NARUTO
〜九妖忍法帳〜 42話目




「ねぇ・・・何かあの娘さ・・・・・・ナルトに似てない?」

「そうね・・・顔はそんなに似てないけど、雰囲気はソックリね・・・」

「てか、匂いまで似てるぞ」

石化して突っ立っているナルトの傍で、ヒソヒソと囁くルーキー達。

「・・・・・・なぁ。 いの、ヒナタ・・・・・・あの顔、どっかで見た事ねぇか?」

「奇遇ねシカマル・・・不思議な事に私も心当たりがあるのよ・・・」

「・・・・・・玉藻さん・・・?」

ある可能性に気付いたシカマル達。

互いに顔を見合わせ、背中に嫌な汗を滲ませる。

彼らの胸の内は同じだった。

「・・・・・・九妖さんって、今年で26だよね・・・」

「ああ、多分玉藻さんも同じぐらいだよな・・・」

「もし・・・もしもよ? ・・・私達の予想が合ってるとしたら・・・・・・・・・」

怪談話を語るが如き恐ろしげな声。

懐中電灯があれば、もっと雰囲気が出るだろう。

「いやいやいや!」 

シカマルは千切れそうな勢いで首を振った。

あの鬼がもう1人増えるなど、考えただけでも背筋が凍る。

「子供が居るなんて聞いた事ねーだろ!? てか、本気で勘弁してくれよ!」

深層意識に刻まれた玉藻への恐怖からか、ツクモの性格を決め付けてしまっている。

「隠し子だったりして・・・」

うずまき家の居候に毒されているヒナタが、ポツリと嫌な事を呟いた。

それは蚊の鳴くような小さな声だったが、シカマルといのの耳は聞き逃さなかった。

「「・・・・・・・・・」」

有り得る。

そう思った2人の視線が、自然とツクモへ流れる。

「あう・・・」

あまり人前に出た事がない所為か、ツクモはかなり上がっている様子だ。

ギュッとシノの袖を握り、背中に隠れながら周囲を窺っている。

だがそうする内に、自分を見詰める下忍の中に大好きな父の姿を見付けた。

「ち」

弾んだ足取りでシノの影から踊り出る。

「ち」

両手は翼のように広げられ、不安げに垂れ下がっていた細い眉は山形になっている。

「う」

何故か空間がスローになったお陰で、煌く涙が鮮明に見て取れる。



「ツクモ!!」



小さな体が、正面から抱き止められた。

「・・・・・・え?」

だが上を見上げた薄紫の瞳に映ったのは、父特有のバサバサの金髪ではなく、ヤマアラシのように刺々しい白髪。

そして、鼻筋に乗っている大きなイボだった。

「ツクモ!! ツクモォ!!」

「い、痛いよブンちゃん」

涙でべチョべチョになった頬を擦り付けられ若干迷惑するツクモだが、ブンちゃんと呼ばれた少年は尚も頬擦りを止めない。

180cmの長身を折り曲げ、情けなく泣き続けている。

その少年の様子を見た下忍達は、『また変なのが出てきた』と心の声を一致させた。

「ツクモちゃん」

そこへ、白がやってきた。

若干釣り上がった眼が、静かに怒を現していた。

「勝手に歩き回っちゃダメじゃないですか。 ブン吉君と一緒に行動するって、ボクと約束しましたよね?」

白は、トイレに行きたいと言ってツクモが部屋を出て行こうした時、迷子にならないようにブン吉を付き添わせ、必ず一緒に行動するように言い聞かせていた。

ツクモはトイレを済ませた後暫くは言い付けを守り、隣りの男子トイレに入ったブン吉が出てくるのを大人しく待っていた。

だが、あまりにも待ち時間が長かったので、つい言い付けを破ってしまったのだ。

「あう・・・ゴメンナサイ・・・」

ツクモは普段から甘やかされて育っている。

玉藻を筆頭に過保護な面々に囲まれた環境の下、何不自由なく日々を過ごしている。

何をしても許され、怒られる事もない。

前に夕食のピーマンを残してナルトに怒られた事があるがその時も、

『よかよか。 オレが貰っちゃるけんね』

『嫌ぇなもんは嫌ぇなんだから仕方ねェだろ!!』

『無理矢理食べさせて体調でも崩したらどうするつもりだ!!』

『ナルトさんだって女性の選り好みをしてるじゃないですか!!』

『児童虐待で訴えるぞ!! 腕力に!!』

他の面々が庇い立てし、ナルトの方が悪者扱いだった。

まるで躾と暴力を履き違えたPTAのオバハンみたいな醜悪さである。

自分の所為で怒られる父を見て、ツクモは子供ながらに申し訳なく思った。

更に自分自身このままではダメな大人になってしまうと考え、うずまき家の中で正しい判断(ツクモに関して)を下す事が出来る白とアンコに相談した。

すると、アンコは言った。

『あの馬鹿共の目が届かない場所で社会経験を積みなさい。 場所はあたしが用意してあげるから』

そしてその場所を用意すべく、問題の馬鹿共にそれとなく呟いた。

『なんか、ツクモが中忍試験に出たいって言ってるのよね』

最初は全員がごねた。

『怪我したらどうするんだ』とか、『危険だから止めろ』とか、『母を捨てないでくれ』とか・・・。

だが、

『じゃあ皆とはもう口利かない』

というツクモの一言で態度を激変させた。

特に玉藻と自来也の行動は速かった。

すぐさま三代目の元へ特攻を掛け、警備に当たっていた暗部5人をぶちのめして執務室へ乱入した。

『じじい!! 中忍試験の受験枠を用意しろ!! 3人分だ!! 今すぐやれ!!
 出来ねーとは言わせんぞ!? 耄碌したとはいえ、一応は最高権力者だろうが!!』

師を師とも思わない暴言を吐きながら、碌に再会の挨拶さえせずに胸倉を締め上げた自来也。

『ごねとらんでさっさとやらんか!!
 何時までもウダウダ抜かしてっと三途の川渡らすぞ!!
 それとも15年前の落とし前を今此処で付けられてぇのかゴルァ!!』

ベテランの地上げ屋のような恐ろしい眼光を放ち、真っ赤なチャクラで部屋に嵐を巻き起こした玉藻。

この2人の暴挙により、三代目は碌に事情も聞けぬまま許可を出す羽目になったのだ。

ちなみに、その間他の者が何をしていたのかと言うと、家でツクモにある条件を出していた。

まず第一に、試験時の格好。

ツクモは普段丈の短い浴衣を好んで着ている。

別に動き難いとかそんな事は一切ないのだが、『何処の馬の骨とも分からん連中に、ツクモのお御脚を拝ませてなるものか』と思った夜空が提案。

代わりに露出の少ない袴が用意された。

ツクモは最初断ろうとしたが、雪の『ナルトさんにも揃いのを着てもらいますから〜』という一言ですぐに了承した。

第二に、確定している白の他に自分達の誰かをチームメイトに選ぶ事。

これはかなり遠慮したかったが、他に心当たりもなかったので渋々了承した。

そして最後に、うずまき一家の用意した巻物を持っていく事。

理由を尋ねると『困った時に開きなさい』とだけ言われたので、とりあえず持って行く事にした。

・・・・・・まぁ若干話がずれたが、とどのつまり。

ツクモが中忍試験に出場したのは、甘えの許されない状況下で自らを磨く為である。

なので、白もその気持ちを酌んで容赦する気はない。

真剣な眼差しでツクモを射抜き、しっかりと言い聞かせている。

だが。

「ツクモに罪はない!」

ブン吉なる少年が庇うので、折角の決意も台無しである。

・・・別に放置しててもよさそうだが、いい加減説明しよう。

少年の名は【蝦蟇野 ブン吉】16歳(仮)。

変化の術によって、過ぎ去った若き日の姿を取り戻した自来也である。

三人一組のチームの数合わせとして、うずまき一家内で行われた熾烈な争いを勝ち抜いて出場資格をもぎ取った伝説の忍。

しかしその実体は、単なる馬鹿祖父・・・いや祖父馬鹿であった。

「悪いのは全部オレなんだ! 罰ならオレが受ける!!」

無駄に分厚い胸板を張って、白の前に立ちはだかる。

だが、ツクモに対する点数稼ぎが見え見えだった。

「そうですか。 わかりました」

白は全てを見透かした冷たい笑みを浮かべ、拳を握って脇を締めた。

「両足広げて歯ぁ食い縛れェ!!」

「お、押忍!」

初めて聞く白の怒声に驚き、両手を背中に回し足を肩幅に広げた自来也。

「セイヤ!!」

「ぐはっ!!」

その頬に、コークスクリュー気味の右ストーレートが突き刺さった。

自来也は後に転倒し掛けたが、利き足を下げて持ち堪えた。

「あざーすッ!!」

そして、口から血を流しながら頭を下げた。

「「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」」

独特の空気に着いて行けず、沈黙する下忍達。

「じゃあ、行きますよ」

微妙な空気を収集しようともせず、白に促され去って行こうとする自来也達。

「シノ! またねー!」

白に手を引かれながら、振り向いたツクモが手を振った。

途端、自来也の目が怪しい光を放った。

「・・・ツクモ。 あのボーズは・・・?」

「さっき、迷子になったのを助けてくれたの! 初めて出来た友達なんだよ!」

会心の笑みを浮かべるツクモ。

自来也は『よかったな』と頭を撫でたが、『初めて』という単語に分かり易く反応した。

で、何を思ったのか、おもむろにシノの方に引き返して行った。

「・・・礼を言うぞボーズ」

シノの手をごっつい両手が包み込み、力任せに上下させる。

放って置くと肩の関節が外れそうな勢いだったので、シノは『ああ』とだけ言って手を離そうとした。

「だが」

自来也はそれを許さなかった。

「オレの目が黒い内は、ツクモとの交際は認めてやんねぇからな」

10代の姿形の所為か、口調まで若返っている。

まぁそれは兎も角。

両手に篭められた凄まじい力が、シノの手骨をメキメキと軋ませている。

しかもツクモには見えないよう立ち位置を細工している辺り、中々芸が細かい。

「ふんッ!!」

「んの゛ぉ!?」

だがそんな大人気ない男の米神に、チャクラの篭った草履が直撃した。

そこに居た全員が驚きながら振り向くと、頭の天辺にこぶを作ったナルトが腕を振り抜いた姿勢で制止していた。

今まで姿が見えなかったのは、最初に自来也に吹っ飛ばされていたからだった。

「おい、こらオッサン」

ドスドスと地面を踏み鳴らし、大股で歩み寄るナルト。

「ぐ、が・・・」

今回最高齢の受験者は、米神を押さえて蹲っている。

だが構わず胸倉を掴んで引き起こす。

「ど、どちら様だ?」

「バ・カ・に・し・て・ん・の・か!」

この期に及んでシラを切ろうとするオールドルーキーに送り襟締めを極め、ギリギリと音を立てて気道を塞き止める。

「ちょ、ちょっとした冗談だ。 ・・・だから手を放せ、いや、放して下さい」

自来也も流石に危機感を覚えたのか、ふざけていた態度を改めた。

「・・・ナルト・・・あの人達と知り合いなのかな?」

既に2袋目のガルBを完食し、3袋目に取り掛かったチョウジが言った。

「でも外国に知り合いなんて・・・・・・いや、有り得るわねナルトなら」

顎に手を当てて考えていたサクラは先日のテマリの一件を思い出し、あっさりと納得していた。

ここ一週間、木ノ葉には他国の忍達が続々と集まっていた。

その間にナルトが他所の忍にちょっかいを出していても、別に不思議はないと思ったのである。

「気になるなら直接聞いてみればいいじゃねーか」

「それもそうね」

キバの最もなコメントに頷きつつ、サクラはナルト達に声を掛けた。

「貴方達、ナルトと知り合いなの?」

「知ってるも何も俺のむ・・・がふっ!?」

つい普通に答えようとしたナルトだが、自来也に鳩尾をど突かれて悶絶した。

「どうしたのよあんた? 急に蹲ったりして・・・」

何が起きたのか理解出来ず、訝しげな眼を向けるサクラ。

伝説の三忍が半ば本気で放った拳だから、見えなくても無理はない。

「この娘とそいつは親戚同士だ」

自来也は素知らぬ顔でツクモの肩を叩いて合図した。

「【長月ツクモ】です。 いつもなっちゃんがお世話になってます」

するとツクモがペコリとお辞儀をする。

(これでいいんだよね? お祖父ちゃん?)

(おう、ばっちりだ!)

目と目で会話し、ウインクし合う2人。

前もってこのシチュエーションを想定していたらしい。

「・・・や、やっぱり玉藻さんの子供みたいね・・・」

「2人共・・・接し方には十分注意しとけよ・・・」

「え・・・でも・・・見た感じ素直そうな娘だよ・・・?」

「バカ・・・あの娘はよくても玉藻さんの方がヤバイんだよ。 迂闊な事したら殺されるぞ・・・多分・・・」

流石は玉藻の弟子だけあって、シカマルは理解が早かった。

ツクモに対する誤解は解けたようだが、イカれた取り巻きが居るのでヤバいと言えばヤバイ娘なのは変らないのだ。

とりあえず予想外の形で愛娘をお披露目する事となったナルトたが、玉藻の威光のお陰でややこしい説明はせずに済んだのだった。



















わいわいと騒がしく話しをするナルト達に、近付いてくる人影があった。

ナルトと自来也は真っ先に気付き、内心警戒しながらも何食わぬ顔で会話を続けている。

「おい、君達! もう少し静かにした方が良いな・・・」

いきなり現れて下忍達を注意した人物は、木ノ葉の額当てをして眼鏡を掛けた痩身の男だった。

珍しい銀髪の持ち主で、知的な顔立ちをしていてる。

自来也(現在180cm)程ではないが、背もそれなりに高い。

年齢の方は、ナルトや白よりもさらに上のようだ。

「君達が、忍者アカデミー出たてホヤホヤの新人9名だろ?
 可愛い顔してキャッキャッと騒いで・・・まったく。 ここは遠足じゃないんだよ?」

「誰よ〜〜〜アンタ? エラそーに!」

「ボクはカブト・・・」

初対面での不躾な物言いにいのが不機嫌さを顕にすると、青年は薄く笑みを浮かべながら名乗りを上げた。

「それより、辺りを見てみな」

「辺り?」

カブトの指摘にサクラ達が後を向く。

そこには、剣呑な眼差しを向けてくる受験者達の姿があった。

「うっ・・・」

「君の後ろ・・・あいつらは雨隠れの奴らだ、気が短い。
 試験前でみんなピリピリしてる。 ど突かれる前に注意しとこうと思ってね」

思わずたじろいでしまうサクラに、カブトは軽く溜息を吐いてそう言った。

「ま! 仕方ないか。 右も左も分からない新人さん達だしな。 昔の自分を思い出すよ」

「カブトさん・・・でしたっけ?」

「ああ・・・」

「じゃあ・・・アナタは2回目なの?」

「いや・・・7回目」

「あぁ?」

サクラの予想よりも遥かに多い回数に、シカマルの眉が跳ねる。

「この試験は年に2回しか行われないから、もう4年目だ・・・」

「へーじゃあ、この試験に付いて色々知ってんだ・・・!?」

「カブト君すごーい」

サクラとツクモは深く気に留めず、単純に感心していた。

「でも受かってねーんだよな・・・」

「中忍試験ってそんなハードル高ぇのかよ・・・ったく、めんどくせーな」

ナルトの身も蓋もない台詞とシカマルのダルそうな呟きは、幸いカブトに聞こえなかったようだ。

「へへ・・・じゃあ可愛い後輩に、ちょっとだけ情報を上げようかな」

サクラ達の言葉に気を良くして、腰に下げたポーチに手を入れる。

「この認識札でね」

「認識札?」

カブトの取り出した数枚のカードを見て、サクラが首を傾げた。

他の下忍達も目を細めたり腕組みをしたり、似たような反応を示している。

「簡単に言えば、情報をチャクラで記号化して焼き付けてある札の事だ」

カブトが手の中で左右に広げていたカードをキレイに重ね、床の上に置いて人差し指を乗せる。

「この試験用に、4年も掛けて情報収集をやった。 札は全部で200枚近くある。 見た目は真っ白だけどね・・・」

山の一番上にあったカードが捲られ、何も記載されていない事を証明する。

「この札の情報を開くには―」

顔の前に右手の人差し指と中指を立て、左手の人差し指でカードを回転させ始めた。

「・・・何やってるのー?」

いのは膝を曲げて様子を観察していたが、何をしているのか分からなかった。

「ボクのチャクラを使わないと、見る事が出来ないようになってる。 ・・・・・・例えば、こんなの」

ピタリと回転を止められたカードから、ボンと音を立てて白煙が上がる。

「うわあ! 凄い見やすい立体図だ! 何の情報コレ?」

「今回の中忍試験の総受験者数と総参加国・・・。 そして、それぞれの隠れ里の受験者数を個別に表示したモノさ」

カードに表れたのは五大国の地図。

隠れ里の存在する位置から、立体化したグラフが浮き出ている。

そして下の方に各里からの受験者数が、次のように表記されている。

『砂30 雨21 草6 滝6 木ノ葉87 音6 月3 合計159』

―あ、私達のもあった♪

皆の真剣な空気を壊さないように、ツクモは心の中で喜びの声を上げた。

「そのカードに個人情報が詳しく入ってるやつ・・・あるのか?」

「フフ・・・気になる奴でもいるのかな?」

「・・・いる」

含みのある視線に、サスケの眼が鋭く尖った。

「今回の受験者の情報は完璧とまではいかないが、焼き付けて保存している・・・。
 君達のも含めてね。 君が知っている、その『気になる奴』の情報を何でも言ってみな。 検索してあげよう」

カブトはそう言って1枚のカードを手にした。

「砂隠れの我愛羅・・・それに木ノ葉のロック・リーって奴だ」

「何だ、名前まで分かってるのか・・・それなら早い」

手元のカードを山の中に戻し、全てのカードを片手に持つ。

そして、空いた方の手を凄まじい速さで横に振った。

「見せてくれ」

サスケの視線は、カブトの手にある2枚のカードの背表紙に釘付である。

「じゃ、まず・・・ロック・リーだ」

さっきと同様にカードを回転させ、白紙にチャクラを送り込む。

すると今度は、詳細な個人データが現れる。

しかも顔写真付きだ。

「年齢は君達より一つ上だな。
 任務経験・・・Dランク20回。 Cランク11回。
 班長はガイ・・・体術がここ一年で異常に伸びてるが・・・他はてんでダメだな
 昨年実力のある新人下忍として注目されたが、この中忍試験には出て来なかった。
 君達と同じく、今回初受験・・・。 チームには、日向ネジとテンテンか・・・」

ネジの名に、ヒナタは僅かに表情を動かした。

だが誰もそれに気付かないまま、話が進んでいく。

「次は砂瀑の我愛羅。 任務経験、Cランク8回。 Bランク・・・凄いな、下忍でBランク一回か・・・。
 他国の忍で新人だから、これ以上詳しい情報はない・・・。 ただ、任務は全て『無傷』で帰って来たそうだ」

その情報に言葉を失ったのは、サスケだけではなかった。

ナルト達も黙っているように見えるが、他の者とは少し様子が違った。

(砂っつーと・・・・・・確か、【守鶴】だったか?)

(【守鶴】?)

(デカイ狸だよ。 砂が昔から持ってる【尾獣】で、別名【一尾】)

先日、我愛羅を見た時に感じたチャクラを思い出したナルトが呟き、聞きなれない単語に白が首を傾げたので自来也が簡単な説明をした。

【尾獣】とは尾を持つ魔獣の事で、【一尾】とは【守鶴】の通称である。

尾柔はこの世に全部で九体存在し、尾の数によって呼び名が違う。

【九尾】こと玉藻も、その内の一体に数えられている。

しかし、本人曰く。

『はん! あんな低俗な連中と私を同列に扱うなど、侮辱もいいところだ!
 あの程度の木端如き、全部纏めて相手にしても5分で叩き潰せるわ!!
 そもそも木ノ葉が使役していた【九尾】! こいつは私の一族の恥さらしだったんだ!!
 私とは格も次元も品位も違うと言うのだ!! なのに人間共ときたら・・・(以後はただの愚痴なので省略)』

だそうである。

(じゃあこの子も、ナルト君のような能力者?)

(ん〜、妖魔の器にされた人間って意味じゃあ一緒だが、厳密には少し違うな。
 俺の場合は自分自身が妖魔のチャクラを持ってて、中に玉藻が居なくても能力使えるし)

(白。 もしもやり合う事になったら、砂に気を付けとけよ)

(砂・・・ですか?)

白は訝しげな顔をしたが、自来也は面白そうに口元を吊り上げただけでそれ以上何も言わなかった。

「木ノ葉・砂・雨・草・滝・音・月・・・今年もそれぞれの隠れ里の優秀な下忍がたくさん受験に来ている」

下忍達が静かになった所為か、カブトの声がよく響く。

「ま、先日まで存在すら知られていなかった月隠れの里。
 さらに近年誕生したばかりの小国である音隠れの里。
 この2つに関しては余り情報はないが――それ以外は凄腕ばかりの隠れ里だ」

「つまり・・・此処に集まった受験生は皆・・・」

「そう! リーや我愛羅のような・・・各国から選りすぐられた下忍のトップエリート達なんだ。 そんなに甘いもんじゃないよ」

緊張したサクラの声を引き継ぎ、カブトはそう締め括った。

途端に静まり返る下忍達。

だが、その前まで騒ぎに騒いでいた為、多くの注目を集めていた。

―あ・・・アイツってあの時の奴じゃん。

一瞬だけ視線を向けすぐにキ○消しで遊び始める人形おたくカンクロウ。

―・・・・・・・・・。

無言でサスケを睨んでいるキラーマシーン我愛羅。

―う、うずまき・・・隣りの女共はお前の何なんだ!?

ナルトの左右に立つ白とツクモに危機感を覚えている砂の最終兵器テマリ。

「・・・イジメが足りなかったんじゃないのか、ってゆーか足りてない! もう一度行ってこいリー!」

白の傍に居るナルトにドス黒い殺意を燃やす昨年度NO,1ルーキー。

―お、お姉様・・・・・・。

ハァハァしながら愛情たっぷりの視線を送る暗器使いテンテン。

・・・・・・どいつもこいつも己の欲望に忠実である。

しかしそんなダメ人間達の中に、シリアスな雰囲気を纏う集団があった。

先日、ナルト達を木の上から観察していた忍達だ。

まず黒髪を逆立てた少年。

名を【ザク】と言って、かなり自己顕示欲が強い。

次に包帯で顔を覆った少年。

彼の名は【ドス】。

口調や振る舞いは礼儀正しいが、性格はかなり残忍である。

そして最後に、黒髪の少女が【キン】。

かなり嫉妬深く、自分より持て囃される同性が許せない性質だ。

「聞いたか? 音隠れは小国のマイナーな隠れ里だとよ」

「心外だね」

「あいつら・・・ちょっと遊んでやるか・・・」

「・・・そうだね。 残りモノの忍みたいな言い方されちゃあね」

物騒な相談をする音忍達。

カブトの言っていた音隠れの評価が、余程気に入らなかったようだ。

「彼のデータに加えてあげようよ・・・音隠れの忍は・・・・・・それなりに残忍ってね・・・」

露出しているドスの右目が禍々しい光を宿した。

そして、その瞳の中に映っているのはカブトだ。

「・・・やりますか・・・」

その言葉を合図に、ドス・ザク・キンが散開する。

受験生が犇めき合っている空間からスペースを見つけ出し、流水のような滑らかな動きですり抜けていく。

だがカブトは、音忍達が床を弾いた瞬間に気付いていた。

振り向き様に笑みを浮かべる余裕さえある。

「・・・・・・」

白は殆ど条件反射で、懐に忍ばせた千本に手を伸ばした。

(まぁ待てって)

(ナルト君?)

(・・・お前が動く必要はねぇ・・・多分、あの兄ちゃん只者じゃねぇぞ)

(お手並拝見というわけですか・・・)

ナルトに止められ、すぐに懐から手を抜いた。

一方音忍達は、ターゲットを三方から取り囲み徐々に円を絞っていく。

やがて両者の間合いが近くなり、ドスが異様な長さの袖を捲くり上げた。

露になった右腕には、複数の穴が空いた奇妙な手甲が装備されていた。

カブトが努めて平静を装いながら距離を測っていると、

「!!」

ザクが頭上から襲い掛かってきた。

天井スレスレの位置から、刀身に穴の空いた独特なクナイを投げ付ける。

攻撃に備えていたカブトがすぐに後へ飛んだ為、放たれたクナイは床に刺さった。

しかし、それは囮だった。

カブトの眼前に、右腕を振り被ったドスが迫っていた。

常識で考えれば、手甲による直接打撃が来ると思う。

カブトもそう判断し、真横から迫る右腕をスウェーでかわした。

―かわした!

―見切れるスピードだ・・・。

サスケとサクラはそれぞれそう思ったが、直後。

「!」

カブトの眼鏡に細かい亀裂が走り、砕け散ったレンズが床に落ちた。

―成る程・・・こういう攻撃ね・・・。

「どういう事だ・・・かわした筈だ。 何故眼鏡が・・・」

サスケは困惑しながら、フレームだけになった眼鏡を外すカブトを凝視する。

「鼻先をかすめたんだろ。 けっ、粋がってるからだよ。 あのクソ」

その背後では、シカマルがかなりキツイ感想を述べている。

「!?」

カブトは突然、体に違和感を感じた。

視界が揺れ、両足の感覚が消える。

そして、決定的な異変は内臓に現れた。

胃の収縮に伴って、ドロドロした感触が食道を逆流し始める。

「うえぇっ!」

カブトは這いつくばり、床に胃液をぶちまけた。

「フン」

その様を、嘲笑を浮かべた音忍達が見下ろしていた。

「カ・・・カブトさん? 大丈夫!?」

駆け寄ったサクラが、背中を擦ってやる。

「・・・ああ・・・大丈夫さ・・・」

そうは言ったものの、カブトの顔色は優れない。

「なーんだ・・・大した事ないんだぁ。 4年も受験してるベテランのくせに・・・」

「アンタの札に書いときな。 『音隠れ』3名、中忍確実ってな」

―カブトは完全に見切っていた筈・・・なのに何故嘔吐した・・・・・・。

言い放つドスとザクを鋭い眼差しで見ているサスケ。

だが、その頬には焦燥を示すような汗が滲んでいる。

「リー。 今の技・・・どうだ?」

「見切りに問題はなかった・・・ネタがあるな」

漸く真剣な顔を見せたネジは、リーと共に音忍達の攻撃を分析していた。

―ああっ・・・お姉様・・・あなたはどうして、そんなにも私の心を惑わすのですか・・・。

しかしテンテンは相変わらずだった。

―・・・・・・フン・・・・・・。

我愛羅は表情を変える事なく、退屈そうにしていた。

どうやら音忍達には興味が湧かなかったようだ。

「うぅ・・・」

「ど、どうしたツクモ? 具合でも悪いのか!?」

耳を押さえて辛そうにしているツクモに、かなり焦った様子で自来也が尋ねた。

「なんか、耳鳴りがする」

「なぬ!? こうしちゃ居られねー! い、医者! 医者は・・・「少し黙ってて下さい」うぁぶればっ!?」

白はパニくる自来也の鼻っ柱に裏拳をぶち込み、ツクモと向かい合う。

「ツクモちゃん、それは何時からですか?」

「んーと・・・ついさっき」

「じゃあ、どうしてそうなったのか解ります?」

「あの人の手から変な音がして、それを聞いたからだと思う」

ドスに目を向けてツクモが言うと、白は唇に指の腹を当てて術の分析を始める。

―さっきの攻撃・・・。 あれはかなりの確率で音によるものだな・・・。
 空気を振動させて鼓膜や三半規管を直接攻撃したのであれば、カブトという人の嘔吐も説明が付く。

その分析はズバリ正解だった。

天才忍者の本領発揮である。

「・・・・・・・・・」

受験生達の注意が音忍に集中している中、ナルトは明後日の方向を睨み付けていた。

珍しく真剣な空気を纏い、引き締まった顔をしている。

視線を追って行くと、部屋の隅に音の額当てをした忍に行き当たる。

その忍は腕組みをしたまま壁に寄り掛かり、ナルトの方に含みのある笑みを向ける。

歳の頃は15〜18の間だろうか。

身長の割には肉付きが薄く、肌も冬場のように白く透き通っている。

しっとりとした水色の髪は真中で分けられ、左右に垂れた前髪の間から勝気な瞳が覗いている。

秀麗且つ中世的な顔立ちではあるが、その所為で性別の判別がかなり困難だった。

同じような紛らわしい白の性別を看破したナルトのセンサーも、今回は何故か反応しなかった。

もっとも反応していたとしても、冗談が入り込む余地はなかっただろう。

今のナルトは、それ程までに真剣だった。

『どういうつもりだ』

ナルトは声に出さず、唇だけを動かした。

次いで、音の忍に対し右手に持っていたクナイを掲げて見せた。

それは一般的な忍が使うものと違い、少し独特な形状だった。

通常の刃に加え小さな刃が根元から左右に突き出し、柄の部分には何かの術式が書かれた紙が巻いてある。

更に普通のクナイよりも少し重い。

そんなクナイが、騒ぎの混乱に乗じていきなり飛んできたのだ。

ナルトでなくとも不機嫌になるというものだ。

だが、クナイの持ち主である音の忍は、

『ほんの挨拶代わりだよ』

唇だけでそう返し、人垣の中に消えて行った。







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