NARUTO
〜九妖忍法帳〜 34話目
―木ノ葉隠れの里・うずまき邸―
久し振りの木ノ葉、久し振りの我が家。
う〜ん見慣れている筈なのにとても新鮮だ。
旅先でリフレッシュしたお陰で、身も心も脳みそも羽のように軽い。
まぁ脳に関しては生まれつきなのだが・・・気にしない気にしない。
「たっだいまぁ♪」
玄関のドアを開けると、腰を抜かしたせっちゃんに迎えられた。
波の国からのお土産は無事に届いたようで、封を切った巨大ダンボールを前に、『ざぶ、ざぶぶぶぶ!?』と呪いのような言葉を喋っている。
前回までのシリアス振りが嘘のようだ。
「ナルトさん!! こんな悪質な悪戯して面白いですか!!?」
俺の姿に気付いたせっちゃんは、掴み掛からんばかりの勢いで迫ってきた。
米神に浮いた交差点を見る限り、どうもお気に召さなかったようだ。
「まぁまぁ、細かい事は気にしない。 あとよろしく」
「ちょ、どこ行くんですか!! まだ話は終わってません!!」
再不斬の治療を託し、怒り狂った罵声を背に居間へ向かう。
現在家にはせっちゃんしか居ないようなので、俺も荷物を置いて外出する事にした。
手近なチャクラを辿り、向かった先は森の中。
ガキんちょ達との修行の場。
俺が留守の間にどれだけ伸びているか楽しみだ。
「あ、九妖さんお帰りなさい」
「うん、ただいま」
「・・・・・・任務の方はもう?」
「ああ。 予想外に手間取ったけど、どうにか片付いたよ」
変化した俺は、ヒナタとシノと軽い挨拶を交わす。
・・・・・・交わすのだが、2人ともどこか浮かない顔をしている。
「・・・・・・あのさ、どうしたのあの2人?」
少し離れた場所を指差す。
おそらくは、あれが原因と思われる。
「殺される、ころされる、コロサレル・・・!」
「死にたくない、しにたくない、シニタクナイ・・・!」
体育座りしたいのとシカマルが、この世の終わりのような顔で暗雲を背負っている。
2人ともガタガタ震えながら、壊れたラジカセのように同じ言葉を繰り返す。
何があったのか分からないが、あの怯え方は尋常じゃない。
「ねぇ、あの2人ホントにどうしっちゃったわけ?」
「・・・・・・それが」
思わず声を潜めて尋ねると、ヒナタとシノは揃って眉を寄せた。
―証言その@(証人 日向ヒナタさん)―
三日前の出来事です。
その日は、私達もいのちゃん達も午前中で任務が終わり、何時ものように森に集まって修行をしてました。
休憩の時間になって、雪さんが用意してくれた麦茶を飲んでいるところへ、アンコさんがやってきました。
妙に機嫌が良さそうだったのを覚えています。
アンコさんは後ろに何か、四角い包みのようなものを隠していました。
「ねーねーアンコさん。 それなーに?」
いのちゃんは興味深々といった感じで尋ねました。
他の皆も気になっているようで、視線がアンコさんの持っている包みに釘付けになってたと思います。
「お、おほん」
アンコさんはちょっぴり照れたような顔をして、皆が座っている丁度真中に包みを置きました。
そして包みが解け、黒い重箱が顔を出しました。
「う〜ん、何が入ってるんですか〜?」
「食い物か・・・気が利くではないか」
「アンコが持ってくる物ち言うたら、中身は大体予想つくけどね」
殆どの人が、重箱の中身はお団子だと予想しました。
私はお腹が空いていたので、とても嬉しかったです。
そして皆が見守る中、重箱の蓋が開きます。
中身は確かにお団子だったけど、全員の笑顔が強張ったのを覚えています。
お団子は一つ一つの大きさがバラバラで、お世辞にも上手とは言えない物でした。
「・・・・・・硼酸団子?」 (※害虫駆除を目的とした毒団子の事です)
言ってはいけない事を口にした夜空さんは、雪さんの裏拳で沈みました。
私も失礼だと思ったので同情しませんでした。
「あの〜・・・つかぬ事お伺いしますけど、これってまさか〜」
「そ、そうよ、文句ある!?」
「アンコ手作りィィ!? 店で買ってきたのではないのか!?」
雪さんと玉藻さんは、何故か異常なまでに怖がっていました。
あれはどうしようもない危機に直面した時の顔です。
決して、親しい人が一生懸命作ってくれた物を前にしてにするような顔じゃありません。
「み、見た目は不細工だけど、味の方は大丈夫よ」
そんなリアクションを取られたアンコさんは、不安そうに顔を逸らしました。
けれど、時折向けられる目は妙に期待に満ちていました。
私といのちゃん、それにシノ君やシカマル君は、思わず顔を見合わせました。
その時シカマル君の目が、
『食わねーわけにはいかねーだろ』
そう訴え掛けてました。
私達はほぼ同時に頷いたと思います。
「ガラじゃないのは分かってるんだけどさ・・・・・・もし良かったら食べてもらえない・・・?」
言われるまでもなく、私達はお団子を口に運ぼうとしました。
「あっ!」
でもいのちゃんの上げた声に、私は手を止めてしまいました。
そして決定的瞬間を目撃したのです。
いのちゃんが食べようとした団子は指をすっぽ抜け、一度空中に投げ出されました。
慌ててキャッチしようとしたけれど、立ち上がった拍子に足が縺れて転倒。
べチャリ。
たぶんいのちゃんも、その良くない音をバッチリ聞いてしまったのでしょう。
恐る恐る顔を上げます。
「―――――――――」
アンコさんは驚く程の無表情で、ひっくり返った重箱を凝視していました。
この時、いのちゃんは間違いなく死を覚悟したと思います。
「ご、ごごごごめんなさ・・・」
「いいのよ。 失敗は、誰にでもあるんだから」
ところがアンコさんは、怒るどころか慈愛に満ちた表情さえ浮かべていました。
それをいのちゃんがどう解釈したのは分からないけど、あの時の顔を見た限り良い方に捉えていないのは確かだと思います。
重箱を片付けたアンコさんが何処かへ行ってしまった後、いのちゃんは石のように固まって動きませんでした。
「・・・助かったな」
「はい、一時はどうなることかと思いました〜。 いのちゃんお手柄ですね〜」
そんな様子を尻目に、友達の筈の玉藻さんと雪さんは、心底ホッとした顔で額の汗を拭っていました。
いくらなんでもヒドイと思いました。
―証言そのA (証人 油女シノ君)―
二日前の出来事だ。
その日、オレ達8班とシカマル達10班も任務が休みで、何時ものように森に集り修行をしていた。
ちなみに、いのは寝込んでいたので居なかったのだが、まぁそれはこの際触れずにおこう。
休憩の時間になり、ヒナタが作ってきたシナモンロールをパクついているところへ、玉藻さんがやってきた。
妙に機嫌が良かったのを覚えている。
彼女は両手に茶道具を一式持参していた。
「突然でなんだが、今日は皆に茶を振舞ってやろうと思ってな」
本当に突然だった。
「けどオレ、作法とか知らないっスよ?」
オレも夜空さんも、シカマルの言葉に頷く。
「型に拘らずともよい。 純粋に茶を味わえばよいのだ」
「オレが昔付き合わされた時は、ちょっとした間違いでボコボコにされたつばってんかぁッ!?」
呟きの主をチョキで黙らせ、何事もなかったかのように準備を始める玉藻さん。
「手伝いましょうか〜?」
「あ、私も手伝います」
「よいよい、おぬしらは座っておれ」
2人の申し出を片手で制す。
「目が―――!! 目がぁぁああ!!!」
「ええい、喧しい!!」
「げふッ!!」
ついでに悶える夜空さんを踏み付け、テキパキと作業を終わらせた。
正座して待つ事20分。
玉藻さんが慣れた手付きで人数分の茶を点ててくれた。
型に拘る必要はないと言われたが、折角の機会なのでまず女性陣に手本を見せてもらった。
その後、オレ達が見様見真似で茶を取りに行った。
・・・・・・事件はその時に起こった。
「熱ッ!!」
なにをどうしたらそうなるのか、シカマルは誤って茶に指先を突っ込んでしまったらしい。
しかも運の悪い事に、器の中身を玉藻さんに浴びせてしまった。
「―――――――――」
抹茶を滴らせながら、無機質な瞳で弟子を見据える師。
これは恐らく目の錯覚だと思うが、彼女の背後に伝説の大妖が見えた。
「・・・・・・・・・小僧?」
「は、はひぃぃぃ!!」
裏返った声で悲鳴にも似た返事を返すシカマル。
オレは咄嗟に奴の冥福を祈った。
「雪さん! 夜空さん! シカマル君を助けてあげて下さい!!」
「「ムリですごめんなさい」」
雪さんも夜空さんもキッパリと断り、気の毒そうな顔をして胸の前で十字を切っていた。
君子危うきに近寄らず・・・・・・懸命な判断だ。
とりあえずシカマルの死は避けられない運命にあった。
しかし。
玉藻さんはシカマルに報復するどころか、
「私は構わぬ。 おぬしの方こそ大丈夫か? 火傷などしておらぬか?」
などと口にした。
―――――――――――――――時が止まった。
「此度の事は気に病むでないぞ? 人は犯した過ちを乗り越えて大きくなるのだ。
この身に降り掛かった災い、おぬしが成長する為の肥やしと思えばどうという事はない。」
玉藻さんは曇りのない瞳で空を見上げ、熱弁を振るう。
すごく良い事を言っていた筈なのだが、シカマルの顔からはドンドン血の気が引いていた。
「では、私は家に戻り湯を浴びる。 よって本日の稽古はこれまでとする。
おぬしも家へ戻りゆっくりと休養を取るが良い。 ・・・・・・・・・明日に備えてな」
『明日に備えて』。
厳密には明日の何に備えろと言いたかったのだろうか?
少し聞いてみたいとも思ったが、玉藻さんは既に消えていた。
(油断させとってバッサリ殺る気やろうか?)
(いや、あの様子じゃ楽には死なせてやんないでしょ。
その場で断罪しなかったのはアレよ・・・『己の過ちを悔い改めろ』ってメッセージ)
(・・・・・・まだ若いのに・・・気の毒ですね〜)
現場に居合わせた者達は、物騒な相談をしていた。
シカマルが走り去ったのは、そのすぐ後の事だった。
哀れと言う他ない。
「成る程ね・・・・・・俺が留守の間にそんな事がねぇ」
そりゃあ2人がああなったのも頷ける。
俺が同じ立場なら、その日の内にとんずらこいてる。
断言出来る。
「何とかしてあげられませんか?」
ヒナタは胸の前で両手を組み、不安そうにしている。
「う〜ん、でも今日まで無事だったんだよね? じゃあ大丈夫なんじゃない?」
「いや、そうは言い切れない」
シノは中指でサングラスを押し上げつつ否定する。
「どして?」
「あの日以来、罪人と処刑人は顔を合わせていない」
「その例えはどうかと思うが・・・・・・ようするに執行猶予が付いただけで、刑そのものは予定通り行われるって事だね?」
「そうだ」
「九妖さん・・・その例えもどうかと思いますけど・・・」
頷くシノの横で、ヒナタが何とも言えない顔をする。
「ふふっ・・・・・・そう、そうよね。 あの毒蛇のように執念深いアンコさんが、みすみす獲物を逃すわけないわよね」
「一思いにサクッと殺ってもらえるだけオメ―はマシだよ、いの。 オレなんか玉藻さんだぜ?
肉体的にも精神的にもボロボロに追い込んだ上で、命乞いし始めてからが漸く本番って人だぞ?」
いかん、会話が駄々漏れになっていたようだ。
悪気はなかったのだが、崖っぷちの2人に追い討ちを掛けてしまった。
このまま放置していたら自宅で首を吊りかねない。
もしくはリストカット。
自殺幇助の罪に問われるのはマズイ。
てゆーかそれ以前に2人に死なれるのは嫌だ。
師として、友人として、一肌脱がねばなるまい。
「あ〜そこの2人。 アンコと玉藻はどうにかしてあげるから、無言で手首にクナイを添えるのは止めなさい」
「ホント!? ホントね!?」
「言質は取りましたからね!? もう撤回出来ねーっスよ!?」
立ち上がったいのとシカマルが、脅迫紛いの台詞で迫ってくる。
2人とも目が血走っている。
かなり必死だ。
「あ、ああ。 手を尽くすよ」
あまりの勢いに少し怯む。
「やったー! 九妖さんありがとー♪」
狂喜したいのが、首に抱き着いてキスしてきた。
まぁ仮面越しだったので意味はないのだが。
「九妖さん、信じてたっス!」
シカマルはシカマルで尊敬に満ちた眼差しを向けてくる。
眼に浮かんだ星がキラキラと光ってて迷惑な程眩しかった。
「いのちゃんもシカマル君もよかったね」
「ありがとうヒナタ! やっぱりあなたは親友よ!」
いのとヒナタが手を取り合って喜びを分かち合っている。
俺の存在など既に眼中にないらしい。
「・・・・・・その内きっと良い事がある」
俺はその傍らで、シノに肩を叩かれるのだった。
―その夜―
時刻は7時。
本日の我が家は、通常の5割増しで賑やかだ。
何故なら、再不斬と白のお披露目をしているからだ。
ちなみに白はついさっき家に着いたばかりである。
本来ならば俺よりも早く到着する予定だったのだが、引率の人選を間違えたばかりに遅れてしまった。
真っ直ぐ木ノ葉を目指せばいいものをあろうことかあのエロ親父、帰る途中に道草しやがったのだ。
何処で何をしていたのかは大体予想がつく。
予想がつくだけに余計腹立たしい。
いくらガトーカンパニーから掠め取っ・・・じゃなくて、貰って上げた金で財布が膨らんでいたとはいえ、路銀を多めに渡したのは失敗だった。
後で絶対殺す。
とりあえず話を元に戻すが、我が家はただいま歓迎会の真っ最中である。
部屋中に飾り付けが成され、居間はちょっとした宴会場と化している。
どんちゃん騒ぎ大歓迎の居候達は、自分達の席にスタンバって乾杯の合図を待っている。
一応家主である俺は上座に陣取り、司会進行役を仰せつかっている。
『え〜本日を持ちまして、当うずまき家は新たに2名の居候を迎える事に相成りました。 皆仲良くするように。
あ、それとついでにもう一人・・・皆も知っている人がカムバックしましたが、紹介する必要性を感じないので無視します』
どこから持って来たのかは謎だが、用意されていたマイク片手に家主としての挨拶を至極簡潔に終え、主役の2名に手招きをする。
しかし俺の隣に出て来たのは白一人。
再不斬は出て来ない。
いや厳密には出て来れない。
仮死状態にされた人間が元通り動けるようになるには、通常で一週間くらい掛かる。
せっちゃんの治療を受けたとしても、2日は掛かるだろう。
その為、現在この部屋に敷かれた布団で横になり、俺に殺意に満ちた視線を送っている状態である。
一応気を使ってお粥まで用意したのに、何が気に入らないと言うのだろうか?
・・・・・・まぁいい。
『じゃ、自己紹介な』
白にマイクを渡した途端、拍手が巻き起こる。
『あ、えーと・・・何を喋ればいいんですか?』
大勢の視線を浴びて、白はカチカチになっている。
「名前と年齢、好きな事嫌いな事、趣味とか将来の夢とか・・・まぁテキト―でいんじゃね?」
白は暫し思案する素振りを見せてからマイクを掲げた。
『白と言います。
歳は15、好きな事は家事、嫌いな事は女扱いされる事です。
趣味は・・・料理かな? えーそれから、将来の夢は・・・幸せな家庭を築けたらいいなと思ってます。
・・・後はそのー、うんと・・・・・・新参者ですが一生懸命頑張りますので、これからよろしくお願いします』
ペコリと頭を下げた途端、再び拍手喝采。
白は余程緊張していたのか、ホッとしたように息を吐いている。
「こっちこそよろしくね―――!」
「素直で気持ちのよか子やね」
「うむ、今時の若者にしては珍しいくらい礼儀を弁えておる」
「でしょ、でしょ!?」
予想通り、家の連中に快く受け入れられた。
まぁこれ程人間の出来た奴を嫌がる人間の方が珍しい。
白ならこれから先も上手くやって行けるだろう。
・・・・・・・・・問題は再不斬だ。
『はい、じゃあ次の人に行ってみよう』
席に戻った白からマイクを受け取り、出来るだけハイテンションで喋ってみる。
しかし、明らかに空気は重くなった。
「さっきから気になっとったんだが、何故そいつは寝たきりなのかのぉ?」
「仮死状態にされた上に、誰かさんに体中の関節外されちゃった所為で動けないんですよ」
「酷い奴がおるのだな」
「かわいそうやね」
「元気出しな。 ・・・○ッキ―食べる?」
皆に同情されたのが余程悔しかったのか、顔を背けて涙を流す鬼人。
「す、すみません・・・・・・ボクも悪乗りが過ぎました」
「白君はちっとも悪くないんだから、気にする必要はないんですよ〜」
白の頭を撫でながら、鬼のような視線を投げ掛けてくる居候。
昼間の事をまだ根に持っているらしい。
・・・・・・・・・挫けてはいけない。
この痛々しい空気をなんとかするのが、司会であり家主である俺の勤めだ。
『はーい、お名前聞かせてくれるかなー?』
再不斬の枕元まで歩いて行き、駄目元でマイクを差し出してみる。
『・・・・・・・・・・・・』
やっぱり答えない。
益々口を閉ざし、返事の代わりに睨み付けてくる。
負けるな、ファイトだ俺。
押しても駄目なら引いてみるんだ。
『桃池君はおいくつでちゅか〜?』
『誰が桃池だ!! オレの名は【桃地 再不斬】だ!! 二度と間違えるんじゃねェ!!!』
作戦成功。
再不斬は『しまった!』という表情でプルプル震えている。
『はい、元気にお名前言ってくれてお兄さんとっても嬉しいで〜す♪
じゃあ次は好きな事と嫌いな事、将来の夢を皆に聞こえるように大きな声でお願いしまーす』
最早自棄である。
自分で自分のテンションが痛い。
それでもなんとか持ち堪えて、再不斬の頬にマイクを捻じ込む。
『好きな事はテメーとあの狐野郎をボロ雑巾にする事! 嫌いな事はテメーと狐野郎のにやけ面を拝む事!
将来の夢はテメーと狐野郎を2人揃えて土下座させて、その後頭部を土足で踏み躙ってやる事だ! 文句あるか!!』
再不斬もヤケッパチだった。
怒りに任せてワンブレスで言い切り、頬に食い込んだマイクを叩き落とした。
潔く本音をぶちまけた再不斬に、周囲は『おお〜!』と驚嘆の息を上げ拍手を送った。
白の時と形は違えど、どうにか無事に受け入れられたようだ。
『アグレッシブ且つデンジャラスな発言をありがとう。 以上で【桃地 再不斬】の自己紹介を終わります』
とりあえず司会の役割は果たしたので、俺は一旦マイクのスイッチを切る。
「一つ言い忘れてたんだけどな」
「・・・・・・?」
再不斬はムチャクチャ鬱陶しそうにこっちを向く。
俺は印を結んで姿を変え、
「同一人物」
と言って自分を指差した。
その瞬間、再不斬はピキッ!と音を立てて石になった。
「んじゃ、両名の仲間入りを祝して!」
「「「「「「「かんぱ――――――い!!」」」」」」」
俺達はそれを無視して、高らかにグラスを掲げるのだった。
―2時間後―
俺は歓迎会を終えてから、居間で波の国の人達に貰ったお土産の整理をしていた。
生物とかは野宿した時に美味しく頂いたが、食べ物以外の物も大量に貰ったので整理しないと嵩張ってしょうがない。
まぁそれはさておき。
土産の整理があらかた片付いたところへ、アンコがやってきた。
俺はいのの一件でアンコに用があったので、丁度良いタイミングだと思った。
「あんたなにしてんの?」
「旅先で貰った土産の整理」
「ふ〜ん。 それにしても随分な量ね」
「なんか子守とか日曜大工引き受けてたら、妙に気に入られたみたいで」
「あはは、あんたって木ノ葉以外の人間には人当たりいいもんね」
他愛のない会話だったが、久々なので妙に新鮮に感じた。
暫くそんな感じでだべっていると、アンコは唐突に妙な質問を投げかけてきた。
「で、どうだったの?」
「なにが?」
質問の意図が分からず首を傾げる。
が、
「決まってるじゃない。 したんでしょ浮気?」
笑顔から飛び出したストレートな質問・・・・・・つーか尋問に口元が引き攣った。
どうもいのの命乞いの前に、自分の命乞いをする破目になりそうだ。
「は、ははは・・・・・・なにをバカな・・・冗談キツイな〜〜〜・・・」
「またまたぁ♪ そんなバレバレの嘘吐いちゃってぇ♪」
カラカラに乾いていく舌でどうにか言い逃れようとする俺の胸元に、アンコは顔を寄せ鼻をヒクつかせた。
「紅の香水」
「(ギクゥッ!!!)」
口から心臓を吐きそうになった。
「・・・・・・それに加えて、消毒液と薬品の微かな匂い・・・・・・・・・医療忍者?」
「(ドキィッ!!!)」
見事な嗅覚と推理力。
俺の行動など全てお見通し。
里の外で何をしようと、手に取る様に判ってしまうのですね。
「うふふ・・・・・・ナルト♪」
ダラダラと滝のような脂汗が流れました。
かつて、アンコさんは私にこう語りました。
『何人の女と浮気しようが構わなけど、紅とコトに及んだ場合に限り・・・・・・・・・去勢する』
――――――――――――なんて骨体。
『ダディィィィィィィィ!!!!』
『諦めようマイサン』
『絶対にやだぁあああぁああぁあああああ!!!!』
この方を侮り過ぎたのが俺の敗因のようだ。
いや、敗因っつーより死因。
男としての。
「申し開きの仕様もございません」
敗北の中のベストオブベストを持って謝り倒す。
しかしアンコさんは土下座した俺を10秒程見下ろした後、おもむろに膝を曲げそっと肩を叩いてきた。
「・・・・・・顔を上げて」
静かな声だが迫力がある。
俺はゴクリと唾を飲み込み面を上げた。
すると。
「あんまり浮気しちゃい・や・よ? ね・ダーリン♪」
俺の頬に口付けをし、軽い足取りで二階の自室へ向かった。
「!????」
その理解不能な行動が、恐怖を最大限に煽ってくれた。
―浴場前廊下―
アンコとの接触から30分後。
辛うじて放心状態から立ち直った俺は、風呂に入ろうと浴室へ向かった。
そしたら、入り口の前で玉藻と鉢合わせになった。
「む、今から入るのか?」
「そう言うお前は今上がったみたいだな」
「うむ、中々の湯加減だった」
玉藻はタオルで濡れた髪を拭く。
仕草が色っぽかったので、少し勃起してしまったのは内緒だ。
「・・・・・・主」
何を思ったのか、俺の首筋に顔を近付けクンクンと鼻を鳴らす玉藻。
「人妻」
「(ギクゥッ!!!)」
囁かれた言葉に戦慄が走る。
半勃ち立った息子は即縮んだ。
アンコの時同様、シカマル云々ではなく己の生命の危機が訪れてしまった。
「・・・・・・それも子持ちの未亡人の匂いがするな」
―何故判るぅ!!?
どんな匂いだ!?
というか最早、匂いが云々とかそんな次元の問題ではない。
「適当にカマをかけてみたのだが、案外当たる物だな」
直感かよ!?
それはアレか!? ギフトか!? シックスセンスなのか!?
「ハハ・・・・・・ナンノコトダカサッパリ」
突っ込みそうになるのを辛うじて踏み止まり、精一杯平静を装う。
しかし焦るあまり片言になってしまった。
それでもシラを切り通す以外、生き残る道はないのだ。
如何に浮気に寛容な玉藻と言えど、子持ちの未亡人に手を出したと知れば流石に黙ってはいまい。
良くて撲殺、悪くて滅殺。
AコースだろうがBコースだろうが、どちらにせよデッドエンドは確定しているのだ。
「で、どうだったのだ?」
俺は既にいっぱいいっぱいになってるのだが、玉藻の追求は止まらない。
「ど、どうとは?」
痙攣から来る顔面痛に耐えながら、相手の出方を窺う。
この先の受け答えには、毛程のミスも許されない。
「美味かったか?」
「ええそりゃあもう――――――ッッッ!!?」
「―――――――――」
いきなりしくじった―――――――――!!!
死亡確定!
「Aコースですか!? それともBコースですか!?」
「何をわけの分からん事を・・・・・・」
錯乱した俺の様子に呆れたのか、玉藻は一瞬訝しげな表情になった。
「・・・・・・・・・まぁよい」
わざとらしく咳払いなどして、姿勢を正し真っ直ぐに俺の眼を見た。
「時に主」
「――――――はい」
最早何をしても助からないと悟り、大人しく裁きを受ける事にした。
「明日の夜、時間はあるか?」
死刑執行は明日の夜か・・・・・・。
「例えなくとも作らせて頂きます」
自然と首が垂れる。
「うむ、よい心がけだ。 ・・・・・・大事な話があるのでくれぐれも頼んだぞ」
「御心のままに」
お父さん、僕ももうすぐそっちへ行くかもしれません。