NARUTO
〜九妖忍法帳〜 41話目




「眼つきの悪い君! ちょっと待ってくれ!」

『301』の教室に向かう途中。

幅の広い廊下を歩いていた7班は、頭上からの声に足を止めた。

声のした方に顔を向けると、真剣な表情をしたリーが立っていた。

「げっ!!」

「何だ?」

露骨な拒絶反応を示すサクラとは対照的に、サスケは何時も通りの態度で返事をした。

「今、ここで―――ボクと勝負しませんか?」

「勝負だと?」

「ハイ」

リーは素早い身のこなしで下へ飛び降り、サスケを指差した。

「うちはサスケ君。 君と闘いたい!」

言うや否や、構えを取る。

体は半身、左足を下げ右足を前に出すサウスポースタイル。

右肩を若干下げ、左腕を胸の前で水平に構えている。

「あの天才忍者と謳われた一族の末裔に・・・ボクの技が何処まで通用するのか試したい・・・それに・・・」

いい感じで盛り上がってきたと思ったら、突然リーが頬を赤らめた。

「!」

自分が熱い視線に晒されていると気付き、サクラは一瞬怯えた表情を見せた。

だが、リーはじ〜〜〜と食い殺すような視線を送り続け、悩ましげなウインクをした。

「イヤ―――!! あの下睫毛がイヤ―――!!!」

涙ながらの絶叫。

防衛本能の表れなのか、両腕を突き出して壁にしている。

「髪型もイヤ・・・眉毛もゲジゲジ・・・」

サクラは両腕を抱きながら、ブルブルと身体を震わせた。

だがリーはしつこか・・・もとい、諦めなかった。

「フッ・・・天使だ、君は!!」

レトロな口説き文句。

そして、駄目押しの投げキッス。

「キャ―――!!」

サクラは精神的ダメージよりも、肉体的ダメージを選んだ。

鮮明なイメージとなって飛んで来る投げキッスを、後頭部を床に叩き付けてでも回避した。

―マ・・・マジ危ねェ・・・。

頭にたんこぶが出来てピクピクと痙攣しながらも、サクラは心の底から安心していた。

「アンタ! 変なモン投げんじゃないわよ! なんか命懸けで避けちゃったじゃない!!」

「そんなにイヤがらなくても・・・・・・」

怒鳴られたリーは、残念な表情を浮かべていた。

「『うちは』の名を知って挑んで来るなんてな・・・はっきり言って無知な輩だな・・・お前・・・」

シリアスな台詞を口にするサスケ。

しかし、隣りで内なるサクラを解放するサクラと床に転がっているナルトの所為で台無しだ。

「この名がどんなもんか・・・思い知るかゲジマユ」

身の程知らずを叩き潰してやろうと、サスケは眼光を鋭くする。

「是非! (・・・ついてる。 NO.1ルーキーと早速手合わせ出来るなんてな)」

一方リーは、武者震いを堪えながら、構えを取った。

その構えは、先程とは別の代物だった。

力みの感じられない自然体のまま、右の掌を上に向け左腕を後ろに回す独特の構え。

これはリーの師であるガイの得意とする構えである。

―そして証明してやります・・・ガイ先生!!

「ちょい待ち」

「「!」」

睨み合っていたリーとサスケは、横から割り込んだ声に気勢を削がれる。

「グ・・・あの女、思っクソど突きやがって・・・」

目を覚ましたナルトが、愚痴を垂れながらボキボキ首を鳴らす。

そして緩慢な動作で立ち上がり、拳を突き出して見せた。

「うちはの前に俺と遊ぼうぜ」

だが、リーの眼はサスケから動かない。

「ボクが戦いたいのは君じゃない。 『うちは』です」

「まぁまぁ。 前座の余興だと思って少しだけ・・・なッ!!」

ナルトがいきなり突っ掛けた。

一瞬で懐に潜り、速度だけを重視した右の突きを顔面に飛ばす。

「!?」

予想外のスピードに面食らったリーだったが、顔の前に構えていた右手で拳を払う。

初弾を流されたナルトは、体勢を崩しながらも次の動作に移った。

二撃目は、首を狙った手刀。

リーが再び捌こうと腕を上げると、ナルトはニヤリと笑った。

「!」

接触の直前で手首が返り、リーは手首を掴まれる。

ナルトは捉えた腕をすぐさま自分の方へ引っ張ると、伸び切った関節に肘を垂直に落とした。

しかしリーは掴まれた腕を無理に抜こうとはせず、逆に密着する事で自らの肘を跳ね上げた。

そして落下してきたナルトの肘の下、筋肉の隙間にカウンターで肘を合わせた。

「づぁ!?」

ナルトは掴んで腕を放し、大きく間合いを取った。

「つ〜〜!」

涙を滲ませながら、肘に走る電流に苦しむ。

なんというか間抜けな図だ。

「宣言します! 君達はボクに絶対敵いません。
 何故なら、今ボクは木ノ葉の下忍で一番強いですからね・・・」

―やっぱコイツ・・・強い・・・。

構えを戻したリーを見て、顔を強張らせるサクラ。

「君、まだやりますか?」

「うんにゃ、止めとくわ」

他の者達が拍子抜けする程、ナルトはあっさりと退いた。

―木ノ葉の下忍って結構レベル高ぇんだな。

単にデータが採取の為に戦ったらしい。

新里のアカデミーがどうの、下忍育成のカリキュラムがどうのと呟いているあたり、さっき言った通り続行する気はゼロのようだ。

「では、サスケ君。 改めて・・・」

リーの眼が再びサスケを捉えた。

―コイツ、オレの蹴りを腕で止めやがった・・・。
 あれは人間技じゃない! どんな忍術を使ったか知らねェーが・・・。

『201』の教室での一件を思い出し、サスケの頬に汗が滲んだ。

「面白い、やってやる」

だが、リーの力を見極める為。

さらに自分の力量を試す為にも、逃げるわけにはいかなかった。

「あ!」

サクラが壁時計を見て声を上げた。

「止めて、サスケ君! 受付の時間まで後30分もないのよ・・・」

「5分で終わる・・・」

「サスケ君!!」

サクラの制止に耳を貸さず、サスケはリーに向かって走り出す。

―来た!! ・・・・・・・・・ごめんなさい、ガイ先生・・・。
 禁を破る事になるかもしれません。 あの技を使う事になるかも・・・!

リーは決意を胸に秘め、サスケを迎え撃つ。

【木ノ葉旋風!!】

「!!! (上!!)」

文字通り風の如き速さで繰り出された後廻しが、咄嗟に屈んだサスケの黒髪を掠めていった。

だがリーは初撃の勢いを利用して、遠心力の効いた下段回し蹴りを放つ。

―くっ! 避けきれねェ・・・ガードだ!

回避出来ないと悟ったサスケは、交差した両腕で頭を庇い衝撃に備えて歯を食い縛った。

だがリーは、蹴りが触れる寸前に右手で印を切った。

「!! (何・・・!?)」

リーの蹴りが、防御をすり抜けて顔面を捉えた。

サスケの身体は放物線を描き、地面に叩き付けられる。

「サスケ君!!」

―ど・・・どういう事だ・・・!?

口から血を流すサスケに、サクラの悲鳴は届いていない。

―今・・・確かにガードした筈なのに・・・。

「ぐっ! (ガードをすり抜けやがった・・・!? 何だ・・・忍術か・・・それとも幻術・・・!?)」

傍で全体を見ていたサクラですら理解出来なかったのだ。

直接喰らったサスケの困惑は、それ以上に激しいものだろう。

―やはり立ってきますか!

リーは相手が起き上がるのを確認し、背筋が震えるのを感じた。

―フ・・・まあ良い・・・こうなったら『アレ』を使い慣らしとく良いチャンスだ・・・・。

―! えっ!? ま・・・まさかコレって・・・写輪眼!!

獰猛な笑みを浮かべたサスケの瞳が紅く変色し、瞳孔の周りに巴の模様が浮かんでいた。

―・・・サスケ君何時の間に・・・何でサスケ君の眼に・・・しかも両目・・・!

波の国で発現した写輪眼の存在を知らなかったサクラは、瞬きさえ忘れてそれに魅入っていた。

―アレが写輪眼ですか・・・。

リーは予め予想していたらしく、さして動揺せずサスケを睨み返した。

―アハ・・・やっぱり凄い、サスケ君って!
 これがカカシ先生のと同じ血継限界なら・・・これでゲジマユの術が見抜ける!!

写輪眼の能力は相手の術を瞬時に見抜き、細部に渡ってコピーする。

かつてカカシが再不斬の術を所見で看破したのを思い出し、サクラはサスケの勝利を確信した。

―・・・うちはの負けだな。

ナルトは腕を組み、僅かに目を細めた。

確かにうちは一族の持つ写輪眼は、数ある血系限界の中でも最強クラスの能力だ。

だが如何に術式を見破ったところで、真似られない術も存在する。

例えば、再不斬の【大瀑布の術】やナルトの【螺旋丸】。

これらをサスケが写輪眼でコピーしたとしよう。

その場合、術の理論は完璧に把握出来る。

だがどちらの術も、サスケには発動不可能である。

何故なら、【大瀑布の術】を放つにはチャクラが足りず、螺旋丸を撃つにはチャクラコントロール技術が不足しているからだ。

要するにどれだけ知識だけを持っていようが、術者が実践出来るだけのスキルがなければ宝の持ち腐れなのである。

サスケとサクラはそこの所を勘違いしている。

同じ写輪眼使いでも、カカシとサスケでは技量に差があり過ぎるのだ。

―幻術か忍術か・・・何れにしても何らかのマジック・・・それを暴いてやる!!

―サスケ君、ドンドン強くなってく感じ・・・流石うちは一族!
 そうよね・・・サスケ君がこんな奴に負ける筈ないもんね!

写輪眼を発動させたサスケが、サクラの期待を背に疾走する。

しかしリーの放った一撃で、2人の思惑は完膚なきまでに粉砕された。

―え!? 写輪眼が・・・・・・!!

真下から顎を蹴り上げられたサスケが、血飛沫を吐きながら宙に舞う。

―写輪眼で見切れねェーなんて・・・まさか・・・コイツの技は・・・!?

「そう・・・ボクの技は忍術でも幻術でもない」

サスケの心を見透かしながら、リーは床に両手を突いて膝を曲げた。

短距離のスタートに似た姿勢から、全身のバネを用いて地面を弾く。

そのあまりのスピードに、サクラの眼にはリーが消えたように見えた。

「!! くっ! 影舞葉・・・!!」

空中で背後を取られ、サスケは歯噛みする。

ちなみに『影舞葉』とは、木ノ葉に存在する体術の一つ。

敵を木の葉に見立て、その影を舞うかの如く動き、追跡する術である。

「そう! ボクの技は単なる『体術』ですよ・・・・・・サスケ君。 ・・・にわかに信じられないかもしれませんが・・・」

真後ろから囁かれる言葉に、サスケの瞳が激しく揺らぐ。

「写輪眼には、幻・体・忍術の全てを見通す能力があると言われます。
 確かに印を結びチャクラを練ると言う法則性が必要な忍術や幻術は、見破って確実に対処できるでしょう。
 しかし、体術だけはちょっと違うんですよ・・・」

「ど・・・どう言う事だ」

説明を聞くに連れて、焦りの色が更に濃くなっていく。

「例え写輪眼でボクの動きを見切っても、君の身体はボクの体術に反応できるスピードを備えていない・・・。
 つまり、眼で分かっていても身体が動かないんじゃどうしようもないワケです」

リーの両手に巻かれた包帯が解ける。

「知ってますか? 強い奴には天才型と努力型がいます。
 君の写輪眼がうちはの血を引く天才型なら・・・ボクは、ただ、ひたすらに体術だけを極めた努力型です」

こうしている間にも包帯はどんどん解け続け、その長さを増していく。

「言ってみれば、君の写輪眼とボクの究極の体術は最悪の相性・・・。
 そして、この技で証明しましょう。 努力が、天才を上回る事を・・・!」

―何をする気だ・・・!?

サスケの焦りがピークに達したその時。

「(え?) アレは!!」

いきなり飛んで来た風車が包帯の端を壁に縫い付け、リーの動きを封じた。



















「そこまでだ、リー!」

聞こえたのは、恐ろしく野太い声だった。

出所に目をやると、でっかい海亀が居た。

首に額当てを下げているので、多分忍亀だろう。

「くっ」

楔を打ち込まれた包帯で制動が掛かり、リーはバランスを崩す。

だが、空中で回転しながらキレイに着地した。

―な・・・何だ・・・どうした?

サスケはリーと対照的に、体勢を崩したまま落下する。

「サスケ君!!」

それを見てサクラが咄嗟に駆け出し、落下地点へ滑り込んだ。

ギリギリで受け止められたお陰で、サスケは特に怪我をする事もなかった。

「大丈夫!? サスケ君!! (動揺してる・・・サスケ君が受け身も取れないなんて・・・!)」

すぐ傍で叫ぶサクラの声も聞こえない程、サスケは憔悴していた。

切り札である写輪眼が通じなかった事により、精神の方に深刻なダメージを受けたようだ。

―この程度で凹んでたら、この先やって行けねぇぞ。

ナルトは深い溜息を吐くと、サスケに興味を無くしてリーの方を見た。

「み・・・見てらしたんですか・・・?」

リーは床に傅いて、亀にビクついている。

「リー! 今の技は禁じ手であろうが!」

「す・・・すみません、つい・・・」

全面的に自分の非を認めるも、亀は許してくれない。

亀とは思えない鋭い眼光で射抜かれ、リーはビクッとする。

「し・・・しかし、勿論ボクは『裏』の方の技を使う気はこれっぽっちも・・・」

「馬鹿め!! そんな言い逃れが通用すると思うか!」

怒声に萎縮仕切っているリーは、さっきとはまるで別人だ。

そして、ナルト達はまるっきり蚊帳の外である。

「忍が己の技を明かすと言う事はどういう事か、お前も良く知っている筈じゃ・・・」

「オ・・・押忍ッ!」

―くっ! こんなふざけた奴らにオレは・・・。

口元を擦りながら、サスケは悔しげにリーを睨み付けた。

「覚悟ができたであろうな?」

「オ・・・オッス・・・」

観念したようにオカッパ頭が垂れ下がると、亀の視線が自分の甲羅に向いた。

「ではガイ先生・・・お願いします!」

甲羅の上に、いきなり白煙が巻き起こる。

そしてその中から現れたのは―――。

「まったく! 青春してるなー! お前らーっ!!」

変なポーズを取った害、もといガイだった。

あと、何故か雪も一緒だ。

細かく刻んだ色紙を入れたざるを持ち、それを宙に巻いてガイを飾り立てている。

「何時見てもきっついな・・・」

ドン引きしながら呟くナルト。

きついと言うのがガイの容姿を指しているなのか、雪の趣味を指しているのかは謎である。

「はっ!?」

紙吹雪の中で輝くガイに夢中になっていた雪は、不意にナルトと目が合った。

「み、見てたんですか・・・」

「ああ、最初からな」

呆れたような、それでいて諦めたような、とても生温い眼差し。

雪は頬を染め、ぴったりと寄り添うようにガイの影に隠れた。

「激濃ゆ・・・激オカッパ・・・しかもあの人、男の趣味悪すぎ・・・」

サクラが呆然と呟いた。

異性としてガイを受け入れられず、同性として雪を理解出来なかった。

「・・・・・・痛々しいな」

「コッ! コラ―!! 君達! ガイ先生と雪さんを馬鹿にするなー!!」

「馬鹿にされたくなきゃ俺の視界に映らない所でやってくれ」

「なにお〜〜〜!」

失礼と言えば失礼なコメントに拳を震わせムキになるリーだが、

「・・・リー」

「あ! 押忍ッ!」

ちょいちょいと手招きされガイの方を振り返る。

すると。

「バカヤロー!!」

「ふぐっ!!」

大きく振り被った体勢から繰り出された拳が横っ面に食い込んだ。

「え!!?」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

急な展開に着いて行けず、顔を引き攣らせる外野。

「お前って奴ァ・・・お前って奴ァ・・・」

「せっ、先生・・・先生・・・。 ボクは・・・ボクは・・・」

大量の涙を流して見詰め合う濃い男達。

はっきり言って暑苦しい。

「もういいリ―! 何も言うな!!」

「先生!!」

グワシ!という効果音付きの抱擁。

「青春じゃ・・・! 甘酸っぱい青春じゃ・・・!」

「うぅ・・・ガイ様もリー君も輝いてます〜!」

もらい泣きする亀と雪。

「うわああ・・・・・・」

―あんな奴にオレは・・・。

―・・・・・・アホだ。

7班は完璧に蚊帳の外。

両者の間に存在する微妙〜な温度差と微妙〜な距離は、多分一生埋まらない。

「そう・・・これこそ青春だ!!」

「先生〜!!」

「いいんだリー! 若さに間違いってのは付き物なんだ・・・」

「優しすぎます・・・先生っ!!」

外野との溝が深くなるのも構わず、熱血師弟はくさ過ぎる展開に酔い痴れる。

「だが、ケンカをした挙句禁を破ろうとした罰は―――建前上、中忍試験後にでも受けて貰うぞ?」

「ハイッ!!」

「演習場の周り500週だ!!」

「押忍ッ!!」

かなりムチャクチャな内容だが、リーは迷わず敬礼する。

冗談抜きに実行する気である。

「馬鹿ね・・・」

―あんな奴にオレは・・・。

―せっちゃんに聞きたい事あんだけど・・・・・・あの様子じゃ話し掛けるだけ無駄か。

呆れるサクラ、鬱になるサスケ、妥協するナルト。

思いは人それぞれである。

―あの子達は確か・・・カカシの・・・。

「いや〜・・・こっち見てる」

視線を感じ、中々失礼な態度を見せるサクラ。

「それより、カカシ先生は元気かい? 君達!」

「カカシを知ってんのか?」

初対面でタメ口のサスケの態度も失礼と言えば失礼だが、ガイは気に留めず逆に笑ってみせた。

「知ってるも何も・・・クク・・・」

突然ガイの姿が消えた。

ずっとガイを見ていたにも拘わらずだ。

サスケは瞬きをしたわけでも、注意を逸らしたわけでもない。

なのに、突然見失った。

―え!?

「人は僕らの事を『永遠のライバル』と呼ぶよ・・・」

「「!!」」

声を掛けられ、漸く存在を認識出来た。

―コイツ・・・。

「い、何時の間に」

「50勝49敗。 ・・・カカシより強いよ、オレは・・・」

言いながら、振り向いたサスケ達に真っ白い歯を光らせるガイ。

その顔は自信に満ち溢れている。

―そ・・・そんな・・・速い!! スピードならカカシ以上だ!! ・・・人間か・・・!?

ガイの実力の一端を垣間見、思わず身を震わせるサスケ。

だが最後の感想はいくらなんでも失礼である。

もし雪に聞かれでもしたら、今この場でミンチにされるだろう。

確実に。

「どうです!! ガイ先生は凄いでしょう!!」

拳を握り締めて師の偉大さをアピールするリー。

「きゃあん♪ 何時もながら素敵過ぎます〜♪」

想い人の勇姿にトリップする雪。

「今回はリーが迷惑を掛けたが、オレの顔に免じて許してくれ。 この爽やかフェイスに免じてな・・・」

―あのカカシより上だと・・・ちくしょう・・・コイツ、ハッタリじゃない・・・。

サスケは下を向いて歯噛みする。

次々と現れる実力者達の前に、自分の力に対する自信を失い掛けていた。

「リーも君達も、そろそろ教室に行った方がいいな」

ガイはそう言って、クナイを投げた。

視線はナルト達に向けたままだったが、手元を放れたクナイはリーの包帯を貫いている風車を正確に弾き飛ばした。

「じゃ、頑張れよリー!」

「私も応援してますからね〜」

「押忍」

瞬身の術で消えるガイと雪。

ガイはともかく、雪は何をしに来たのか分からない。

「サスケ君・・・最後に一言言っておきます」

それを見送ったリーは、解けた包帯を巻き直しサスケに顔を向ける。

「さっきボクはウソを言いました。 恐らく木ノ葉の下忍で最も強い男は、ボクのチーム内にいる。
 ボクはそいつを倒す為に出場するんです。 そして、君も・・・ターゲットの一人・・・試験! 覚悟しといて下さい!」

言い終わると同時に上の階に飛び上がり、そのまま去っていくリー。

サスケは何も言い返せないまま、拳を握り締めていた。

「サスケ君・・・」

「おら、凹んでねぇでとっとと行くぞ」

心配するサクラとは対照的に、ナルトは足早に歩き始める。

「ちょっとナルト!」

「ヘタレに構ってる時間はねぇんだよ。 それとも慰めの言葉でも掛けてろってか?」

「くっ、次はあいつをのしてやる・・・」

サスケは辛うじて言い返した。

だが敗戦のショックが強すぎて、言葉に覇気が感じられなかった。

「分かってんなら縮こまってんじゃねぇよ。 今お前が言った通り、やられたらやり返しゃいいんだよ」

「ナルト・・・」

「・・・・・・・・・」

サクラもサスケも驚いたようにナルトを見詰めた。

「負けたのが悔しかったらあいつより努力して、次はぶちのめしてみろ」

それだけ言って再び歩き始めるナルト。

サスケは暫し俯いていたが、やがて拳に力を込めた。

「フン、面白くなってきたじゃねーか・・・中忍試験。 この先がよ!」

「うん」

サスケの吹っ切れた表情に、サクラは喜びを顕にして相槌を打った。

―手間掛けさせんなボケが。

一方ナルトはこれである。

珍しく励ましたと思ったら、試験に出れなくなるのが嫌なだけだった。



















―受付前―

「・・・そうか、サクラも来たか・・・・・・」

廊下の突き当たりにある『301』の扉の前に、両手をポケットに突っ込んだカカシが立っていた。

「中忍試験・・・これで正式に申し込みが出来るな・・・」

「・・・どういう事・・・?」

カカシの台詞にサクラが逸早く反応を示した。

「実の所この試験。 初めから3人1組でしか受験出来ない事になってる・・・」

7班の中でその事を知っていたのはナルトだけだ。

「え? でも先生、受験するかしないかは個人の自由だ・・・って。 ・・・じゃあ、嘘吐いてたの?」

「・・・もしその事を言ったなら、サスケやナルトが無理にでもお前を誘うだろう・・・・・・」

カカシはそう言って、ナルト達を順番に見る。

普段仕事に熱意の欠片も見せない男だが、一応部下の性格は把握しているらしい。

「例え志願する意思がなくてもサスケに言われれば・・・お前はいい加減な気持ちで試験を受けようとする。
 ・・・・・・サスケと・・・ま! ナルトの為に・・・ってな」

「・・・じゃ、もしサスケ君とナルトの2人だけだったら?」

「此処で受験は中止にした。 この向こうへ行かす気はなかった・・・」

それが冗談でないと言う事は、カカシの真剣な表情からも窺える。

「だが、お前らは自分の意思で此処へ来た、オレの自慢のチームだ。 さあ、行って来い!」

一転して笑顔を向ける。

「よし!! いくか!!」

扉を開け放ち試験に向かう部下達。

カカシにはその背中が、前よりも大きく見えたのだった。



















「な・・・何よ・・・これ・・・」

部屋に入ったサクラの第一声はそれだった。

サスケも同じ意見である。

口には出さなかったが、くっきり顔に出ている。

―な・・・何て人数なの・・・まさか、これ全員・・・受験生?

部屋の人口密度は異常なまでに高かった。

先日テマリに各国の忍が集まるとは聞いていたが、まさかこれ程の人数とは思いもよらなかった。

しかし、これでも減った方である。

志願者の数だけなら、この倍は下らなかった。

コテツやイズモ達がやっていたように、試験官達が事前に足切りをしなければ、更に多くの受験者達が集まっていただろう。

―・・・何か・・・みんなスゴそうな奴らばっかり・・・。

サクラはオデコに嫌な汗を滲ませ、ゴクリと喉を鳴らした。

「あら、遅かったわねサクラー!」

聞き覚えのある声がしたと思ったら、いのを先頭にシカマルとチョウジ・・・10班がやって来た。

「うげっ! いのッ!」

さっきまでの緊張が何処かへ行ったのか、素早い動きでサスケをカバーするサクラ。

しかし、いのはそれを完璧にシカトしてサスケに近寄った。

「サスケ君退院出来てよかったわねー」

「うっ」

いきなり胸を押さえ、膝から崩れるNO,1ルーキー。

記憶から消し去った筈の光景が過ぎり、古傷が痛み出したようだ。

「ナルト、ちょっといいか・・・」

シカマルがナルトの肩に手き、周りに聞こえないように小声で囁いた。

「どうしたんだ・・・顔色悪ぃぞお前」

「いいから、ちょっとこっち来てくれ・・・」

人に聞かれたくない話なのか、ナルトの背中を押して同期達の輪から離れて行った。

シカマルの様子はかなり深刻だ。

「・・・何? どうしちゃたの、シカマルの奴?」

「さぁ? 何か知らないけど、この間から様子が変なのよねー」

普段は仲が悪いのに、今回は揃って首を傾げるくノ一2人。

「ひゃほ〜みーっけ!」

とそこへ、騒がしい声が加わる。

「こ・・・こんにちは・・・」

キバとヒナタ、8班である。

だが、何故かシノの姿が見当たらない。

「シノはどうしたのよー?」

「シノ君は・・・その・・・・・」

いのが首を傾げると、ヒナタは歯切れ悪く視線を泳がせた。

「小便だってよ」

代わりにキバが答える。

それもかなりでっかい声で。

「あう・・・」

「せめてトイレって言いなさいよ。 ったく、デリカシーないわねー」

「ははは、悪ぃ悪ぃ」

頬を染めた女性陣からのクレームが殺到し、キバは拝むように片手を上げて謝った。

「けど、シノの奴も人並みに緊張するんだな」

「「それはないと思う(わ)よ」」

キッパリ言い切るいのとヒナタ。

普段シノをどう思っているかがよく表れた台詞である。

「そ、そうか・・・・・・けど、お前らの所も1人づつ足りねーじゃんか」

キバは微妙な表情で相槌を打ち、サクラといのを見た。

「ナルトとシカマルなら・・・ほら、あそこ」

サクラが教室の隅を指差す。

指先に釣られて視線を向けたキバは、2人のやり取りに首を傾げた。

シカマルは派手なボディランゲージを用い、懸命な表情で何かを訴えている。

ナルトは真剣な顔で何度も頷き、諭すように・・・そして励ますようにシカマルの肩を叩いている。

多分会話の内容は、見舞いの時に見付けてしまった例の写真についてだろう。

まぁともかく、2人はそんなやり取り続けた後、力強く抱き合いお互いの背中を叩き合った。

先程のガイとリーのように。

「何してんだろうね、2人共?」

「さ、さぁ・・・・・・まさか2人共・・・あっちの趣味じゃないわよねー・・・」

当人達の預かり知らぬ所で、要らぬ誤解が生まれていた。

「よ、久し振りだな」

悩み相談を終了させ、ナルトが戻ってきた。

後に続くシカマルの顔も、さっきと違って幾分晴れやかだ。

目尻が少し濡れているのは、多分気の所為だろう。

「何話してたんだ?」

「まぁ・・・ちょっとな」

キバの問いを苦笑で誤魔化すナルト。

内容が内容だけに、秘密は厳守するつもりらしい。

「な〜んか怪しいわねー・・・・・・」

「ま、まぁそんな事よりだ。 シノが居ねぇけど、どうしたんだ?」

疑惑の眼差しを向けてくるいのからあからさまに目を逸らし、話をすり替えようと試みる。

「トイレだってさ」

菓子を頬張りながらチョウジが言う。

「う〜ん、けどそろそろ戻ってきてもいい頃なんだけどな」

キバは教室の時計を見上げ、愚痴っぽく溢した。

ちなみにシノがトイレに行ってから、15分前が経っていた。

「あいつが迷子になる筈もねーしな・・・」

「・・・多分気張ってんだろ?」

下品且つ失礼な事を言いながら、キバとナルトが大声で笑う。

だが。

「オレは大などしていない」

ちょうど戻ってきていたシノが、音もなく背後に現れた。

「何だよ、随分と遅かったじゃねーかシ・・・・・・ノ?」

キバは振り向いた瞬間、ピタリと動きを止めた。

さらに、他の者達も同様に言葉をなくした。

そして、ゴシゴシと激しく目を擦り、何度も瞬きを繰り返した。

「あの・・・・・・・・・シノ君?」

一番最初に復活し、控え目に挙手をしたのはヒナタだった。

「なんだ」

シノは何時も通りのポーカーフェイスを貫き、サングラスの下で黒目を動かした。

ナルトを除く全てのルーキーが顔を見合わせ、小さく頷き合う。

と。

「「「「「「「・・・・・・誰?」」」」」」」

シノと手を繋いでいる少女を指して一斉に尋ねた。



















―時間は少し前に遡る―

トイレから出てきたオレは『301』の教室へ向かう途中、廊下の隅に蹲る少女を見付けた。

「ひっく・・・ひっく」

―・・・・・・ナルト?

それは明らかに少女であり、初見であった筈。

だがオレには、膝を抱えてしゃくりあげる金色がナルトと重なって見えた。

「どうした、何故泣いている」

目の前で足を止め、普段と変わらない無機質な声で尋ねる。

その時、あまり人と接点を持ちたがらない自分が進んで声を掛けている事に、僅かな驚きと困惑を覚えた。

だが少女はそんなオレの想いを他所に、ピクリと肩を震わせ勢い良く顔を上げた。

「父上!」

「!?」

そして、満面の笑みを浮かべて思いっきり飛び込んできた。

いや、突っ込んできたと言う方が適切だろう。

「父上〜! 父上〜!」

少女は華奢な体からは想像も出来ない力で、オレの体を締め付けた。

「ま、待て・・・オレはお前の父上ではない」

「ふぇ?」

強烈な圧迫感に呼吸が止まり掛け、擦れた声で呟くのがやっとだった。

「とりあえず・・・離れてくれ」

そう言うと、少女は一言『ごめん』と呟いて腕の力を緩めた。

怪力から解放されたオレは大きく息を吐き、締め上げられた腹を擦った。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

半歩の間を置いて向かい合い、微妙な沈黙が流れる。

「・・・何故、泣いていた・・・?」

先に口を開いたのはオレだった。

ずり下がったサングラスを元に戻し、薄紫の瞳をしっかり見据えて答えを待つ。

すると少女は弱々しく俯き、小さく鼻を鳴らした。

「トイレに行ってたら、道がわからなくなったの」

「受験者か?」

「・・・うん」

3階に居る時点でまず間違いないのだが、あまりに忍らしくなかったので思わず聞いてしまった。

オレは内心らしくないと自嘲しながら、服の袖で少女の目元を拭った。

「・・・では次の質問だが。 ・・・何故、オレを父上と・・・?」

「・・・匂いがしたの・・・父上の匂いが・・・」

今度は自分で涙を拭い、ほんの少し笑った。

「・・・父上の名は?」

オレと同じ匂いのする父上とやらに興味が湧き、再び問う。

自分の鉄面皮は相変わらずだったが、それは少女の口から飛び出した言葉で大きく歪む事になった。

「・・・・・九妖」

「!!」

意外すぎる名前だった。

そして、様々な意味で驚きだった。

まず、少女の父親が九妖という事と、九妖にオレと同じ位大きな子供が居た事に単純に驚いた。

しかし、それ以上に驚いたのは少女のずば抜けた嗅覚だ。

確かにオレと九妖は師弟関係にあり、頻繁に会っていたので匂いが移っても不思議ではない。

だが、最近は中忍試験の準備などで多忙だった為、最後に会ったのは数日前だ。

そんな何日も前の微かな残り香を正確に嗅ぎ分ける芸当など、犬塚一族位しか思い当たらない。

ならば、この少女の嗅覚は少なくともキバと同等という事になる。

人前で涙を見せる辺り精神面は未熟のようだが、潜在的には父の才能をしっかり受け継いでいるようだ。

「父上を知ってるの?」

思案に没頭しているオレの様子をどう受け取ったのか、少女は不安げに尋ねてきた。

「ああ、いつも世話になっている」

笑い顔の一つでも作れればいいのだろうが、生憎生まれつきの性分の所為か不得手だ。

ならば少しでも安心させようと、かなりギクシャクしながら頭を撫でた。

美しい金の髪はさらりとした感触で、指の間を滑らかにすり抜けて行った。

「ん・・・」

少女は猫のように目を細め、表情を和らげた。

「よければ、仲間の所まで連れて行くが・・・・・・どうする?」

「いいの?」

「構わない。 何故なら、オレも目的地は同じだからだ」

本当に気紛れが続くものだと思いながら、廊下を歩き始める。

「ありがとう」

その声が聞こえると同時に、肌にヒヤリとしたものが触れた。

掌に目を向けると、少女が当然のようにオレの手を握っていた。

内心、かなり焦った。

だがこの時ばかりは、自分の鉄面皮に感謝した。

「ねぇねぇ、名前は何ていうの?」

「・・・・・・シノだ。 ・・・油女シノ。 ・・・・・・お前は」

「えへへ、私はね・・・」



















―現在―

―・・・つ、ツクモ・・・!?

あのシノが女の子、それも飛び抜けた美少女と手を繋いでいる。

絶対に予想出来ない・・・というか予想しようとも思わない事実が、ルーキー全員を心底仰天させた。

だがそんな中にあって、ナルトの驚きはレベルが違っていた。

何故なら、シノと一緒に現れたのはツクモだったのだ。

長かった髪を短く切り揃え、普段着ている丈の短い浴衣ではなく自分と同じ袴姿をした愛娘。

それを見て、ナルトは思う。

何故こんな所に来ているんだツクモ。

わざわざ応援に来てくれたのか?

だったら嬉しいなぁ・・・絶対優勝するからな。

・・・・・・・・・って待て。

何で白と同じ額当てをしているんだ?

まさか、白と組んで中忍試験に出場する気で居るのか?

いかん、いかんぞツクモ。

俺はお前に危ない事をさせたくないんだ。

お前には、争いと無縁の世界で生きて欲しいんだ。

もし出場する気で居るのなら、頼むから考え直してくれ。

いや、マジホントに危ねぇから、玉藻の所で大人しくしててくれ。

そうだ、玉藻! 玉藻は何してやがるんだ。

あと、家のバカ共も。

日頃馬鹿の一つ覚えみたいに『ツクモ、ツクモ』って言ってるくせに、肝心な時に居やがらねぇ。

使えねぇ、どこまでも使えねぇよ本当に。

次に顔合わせたらガッツリと思い知らせてやっから覚悟しとけよ。

ってんな事言ってる場合じゃなかった。

今はツクモだツクモ。

・・・・・・・・・・・・ん? んん〜?

時にツクモ、何故シノと手を繋いでいるんだ?

そして何故微妙に恥かしそうに頬を染めてるんだ。

好きなのか? デキているのか? 何処まで逝ったんだ?

Aか? Bか? まさかCまで逝ってるのか?

いくら何でも早過ぎるぞツクモ。

お前を嫁に出すなんて・・・まだ心の準備が・・・。

いや、ツクモが選んだ男なら何も言うまい。

その代わり、必ず幸せになるんだぞ。

ああ、孫が生まれたらなんて名前にしようかなぁ・・・。

と、衝撃が強すぎた為に思考が逸れに逸れて、最早現実逃避にまで発展していた。







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