NARUTO
〜九妖忍法帳〜 43話目




音忍達の凶行により、教室は静まり返っていた。

だが。

「静かにしやがれ! どぐされヤロー共が!!」

荒々しい怒声と共に白煙が立ち込め、大勢の試験官達が姿を現した。

その中には、コテツとイズモの姿もあった。

試験官達は全員が木ノ葉の額当てを巻き、統一された服装をしている。

先頭に立つただ1人を除いて。

「待たせたな・・・。 『中忍選抜第一の試験』・・・試験官の、森乃イビキだ・・・」

襟の厚い黒の外套を纏い、額当てで頭部を包んだ大男は、静かだがドスの利いた声でそう言った。

あまりの威圧感と鋭い眼光に、受験生達は思わず総毛立つ。

イビキはそれに構わず、黒い皮手に覆われた指を突き出した。

「音隠れのお前ら! 試験前に好き勝手やってんじゃねーぞコラ。 イキナリ失格にされてーのか」

「すみませんねェ・・・何せ初めての受験で舞い上がってまして・・・つい・・・」

口では謝りながらも、全く反省の色を見せない音忍達。

「フン・・・。 いい機会だ、言っておく。
 試験官の許可なく、対戦や争いはあり得ない。
 また、許可が出たとしても相手を死に至らしめるような行為は許されん」

だがイビキはそんな態度を一笑に伏すと、今度は受験生全員を睨み付けて言い放った。

「オレ様に逆らうようなブタ共は、即失格だ。 分かったな」

「・・・・・・何か甘っちょろいな、この試験・・・」

ザクは嘲笑を浮かべ、声も落とさずにそう言った。

だがイビキの背後に控えている試験官達は、全員揃って笑いを噛み殺していた。

「では、これから中忍選抜第一の試験を始める・・・。 志願書を順に提出して、代わりに・・・」

イビキはゴソゴソと懐を漁り、なにかの番号が記された小さなプレートを取り出して見せた。

「この座席番号の札を受け取り、その指定通りの席に着け! その後、筆記試験の用紙を配る・・・」

コテツが持っている紙の束が、多分その答案用紙なのだろう。

一方のナルトはというと。

―このクナイ・・・どっかで見た事あんだよな・・・。

音忍が投げ付けてきたクナイを器用に回しながら、試験とは全然違う事を考えていた。

―あ〜・・・ここまで出掛かってんだけどなぁ・・・。

喉の辺りにむず痒さを感じ、思いっきり顔を顰める。

・・・・・・こんな調子で大丈夫なのだろうか?



















指定された番号の席に着いた受験生達は、答案用紙を裏返して静かに待っていた。

「ナルト君・・・・・・」

「おす、よろしくなヒナタ」

ナルトとヒナタは偶然隣同士の席になっていた。

「お、お互い頑張ろうね」

かなり緊張しながらも、精一杯の笑顔を向ける。

どす黒い師匠達の影響で純白から薄い灰色に染まりつつあるが、こういう初心なところは相変わらずだった。

ナルトに対する赤面症が克服出来るのは、完全に真っ黒になった時だろう。

だが間違ってもその日は来ない方がいい。

「ま、気楽に行こうぜ」

そう言いながら、親指を立てて笑うナルト。

「ふん、随分と余裕だね」

しかし、返ってきたのは冷たい声だった。

無論、ヒナタがそんな事を言う筈もない。

声の出所は、ヒナタの隣りからだった。

「お前、さっきの・・・」

机に頬杖を突いて挑戦的な笑みを浮かべている音忍に、ナルトの雰囲気は若干険を帯びた。

「なんだ。 今頃気付いたんだ?
 この程度の陰行に気付けないなんて、思ったより大した事ないんだね」

肩を竦めながらのわざとらしい溜息。

どこからどう見ても、喧嘩を吹っ掛けているとしか思えない。

が、気取れなかったのは否定出来ない事実だった。

ナルト相手にそんな真似が出来る者など、世界中捜しても片手で数える程しか存在しないだろう。

目の前に居るのは、一介の下忍ではない。

少なくとも自分と同格の忍であると、ナルトは判断する。

まさかそんな相手と中忍試験でお目にかかれるなど、思ってもみなかった。

「・・・・・・お前、何者だ」

気が付けば、尋ねていた。

答えなど返ってこずとも、聞かずにはいられなかった。

音忍はその言葉を待っていたかのように、細い眉を楽しげに歪めた。

「・・・ボクは【レンゲ】」

レンゲと名乗った音忍は、更に続ける。

「君と同じ『       』だよ」

「・・・!」

ナルトの目が僅かに見開かれる。

レンゲの囁きは、何故かナルトにしか聞こえなかった。

その証拠に、ナルトよりもレンゲに近い位置に居たヒナタは、不思議そうに首を傾げている。

「ま。 こうして話せるのも今の内だけだろうし、精々仲良くしようよ」

さっきの刺のある雰囲気とは打って変わって、ニコニコと笑いながら右手を差し出す。

だが、そこにナルトの右手が重なる事はなかった。

「ありゃりゃ、嫌われちゃったかな」

レンゲは残念そうに手を引っ込め、冷めてしまった空気を紛らわすようにヒナタへ笑いかけた。

―・・・・・・ナルト君。

ヒナタは眉間に皺を寄せているナルトを、心配そうな眼差しで見詰めていた。

「試験用紙はまだ裏のままだ。 そして、俺の言う事を良く聞くんだ」

ナルト達のやり取りを他所に、第一の試験は進んでいく。

「この第一の試験には、『大切なルール』ってもんが『いくつ』かある。
 黒板に書いて説明してやるが、質問は一切受け付けんからそのつもりでよーく聞いとけ」

イビキが黒板をチョークの先で突付き、受験生達に注目を促す。

「ルール? (質問を受け付けないって・・・・・・)」

サクラはイビキの言葉に引っ掛かりを覚えた。

どうやらこの試験、普通の筆記ではないようだ。

「第一のルールだ! まず、お前らには最初から各自10点ずつ持ち点が与えられている。
 筆記試験問題は全部で10問。 格1点・・・そして―――この試験は『減点式』となってる」

イビキが黒板にチョークを走らせる。

記された文字は次の通り。

『持ち点10点』

『例1.全問正解→持ち点10点のまま』

『例2.3問不正解→持ち点7点になる』

ごつい見た目の割に、意外と繊細な文字だった。

「つまり、問題を10問正解すれば持ち点は10点。 そのままだ。
 しかし、問題で3問間違えれば、持ち点の10点から・・・3点が引かれ、7点という持ち点になるわけだ」

仮に10問間違えれば0点である。

「第2のルール・・・。 この筆記試験はチーム戦。
 つまりは、受験申し込みを受け付けた三人一組の合計点数で合否を判断する。
 ・・・つまり合計持ち点30点を、どれだけ減らさずに試験を終われるかをチーム単位で競ってもらう」

チーム戦と聞いたサクラは、机に頭から突っ込んだ。

そして擦り剥いた額の痛みも忘れ、ガバッと勢い良く手を上げた。

「ちょ・・・ちょっと待って! 持ち点減点方式の意味ってのも分かんないけど、チームの合計点ってどーいう事ぉ!!」

「うるせぇ! お前らに質問する権利はないんだよ! これにはちゃんと理由がある、黙って聞いてろ!」

―理由・・・?

イビキに一喝され、心の中で呟く。

「分かったら肝心の次のルールだ。 第3に、試験途中で妙な行為――――――つまり。
 『カンニング及び、それに順ずる行為を行った』と此処いる監視員たちに見なされた者は・・・。
 その行為『1回につき、持ち点から2点ずる減点させてもらう・・・」

「あ!」

サクラの脳裏に閃くものがあった。

「そうだ! つまり、この試験中に持ち点をすっかり吐き出して、退場してもらう者も出るだろう」

―成る程・・・筆記問題以外にも、減点の対象を作ってるって事ね。

最初とは違って、幾分余裕のない表情になるサクラ。

だが追い討ちを掛けるように、壁際の椅子に腰掛けた試験官の1人が口を開いた。

「いつでもチェックしてやるぜ」

コテツだった。

大勢の試験官の中でも特に気合が入っており、椅子から身を乗り出しそうな勢いである。

その上途方もなくどす黒いオーラが漂い、キュピ〜ン!と両目が輝いている。

『201』で溜め込んだストレスを、今この場で発散する気らしい。

コテツの様子を見た受験生達は、皆一様に嫌な汗を流すのだった。

イビキはコテツの気合の入り方を不思議に思ったが、受験生達にプレッシャーを与えられるのでまぁいいかと思った。

「無様にカンニングなど行った者は、自滅して行くと心得てもらおう。
 仮にも中忍を目指す者、忍なら・・・・・・立派な忍らしくする事だ」

そして、自身もまた悪役のような笑い顔になり、会場に集まった者達を更に追い詰めた。

―落ち着いて・・・そう・・・そうよ!
 ナルトは兎も角、サスケ君と私は大丈夫。
 ナルトが例え0点でも、私達がカバーすれば・・・。

ナルトの学力に対する信用はゼロ。

アカデミー時代の成績を考えれば、期待するだけ無駄である。

「そして最後のルール・・・。
 この試験終了時までに持ち点を全て失った者・・・。
 及び、正解数0だった者の所属する班は・・・・・・・・・」

イビキは会場を見渡し、少し間を置いた。

「3名全て道連れ不合格とする!!」

そして、サクラとサスケにとって絶望的な言葉を、はっきりくっきりと言い放った。

―なっ・・・!!

―んですってェェエ!!

「うっ!?」

チームメイトの殺気に身震いするナルト。

「だ、大丈夫・・・?」

「風邪はひき始めが肝心らしいよ?」

ヒナタだけではなく、レンゲにまで心配されていた。



















「試験時間は1時間だ」

説明が終わり、いよいよ試験が始まる。

受験生達は、イビキの合図を緊張しながら待つ。

「よし・・・始めろ!!」

その言葉と同時に、受験生達は一斉に答案用紙を裏返した。

―こ、これってもしかして・・・とんでもない事になったんじゃ・・・。
 ・・・・・・ナルト・・・頼むから0点だけは止してよ!

自分の学力は問題ないのに、理不尽なルールのお陰で焦る破目になったサクラ。

―・・・チィ・・・ヤバいぜ・・・。 ナルトの奴、いきなりビビってんじゃないだろうな・・・。

親指を噛み指先に挟んだ鉛筆を遊ばせ、ピクピクと揺れているナルトの背中に不安を覚えるサスケ。

んで。

―くっ・・・・・・。

当のナルトはというと―――――――――。

―くくくくくっ・・・・。

右へ左へ視線を走らせ、四苦八苦する受験生達の様子に必死に笑いを堪えていた。

息が漏れないように両手で口を押さえ、目尻に涙すら浮かべていた。

―・・・大丈夫かな・・・ナルト・・・。

机一つ挟んでナルトの後ろに座るサクラは、ナルトの様子を見て激しい不安に襲われた。

―・・・って、私も自分の心配をしなくちゃ・・・此処で私が点を取って置かなきゃ・・・。

だが、何時までもナルトに感けている暇はない。

そう思って、自分の机に視線を落とした。

―えっと・・・第2問・・・。
 『図の放物線Bは、高さ7メートルの木の上にいる敵の忍Aの、手裏剣における最大射程距離を描いている。
 この手裏剣の描く楕円に表れる敵の忍者の特徴、及び平面戦闘時における最大射程距離を想定した答え、その根拠を示しなさい』

問題を読み終えた瞬間、サクラの額を汗が伝った。

―こ・・・これって・・・・・・。
 不確定条件の想定と、力学的エネルギーの解析を応用した融合問題じゃない・・・!
 こんなのナルトが解ける理由ないじゃない! って言うか此処にいる殆どの奴が出来ないわよ!! こんな問題ー!!

提出された問題は、到底下忍に解ける代物ではなかった。

用紙を間違えたとしか思えないあまりの難易度。

ちなみに、サクラは解く事が出来た。

―フン。

机に肘を突いた右手の甲に顎を乗せ、サスケはニヒルに笑う。

―・・・フフ・・・成る程ね・・・。

笑みを維持したまま、内心で呟く。

―こんなの・・・1問たりともわかんねぇ・・・。

サスケはちょっぴりセンチな溜息が出た。

・・・・・・何が成る程だったのかが少し疑問だ。

「オマケに何だよ、この10問目は・・・・・・!」

手付かずの用紙の一番下に、

『第10問。
 この問題に限っては、試験開始後45分経過してから、出題されます。
 担当教師の質問を良く理解した上で、回答して下さい』

そんなわけのわからない文章が記されていた。

―ぶぷ・・・ぷくくく・・・・・・。

ナルトはまだ笑っていた。

そしてその様子を見たヒナタが、とても心配そうな顔をしていた。

―・・・にしても・・・この念の入れよう・・・。
 オレ達がカンニングするって、まるで決め込んでるようなやり口だな・・・。 嫌な奴らだぜ・・・。

サスケは試験官達の纏わり付くような視線を感じ、かなり不機嫌な目をした。

―・・・第2のルール・・・。
 三人一組の合計点で競うって事は、高得点順に上位何チームかが選ばれるのよね・・・。
 ・・・・・・一体何チームが合格出来るようになってんのかしら・・・。
 知ってどうなるものでもないけど・・・不安でならないわ・・・・・・。

回答を記入する鉛筆を止め、サクラはふと思う。

すると丁度その時、隣りに座っていた受験生が立ち上がった。

「あの〜、これだけは教えて欲しいのですが・・・」

「!」

「一体何チームが合格なんですか?」

運良く、一番聞きたかった事を質問してくれた。

「・・・・・・・・・」

サクラは耳を澄まし、イビキの回答を待つ。

「ククク・・・・・・知ってどうなるワケでもないだろ・・・。
 それともお前・・・失格にされてーのか・・・?」

「す・・・すいません・・・」

だが期待していた答えは得られず、受験生は大人しく席に着いた。

―・・・全51チーム中、もし合格が10チーム程度だとしたら・・・。
 無理してでも、かなりの点を保持しなきゃならないわ・・・。
 まるでカンニングを誘うようなシステム・・・。
 サスケ君もナルトも、焦ってカンニングに走らなきゃ良いけど・・・。

視線を答案に戻したサクラは、汗で額に張り付いた髪を掻き上げた。

そして、まだ微かに震えているナルトに目を向けた。

―大丈夫・・・ナルトもそんなに馬鹿じゃないわ・・・私には分かってる・・・。

サクラは自分に言い聞かせ、再び問題を解き始めた。

―しかし、この人数で見張られてちゃな。
 ・・・多分、あのノートでチェックするんだろーが・・・。

サスケは各席の左右に1人づつ配置された試験官達を流し見る。

と、その時。

試験官の1人が口の端を吊り上げ、チェック表に何かを書き込んだ。

―! ・・・誰かやられたな・・・・・・。

自分が減点されたわけではないが、サスケの表情は固くなった。

何故なら、人事ではないからだ。

確かにカンニングは減点対象だが、地力で問題を解けない以上サスケの0点は決定である。

仮にサクラが満点を取ったとしても、0点が2人(サスケの中では確定済)もいれば最終的には失格。

このまま黙って失格を待つぐらいなら、リスクがあるとしてもカンニングするしかないのだ。

そう考えたサスケは、思わず鉛筆を握る手に力を込めた。

だが不意に、イビキが始めに言っていた事を思い出した。

『無様なカンニングなど行った者は、自滅していくと心得て貰おう』

『仮にも中忍を目指す者、忍なら…立派な忍らしくする事だ…』

「!! (ちょっと待てよ!!)」

サスケはハッとして、俯いていた顔を上げた。

―・・・そうか・・・! そういう事か!
 ・・・何てこった・・・。 これはただの知力を見る筆記試験じゃなかったんだ!

重要な事を見落としていた自分に気付き、軽く舌打ちをする。

―早く気付けナルト! 命取りになるぞ! 何故ならこのテストは・・・・・・。
 カンニング『公認』の偽装・隠蔽術を駆使した・・・『情報収集戦』を見る試験でもあったんだ。

試験の真意に気付いたサスケの眼付きが、今まで以上に真剣なものになった。

―『忍は裏の裏を読め』か・・・つまり試験官の本意は・・・。
 カンニングをするなら『無様なカンニング』じゃあなく、『立派な忍らしく』バレないようにすべしって事だ。
 そう考えれば『減点方式』と言う、この試験の異例さ・・・。
 そして『カンニング発覚1回につき、2点の減点で済む』と言う甘さ・・・。
 言わば、4回の猶予にも納得が行く・・・。
 要するに此処で試されるのは、如何に審査官とカンニングをされる者に気取られず、正確な答えを集める事が出来るか・・・。
 気付けナルト! 勘の良い奴はそろそろ動き始めるぞ!

「ふぅ〜〜〜・・・・・・」

だがサスケ切なる想いを他所に、漸く笑いが収まったナルトは胸に手を当て、緩みきった顔で大きく息を吐いていた。

さてさて。

一見学問とは無縁そうに見えるこの男は、普段の思考と行動もバカそのものである。

ところが、ところがどっこい。

驚いた事に、勉強が出来ないという事はないのである。

ナルトの言動を知る者ならば、誰もが耳を疑うだろう。

しかし、事実は小説よりも奇なり。

ナルトが勉強出来るというのは嘘偽り無き真実。

従って今までの行動は全て、余裕の表れなのであった。

ただしナルトの学力は、ある反則によって培われたものである。

それは影分身による経験値の水増し。

まず影分身は普通の分身と違い、実体を持つ分身を作り出す。

身体能力・習得技術・思考・経験・記憶に至るまで・・・。

何から何まで同一の、完全なコピーをチャクラで作り出す術だ。

その特性として、術が解けた後オリジナル1人に戻った時、分身体が経験した事はオリジナルである術者本人の経験として蓄積される。

例えば習得困難な術の修行も、影分身を使って2人で同時にやれば2倍捗る。

3人なら3倍。

更に4人なら4倍。

といった具合に数を増やし、記憶の引継ぎによって知識を増やし、ナルトは現在の学力を得ていたのだ。

ただし影分身は膨大なチャクラが必要となる為、普通の術者ならば机上の空論でしかない。

非常識なまでにムチャクチャなチャクラ量を誇るナルトだからこそ、可能な反則技だ。

でも、勉強の場合あまりこれをやり過ぎると、知恵熱が出るので注意が必要である。

「一問目は・・・・・・暗号文か」

ナルトはプルプル震える手で答案用紙を持ち、漸く問題文を読む。

「ぶふぅ―――!!」

すると笑いを堪え切れず、思いっきり噴出した。

近くに居た受験生や、壁際の試験官達にギロリと睨まれる。

だがナルトは、余計狂ったように笑い始めた。

「ふははははははは!!」

そして周囲の奇異の眼差し(特に近場のヒナタとレンゲ)にも構わず、問題を読む度に笑い声を大きくしていった。

一問目。

二問目。

三問目。

どれも一目見ただけで答えが見えてくる。

「バカめ!! 里長を目指す俺を、中忍程度の問題で止められるとでも思ってんのか!!」

ハッキリ言って迷惑以外の何ものでもなかった。

「うるせぇ!! そこの金髪!! 静かにしねーと失格にするぞ!!」

当然だが、イビキに怒鳴られる破目になった。

ま、それはそれとして。

サスケ同様に試験の真意に気付いた受験生達は、様々な方法で情報収集に乗り出していた。

例えば、砂隠れのキラーマシン我愛羅。

彼は一応血の繋がった兄であるカンクロウに、鋭い・・・というか冷たい視線を向けている。

まるで言外に『手筈通りさっさと動けこのウス鈍』と罵倒しているようだ。

―そう睨むなっての・・・分かってんじゃん・・・。
 ・・・フン・・・頼むぜ・・・カラス・・・。

カンクロウは胸の中で愚痴を垂れつつ、自分の方を睨んでいる試験官の1人を見た。

(ワン! ワン! ワン!)

キバの忍犬赤丸が主人の頭上から辺りをキョロキョロ見渡し、何かを訴えるように小さく吠えた。

―ひゃほ〜! 良い子だ赤丸! 次は第4問だ・・・。

すると、途端にキバの鉛筆が滑らかに動き始めた。

どうやら赤丸を使ってカンニングしているらしい。

犬の言葉が分かるのは会場の中でキバだけなので、周りの受験生者にも試験官にもバレる事はない。

――――――筈だったのだが。

―へ〜・・・3問目の答えってそうなんだ。

隣りの席に座っている獣娘に、情報が駄々漏れだった。

一方、そんな犬使いのチームメイトであるシノは、蟲を使ってカンニングをしていた。

(よし! 教えてくれ・・・)

回答を覗いて来た虻は主人の指に止まった後、8の字を描いて飛び始めた。

(8だな)

新たに一つ答案の空白を埋めるシノ。

だがその真上の天井に取り付けられた照明の窪みに、複数の鏡が取り付けられていた。

鏡の端には極めて細い糸が括り付けられ、その糸が繋がった先はテンテンの指。

―リー・・・見えたら額当てを・・・。

器用に鏡を操りながら、テンテンは仲間に合図を送った。

するとリーは頭上に目を向け、腰に巻いていた額当てを頭部へ締め直した。

次第に激化する情報収集戦。

そんな中で、静かに俯いて動こうとしない者がいた。

音の忍ドスである。

彼は目を閉じたまま、鉛筆すら握っていない。

―この字のリズム・・・書き順・・・字画数からして・・・。

だがそれは諦めているわけではなく、聴覚を研ぎ澄ます為だった。

―・・・成る程ね・・・。

背後の受験生の鉛筆の音から答えを識別し、鉛筆を動かし始めた。

ドスと同じく今までそれらしい行動を見せなかったネジが、ここに来て漸く動き始めた。

前の座を・・・正確には前に座る受験生の背中を見た後、おもむろに目蓋を閉ざした。

【白眼!!】

発動する日向一族の血継限界。

その血に秘められた能力は透視と遠視。

全ての遮断物を無効化し、遥か遠方の事物を見通す事が出来る。

故にネジは、この試験において最も有利な能力者と言えるだろう。

―よし、アイツだ! 

また、木ノ葉において白眼と双璧を成す血継限界を受け継ぐサスケは、

―あいつの動きを全て・・・コピーする!!

前方に座っている背中に勉と書かれた見るからにガリ勉の忍に狙いを定め、

【写輪眼!!】

自らの血に宿す能力を発動させた。

かくして各々の受験生達は、自分達の持てる技術を駆使していった。

だがそうした受験生達を他所に、1人だけ妙に焦っている受験生が居た。

―うぬぬ・・・!

今回最高齢の受験生である自来也だった。

口をへの字に曲げ、手元の答案用紙と睨めっこしている。

ちなみにまだ一問たりとも解いてはおらず、用紙は真っ白だ。

―いかん・・・昔習った筈なのに完全に忘れとる・・・。

初っ端の暗号文で詰まり、先に進めずにいる。

何せ筆記試験など久方振りの事である。

常日頃、筆を持って机に向う事はあってもそれは、碌でもない創作活動であり忍として知識を追求しているわけではない。

その為錆び付いた知識の扉は、中々開いてはくれなかった。

―くっ・・・やはり試験の真意に乗っ取ってカンニングするしかないのか・・・。
 いや! ダメだダメだ! 仮にも三忍の1人として、この程度の問題・・・。

針金のような白髪を掻き毟る自来也には、他の受験生には分からない葛藤があった。

つーか三忍としての自覚があるのなら、中忍試験なんぞに出てくんなっつー話である。



















ひり付いた空気が充満する教室に、時計の針と鉛筆の音だけが聞こえてくる。

だがそんな時。

馬鹿笑いのあまりひきつけを起こしていたナルト顔スレスレの位置を、黒い影がかなりのスピードで通過していった。

「うわあ!!」

突然上がる男の悲鳴。

ナルトの横を通り過ぎていった物体は、真後ろの席に座る木ノ葉の受験生の答案用紙を貫いていた。

黒い影の正体は、試験官コテツの放ったクナイだった。

「な・・・何の真似ですか!!」

「5回ミスった。 てめーは失格だ♪」

立ち上がって喚く受験生に向って、とってもとっても嬉しそうに告げる。

「そ・・・そんなぁ・・・」

「コイツの連れ2人共、この教室から出てけ♪ 今すぐ♪」

愕然とした様子に気を良くしたコテツは、親指を地面に向けながら上擦った声を出した。

「うっ・・・くそ・・・」

「ホラ、さっさと出ろ」

同じ班の仲間と渋々出て行く受験生を見送ると、るんるん♪とスキップしながら元の場所に戻っていく。

そしてご馳走を前に涎を垂らす肉食獣のように、次なる獲物を探し始めた。

・・・嫌な試験官もあったものだ。

―うぅ・・・かわいそうに・・・。

わざとらしく目元を拭うナルト。

嫌な受験生もあったものだ。

「ナルト君・・・・・・」

だがそんな外道に対して、ヒナタが決意を秘めた表情で声を掛けた。

―・・・ヒナタ?

ナルトは何だろうと思い首を傾げる。

(わ・・・私のテスト・・・み、見せてあげる・・・)

頬を染め、顔を背けてモジモジするヒナタ。

今の今まで余裕をぶっこいていた為、ナルトのテストはまだ白紙のままだった。

それを勘違いしたヒナタは、想い人に失格になってほしくない一心で、危険も顧みず心優しい申し出をしてくれたのだった。

なのにこの男ときたら・・・。

―・・・『わ・・・私の・・・見せてあげる』・・・・・・はぐっ!

急に内股になって悶え始めやがったではないか。

こいつ、マジ最悪である。

「ナルト君・・・は、早く・・・私の答え・・・見て・・・」

ヒナタの声は、極度の緊張で少々荒くなっていた。

―おぅ! おぅち!!

再び勘違いしたのか、ナルトの苦しみ方が激しくなる。

机に前頭部を擦り付け、体が『く』の字に曲がった。

そして両手でズボンを押さえ付け、机の下では地団太を踏んでいた。

―・・・蛙の子は蛙か・・・。

それを見たレンゲは、何かを思い出すような遠い眼をして、深い深い溜息を吐いていた・・・。







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