NARUTO
〜九妖忍法帳〜 44話目




―よし! 出来た! 後は10問目を待つだけ!

―オレの手が淀みなく動いてる・・・。
 念の為、もう2・3人コピーしてみるつもりだったが、イキナリこいつで当たりだ!

ナルトがバカな事をやってる間に、サクラとサスケはそれぞれ自分の能力を生かして回答を埋めていた。

試験もいよいよ大詰め。

他の受験生達もラストスパートを掛け始めている。

―・・・どうやらサクラの手が止まったみたいねー♪
 じゃ、そろそろやらせてもーらお♪

離れた席から桃色の後頭部を眺めているいのも、その内の1人だ。

―サクラ・・・アンタのデコの広さと頭の良さだけは、スッゴーイって認めてんのよ、私♪
 ・・・・・・だから感謝しなさーい・・・この術のターゲットになる事をね・・・♪ じゃ、行くわよー♪

顔の前に2本指を翳し、口の端を持ち上げる。

【忍法 心転身の術】

いのはコテンと音を立て、居眠りをするような形で机に突っ伏した。

―いのの奴、寝てやがる。 あの術を使い始めたな・・・。

―あの術だけは逆らえねーからなぁ・・・。

遠目に見ていたシカマルとチョウジは、山中家特有の術の恐ろしさをよく知っている。

何せ一度術に掛かれば、火影ですら逆らえないのだからそりゃ怖い。

当然下忍であるサクラが抵抗出来る筈もなく、体を短く痙攣させた後完全に体を乗っ取られた。

―フフフ・・・悪いわね・・・・・・。
 サクラ・・・ちょっとの間アンタの精神に入り込ませてもらったわー♪
 ・・・っと、早く答え覚えちゃわないと。 この術、2〜3分が限界なのよね―――♪

いのは瞳に怪しい光を灯し、サクラの答案用紙を検め始めた。

―シカマルとチョウジにも乗り移って、この答え写したげないといけないし―――♪

そして、心の中で勝ち誇った笑みを浮かべるのだった。



















「102番、立て。 失格だ」

「ちっ・・・ちくしょう・・・」

悔しげ俯く受験生。

刻々と過ぎていく時間と共に、失格となる者が続出していた。

もう脱落者はかなりの数に上っている。

「23番、失格!」

「嫌だ〜!!」

中には試験官に無理矢理退出させられる者もあった。

「43番と27番、失格!」

「俺が5回もカンニングした証拠でもあんのかよ!!」

そして、逆ギレした勢いで乗り切ろうとする者も。

「アンタらホントにちゃんと、この人数を・・・ぐっあ!!」

だがそんな言い訳が通用する程、この試験の試験官達は甘くない。

逆ギレした砂の下忍は一瞬で壁に叩き付けられ、腕一本で宙吊りにされた。

「いいかい・・・。
 私達は、中忍の中でもこの試験の為に選抜されたエリートなのだよ。
 君の瞬き一つ見落としはしない。 言って見れば、この強さが証拠だよ」

試験官の言葉には、十分過ぎる程の説得力があった。

受験生達は返す言葉もなく、固唾を飲んで成り行きを見守るしかなかった。

―フン・・・。 あのガキ・・・何かやってるな・・・・・・。

イビキは騒ぎとは別の方向に目を向けていた。

視線の先には、我愛羅が見える。

左手の掌を上に向け右手で印を結び、静かにチャクラを練っている。

―この騒ぎに眉一つ動かさず、冷静に事を運ぶか・・・新米にしちゃ上出来だ・・・。

イビキは我愛羅の行動を高く評し、観察を続けた。

彼も試験官ではあるのだが、カンニングのチェックは中忍達に任せているようだ。

一方我愛羅は左眼の目蓋に指先を当て、掌に細かい砂の粒を集め始めた。

粒は徐々に型を成し、やがて眼球を模す。

―視神経は繋がった・・・・・・。 第3の眼、開眼!!

砂の眼球で自分の姿が見える事を確認した我愛羅は、次の瞬間それを握りつぶした。

再び粒に還った砂は宙を漂い、狙いを定めた受験生の元へ向う。

「うっ! (目にゴミが・・・ちくしょう・・・!)」

目を擦っている間に砂を眼球に戻し、我愛羅は問題の答えを盗み取った。

・・・試験官達に気付かれる事なく。

―もういい! 地力で解くのは止めだ!

三忍の1人が、ついにプライドを捨てた。

「すいません」

時を同じくして、カンクロウが席を立った。

「何だ?」

「ちょっとトイレに・・・」

「トイレは、オレ達が付き添う事になってる」

試験官は言いながら、カンニング防止の為に手錠を掛ける。

「成る程ね・・・」

カンクロウは特に焦った様子もなく、大人しく教室を出て行く。

「試験官、オレもトイレ行きてんだけど」

するとそこで、自来也がおもむろに席を上たった。

「少しぐらい我慢出来ないのか?」

「無理。 我慢したら漏れちまう」

「ったく、しょうがねーな・・・」

呆れたような溜息を吐いて立ち上がったのは、自来也の座っている列に配置されていたコテツの相方。

「ホラ、両手を出せ」

「あいよ」

イズモは素直に差し出された両手に手錠をはめる。

「さて・・・」

だが、途端に自来也の雰囲気が豹変した。

「じゃあ行くとしようか、試験官さんよぉ」

白髪が左右に傾き、首の関節がボキボキと音を立てる。

トイレに行く筈なのに、気合が入り過ぎている。

まるで、木刀持って殴り込みにでも行くような感じだ。

「こ、こっちだ」

三忍の放つ不穏な気配に少しビビリながらも、自分の責務を全うしようとするイズモ。

部屋を出て行く彼の背中が売られていく子牛に見えたのは、多分気の所為ではなかっただろう。



















―男子トイレ―

「それにしても大した奴らじゃねェじゃん! 試験官ってのもよ・・・」

腰にロープを巻かれた状態で用を足すカンクロウは、すぐ傍に試験官が居るにも拘わらず、まるで卑下するような台詞を口にした。

「『1人試験官が増えてる』事にも気付かねェんじゃな・・・」

それと同時に試験官の顔がひび割れ、渇いた土のようなもの剥れ始める。

「なァ、そう思わねーか・・・カラスよ・・・」

【カラス】とは、カンクロウの持つ忍具。

正確に言うと、傀儡人形の名だ。

カンクロウは何時の間にか試験官達の中に変化させたカラスを紛れ込ませ、気付かれないように情報収集をしていたのである。

なんというか・・・感心する以前にばれなかったのが凄く不思議だが、まぁそれについては触れずにおこう。

「フ〜〜〜・・・・・・さーて、じゃあ1問目の答えから教えてもらおうか・・・」

カンクロウは放尿の開放感に肩を震わせながら、自分の相棒にそう言った。

だが、いざ情報を引き出す段になって、男子トイレに思わぬ乱入者があった。

「オラ、早く入れよ!!」

「うわぁ!!」


それは試験開始前に騒いでいた白髪の受験生と、木ノ葉の試験官だった。

ただし、2人の力関係はまったく逆。

「さっさと答え教えろっつてんだろ!!」

「ひいぃいいい!! 誰か〜〜〜!!」

「わはははは!! 結界張ったから叫んでも無駄なんだよ!!」


選りすぐられた筈の中忍がトイレに蹴り込まれ、内側からカギを閉められて下忍に折檻されている。

その証拠にドアの中からは、ゴスッ!とかバキャッ!という惨たらしい音が聞こえてくる。

「・・・さて・・・・・・邪魔しちゃ悪いし、オレは戻るとするか」

カンクロウは首を突っ込んで火の粉を被りたくなかったので、背中を丸めてトイレを出て行く事にした。

カラスから試験の答えを引き出すのも忘れて・・・。



















―教室―

―フフフ・・・愚図はあらかた落とし終えたな・・・。 それじゃ45分経ったし、本題を始めるか。

脱落者が続出した所為で随分風通しのよくなった教室を見渡し、イビキは心の中で薄く笑った。

「よし! これから10問目を出題する!」

―フン・・・勿体振りやがって・・・。

―いよいよ最後の山ね。

幾分緊張した面持ちのサスケに対し、頭脳明晰なサクラは笑みを浮かべる余裕がある。

―早く帰って来やがれカンクロウ! 10問目始まる前にカンペを貰う手筈なのに・・・!!

気取られないように入り口に視線を泳がせるテマリ。

まだ答案が白紙な為、かなり焦りの色が見える。

「・・・と、その前に一つ。 最終問題についてのちょっとしたルールの追加をさせてもらう」

今までで最も鋭いイビキの眼光に、室内の緊張が一気に高まった。

するとそこへ、若干青い顔をしたカンクロウが戻って来た。

「フ・・・強運だな・・・。 『お人形遊び』が無駄にならずに済んだなァ・・・?」

「・・・・・・」

カラスを見破ったイビキの嘲笑めいた物言いにも反応なし・・・するだけの気力もなかった。

「まあいい、すわ・・・・・・?」

言葉が途切れ目を見開くイビキ。

疑問に思った全員が、一斉に入り口を見る。

「ただいま♪」

「お、おひょくなりまひた・・・」

するとそこには、すっきりした表情の自来也と顔をお岩さんのように腫らし半泣きになっているイズモの姿があった。

流石のイビキも、これには言葉が見当たらなかった。

まさか、試験官を拷問して情報を引き出す下忍が居るとは思わなかった。

ってゆーか、そもそもそんな物騒な事を思い付く奴が居るなど、考えてもいなかった。

「ひょ・・・ひょっと・・・か、かいらんれ・・・ころんひゃっへ・・・」

しかも口止めも完璧に施し、証拠隠滅はバッチリである。

この調子だと、問い詰めても証拠は出てこないだろう。

「(落ち着け、落ち着けオレ)・・・と、とにかく座れ・・・」

イビキは胸に手を当て、自分に言い聞かせる。

「あいよ」

で、当の自来也は鼻歌など歌いつつ席に座り、トイレに行く前とは別人の如き軽快さで鉛筆を動かし始めた。

また、カンクロウは自来也から目を逸らし、そそくさ自分の席へ戻ろうとする。

(カンクロウ・・・! カンクロウ!!)

テマリは自分の前を素通りする弟を、慌てて引き止めた。

(何してんだお前!! カンペを渡す筈だろーが!?)

(あ!)

しまったという顔をするカンクロウ。

(まさか・・・お前・・・)

途端にテマリの目付きが変わる。

背後からは、ゴゴゴゴゴ!と恐ろしげな殺意が漂い始めていた。

カンクロウは心底焦りながらテマリを拝んだが、

(・・・・・・・・・・・・砂風呂な)

ポツリと謎の言葉が呟かれた。

「〜〜〜!!?」

カンクロウは途端にムンクの叫びみたいな顔になった。

「ご、ごめん・・・! 許してお姉ちゃん・・・!
 もうしない・・・もうしないよ・・・ボクが悪かったから・・・もう許して・・・!!」

遠くの席に座っていた我愛羅まで、背中を丸めガタガタ震え、怯えたように頭を抱えていた。



















―上忍待機所―

今年度のルーキー達が試験を受けている間、彼らの担当達は『人生色々』という看板の掛かった建物の中で待機していた。

煙草を吸ったりコーヒー飲んでたり、皆結構暢気に過ごしている。

「ま! しかし・・・部下達が居ないと暇になるねェ〜」

カカシは『任務お預け』と、普段からやる気のないくせに退屈そうにぼやく。

「何・・・すぐに忙しくなるに決まってる」

返したのは煙草を咥えたアスマだ。

血走った両目が紅の湯飲みの淵、口紅が付いた個所に釘付けである。

密かに間接キスを狙っているようだ。

「何で?」

カカシはアスマの目論見を見透かし、軽蔑と嘲笑を含ませた生温い笑みを浮かべて聞き返した。

「今年の第一の試験官・・・あの森乃イビキだそうだ」

「・・・・・・よりにもよってあのサディストか・・・」

「・・・サディスト?」

過去に一度会っている筈なのだが、九妖を誑し込もうと躍起になっていた為その他のメンバーが眼中になかった紅。

ちなみに彼女も極端なサディストであったが、最近はもっぱらMらしい。

だがまぁ、それはどうでもいい話である。

「紅・・・お前は新米上忍だから知らねーのも無理はねー・・・」

「・・・一体何者なの?」

持って回った言い方に不機嫌になる。

「プロだよ、プロ・・・」

「プロ? だから何の?」

「拷問と尋問!」

そろそろ我慢の限界なのか、アスマが貧乏揺すりを始めスパスパ忙しく煙草をふかす。

「・・・え?」

「木ノ葉暗部、拷問・尋問部隊隊長・・・特別上忍森乃イビキ!」

紅の気を惹こうと欲望を堪えて説明を続けるが、顔は明後日の方に向いていた。

「ま、試験に肉体的な拷問はないにしても・・・。
 尋問のスキルを生かした精神的な『苦しめ』を強いられているに違いない・・・」

使い物にならなくなっているアスマに溜息を吐きながら、カカシが説明を引き継いだ。

「けど、オレは自分の部下を・・・あいつらの秘めた無限の可能性を信じてる!」

そして、少しも似合わない台詞を口にした。

とても慈悲に満ち溢れた眼差しで、窓の外に浮かぶ雲を見上げながら。

「・・・・・・誰よアンタ・・・」

だが当然ながら、疑念に満ちた視線が注がれるのであった。



















―再び教室―

「では、説明しよう。 ・・・これは・・・絶望的なルールだ」

淡々とした口調の中に、強烈な威圧感があった。

「まず・・・お前らにはこの第10問目の試験を・・・『受ける』・『受けないか』のどちらかを選んでもらう!!」

―受けるか受けないかを選ぶ・・・?

そう思ったのは、サスケだけではなかった。

「え・・・選ぶって・・・! もし10問目の問題を受けなかったらどうなるの!?」

受験生全員の気持ちを代弁するかのように、テマリが大声で怒鳴る。

すると、一旦閉じられたイビキの両眼が、開くと同時にギラリと光った。

「『受けない』を選べば、その時点でその者の持ち点は0となる。
 ・・・つまり失格! 勿論、同班の2名も道連れ失格だ」

「ど・・・どういう事だ!?」

「そんなの『受ける』を選ぶに決まってるじゃない!!」

騒ぎ立てる受験生を尽く無視し、最終問題の説明が続く。

「・・・そして・・・もう一つのルール」

―! まだあるの・・・いい加減にしてよ!!

サクラは、どこまでも自分達を追い詰めようとするイビキにうんざりしていた。

「『受ける』を選び・・・正解できなかった場合。
 ―――その者については、今後、永久に中忍試験の受験資格を剥奪する!!」

最初の宣言通り、絶望的なルールだった。

『受ける』・『受けない』、どちらを選んでも分が悪過ぎる。

「そ・・・そんな馬鹿なルールがあるかぁ!!
 現に此処には、中忍試験を何度か受験している奴だっている筈だ!!」

真っ先に食って掛かったのはキバだった。

しかしイビキは荒々しい怒気を歯牙にも掛けず、僅かに俯いてくつくつと喉を鳴らした。

「運が悪いんだよ・・・お前らは・・・・・・。
 今年は『このオレが』ルールだ」

そう言われた途端、受験生達は反論する気概をなくしてしまった。

如何に理不尽極まる試験であろうとも、全ての決定権は試験官が握っているのだ。

試験官が黒と言えば黒。

受験生が抗議したところで、それは覆らない。

「その代わり、引き返す道も与えてるじゃねーか・・・」

「え?」

「自信のない奴は大人しく『受けない』を選んで・・・来年も再来年も受験したらいい」

イビキの口元が厭らしく歪む。

木ノ葉の拷問部隊を統括するイビキは、人間の心を知り尽くしている。

そして、この男の最も恐ろしい所は、相手を心理的に追い詰める事で精神をいたぶり、人間の本来持つ弱みを浮き彫りにする事である。

故に、イビキの尋問に誤魔化しは効かない。

―ああ〜〜〜何て事ォ〜〜!!
 つまり3人の内1人でも『受けない』を選べば、3人共道連れ不合格・・・。
 『受ける』を選んで、もし正解出来なければ―――その人は一生下忍のまま・・・!

サクラは膝の上で拳を握り締め、きつく下唇を噛んだ。

―どっちに転んでも分が悪い! こんなの普通の神経じゃ選べないわよ!!

確かにここで意地を張るよりは、次の機会に挑戦した方がリスクは遥かに少ない。

けれど、この試験はチーム制である。

同班の仲間が必ずしも同じ考えとは限らないのだ。

「では、始めよう。 この第10問目・・・・・・。
 『受けない』者は手を挙げろ! 番号確認後、此処から出てもらう」

決断を迫られた受験生達は、水を打ったように静まり返った。

皆苦渋の選択に悩み、手を挙げようとはしない。

―私は手を挙げない! 『受ける』を選んでも、正解する自信があるから・・・。

サクラは腹を決め、サスケとナルトの様子を窺う。

―例えナルトの所為で道連れ不合格になっても、私は10問目を間違ったわけじゃないから次も受験出来る・・・。
 でも、ナルト・・・アンタは別・・・。
 私達の存在を無視してでも、ここは大人しく引いて次の機会を考えるべきだわ・・・。

ナルトが絶対に正解出来ないと思い込んでいるのは少々失礼かもしれないが、それでも一応気に掛けてくれているようだった。

「オ・・・オレはっ・・・・・・」

最初挙った手は、ナルトのすぐ隣りからだった。

「止める! 受けないッ!! す・・・すまない・・・源内! イナホ!!」

顎鬚を生やした木ノ葉の受験生が、悔しげに頭を垂れた。

「50番、失格。 130番! 111番! 道連れ失格」

試験官が事務的に告げる。

失格となったチームは、肩を落として教室を出て行った。

そして、最初の脱落者が出た途端、手を挙げる者が続出した。

「お・・・オレもだッ!!」

「わ・・・私も・・・」

「す・・・すまない皆!!」

「オレも止める!!」

こうして、試験前には150名以上もいた受験生の数は、半分近くにまで減っていった。

教室に残った者達は、ただ黙って見送っていた。

その選択も仕方のない事だと思いながら・・・。

「フン」

だが、そんな受験生達を冷たい目で見る者がいた。

「負け犬共が。 尻尾巻いて逃げやがって」

ナルトだった。

呟きは小さなものだったが、部屋の中が物音一つしなくなっていた所為もあり、そこに居た全ての者に聞こえていた。

「ほぉ・・・・・・面白い事を言うなァ、小僧・・・。
 お前は降りなくてもいいのか? 来年なら少しは希望もあるんじゃないのか?」

イビキは値踏みするような顔付きで揺さぶりを掛けた。

が、ナルトはそれを鼻先で笑い飛ばした。

「はっ、アホくせぇ。 何の為に此処に居ると思ってんだ」

怯む様子も、意志を曲げる様子も全くない。

それどころか背もたれに肘を乗せたふてぶてしい態度で、イビキの眼を真っ向から睨み返している。

「もう一度訊く・・・人生を賭けた選択だ。 止めるなら今だぞ・・・」

「しつけぇなオッサン。 こっちは何時だって命張ってんだよ・・・!」

どん底の人生から這い上がってきた事に比べれば、この程度の二択など悩む価値もなかった。

―フン・・・面白いガキだ。
 こいつらの不安をあっという間に蹴散らしやがった・・・・・・・・。

ナルトの気合に感化されたのか、受験生達の表情は晴れやかなものになっていた。

―84名か、予想以上に残ったな。 これ以上粘っても・・・同じだな・・・。

イビキが壁際の部下達に顔を向けると、彼らは笑顔で頷いた。

「いい『決意』だ。 では・・・此処に残った全員に・・・・・・」

いよいよ10問目が出題されると思い、受験生達はゴクリと喉を鳴らし身構えた。

「『第一の試験』の合格を申し渡す!!」

だがイビキの口から飛び出したのは、誰も予想し得ない言葉だった。

受験生達は驚くと同時に困惑し、暫くの間呆然としていた。

「ちょ・・・ちょっとどういう事ですか!? イキナリ合格なんて! 10問目の問題は!?」

長い間を挟んだ後、我に返ったサクラが質問した。

するとイビキは、今までの言動とは正反対の笑みを零した。

「そんなものは初めからないよ。 ・・・言って見れば、さっきの2択が10問目だな」

「ちょっと・・・!」

テマリが机から身を乗り出した。

ちなみに、カンクロウがミスったお陰で答案は真っ白。

その為顔は怒っているが、密かにホッとしていた。

「じゃあ、今までの前9問は何だったんだ・・・!? まるで無駄じゃない!」

「・・・無駄じゃないぞ。 9問目までの問題は、もう既にその目的を遂げていたんだからな・・・」

「・・・ん?」

テマリは分からないと言った風に眉を寄せる。

「君達個人個人の情報収集能力を試すと言う・・・目的をな!」

「・・・・・・情報収集能力? (何かキャラが変わったわね・・・)」

豹変したイビキに戸惑いながらも質問を続ける。

「まず・・・このテストのポイントは、最初のルールで提示した『常に3人1組で合否を判定する』と言うシステムにある。
 それによって、君らに『仲間の足を引っ張ってしまう』と言う、想像を絶するプレッシャーを与えたわけだ・・・」

唯1人の例外はナルトだ。

彼の場合はヒナタにプレッシャーを受けていた。

「しかし、このテスト問題は君達下忍レベルで解けるものじゃない。
 ・・・当然、そうなってくるとだな・・・。
 会場の殆どの者はこう結論したと思う。
 点を取る為には『カンニングしかない』と・・・。
 つまり、この試験はカンニングを前提としていた!」

「フン」

一次試験を通過した為、サスケに普段の余裕が戻ってきた。

「その為、『カンニングの獲物』として、全ての回答を知る中忍を2名ほど・・・・・・予めお前らの中に潜り込ませておいた・・・」

「『そいつ』を探し当てるのには苦労したよ・・・」

「ああ・・・ったくなぁ・・・」

その他の受験生達の顔も開放感に溢れている。

「しかしだ・・・。 ただ愚かなカンニングをした者は・・・当然失格だ・・・」

「!」

イビキが両手を頭の後ろに回し、額当ての結び目を解いた。

露になったのは、様々な傷で埋め尽くされた頭部。

「何故なら・・・情報とはその時々において、命よりも重い価値を発し。
 任務や戦場では、常に命懸けで奪い合われるものだからだ・・・」

―・・・!! ひでぇ・・・火傷にネジ穴・・・切り傷・・・拷問の跡だ!

サスケは息を呑みながらも、イビキの言葉に聞き入っていた。

イビキの一言一句には、そうさせるだけの重みがあった。

―クク・・・手袋の下はもっと酷いんだろーな・・・。
 ま、ボクだったら捕虜になるようなヘマはしないけどね・・・。

だが、ドスは身も蓋もない事を考える。

「・・・・・・・・・」

さらに我愛羅に至っては、何の感慨も受けていない。

「敵や第3者に気付かれてしまって得た情報は、『既に正しい情報とは限らない』のだ・・・。
 これだけは覚えておいて欲しい!! 誤った情報を握らされる事は、仲間や里に・・・壊滅的打撃を与える!!」

イビキはそう言って、額当てを元に戻した。

「その意味で我々は、君らに・・・カンニングと言う情報収集を余儀なくさせ、それが明らかに劣っていた者を選別した・・・と言うわけだ」

それには、中忍を目指す者達へ道を指し示す、イビキなりの優しさが篭められていた。

「・・・でも・・・何か最後の問題だけは納得行かないんだけど・・・」

概ね理解はしたが、テマリはまだスッキリしなかった。

「しかし・・・この10問目こそが、この第一の試験の本題だったんだよ」

「・・・・・・いったい、どういう事ですか?」

サクラが目を細くしながら尋ねる。

「説明しよう・・・。
 ―――10問目は、『受けるか』・『受けないか』の選択・・・。
 言うまでもなく・・・苦痛を強いられる2択だ。
 『受けない』者は、班員共々即失格・・・。
 『受ける』を選び問題を答えられなかった者は、『永遠に受験資格を奪われる』。
 ・・・実に、不誠実極まりない問題だ・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「じゃあ・・・こんな2択はどうかな・・・。
 君達が仮に中忍になったとしよう・・・・・・・・・任務内容は秘密文書の奪取・・・。
 敵方の忍者の人数・能力・その他軍備の有無一切不明。
 更には、敵の張り巡らした罠と言う名の落とし穴が有るかもしれない・・・。
 さあ・・・【受ける】か? 【受けない】か?
 命が惜しいから・・・仲間が危険に晒されるから・・・危険な任務は避けて通れるのか?」

何名かの者は、ハッしたように目を見開いた。

「答えはノーだ! どんな危険な賭けであっても、降りる事の出来ない任務もある。
 ここ一番で仲間に勇気を示し、突破していく能力。 これが中忍と言う部隊長に求められる資質だ!」

イビキの口調が徐々に強いものになっていく。

「いざと言う時自らの運命を賭せない者。
 『来年があるさ』と、不確定な未来と引き換えに心を揺るがせ・・・チャンスを諦めて行く者。
 そんな密度の薄い決意しか持たない愚図に、中忍になる資格などない! ・・・とオレは考える!!」

受験生達はイビキに尊敬の眼差しを向け、その厳しくも温かい姿を心に刻んだ。

中には恍惚とした顔で、『あ、アニキ・・・』と呟く者までいる。

「『受ける』を選んだ君達は、難解な第10問の正解者だと言っていい!
 これから出会うであろう困難にも立ち向かって行けるだろう・・・。
 入口は突破した・・・。 『中忍選抜第一の試験』は終了だ。 君達の健闘を祈る!」

イビキの演説が終わった瞬間、教室は割れんばかりの拍手が巻き起こった。

「きゃ―――!! 痺れる―――ッ!!」

「お、オレ! 中忍になれたら森乃さんの下で働きたいです!!」

「私も配属願い出します!!」

「森乃隊長!! オレ達これからも一生アンタに着いて行くっス!!」

「抱いてぇ!! 今からでも抱いてぇ!!」

「じ、実はオレ・・・前から隊長の事が・・・!!」

雪崩れ込んできた受験生と中忍達は、全員が感涙に塗れている。

「ちょっと待て!! 誰だドサクサに変な所触ってるのは!?」

揉みくちゃにされて焦るイビキ。

集団の平均年齢と若干のセクハラを無視すれば、金○先生のオープニングみたいな光景である。

「ちょ! 待て! 痛ッ! マジ痛ッ!!」

しかし屋外ではないので、胴上げの度に天井に叩き付けられていた。

「こいつらもこんなのかよ・・・」

「ホント、もういい加減にしてよ・・・」

―ああ・・・早くこんな里抜けたい・・・。

カカシがマトモになっても、気苦労の絶えない7班であった。







もどる     もくじ     すすむ

inserted by FC2 system