NARUTO
〜九妖忍法帳〜 36話目
白組は現在、円陣を組んで作戦会議の真っ最中だった。
「オレ達の戦力じゃまともにやっても全滅すんのがオチだ」
シカマルの見解に意義を唱える者はない。
赤組と比べて自分達が戦力的に劣っている。
白組の面々は変に強がったりせず、冷静に事実を受け入れた。
そしてその上で戦略を練る事に勤めていた。
「とりあえずは先生達をどうにかしないと始まんないわねー・・・」
額に指を当てつつ知恵を絞るいの。
「それはそうだけど・・・一対一じゃ無理だよね」
菓子を頬張ってはいるが、至極真面目に意見を述べているチョウジ。
「ああ。 少なくとも2人以上で掛からなければ話にならない」
難しいをするシノ。
彼の足元には、二つの△に四つの○が向かい合っている図が描かれている。
「でもそれだと、残りの3人を1人で相手しなきゃいけないよね」
ヒナタは小枝を拾うと、図に△を三つと○を一つ加えた。
「なぁ・・・その図を見る限り、1人カウントされてない奴が居るんだが・・・」
戦力外通告を受けたナルトが、ちょっぴり切ない表情で訴える。
しかし、誰も答えてくれない。
ちなみに、彼らは別に嫌がらせをしているわけではない。
少しでもナルトの負担を減らそうと考え、このような態度を取っただけの事だ。
「・・・無視すんなよぉ・・・」
だがそんな思いも虚しく、会議を続行する5人の後ろから情けない声が上がった。
「べ、別に無視してなんかないよ・・・ね?」
「あー安心しろ。 お前の出番もちゃんと考えてる」
「・・・所謂、最後の切り札という奴だ」
「そうそう、秘密兵器だから温存してるだけだよ」
「あんたラッキーね。 一番おいしい役どころよー?」
哀れと思ったらしく、優しい声を掛けてやる子供達。
「だったらいいんだが・・・」
簡単に言い包められているナルト。
仮にも年上として、それは如何なものだろうか。
まぁ体調不良で思考力が鈍っている所為だろう。
子供達は少々呆れながら、再び作戦会議を始めた。
「まず、あの覆面教師をオレとチョウジが、女教師をいのとヒナタで抑える」
やはり指示を出したのは、白組のブレインであるシカマル。
皆に分かり易いように、巻物に絵を描きながら説明している。
とりあえず関係ないが、何気に絵が上手い。
「残りの3人は・・・シノ、お前の受け持ちだ」
「解った」
シカマルが出した指示はかなり厳しいものだったが、シノは眉一つ動かさず引き受けた。
「ちょっと待ってよ。 流石にそれは厳しいんじゃない?」
確かにシノは爆発的な成長を遂げており、単純な戦闘能力だけに観点を置けば、同時期に修行を始めた4人の中で最も優れている。
アカデミーを卒業した当初のサスケならば、確実に勝利を収められる。
だからといって3対1でも勝てるかと言えば、答えはNOである。
シノが成長しているように、サスケも成長している筈。
加えて相手側に同班のキバがいる以上、ある程度のクセなどは読まれていると考えるのが自然だ。
いのはそう考えたのだが、シノは微かに口の端を吊り上げた。
「いや持ち堪えるだけなら暫くは問題ない」
「へへっ、流石だぜシノ」
不敵に笑ったシカマルを見て、いのは悟った。
「・・・・・・成る程。 そういう事ね」
「どーゆー事?」
「シノはサスケ君やキバに勝つんじゃなく、足止めをするって事よー」
首を捻ったチョウジにシノの役割を説明する。
「シノが時間を稼いでくれれば、私達は先生達に複数であたれるでしょ?」
「うん」
「影真似さえ成功すれば、上忍達の相手はオレ1人で十分だ・・・もう解るだろ?」
「あ、そういう事か」
「まずシノが足止めしてる間に私達で先生達の相手をする。
シカマルが先生達の動きを止めたら、私達3人はシノの援護に向かう。
1対3だったのが4対3になれば、こっちは断然有利になる・・・・・ホラ、これなら見込みあるでしょー?」
「じゃあ、ボク達はシカマルの影真似を成功させる囮役って事か」
「ピンポーン、よく出来ましたー♪」
手鼓を打って納得するチョウジに、いのは満足気な表情をする。
「喜んでるとこに水差して悪ぃんだが・・・・・・俺の出番は?」
一方でナルトが顰めっ面をしていた。
シカマルのプランを聞く限り、お前の役目は観客だと言われてるような気がした。
「・・・ホ、ホラ・・・ナルト君には最後の仕上げが・・・」
「シカマルが動きを封じたら、お前がトドメをさす」
何とも楽な役割である。
「要するに案山子になったカカシをボコボコにしろっつってんだな」
ナルトは偏った意見を述べて冷やかな眼差をしているが、子供達としてはかなり譲歩しているつもりだ。
本当なら無理に戦闘に加わろうとせず、最後まで傍観に徹してもらいたかったのが本音である。
「じゃ、めんどくせーが行くとすっか!」
「「「おお!」」」
そして子供達は、ナルトが駄々をこね始める前に颯爽と戦いに乗り出すのだった。
「皆、準備はいいわね?」
向かい合った赤組と白組は、紅の一言でよりいっそう気を引き締めた。
白組はもちろん、戦う前から優位に立っている赤組にも油断はない。
合図が掛かり次第飛び出せるように、爪先に力を篭めている。
「お前ら・・・頼むぜ」
シカマルの言葉に白組の面々は無言で頷く。
何としても先手を取り、予定通りの展開に持ち込みたい。
いや持ち込まねばならない。
ハンデを背負った白組にとっては、初手の動作に勝敗が掛かっている。
決して出遅れぬように、姿勢を低くして下半身に力を溜めていた。
・・・・・・吐き気を堪えて下を向いているナルトを除いて。
「それじゃあ・・・・・・・・・・・・始め!」
開始が告げられる。
白組は一瞬にして反応し、飛び出そうとした赤組の前に立ち塞がった。
紅の前に踊り出た2つの影。
いのとヒナタは、間合い入ると同時に上下から蹴りを放った。
「ッ!?」
首を狙う跳び蹴りを掌で捌き、足元を崩す水面蹴りを足を退く事で避ける。
だが初撃が当たらぬ事など解りきっていた。
「ヒナタ、続けていくわよ!」
「うん!」
いのが右、ヒナタが左へ、互いに弾かれるように地を蹴った。
2人は軸にした紅の周囲を移動しながら、緩急を付けて攻撃を仕掛ける。
新米とはいえ上忍である紅は、飛んでくる拳足を紙一重で避けていく。
一撃たりとも体に触れる事を許さない。
回避と同時に次の攻撃を予測し、次弾が放たれた時には既に回避出来る体勢を作り上げている。
しかし、まだ直撃がないにも拘わらず、紅の顔には焦りの色が浮かんでいた。
その原因は目の前の少女達の。
いや、ヒナタの予想外の実力の所為だった。
今、遠慮のない攻撃を仕掛けてくるヒナタは、紅の知る内気な少女とはあまりにも違いすぎていた。
ヒナタがまだアカデミーの生徒だった頃、誰も居なくなった演習場で独り泣いていたのを覚えている。
不器用で、何をやっても思うような結果が得られなかった。
誰かの助けを借りたくても、人に話し掛けるだけの勇気がない。
そんな自分を変えたいと願い、涙を零しながらも人一倍の努力を黙々と重ねていた。
何度も何度も。
一日も欠かさず、諦めず。
けれど、どれだけ練習を繰り返しても、本番に弱く結果に繋がらなかった。
そしてそれは、アカデミーを卒業し自分の受け持ちになってからも同じだった。
いや、同じだと思っていたのは自分だけだったようだ。
紅はその間違いに、今日初めて気付いた。
反撃を恐れない鋭い踏み込み。
発展途上ではあるが、下忍とは思えない無駄のない体捌き。
急所に飛んでくる一撃と、その拳足に宿る裂帛の気合。
勇猛果敢と称するに相応しい立ち居振舞いに、かつての弱々しい影は見当たらない。
ヒナタが何によって変わったのかは知らない。
知る必要もない。
自身が望んだ姿に変われたのなら、それで十分。
あとは担当として、いつかヒナタが踏み越えていく壁として、自らの役割を全うしよう。
一瞬嬉しそうに目を細めた紅は、後ろに跳んで間合いを外した。
宙に離れた足が再び地を踏んだ段階で、印は既に組み終わっていた。
追撃しようとした2人の足が、ぴたりと止まった。
緑色の群れに視界が遮られる。
風が吹いているわけでもないのに、無数の木の葉が巻き上げられている。
「・・・これは・・・・・・!」
「幻術・・・!?」
いのとヒナタは意識が遠のいていくのを感じた。
無性に眠い。
乱れ舞う木の葉を見ていると、強烈な眠気に襲われる。
紅が使用している術はけして高度な術ではない。
対象を睡眠状態に陥れる事のみを目的とした、幻術の中では初歩中の初歩。
だが、例えどんな術であろうと、その効力は術者によって左右される。
紅は幻術だけに限定すれば、里でも一二を争う程の使い手。
今の術とて、並の忍ならばとうに昏倒していてもおかしくない代物である。
下忍レベルでは到底敗れない。
―――――――――筈だったのだが、いのとヒナタは重みを増していく目蓋を気迫で抉じ開け、両手を胸の前で合わせた。
「「解!」」
空気と共に、2人の体を支配していた紅のチャクラが弾け飛ぶ。
「!! (幻術返し!? どうしてこの子達が!?)」
下忍が・・・それもまだなりたての少女達が自分の幻術を破った。
紅は驚愕に目を見張った。
「いのちゃん!」
「わかってる!!」
言葉よりも早く、2人は飛び出していた。
ここを逃せば二度とチャンスは訪れない。
ヒナタの掌に漲るチャクラを悟らせないように、いのが一歩先を走りブラインドになる。
直撃は無理でも、柔拳ならば掠らせるだけでダメージを期待できる。
打倒は不可能だろうが、元より打倒出来るとは考えていない。
彼女達の狙いは、上忍である紅に一瞬の隙を作り出す事。
その後はシカマルに任せる。
カカシを片付けたであろうシカマルが、自分達が作り出した隙を衝いてくれると信じるのみ。
「「はぁあああああああ!!」」
出し惜しみなど一切せず、ただ己が全力を持って敵の懐に飛び込む。
最初にいのが跳躍し、紅の注意を引くと同時に全身を使って視界を狭めた。
ヒナタは地面スレスレの低姿勢で紅の股下を滑り抜け、無防備な背中に向かって掌を突き出した。
「――――――ッ!!」
完全に虚を衝かれた紅は、背面から襲い掛かるヒナタの一撃を、間一髪の所で回避した。
しかし避け切る事は叶わず、脇腹を掠めた一撃にくぐもった声を上げる。
そして、いのとヒナタが信じていた援護によって、体の自由を完全に奪われた。
「影真似!? ・・・どうしてシカマルが・・・」
指一本動かせず、呆然となる紅。
「2人とも、よくやってくれたな」
背後から、カカシの相手をしている筈のシカマルの声が聞こえる。
紅は現状を確認しようとするが、術によって自由を奪われている所為で首が回らなかった。
「・・・あんた、カカシはどうしたの?」
「あの覆面教師なら・・・・・・ホラ」
シカマルは反転して紅に後ろを見せてやった。
すると。
「ゆ、油断しちゃった。 あ、あはは・・・」
樹の影に首から下を埋めて、虚ろな表情のままチョウジに棒キレ突っ付かれているカカシがいた。
「・・・・・・・・・この役立たずが」
紅は心底蔑んだ目を向け、ペッと唾を吐く。
カカシはぎこちない笑みを浮かべ、誰とも目を合わせようとしなかった。
エリートとしてのプライドが、現在進行形でズタズタになっているのだろう。
無論彼とて反論したいのは山々だ。
だがこの上忍は、それが出来ないだけの失態を犯してしまったのである。
戦闘が始まってシカマルとチョウジが目の前にやって来ても、カカシは余裕ぶっこいてイチャパラを読み耽っていた。
しかもハァハァ息が荒く、ちょこっと内股になりつつ両足を擦り合わせていた。
かなりキモい。
そして腹立つ。
『あのさシカマル・・・この人やる気あるのかな』
『どこどー見たってねーだろ。 つーかガキの前でエロ本読むなっつーの』
笑顔のまま青筋を立てる器用なチョウジに、顰めっ面のシカマルがダルそうに答えた。
ナルトはこんな奴の下で日々ストレスと戦っているのだろうか?
怒涛の勢いで湧き上がる殺意を血が出るまで掌を握り締めて耐えているのだろうか?
それ以前に何でこんなのが上忍やってるんだろうか?
火影のじいさんは何考えてるんだろう?
つーかこいつの担当上忍は一体何を教えていたんだろう?
様々な疑念が渦巻く。
まぁ最後の一つは後に明かされるのだが、とりあえず今はそっとしておく。
『とりあえず殺っとく?』
『そーだな。 その方がナルトと社会の為になるな』
爽やかに獲物を指差したチョウジ即頷き、シカマルが両手の指に手裏剣を挟んだ。
極力係わり合いを避けたい輩だが、そういうわけにもいかないのが忍の辛いところである。
『あ〜やだやだ』という心を刃で殺し、忍となった2人はカカシに攻撃を仕掛けた。
だが腐り果ててはいるものの、やはりカカシの腕前は確かなのだ。
慌てる風もなく手裏剣を横に避けた。
視線と意識の7割を本に集中させたままで。
『!?』
結論から言えば、それがよくなかった。
手裏剣を避けたカカシは、一歩動いた先にあった樹の影に足を絡め取られた。
『ちょ! うそ!? なんだこれ!!?』
初めて体験する術だけに、対処法が分からず切羽詰る。
影は泥沼のように・・・・・・いや、沼以上に厄介だった。
抜け出そうと力を込めた足をズルズルと引きずり、徐々に中心へと飲み込んでいく。
膝まで飲まれたカカシは地面に爪を立てて足掻くが、抵抗すればする程影が絡み付いてくる。
『いやぁぁあぁぁああああ!!!』
結局精一杯の抵抗も虚しく、カカシは成す術なく影に飲み込まれたのだった。
ちなみにこれは【影沼の術】。
玉藻の拷も、もとい愛の鞭を受け続けた末に、シカマルが編み出した影技の一つである。
術の名が示す通り、影にチャクラを練り込む事で対象を捕縛する沼を作り出す。
その気になれば対象を沼の中に沈め圧力を掛けて潰す事も可能。
ただし、使用するにあたってかなりのチャクラを消耗する上、自分の影以外で沼を作るには時間が掛かる。
したがって待ち伏せなどで使う分には有効だが、相手と真っ向から対峙する場合はあまり実用的ではない。
もっともシカマルのチャクラ量が今以上に増えれば、話はまた違ってくるだろう。
今回カカシが嵌った沼は、シカマルが作戦会議の時に予め仕込んでおいたものである。
当初の予定ではチョウジと連携を取って沼に追い込む筈だったのだが、まさかここまで呆気なく捕まってくれるとは思ってもみなかった。
まぁハッキリ言ってしまうと、カカシの慢心が敗因であり言い訳のしようもないのだ。
「うし。 じゃあここはオレに任せて、お前らはシノの援護に行け」
微妙に涙を流しているカカシに優しい声を掛ける者はなく、シカマルに後を任せ手の空いた者達は走り去って行った。
ヒナタ・いの・チョウジが駆けつけた時、シノの相手をしているのはサスケだけになっていた。
「すげー・・・シノの奴勝っちゃたんだ」
「うそぉ・・・キバとサクラはー?」
いのは驚いた顔で周囲を見渡す。
サスケしか残っていないという事は、サクラとキバはシノによって倒されたのだろう。
持ち堪えているとは思っていたが、まさか倒してしまうとは思わなかった。
いのは感心すると同時に、ちょっと悔しくもあった。
「あ、あれじゃないかな?」
ヒナタが引き攣った表情を浮かべ、地面にある盛り上がった黒い塊を指差した。
よーく観察してみると、忙しく蠢いている塊から微かにはみ出している物があった。
@サクラのものらしき桃色の頭部。
Aキバのものらしき右手。
B赤丸のものらしき尻尾。
3人仲良くピクピクとヤバ気な痙攣を始めている。
確認するまでもないが、黒い塊の正体とはシノの寄壊蟲である。
蟲達は遠慮なくチャクラを貪っていて、食事を止める気配は一向にない。
最近宿主がチャクラを回さないので、腹を空かして凶暴になっているのだ。
ちなみに彼らが蟲の餌食となったのは、試合開始直後の事であった。
『ひゃっほー! 行くぜ赤丸ー!!』
『ワン!』
初めに飛び出したのはキバと赤丸。
キバの家【犬塚家】は、獣人体術という独自に編み出した闘法を用いる。
獣人体術は術者の全身にチャクラを張り巡らせ、獣並の俊敏性を発揮する事を旨とする。
したがってその戦闘スタイルは近距離型。
対するシノは蟲を使った中遠距離型。
接近戦に持ち込んでしまえば断然自分にに分がある。
そう考えたキバは、四肢を強化してスピードを上げ先手を取ろうと試みた。
先制攻撃を仕掛けるキバの後ろに控えたサスケとサクラは、シノが距離を取ろうとした所を迎撃する為に飛び道具を構えていた。
『蟲使いであるシノは、接近戦を避けて必ず距離を取る』
キバがサスケとサクラに前もって教えておいた情報。
それを元に組み立てた判断事態は、けして間違っているものではなかった。
――――――――――――シノが従来通りの蟲使いであったのなら。
【影分身の術】
シノは3人の期待を見事に裏切り、両手の指を十字に交差させた2体の分身を作り出した。
『なんだと!?』
驚愕するキバを他所に、シノは1体の影分身を残し飛び掛ってきたキバの隣をすり抜けた。
もう1体の分身がサクラに向かい、本体はサスケ目指す。
―クソッ! 予定が狂っちまったぜ!!
まさか影分身を使えるとは思わず、舌打ちしながらも攻撃を仕掛けるキバ。
鋭く尖った爪が、空気を割りながら振り下ろされる。
しかし、シノの影分身は避けるどころか構える素振りも見せなかった。
『なにっ!?』
攻撃は命中したが、驚いたのはキバだった。
振り下ろした爪は、自ら歩み出たシノの肩に直撃。
肩口から鳩尾までを易々と切り裂いたあたりで、突如溢れ出した黒い蟲に捕らえられた。
『なんだよこりゃ!! なにがどうなってんだ!?』
シノの体は傷口から崩壊を始め、蟲の群隊に姿を変えた。
そして攻撃した腕と足元を這って、全身に広がり服の中にまで浸入してくる。
シノは影分身と見せ掛けて、蟲分身の術を使用していた。
『ちょっと!? なんなのよこれぇ!? イヤ――――――!!!』
サクラもキバ同様に攻撃を加えた瞬間にあっさり捕まってしまい、今に至るというわけだ。
「一応聞いておくが、負けを認める気はあるか?」
「ふん。 サクラとキバに勝ったぐらいでいい気になってんじゃねーぞ」
あっという間に1対1になってしまったが、サスケはいつも通りの強気な姿勢を崩さなかった。
シノはそんなサスケの態度に肩を竦めながら、軽い溜息を吐いた。
「前もって教えておこう・・・・・・お前では無理だ」
「・・・・・・なんだと」
サスケの眉がピクリと跳ねる。
サングラス越しに向けられる視線から読み取れるのは、自信ではなく確信だった。
「聞こえなかったのなら、もう一度言ってやろう。 お前はオレに勝てない」
慢心するでもなく気負うでもなく、事実だけを受け止めているような自然な態度。
「・・・・・・・・・・・・」
ギリッ! と歯を擦り合せる音がする。
頭に血が上ったサスケは、視界にシノだけを映して一直線に駆け出した。
「シノ君!」
ヒナタ達が加勢に入ろうとする。
だがシノは片手を僅かに上げ、言葉を発すことなくそれを拒否した。
「シノぉ!!」
目前にサスケが迫り、拳を振り上げていた。
「この程度の挑発で冷静さを欠く。 やはりお前はオレに勝てない」
シノは突き出された拳を自分の内側へ巻き込むようにいなし、回転した勢いを乗せて肘を放つ。
後頭部を狙った一撃は申し分のないタイミングたが、サスケは前方に回転してこれをかわし、着地して振り向きざまに裏拳を繰り出す。
「ぬ!」
顔面に直撃する手前でシノは上体を逸らしたが、続く横蹴りを腹部に受け弾き飛ばされる。
「まだだ!」
そのまま勢いに乗って追撃しようとするサスケ。
手裏剣で牽制しながら、距離を縮める。
懐に入られたシノは、突進にカウンターを合わせようとする。
外側から眉間に迫る突きを掻い潜り、膝のバネを駆使した下からカチ上げるような掌底を叩き付けた。
が、顎を捉える筈の右手は、当たる直前でサスケの左手に阻まれていた。
間髪入れず自由な左手で攻撃しようとしたが、今度は右手によって受け止められた。
「ふん、甘いんだよ」
サスケは口の端を吊り上げながら両手に篭める力を強めた。
圧力を掛けられたシノの手は、ミシミシと音を立てて軋んでいる。
力比べはサスケに分があるようだ。
「・・・・・・・・・」
「このまま握り潰してやろうか?」
言いながら、一際強い圧力を掛けるサスケ。
肉を潰すも骨を折るも胸三寸。
シノは呻き声こそ上げないが、両手に感じる苦痛によってうっすらと汗を滲ませている。
「・・・・・・そのまましっかり掴んでいろ」
「!」
シノが言い放った直後、上着の袖から寄壊蟲が溢れ出した。
サスケは咄嗟に手を放し飛び退いた。
―クソ! これじゃ近寄れねぇ!!
寄壊蟲の恐ろしさは、先刻承知である。
キバとサクラの例を考えた場合、喰らい付かれた時点で戦闘不能になると思っていた方がいい。
念の為にかなり距離を取ってみるが、解き放たれた蟲達が逃げ道を塞ぐように進軍してくる。
表情を変えぬままあくまでも冷静に事を運ぶシノの戦略に、サスケは苛立ちながら印を結んだ。
【火遁 鳳仙火の術!!】
口から吐き出された複数の炎が四方八方に弾け飛び、着弾した地点にいた蟲の群れを焼き払った。
「いかん!」
蟲使いであるシノにとって、蟲は己の一部にも等しい存在である。
その為すぐに水遁系の術を発動させ、沈下作業に入った。
「ちょっとシノ!! そんな場合じゃないでしょー!!」
「シ、シノ君、ちゃんと前見て!」
「仕方ないんじゃない? シノの奴、なんか蟲の方が大事そうだし」
戦闘中に蟲の救助を優先するのは如何なものかと思う人達もいたが、生憎彼の中では、
蟲>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>サスケ
このような図式が成り立っている模様。
サスケなんぞに構っているヒマはない。
と、そういう事らしい。
「シノ! テメェ余所見なんかしてんじゃねぇ!!」
しかしサスケはお気に召さなかったらしく、ぶっとい血管を浮かべながら火遁を発動させようとした。
したのだが。
「うちはぁああぁああ!!! キッサァマアァぁああああぁああぁぁぁあ!!!!」
疾風の如く。
否、疾風を遥かに凌駕した速度で飛び込んで来た金の暴風によって、ボーリングのピンのような動きで吹っ飛ばされた。