NARUTO
〜九妖忍法帳〜 39話目
ルーキー達の合同演習から暫く経ったある日の事。
「やー諸君、おはよう!! 清々しい朝だな!」
「「「・・・・・・・・・」」」
朝っぱらから嫌なものを見た。
嫌なものと言うか、この上なく不吉なものを見た。
本日の任務のために指定された待ち合わせ場所にやって来た7班の3人だったが、彼らはそこで信じ難い光景に出会った。
なんと、あの遅刻魔が遅刻しやがらなかったのである。
カカシの人となりを知るものならそれだけでも卒倒ものの事実なのだが、更に驚く事にカカシの手に竹箒と塵取りが握られている。
どうやら随分前に待ち合わせ場所に着いたらしく、付近の清掃活動をやっていたような形跡がある。
背後にある成人女性がすっぽり入れそうな竹籠と、その中に収まっている空き缶やゴミが山がそれを物語っていた。
・・・先日四代目にぶちのめされ、三日三晩悪夢に魘されたのが相当効いたらしい。
まぁ効果がいつまで続くかはわからないが。
「どうしよう、私傘持ってきてないわよ」
「傘じゃ役に立たねぇだろ。 用意するなら雨合羽だよ」
「大雨ぐらいで済むと思ってるのかお前ら。 きっと今夜辺り嵐が来るぞ」
「大変! 非常食買いに行かなきゃ! あと蝋燭と懐中電灯も!」
「俺も家帰って雨戸打ち付けとくか」
「そうだな・・・オレもそうする」
「あの・・・君達?」
「「「じゃあ、そう言うことで」」」
任務どころではないとばかりに家に帰ろうとする下忍達。
「ちょ、ちょっと待ちなさいって! いくらなんでもその反応はあんまりでしょーが!」
カカシは彼らの説得に3時間を要し、任務が始まったのは正午に近かった。
―任務終了後―
「く―――っは〜〜〜!! 本日の任務終了〜! ってことでお疲れ!」
シュビと片手を挙げ、さっさと帰ろうとするナルト。
使者として大名の元に送っていた夜空が里建設の許可を取り付けて戻ってきたため、工事の手続きやらなにやらで忙しいのだった。
―ちくしょう! イラつくぜ・・・。
外にはオレより強い奴がゴロゴロいやがるってのに、こんな任務ばかりチンタラと・・・。
スキップしながら去っていくナルトの背中を見ながら、苛立たしげに爪を噛むサスケ。
ちなみにこの間の一件は記憶がなくなっているため、ゴロゴロいるという強い奴にナルトはカウントされていない。
そんなサスケの様子をカカシが横目で窺っていると、笛の音に似た鳥の鳴き声が響いた。
上空を見上げると、晴れ渡った空を一羽の鳶が泳いでいた。
「さーてと! そろそろ解散にするか。 オレはこれから、この任務の報告書を提出せにゃならん・・・」
「・・・・・・なら帰るぜ」
「! あ!」
サスケはカカシが消えるや否や踵を返し、サクラは慌てて後を追った。
「ねぇーサスケ君待ってー!」
「・・・・・・・・・」
「ねェ、あのねェ…これからさー♪」
「私と2人でェー♪ チームワーク深めるってのは―――「オレに構う暇があったら術の一つでも練習しろ」
頬を染めながらの猫撫で声が振り向きざまの一言で両断され、サクラの頭上に大きな岩が降った。
「はっきり言って、お前の実力はナルト以下だぞ」
『ナルト以下』というフレーズが、重く重く圧し掛かる。
―・・・・・・そうね・・・・・・・・・私ったらどの任務でもそう・・・一番良いとこなしだもんね・・・。
去っていくサスケを追い掛ける気にもなれない程、どんよりした空気を背負い込むサクラ。
脳裏に過ぎて行くのは、サバイバル演習から今日までの屈辱的な光景。
「ドンマイ」
引き返してきたナルトが、ポンとサクラの肩を叩いた。
励ましの言葉とは裏腹に、顔はニヤニヤと笑いを噛み殺していた。
ピクリとサクラの眉間が疼いたが、ナルトは鼻歌など歌いつつ帰り始めている。
「ん?」
だが不意にナルトは背後に気配を感じ、立ち止まって後ろを振り向いた。
すると、地面に奇妙な物体があった。
長方形の箱に描かれたお粗末な模様。
正面に空いた覗き穴と思しき点。
―岩・・・・・・!? のつもりか・・・・・・!
ナルトは思わず眉間を押さえ 見なかった事にして歩き出した。
だが、ゴソゴソと布ずれの音が聞こえ、後を付いて来るのが丸分かりだった。
ナルトは諦めたように溜息を吐き、奇妙な物体を持ち上げた。
「・・・・・・・・・なにやってんだお前ら?」
「!!」
箱の下に隠れていたのは3人の子供だった。
「さすが俺の見込んだ男! オレのライバルなんだな、コレ!!」
3人の中心、一番良いポジションで腕を組んでいる男の子が【木ノ葉丸】。
三代目火影の孫であり、ナルトとはちょっとした知り合いである。
続いて木ノ葉丸の右側、青っ洟を垂らしたメガネの男の子が【ウドン】。
最後に木ノ葉丸の左側、束ねた髪の毛を左右に立てた活発そうな女の子が【モエギ】。
2人とも木ノ葉丸のクラスメートである。
「なんだ・・・木ノ葉丸達か・・・」
「なんだってなんだコレ! 何か最近、兄ちゃんリアクション冷たいぞォ!」
「で? 何か用か?」
木ノ葉の追求をスルーしつつ、ナルトは頭の後ろで両手を組んだ。
「あのね! リーダー! これから暇!?」
ナルトの態度についてヒソヒソと話し合う友達を置いて、モエギが一歩前に踏み出す。
「いや、これからちょっと用事が・・・」
「えぇ〜〜〜!! 今日は忍者ゴッコしてくれるって言ったじゃあん!! コレェー!!」
「あ・・・ハハ・・・そうだっけかなぁ・・・・・・」
巻き起こる大ブーイング。
ナルトは渇いた笑いで誤魔化そうとする。
「フン・・・忍者が忍者ゴッコしてどーすんのよ・・・」
と、横合いから冷め切った声が突き刺さった。
無論、サクラだ。
しかも、さっきよりもまた一段と濃い影を背負っていた。
―それにしても、コイツ以下・・・・・・。
―な、なんだよ・・・気持ち悪ぃな・・・。
死んだ鯖のような目を向けられ、若干怯むナルト。
―ずっと兄ちゃんの事を喰い殺すような眼でみてるな、コレ・・・。
睨み付ける様にサクラを観察していた木ノ葉丸は、閃いたとばかりに手鼓を打った。
「兄ちゃんもスミに置けないなァ・・・」
「は?」
「あいつって兄ちゃんの・・・コレ!」
ポンポンとナルトの肩を叩き、ピンと小指を立てながらニヤニヤ笑う。
とんでもない8歳児である。
「ははは、そんなまさか。 俺の理想は『ボン! キュッ! ボン!』が基本だって言ってんだろ?
ホラァ、見てみろ。 あいつの場合『キュッ!キュッ! キュッ!』だろ。 しかも体型を補うプラス?もねぇし」
「でも脚はボンだぞコレ!」
「じゃかぁしゃぁああああッ!!」
失礼極まりない発言を連発する馬鹿共に向かって、空を切り裂くロシアンフックが放たれる。
地面を踏み砕くと同時に爆風を纏って襲ってくるそれは、普段のサクラでは考えられない破壊力を秘めていた。
「ぬぉぉ!!?」
ナルトは咄嗟にスウェーでかわしたが、風圧だけで頬が裂けそこから勢い良く血が噴出した。
「な、なんて事すんだ、コレ!!」
「ヤダァー! リーダー! 頬っぺから血がー!!」
「このブース! ブース!!」
木ノ葉丸達はかなりビビリながらも、ナルトの背後に隠れてサクラにブスコールを浴びせた。
「こ、こら! 余計な事言うとまた・・・」
ナルトが口を塞ごうとするが、もう手遅れである。
サクラは怨霊のようなおどろおどろしい妖気を放ち、握り締めた拳骨からラップ音を響かせていた。
「ヒィィィ! 兄ちゃーん! って居ねーぞ、コレェ!?」
半泣きで助けを求めた木ノ葉丸達だったが、ナルトの居た位置にあったのは等身大の丸太であった。
そして丸太の中央には、こんな張り紙が貼り付けてあった。
『任務を与える。 全力で逃げ延びろ!』
「兄ちゃ―――ん!?」
こうして、命懸けの鬼ごっこが始るのであった。
―甘味処―
「ふっ、ここまで来ればもう安心だ」
サクラ達から大分離れた場所まで逃亡してきたナルトは、生贄となった木ノ葉丸達に黙祷を捧げつつ家へ帰ろうとしていた。
だが、その途中。
甘味処でそわそわしている少女を見つけ、ピタリと立ち止まった。
面食いの性獣が足を止めるだけあって、その娘の容姿は文句なし。
やや癖のある金髪を後部で四箇所に縛り、前髪は額に掛かっている程度。
整った目鼻立ちをしていて、シミやそばかすもまったく見られない。
胸は平均値だが、くびれた腰と引き締まった脚はベリーグット。
薄紫の服の下に着込んだ鎖帷子は、なんというか・・・こう・・・非常にそそられる。
―うむ、特にあの美脚! 100点満点だ!
許可も取らずに採点したナルトは、やはり勝手に納得して大きく頷いた。
・・・・・・里建設云々はいいのだろうか?
一方、少女は自分に邪な視線が注がれているとも知らず途方に暮れていた。
この少女の名は【テマリ】。
忍五大国の一角を担う砂隠れの里の下忍である。
もっとも下忍というのは肩書きに限った話であり、実力の方は既に下忍はおろか中忍の粋にも収まらない。
この度、木ノ葉で開催される中忍試験に参加するべく2人の弟を引き連れて遠路遥々やって来た彼女ではあるが、実は試験の合否に拘わらず里内では既に上忍への昇進も内定している超エリートだったりする。
だが。
―うぅ・・・財布がない。
そんな彼女が図らずも無銭飲食をやってしまい、辺りを見回しながらそわそわしていた。
既にかなりの量を平らげてしまっているので、店の人に真実を言い辛い。
選択肢の一つに食い逃げなんてのもあるが、里同士の友好関係などもあるので以ての外だ。
テマリは日頃は勝気で自信に満ち溢れた表情をしている娘だが、今回ばかりは眉を下げて小さく縮こまるしかなかった。
―あぁ、一体何処で落としたんだ・・・。 あのラーメン屋か? それとも甘栗の美味しかった茶屋か?
はぅぅ・・・そもそもあの馬鹿2人が、団体行動を嫌って好き勝手に歩き回るからこんな事になるんだ・・・。
自らの連れに愚痴っている割には、積み重なった皿の隣りに観光名所やガイドブックの束が置いてある。
―ふっ。 金が足りねぇか財布亡くしたかのどっちかだな、ありゃ。
遠目からどうやって声を掛けようか思案していたナルトは、テマリの事情を目聡く見抜いた。
―くくく、ついてるついてる♪ これも日頃の行いがいいからかなぁ・・・♪
ごく自然にお近づきになれる口実をゲットし、口元が緩みそうになる。
しかし、それを顔に出す程愚かではない。
出来る限り表情を引き締めながら、そして『さり気なく』を装いながら甘味処へ近付いていった。
一応首に下げた額当ては見えているが、んなこたぁ知ったこっちゃなかった。
「ほい」
「え?」
目の前に二つ折りの財布が差し出され、テマリは目を瞬かせた。
無理もないだろう・・・あまりにも都合のいいタイミングだったのだ。
地獄に仏。
脳裏をそんな諺が過ぎる。
「金、足んねぇんだろ?」
「う、え、あ・・・・・・なんで・・・?」
「んな不景気な面してたら誰だってわかるよ。 なんつーか、親とはぐれたガキみたいで見てらんなかったぞ」
「はぐ・・・私そんな顔してたのか・・・」
小さな声で呟きながら顔を伏せるテマリ。
その頬は羞恥によって紅く染まっている。
―うはっ! その恥ずかしがる顔がまた・・・。
若干トリップしつつあるナルト。
「その・・・ホントにいいのか?」
「!? も、勿論! 元々そのつもりで声を掛けたんだしな! ははは!」
微妙に汗を掻きながらも、どうにか誤魔化す。
良からぬ妄想に突入する前に声を掛けられたのは幸いだった。
「か、必ず返す・・・」
頭の中で陵辱され掛けたとも知らず、テマリは照れ臭そうに眼を逸らした。
「期待して待ってるよ。 (肢体で返してくれるのを)」
だがもしもこの男の心の声が聞けたならば、絶対に感謝する気にはなれなかっただろう。
―その頃―
ナルトに見捨てられた木ノ葉丸達は・・・というか木ノ葉が。
決死の逃亡の果てにサクラに捕まり、ボコボコにされて地面に転がっていた。
「フン」
「木ノ葉丸君、大丈夫?」
立ち去っていくサクラに怯えながら、ウドンが心配そうに近付いてきた。
「・・・ったく、あのブスデコぴかちん・・・アレで女かよ・・・マジでコレ・・・!!」
鏡餅みたいに重なったタンコブを擦りながら、余計な事を口にしてしまう木ノ葉丸。
その結果、結構距離があったにも拘わらずサクラの足がピタリと止まった。
「「「・・・・・・」」」
何故か場が静まる。
そして一瞬の沈黙を破り、方向転換したサクラが凄まじい形相で向かってきた。
「ぎゃあああああっ!!」
木ノ葉丸達は悲鳴を上げながら再び逃げ出した。
「イテッ!」
しかし先頭を走っていた木ノ葉丸が、真っ向から弾かれて尻餅をついた。
「いてェーじゃん・・・・・・」
道の真中に、黒子のような格好で隈取りを塗った少年が立っていた。
頭を覆う頭巾の中央、鉄の部分に砂隠れのマークが刻まれている。
どうやら忍のようだ。
ならば、背中に背負った奇妙な物体は何かの忍具だろう。
布でグルグル巻きにされて詳しくは解からないが、担いでいる本人の身の丈と殆ど変らない大きさがある。
少年は両手をポケットに突っ込んだまま、仰向けに転がる木ノ葉丸を見下ろす。
「ぐっ・・・」
「いてーじゃん・・・くそガキ!」
そして、ぶつかってきた木ノ葉丸の胸倉を掴み、腕一本で軽々と持ち上げた。
「ごめんなさい・・・私がふざけてて・・・・・・(何なの、この人・・・)」
かなり焦りながらサクラが謝るが、
「オレのお宝どうしてくれんだよぉ!」
少年は木ノ葉丸を解放するどころか益々締め上げた。
何故か、血の涙を流しながら。
「ぐっ・・・う・・・」
「テメェこれにどんだけの価値があるか解ってんのか!? ああん!?」
首のもげた人形を見せ付けながら、ドスの利いた声で迫る少年。
ちなみに、彼の名はカンクロウ。
テマリの弟であり、かなり重度のフィギアオタクである。
しかも、ロリ系の・・・。
「これ買うために真冬の寒空の下で15時間も粘ったんだぞ? そんなオレの苦労どうしてくれるんだよ?」
「う、るさい・・・放せ・・・デブ・・・」
「・・・オレ・・・大体チビって大嫌いなんだ・・・。
特にお前みたいに年下の癖に生意気な奴・・・見てると殺したくなっちゃうじゃん」
悲しい苦労話を一蹴され、頭に上った血が沸騰したカンクロウ。
大事なフィギアの残骸を懐に仕舞って、左拳を握り固めた。
「く・・・苦しい・・・コレ・・・・・・」
「木の葉丸君!」
「木の葉丸ちゃん!」
ウドンとモエギは、完全に怯えた顔で震えていた。
そして真っ青になった木ノ葉丸に向かって、カンクロウの拳が走る。
だが次の瞬間。
「くっ・・・!」
カンクロウが木ノ葉丸から手を離し、凄まじい勢いで後へ飛び退いた。
一瞬前までカンクロウの右手があった空間が、飛んで来た石礫に貫かれる。
「他所んちの里で何やってんだテメーは・・・」
彼らの斜め上に、木の枝に腰掛けて小石を弄ぶサスケの姿があった。
「サスケくーん!!」
計ったようなタイミングで現れたサスケに、黄色い悲鳴を上げるサクラ。
「クッ・・・ムカつくガキがもう1人・・・」
「失せろ」
睨み付けるカンクロウに向かって、静かに言い放つサスケ。
「キャ―――、カッコイイ―――!!!」
そのクールな言動にサクラとモエギ、異性の目が桃色に染まる。
さらに同性であるウドンからは、尊敬の色が窺える。
「うわーん! ナルト兄ちゃんのアホ〜!!」
唯一、信じていた理想に軽く裏切られた木ノ葉丸だけが、悲痛な叫び声を上げていた。
助けに来てくれると信じていたのに・・・。
「おい・・・ガキ、降りて来いよ! オレはお前みたいに利口振ったガキが、一番嫌いなんだよ・・・」
カンクロウが担いでいた荷物を地面に降ろし、挑発するように言った。
それが恐らく忍具であると言う事は理解出来るが、どんな使用法でどんな攻撃を仕掛けてくるのかはまるで謎である。
その為サスケは眼を細めたまま、その場を動こうとはしなかった。
いや、迂闊に動く事が出来なかった。
地上と樹上。
2つの場所を結ぶ間に、緊迫した空気が流れる。
だが、それは長く続かなかった。
「カンクロウ・・・やめろ」
「!!」
横から割って入った声にサスケは目を見開いた。
「里の面汚しめ・・・」
自分のすぐ隣りの枝に、巨大な瓢箪を背負った茶髪の少年がぶら下っていたのだ。
―コイツ・・・何時の間にオレの隣りに・・・・・・!! ・・・・・・カカシ並の抜き足だぜ・・・。
呼吸さえ聞こえそうな距離だというのに、誰1人としてその存在を感知出来なかった。
「・・・我愛羅・・・」
カンクロウが口にしたのは少年の・・・そして、彼の実弟の名前である。
だがそこに親愛な響きはなく、苛立たしげな感情が篭められていた。
「ケンカで己を見失うとは呆れ果てる・・・何しに木ノ葉くんだりまで来たと思っているんだ」
「・・・・・・コイツらが先に突っ掛かって来たんだ」
視線を木ノ葉丸達に移し、カンクロウはそう呟いた。
「黙れ・・・殺すぞ」
深い隈が刻まれた両眼が カンクロウを射抜く。
静かであまりにも冷たい眼光。
それは、血の繋がった肉親に向けるような視線ではない。
恐らくさっきの言葉通り、いざとなれば兄であろうとも戸惑いなく殺してみせるだろう。
―コイツ・・・嫌な眼をしてやがる・・・。
サスケは我愛羅の下忍とは思えない殺気を垣間見、背筋に冷たいものを感じた。
「君達悪かったな・・・」
木の葉が舞い、我愛羅の姿が枝から消える。
―・・・出来るな・・・コイツ・・・。
サスケと視線を交えた瞬間、我愛羅はそう直感した。
「どうやら早く着き過ぎたようだが、オレ達は遊びに来た理由じゃないんだからな・・・」
地上に姿を現すなり、カンクロウに冷たい口調で告げる。
「お前に言われなくても分かってるじゃん・・・一々指図するな」
「口の利き方に気をつけろ愚図が、捻り潰すぞ」
「それはオレの台詞じゃん。 お前こそ弟の癖に兄貴のオレに舐めた口利いてんじゃねぇよ」
「下らん。 オレがその気になればお前如き何時でも殺せる。
血の繋がりなどで自分の身が護れると思っているのなら、今すぐ考えを改めろ」
両者の体から、不穏なチャクラが漏れ出した。
合図を待たず、この場で殺し合いを始めそうな雰囲気である。
我愛羅とカンクロウの関係を例えるなら、まさに水と油というのが相応しい。
兄弟だというのに彼らの仲はすこぶる険悪で、テマリを悩ます頭痛の種である。
ちなみに普段はテマリが間に入り中和剤の役割を果たしているのだが、今現在は生憎不在と来ている。
したがって、血みどろの戦いが始まるのは時間の問題だった。
と、そこへ。
「私じゃなくとも羽を伸ばしたくなるさ。
一応肩書きは下忍なのに、なまじ力があるばかりにAとかSランクの任務回されて。
仕事がない日はない日で弟2人が問題起こすから、その後始末に借り出されるし。
私は普通の生活がしたいって思ってるだけなのに、なんでそれすら許されないんだ・・・。
それもこれも、あいつらが人形オタクとキラーマシーンだから悪いんだ・・・お陰で里じゃ男も寄り付かないし・・・」
「あ〜・・・分かる分かる。 手の掛かり過ぎる身内って本気で厄介だからなぁ」
「・・・分かってくれるか?」
「痛い程な。 ・・・お互い苦労するよなぁ」
件の中和剤と意気投合し、手など繋いで現れるナルト。
「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」
一点に集中する7対の瞳。
「ガ、我愛羅にカンクロウ!?」
テマリはここに来て始めて自分が手を繋いでいる事に気付き、慌てて手を離した。
「あ・・・」
ナルトは手から柔らかい感触が消え、心底残念だった。
「・・・んで、こんな所でなにしてんだお前ら」
自分が騒動の発端を担っているとも知らず、暢気に声を掛けるナルト。
「ヒデェぞ兄ちゃん! オレってばスッゲェ危なかったんだぞ、コレェ!」
「そうよリーダー! サスケさんが来てくれなきゃ、どうなってたか分からないんだからぁ!!」
木ノ葉丸とモエギが食って掛かる。
「? おい春野、一体なにがあったんだ?」
が、今一要領を得ず、ナルトはサクラに説明求めた。
サクラがこれまでの経緯を話すと、ナルトは腕組みをしながら頷いた。
「なるほど・・・そういう事があったのか」
「暢気に構えてる場合じゃないだろ、兄ちゃん!
子分がやられたんだぞ! 仇を討とうとか思わないのか、コレ!!」
「あのなぁ、人にぶつかって詫びの一言もなしじゃあ、怒られて当たり前だぞ。
確かに大人気ないとは思うが、基本的には前にお前が悪い。 それとついでに、お前子分止めたんじゃねぇのかよ」
理路整然とした答えだが、木ノ葉丸は膨れっ面になった。
一方同じ話を聞いたテマリの反応はというと、
「カンクロウ・・・・・・お前・・・」
小さな子供に大人気ない対応をした弟に、絶対零度の眼差しを注いでいた。
「はぁ・・・・・・少し向こうで話そう」
「ち、違うって! ちょっとビビらせるだけで、怪我させるつもりはコレっぽっちもなかったんだって!!」
「うるさい」
「ホントだよ! 信じてくれよテマリ!!」
「黙れ」
弟の首根っこを引っ掴んで物陰に引き摺っていくテマリ姉さん。
言い訳を聞いてやるつもりなど毛頭ありません。
カンクロウは登校を渋る子供のように泣き喚いたが、その声はすぐに聞こえなくなった。
「あ、あぁ―――――――――ッ!!!」
遠くから悲鳴が上がって程なくして、テマリが帰ってきた。
「ほら、さっさと謝れ」
「す、すいへんれひた・・・」
ジャガイモのようにボコボコにされたカンクロウが、襟首を持たれたまま虚ろな眼差しで謝罪を述べる。
「ふん、馬鹿め」
そんな兄の様子を冷たく一蹴する我愛羅。
「んだとテメェ!」
当然カンクロウは腹を立てる。
が、
「カンクロウ。 我愛羅。 今すぐ止めないと・・・」
テマリの両眼が冷たく光った途端。
「ケ、ケケケ、ケンカなんかする筈ないじゃん! なんで可愛い弟とそんな事するんだよ!! そうだよな、な!?」
肩を組み、一転して笑顔を作った。
カンクロウは必死に取り繕い、我愛羅はカクカクと壊れたように首を振る。
かなり無理矢理なため、頬が小刻みに痙攣している。
どうもテマリは身内しか知らない本性を持っているらしく、2人共冷や汗びっしょりである。
「じゃあ、私はこれで・・・ホラ、お前達も遊んでないでさっさと来い」
話の墨に置いてけぼりにされたサスケ達には、テマリの後に続くカンクロウと我愛羅が売られていく子牛に見えた。
「テマリー! またなー!」
「あ、ああ・・・また・・・」
大きく手を振るナルトにテマリはぎこちなく手を振り返した。
「ちょ、ちょっと待って!」
だが、去っていく砂の忍達をサクラが呼び止めた。
「何だ?」
「額当てから見て貴方達・・・砂隠れの忍よね・・・。
確かに木ノ葉の同盟国ではあるけれど・・・両国の忍の勝手な出入りは条約で禁じられている筈・・・。
目的を言いなさい! 場合によっては貴方達をこのまま行かせる理由にはいかないわ・・・」
「フン! 灯台下暗しとはこの事だな・・・何も知らないのか?」
サクラの厳しい声に対し、テマリは呆れたように通行証を出した。
「お前の言う通り、私達は砂隠れの下忍・・・中忍選抜試験を受けにこの里へ来た」
「中忍選抜試験・・・。 (ああ、そういやそんな時期だな)」
「本当に何も知らないんだな・・・。 中忍選抜試験とは・・・。
砂・木ノ葉の隠れ里とそれに隣接する小国内の中忍を志願している・・・優秀な下忍が集められ行われる試験の事だ・・・」
「なんで一緒にでやるのよ?」
「合同で行う主たる目的は、同盟国同士の友好を深め忍のレベルを高め合う事をメインだとされるが・・・その実。
隣国とのパワーバランスを保つ事が各国の緊張を・・・・・・」
甘味処での一件の礼の意味を含め、親切丁寧に説明してくれるテマリ。
―里が完成したら、来年辺り白とツクモでも出してみっかな・・・。
半ば辺りになると、右から左へ抜けていた。
「テメー! 人が折角説明してんだからちゃんと最後まで聞けよ、コノヤロー!!」
「あ、いや、すまん・・・」
テマリに叱られナルトがしょげていると、今までず〜〜〜っと木の上に居たサスケが、やっと地面に降りて来た。
「おい! そこのお前・・・名は何て言う?」
そして、威圧感を纏って正面を睨み付けた。
空気が震えるような闘気を叩き付けられた我愛羅は悠然と振り向き、
「・・・・・・・・・砂瀑の我愛羅・・・」
サスケと視線を交え静かに言った。
「・・・オレもお前に興味がある・・・・・・名は?」
「! ・・・・・・うちはサスケだ・・・」
すぐにでも闘いたい。
そう昂ぶる心をどうにか静めながら、サスケはニヒルに笑った。
無言で対峙する2人の間には、目に見えない何かが飛び交っているようだった。
しかし、そんなシリアスな場面を毎度の如く台無しにする男が此処に1人。
「立て込んでる所悪ぃんだが、姉婿の名前は聞いとかなくていいのか?」
場の空気を全然考慮しない発言に、サスケとサクラはゲンナリと肩を落とした。
「な、なに変な事言い出してんるんだ! 大体私達はさっき合ったばっかだろ、バカヤロー!」
「「・・・・・・・・・」」
見た事もない姉の様子を見て、激しく眉間に皺を寄せる我愛羅とカンクロウ。
貴重と言えば貴重な光景だが、身内である2人としてはテマリの痴態を見た所で面白くもなんともない。
「・・・・・・・・・お前の名など興味ない」
「・・・・・・同じく」
素っ気無く告げ、とっとと踵を返した。
だが、
メゴシャッ!!
兄弟揃ってテマリに後頭部を掴まれ、思いっきり塀に叩き付けられた。
「そ、そんな言い方はないだろ・・・あ、アレで結構いい奴なんだぞ・・・」
とりあえず、照れ隠しに弟を使うのは止めましょう。
―フン・・・面白くなって来たぜ・・・。
テマリに引き摺られて遠ざかっていく我愛羅(とカンクロウ)を見詰めながら、再びニヒルに笑うサスケ。
けれど、ナルトの所為で今一決まらなかった。
ナルト達の居た場所から少し離れた木の上に、♪のマークが刻まれた額当てをした3人組みの姿があった。
「どう思う?」
『死』という文字が染め抜かれた着衣を纏い、黒髪を逆立てた男が仲間に向かって言った。
「まあ・・・大した事無いけどさ」
顔の9割を包帯で覆った男は、不気味な眼光を放っていた。
「木ノ葉の黒髪と砂のひょうたん・・・あの2人は要チェックだよ・・・」
「・・・・・・扇子の金髪女は?」
「・・・・・・ノーコメント・・・」
表情は見えずとも、包帯の男が怯えているのは明らかだった。