている。
「このガキ・・・まさか・・・」
術の余風に金髪を靡かせ、荒れ果てた地面を踏みしめて近付いてくるナルトに何かを感じ取る草忍。
「ふ・・・ふふふ・・・あの眼・・・間違いないわ」
真紅に染まった瞳を直視し、疑惑が確信に変った。
「まさか、九尾のガキが生きていたとはね・・・。
しかも、人柱力として覚醒しているなんて・・・予想外もいいところだわ」
「その口振りからすると、元木ノ葉の忍ってとこか」
「答えが知りたければ、力づくで聞き出す事ね」
草忍はナルトの問いをはぐらかし、顔を上に向けた状態で両手で腹部を圧迫する。
すると口内から唾液にまみれた蛇が這い出し、大きく開いた口か一振りの剣を吐き出した。
「オカマ言葉に蛇の口寄せ・・・その上【草薙の剣】ときたか・・・」
「へぇ・・・私を知っているような口振りね」
切っ先を振って蛇の唾液を払い、草忍は口の端を持ち上げた。
「・・・【大蛇丸】」
ナルトは俯いて肩を震わせ、蚊の鳴くような声で呟いた。
【大蛇丸】。
自来也と同じ伝説の三忍にして、音隠れの里の創設者。
卓越した才に恵まれながらも、その危険な思想故に火影の座を逃し、ある事件を切っ掛けに木ノ葉を追われた男?である。
ちなみにそのある事件とは、幼い少年少女が相次いで誘拐され、とても口に出せないような悪戯をされた変質的な事件であったそうな。
まぁ今は関係ないので詳しくは語らないが、兎に角この男?は暗部すら手の出せないS級犯罪者であり、かつての自来也に匹敵する程の忍なのだ。
あとついでに、以前ナルトが目を付けていた土地を横から掻っ攫い、里の創設を数年も遅らせてくれた憎き相手である。
「くくくくくっ!! 大蛇丸!! ここで会ったが百年目!!
積もり積もった長年の恨み! 今この場で晴らしてやる!!」
ナルトは狂ったような笑い声を上げ、拳を振り被って地面を爆発させた。
―死の森・ゲート前―
アンコは旦那が戦っている最中、手の空いた中忍を顎で使って設置させた天幕の下、悠悠自適な一時を過ごしていた。
何処から持ってこさせたのかは謎だがロッキングチェアーなんかに踏ん反り返り、横に傅かせた中忍の1人に団扇で風を送らせ、ベビー服のカタログなどを読み耽っている。
「モグモグ・・・・・・っく〜〜〜!! この刺激がまた!」
んで、汗だくになって恨めしげな眼を向けてくる中忍には目もくれず、クーラーボックスの中で冷やしたカットレモンをムシャムシャ頬張っている。
「さーて・・・これ食ったら、私も突破者を塔で待つとするか。
早い奴等は24時間もあれば―――クリアするプログラムだからね・・・」
レモンの皮を草むらに投げ捨てるアンコ。
だが、残りのレモンがまだ山のようにストックされているのを見て、団扇を持たされた中忍はげんなりした顔になった。
「大変です、アンコ様!!」
と、そこへ別の中忍が現れた。
「! 何よ、急に・・・・・・」
「死体です! 3体の・・・」
中忍はかなり慌てた様子をしているが、アンコは本気で嫌そうな顔をした。
「死体・・・ってあんた。 妊婦にそういうショッキングなものを見せないでちょうだい。
それに死亡した受験生の後始末とか事後処理も、あんた達の仕事の内でしょ」
『私は監督だから関係ありません』という、何とも無責任な態度を全面に押し出す。
「で、でも妙なんです! 兎に角来て下さい!!」
中忍としてはそうも言っていられない状況だった。
何故なら彼の言う死体は、里外れの草むらで発見されたからだ。
つまり、それは試験中の事故ではないという事になる。
「・・・しょうがないわね」
アンコは椅子から立ち上がり、死体の発見場所へ向った。
―木ノ葉郊外―
中忍に案内された場所には、印を結んだ数十体の地蔵と、その前に横たわる3体の死体があった。
「持ち物や身分証からして・・・中忍選抜試験に登録されていた草隠れの忍なんですが・・・」
発見者の1人であるコテツが、冷静な表情で死体を見下ろしながら報告する。
「見ての通り・・・・・・顔がないんです」
身分証がなければ、この死体が誰であるか判別出来なかっただろう。
「まるで、溶かされたようにのっぺらぼうで・・・」
―間違いない・・・この術はアイツの・・・。 アイツが・・・何でこの試験に・・・・・・!
元の顔が分からなくなった惨たらしい死体を前に、アンコの体が強張った。
脳裏に浮かぶは大蛇丸の姿。
疼き出した首筋を押さえる彼女の胸中は、けして余人には計り知れない。
「この草3人の証明写真を見せて!!」
「あ! ハイ!」
鋭い視線を受け、アンコを案内してきた中忍が慌てて写真を渡した。
―コイツの顔を奪ったのか・・・。 じゃあ、あの時はもう既に・・・。
草忍の顔写真を見て、試験前の小競り合いを思い出す。
「えらい事になったわ! 貴方達はこの事をすぐ火影様に連絡!!」
「え!?」
アンコの焦った様子、更に火影への連絡。
コテツ達は一瞬わけが分からなかった。
「死の森へ暗部の出動要請を2部隊以上・・・いえ、九班に出動要請を出してもらって!!」
「きゅ、九班ですか!?」
「他の奴らじゃ話にならないから言ってるのよ!!」
「!!」
木ノ葉最強部隊の出動。
その意味が分からない程彼らは愚かではない。
「私はたった今から、こいつらを追い掛けるわ!!」
アンコは早口に捲し立て、白いコートを翻し森へ向って駆け出して行った。