NARUTO
〜九妖忍法帳〜 29話目




目の前が真っ暗だ。

体中がズキズキする・・・・・・特にデコが。

でもなんか・・・すごく好い匂いがする。

「・・・ん・・・・・・」

「気が付いた?」

目を開けると、旅館の浴衣を着せられ布団に寝かされていた。

意識を失ったのに、何故か変化の術は解けていなかった。

「・・・・・・・・・紅さん?」

浴衣に着替えた紅さんが、枕元に正座していた。

「傷は大丈夫?」

自分の額に手を当てると、デカイたんこぶが出来ているのが分かった。

止めを刺そうとして逆に引っ張り込まれたところまでは、どうにか覚えている。

何を喰らったかは、このたんこぶから容易に想像できる。

しかし、あれだけ追い詰めておきながら、最後の最後でしてやられたんだな。

俺はゆっくりと体を起こし、頭を下げた。

「・・・・・・すいません・・・お役に立てませんでした・・・」

言い訳の仕様もない。

誰か1人でも同行させていれば捕まえられた。

それをしなかったのは俺のミスだ。

あのセクハラ親父が一旦行方を眩ませたら、生半な事では見つけ出せない。

俺が気絶してからどれ位経ったか知らないが、既に街から出て行っているだろう。

「ううん、そんな事ない。 あなたは皆の期待に応えてくれた」

「そう言ってもらえると助かります」

ああ・・・・・・疲れきった心身が癒されていく。

どっかの2人にも是非見習わせたい。

もしここに居たのがそのどっかの2人だとしたら・・・・・・。



『ケッ! あんだけ大見得きったクセにやられたの? ダッサイわね!』

『あのような色魔に及ばぬとは、ちと修行が足りんのではないか・・・主よ?』



とかなんとか言われるんだろうなぁ。

・・・・・・いやいや、流石にそこまではないよな・・・・・・多分。

まぁ、誰かと比べるのは間違ってるし、考えるのはよそう。

あの2人にも、あれはあれで良い所が沢山ある。

うんきっとそうだ。

「どうかした?」

「なんでもありません・・・。 ・・・・・・あ、そうだ」

「・・・まだ寝てなきゃだめよ・・・」

「いえ、もう十分回復できました」

俺は紅さんの手を借りて布団から抜け出した。

綱手姫とおっさん達にも報告しとかないといけないな。

向こうも既に分かっているだろうが、自分の口から伝えなければ気が済まない。

そう思って襖を左右に開いた。









「犬塚ツメ! 行かせていただきます!!」

「「「「「「「「「イッキ! イッキ! イッキ! イッキ!」」」」」」」」」

「プッハ〜〜〜!! どうだぁ!!」

「いいぞ犬塚ぁ!!」

「姐さんって呼ばせてくれっ!!」

「きゃ―――♪ ツメさんすてきぃー♪」

「くぅ〜イイ呑みっぷりだねぇ!! 男共なんか目じゃないよ!」

「どっからでもかかってきなぁ!!」

「ぬぅ! 最強の名は日向のものだ!!」

「はいはい、また今度な。 それより次だ次! 皆準備はいいな?」

「「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何してんのあんたら?

襖を開けた瞬間に、自分の顔が引き攣るのが解かった。

皆さん浴衣に着替えて宴会やってらっしゃる。

忍装束の奴なんぞ1人も居やしねぇ。

部屋にタバコの煙と酒の臭いが充満している。

長台の上には所狭しと並べられた菓子とツマミ。

トドメはそこら中に転がる酒の空き缶と空き瓶。

清酒 ・ 焼酎 ・ ワイン ・ ビール ・ ウイスキー ・ ブランデー ・ カクテル ・ サワー。

数え上げたら限がない・・・・・・・・・どんだけ呑んでんだよ。

よく見たら紅さんも頬が朱に染まってるし。

しかも、まだ手付かずのビニール袋が、山のようにストックされている。

「「「「「「「「「「王様だ〜れだ?」」」」」」」」」」

祝杯を挙げてた延長でハメが外れたんだったら別に構わねぇんだが・・・・・・・・・。

まさか俺がガチで殺り合ってる最中、呑気に風呂でも入っていたんでしょうか?

それから、

「よっしゃ! ワシだ!!」

なんであんたまで居んの?

逃げたんじゃねぇの?

「そうだのぉ・・・・・・・・・じゃあ5番が」

「(ビクッ!)」

俺の疑問と存在を尽く黙殺し、いい年こいて王様ゲームに熱中しているお師匠様。

勢いに流されたのか自主的に参加しているのかは知らんが、当たりを引いてしまったらしく肩が小さく跳ねる白。

師匠はぐるりと周囲を見回すフリをして、特定の人物に視線を向けていた。

ニヤニヤした綱手姫がテーブルの影から、自分の引いた数字を密かにチラつかせている。

明らかに合図を送っている。

「・・・・・・8番に」

サインを受け取ったかつてのマンセル仲間は、黒い笑みを深めて白を見た。

「ちゅ〜をする。 それもディープなやつをのぉ」

「ええ!?」

50代の親父が口尖らせて『ちゅ〜』とか言うな、それと男がその程度でおたつくな。

「なんだ不満そうだのぉ?」

「べ、別に不満なわけじゃ・・・ただ」

「ダメだよ白君? 王様のめーれーは?」

活き活きしてるな、山中の親父。

「「「「「「「「ぜった〜い♪」」」」」」」」

他のアダルトも負けず劣らずのハイテンションだ。

白だけはモジモジと戸惑うが、逃げ道を塞がれているのでどうしようもない。

「30秒以内に口を離した場合、60秒に延長して最初からやってもらう」

「・・・・・・はい」

油女の親父が脅迫紛いのセリフでサラリとトドメを刺し、白は観念したように綱手姫に向き直った。

「め、めめめ、めを閉じて下さい」

どうにか肩に手を乗せられたようだが、緊張しすぎてひきつけでも起こしそうな勢いである。

この手の手合いにそのリアクションは非常に不味いと思う。

「どうしたんだいボウヤ・・・・・・震えちゃって・・・えぇ?」

「そ、そんな事言われても・・・・・・・・・は・・・初めてなんだから仕方ないじゃないですか!!」

「(初物GET!? よっしゃきたぁ!!) へぇ・・・そうかい。 ・・・じゃあ忘れられない思い出にしてやらないとねぇ」

案の定というか、綱手姫が邪まなチャクラを発したのは目の錯覚ではなかろう。

―あっちゃ〜、火が着いちゃったよ。

今更遅いとは思うが、もう少し発言に気を払うべきだったな。

「ちょっと待って下さい! まだ心の準備んぅんッ!!?」

最後まで言わせてもらえず、ガッチリと抱き締められた。

そして強引に舌をねじ込まれて白の体が強張った。

「「「「「「「おおう!?」」」」」」」

可愛そうだが、誰も助けてくれないんだよな。

だって面白がってるもん。

「穢れを知らないいたいけな蝶。 巧妙に張り巡らされた淫らな罠。
 羽を奪われたのは、無垢であるがゆえ。 ああ、今、禁断の一時が・・・」

趣味と実益を兼ねて、ブツブツと独語しつつネタ帳にゴリゴリ書き込む白髪頭を見て、

―罠張ったのは他ならぬあんただろ・・・。

と思ったが、口に出したところで無視されるのが分かりきっているので黙っておいた。

口付けから15秒が経過して、抵抗していた白が段々と大人しくなってきた。

しかしあれだ。

こうして見てると、百合の絡みみたいでなんかなぁ。

白に言ったら怒り狂うな、絶対。

まぁ、逆にそれで喜ぶ人もいるみたいだが。

例えば・・・・・・・・・、

「キャア〜〜〜ッ♪ キャア〜〜〜ッ♪ キャア〜〜〜ッ♪」

付き人のシズネさんとか。

頃合と見た綱手姫が白を押し倒すと、シズネさんはより一層狂った。

茹蛸のように真っ赤になって、両腕をブンブン振り回して絶叫しまくっている。

とりあえず見なかった事にしよう。

すっかりラリってしまったシズネさんはさておき、白は弱々しく抵抗をしている・・・・・・今のところは。

が、それも長くなさそうだ。

馬鹿力で押さえつけられた上、年季を感じさせる舌技で一方的に翻弄されてる。

あ、今思い出したが、綱手姫って師匠と同い年だ。

見た目は若いが中身は・・・・・・。

・・・・・・だとすると・・・・・・白のファーストキスの相手は皺くちゃの干物・・・ゲフン!

訂正、50代のオバハン・・・ゲフフン!

再度訂正・・・年増・・・ゲ、ゲフフフン!!

ん〜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・歳の離れた貴婦人・・・この辺で手を打っとくか。

かなり自分を偽ってる気がせんでもないが、白の名誉の為にもそう言うことにしておこう。

ま、とにかくあと5秒だ、頑張れ白。

・・・3・・・2・・・1・・・。

「ふぁ」

「ふふっ・・・」

カウントが0になるギリギリのところで、顔前面にSと貼り付けた綱手姫がやっと白を解放した。

白は魂を抜かれたようにぐったりしている。

なにも初めての相手にそこまでエゲツナイ真似しなくても。

「待て。 今のはまだ始まって29,96秒だった。
 ・・・・・・0,04秒の不足だ。 規定通り60秒に延長してやり直してもらう」

だが油女の親父は、白を再び地獄に突き落とした。

「そ・・・そんな・・・」

「おやおや・・・。 そんな泣きそうな顔するんじゃないよ」

実際半泣きしている白の顔に、綱手姫はやさしく手を置いた。

優しくされた経験があまりない所為か、かなり感動しているようだ。

騙されんな白、絶対に罠だ。

「ますます虐めたくなるじゃないか♪」

「!!!? んん〜〜〜!!」

やっぱりね。

・・・・・・どこまでエゲツナイんだあんたら。

特に綱手姫は容赦がない。

再び白を押し倒し、浴衣に手を突っ込んで体中を撫で回している。

この一件で、白が女性恐怖症やら人間不信やらにならなきゃいいがな。

「ふっ、綱手様も酷いお人だ」

と言いってニヒルな笑みを浮かべながら、おもむろに席を立つ日向の親父。

小脇に抱えた箱ティッシュは何だ?

これから何処で何を始めるつもりだろうか?

日向の親父は皆に突っ込まれる前に部屋を出て行った。









「あ〜・・・・・・何か頭痛くなってきた」

マジで眩暈がしてきた。

脱力感が酷すぎて怒る気にもなれない。

「大変! やっぱり寝てなきゃだめだったのよ!
 さぁ! 今すぐ部屋に戻りましょう!! 眠るまで付いてるから!!
 なんだったら添い寝して子守唄も歌わせてもらうわ!!
 あっ、別に変な意味で言ってるんじゃないから誤解しないでね!?
 久し振りに会ったから体が疼くとかそういう事じゃないのよ!? ああっ私ったら何言ってるの・・・!」

「・・・・・・・・・紅さん、少し落ち着いて下さい」

ついでに頬を染めて身をよじるのも止めて下さい。

このところ禁欲で欲求不満なのでマジ危険です。

それと体を休めろと勧めるのなら、添い寝は絶対止めて下さい。

寝ようにも寝られないじゃないですか。

・・・・・・俺も紅さんも。

と、そんなことより。

「そこのおっさん」

「なんだ、やっとお目覚めか?」

今気付いたのか貴様。

「・・・・・・なんで此処に居やがる。 逃げたんじゃなかったのか?」

「お前は・・・このワシが傷付いた愛弟子を置いて逃げるような薄情な男と思うか?」

「ああ思う」

「く、九妖・・・そんな即答しなくても・・・」

甘いです紅さん。

どうせ懲りてないんだから、次に問題起こした時の分までよ〜く言っとかないと。

「・・・・・・・・・・・・昔のお前は、何時でもワシの後ろを着いて回る可愛らしい子供だったのにのぉ・・・」

「最初は兎も角、途中からは連れ回されてた気がするぞ?」

覗きとか遊郭とかキャバクラとかな。

それも子供連れてると女ウケするって理由で。

「・・・・・・・・・・・・」

いい年をした大人が、膝を抱えチビチビと呑んでいる。

「一々いじけんな。 話が進まんだろうが」

「ね、ねぇ・・・もう少しソフトに・・・。 気を失ったあなたを、此処まで運んで来たてくれたのは自来也様なんだから」

「・・・・・・そうなんですか?」

「ええ本当よ、傷の手当てまで終わらせてたわ」

紅さんの言葉を聞き、自分の変化が解けていなかった理由が分かった。

気絶して一度は解けたのだろうが、俺の正体がバレないよう手を回してくれたのだろう。

だとすると、流石に言い過ぎたな。

俺は密かに師匠に視線を向けてみた。

すると自分に有利な展開になってきたのが嬉しかったのか、家出した子供のような顔でチラチラとこっちの様子を窺っている。

ホントこれさえなけりゃあなぁ・・・。

なんか謝る気が失せた。

「・・・・・・・・・・・・ありがとな」

だが、一応礼だけは言っておこう。

曲りなりにも俺の師匠だし。

「ふふん、わかればいい。 まぁ見ての通りこの件は手打ちになった。 お前が寝とる間にの」

まぁそうじゃなきゃ酒盛りなんかしねぇわな。

しかし一体どうやって?

「ま、色々とあっての」

「俺的にはその色々ってやつが聞きたいんだけど・・・」

「これよ!」

紅さんが胸を張って何かを掲げた。

その何かより、ぷるんと揺れた双丘に眼が行ってしまう。

うん、相変わらずええ乳だ。

「もう、どこ見てるのよ♪」

「いだっ!」

コブの上にデコピンをもらった。

額を擦りながら紅さんの手を見る。

「その・・・色紙は何なのですか?」

汚ぇ字。

ミミズがのたくったようで分かりづらいが、【蝦蟇乃 自来也】と書いてある。

・・・・・・確か紅さん家にあった少女漫画の・・・・・・。

「サインもらっちゃった♪」

喜ぶ程のものですか?

「私も♪ ほらほら、ここに『シズネちゃんへ』 って書いてもらいました♪」

シズネさん・・・・・・あなたも愛読者ですか?

100歩・・・・・・いや10000歩譲ってこの2人はいいとして。

「・・・・・・皆さんもですか?」

何故この人らまで色紙を持ってるんだろうか?

「ウチの母ちゃんが大ファンなんでな」

「いのだって読んでるよ」

「あたしんとこもハナがね」

「ちなみにヒアシの娘達も読んでるそうだ」

そんなもんで買収されるとは・・・・・・・・・安い連中だ。

「・・・・・・木ノ葉もいよいよ終わりだな」

「あれの面白さが理解できんとは・・・・・・可愛そうな奴だのぉ」

どうやって理解しろと?

「人生の半分を損してますね」

シズネさんの人生はあんなもんで半分も満たされるんですか。

安上がりで結構ですね。

「ほれ見ろ! 分かる奴には分かるんだ」

「・・・・・・限りなく一部の人間にだけ、コアな人気があるようだな」

「一部? ふふん。 自慢じゃないが各国で既に100万部以上の売り上げを上げとる」

100万!? そんなバカな・・・!

・・・・・・もしかして俺がおかしいの?

人として間違ってるの?

いやいや、断じて違う・・・・・・・・・筈だ。

一瞬過ぎった不安を封じ込め、得意げに胸を反らす蝦蟇使いを睨む。

「全員同じような手口で買収したのか?」

「買収ではない! 取引だ!」

「同じだろうが」

痛みが酷くなってきた頭を押さえつつ、残った連中に確認を取る。

「で、皆さんは何をもらったんですか?」

「【酒酒屋】のクーポン券」

「焼肉食い放題!」

自慢気に答える油女の親父、秋道の親父。

胸張って言うな、しょうもない。

「綱手さんは・・・・・・・・・お忙しいみたいですね・・・」

綱手姫は質問云々の前にまだやっていた。

Aを済ませ、ただ今Bの真っ最中である。

Cに移行するのも時間の問題と見た。

行為の邪魔をすると面倒な事になりそうなので、白には申し訳ないが放置させてもらう。

「なぁなぁ・・・・・・あの綱手姫をどうやって買収したんだ?」

「取引だっつってんだろうが! ・・・まぁええ」

取引の部分を強調し咳払いする師匠。

「綱手の奴、あの坊主をいたくお気に召したようでな。
 坊主にあーんな事やこーんな事が出来るように、どうにかセッティングするって事で手を打った」

「自分が助かる為に、俺の連れをスケープゴーストにしたのか?」

「人聞きの悪い事を言うでない。
 綱手は坊主を好きに出来る。
 坊主は絶世の美女に筆卸しをしてもらえる。
 ワシは覗きのツケをチャラにするだけでなく、小説のネタ集めも出来る。
 全てが丸く収まって、一石二鳥どころか一石四鳥だろうが。 一体何が悪い?」

いや悪いに決まってるだろ。

だが、俺が何か言ったぐらいではあの根拠のない自信は崩れないだろう。









「はぁ〜〜〜〜〜・・・・・・・・・」

同室で綱手姫と絡み合ってる白の喘ぎ声に混じって、自分の吐いた溜息が聞こえる。

毎度の事だが真面目に相手をするのが疲れる。

俺は何故里の外まで来て憂鬱な気分になっているのだろうか?

これは何かの呪いですか?

「ぐふっ・・・ぐひっ♪」

いや俺は呪われてなんかいない。

・・・・・・・・・・・・俺よりも呪われてそうな奴はあそこに居た。

「ぐひひひひひひ♪」

部屋の隅でニタニタと笑っているアスマ。

笑っているのだが恐ろしくやつれている。

目元のクマの所為で表情が余計に不気味だ。

地縛霊にでも憑かれたのか、薄気味悪い瘴気を漂わせている。

「な、何があったんだよ?」

悪寒のあまり半歩後ずさった。

「普段からアレだけど、今日のはまた一段と酷いわね・・・」

紅さんも俺の背にしがみ付いて気味悪がっている。

俺達の・・・いや、紅さんの気配を感じ取ったのか、いきなりアスマの目玉がぎょろりと動いた。

「げっ・・・・・・こっち見た!」

「眼を合わせちゃダメです! 確実に呪われますよ!!」

奴の目に触れないよう紅さんを後ろに隠す。

「紅・・・恥ずかしがってるんだな」

恥ずかしがってんじゃなくて怖がってんだよ。

そう言ってやろうと思ったが、アスマがフラっと腰を上げたので、俺は何時でも動けるように腰を落とした。

「く、紅さん、あの人がああなった原因に何か心当たりは?」

「あ、あるわけないわよ!」

怯え切った紅さんが体を密着させてきた。

柔らかい感触が気持ち良かったが、喜んでる場合ではない。

俺に鼻の下を伸ばす暇も与えず、アスマがジリジリと近寄ってくる。

怪しい眼光が常に紅さんだけを見据えている。

「ひぃ!」

寒気でも襲ってきたのか、紅さんの体がビクっと震えた。

「・・・何を怖がってるんだ・・・・・・・・・そうか、激しくしたのがいけなかったんだな」

突拍子もない言葉が飛び出したので、思わず後ろへ目を向けてしまった。

「ででで出鱈目よ!! 何で私があんな奴と!!!」

紅さんは涙を浮かべ必死に首を振っていた。

それこそ死ぬ気で嫌がってる。

「紅さんは知らないって言ってるんですが・・・」

言いながら首を元に戻す。

「それは照れてるだけだ!!!」

「うわぁっ!!!」

至近距離にあの不気味な顔が迫っていた。

どアップで見ると5割増しで怖い。

俺は無意識の内に肘を放っていた。

長年に渡って体に染み付かせた技術とは、いざと言う時に頼もしくある反面恐ろしいものでもある。

条件反射で動いただけなのに、その一撃は見事なまでに急所に当たっていた。

ボキッ! と危険な音がして、アスマの首がおかしな方向を向いた。

「おおっ! ジャストミートしたのぉ!」

拍手すんな!

「まさか・・・・・・・・・し、死んでないわよね?」

「だ、大丈夫だと思います・・・」

あの手応えからして、頚椎が捻挫して首周辺の筋肉が少々切れていると思う。

一歩間違えれば死んでいる。

例え死ななくとも当分は動けないダメージの筈。

だが、

「へっへっへ・・・・・・2人の愛は不滅さ」

どういう理由か、ちっとも効いている様子はない。

ゴキゴキっ!!

「うそぉ!?」

「きゃあぁぁあ!!!」

曲がった首が元に戻った。

まるでホラー映画のような光景だ。

そして俺が驚いてる間に、ごっつい手が紅さんの細腕を掴んでいた。

「さぁ紅・・・こっちへ来い・・・」

「いやっ! 放して!!!」

「ちょっと待って下さい!! どう見ても嫌がってるじゃないですか!!!」

何とか助けようと試みるが、アスマ指が開かない。

「どうしたんだ? ・・・いつものように愛し合おうぜ?」

「何時あんたと私が愛し合ったのよ!!」

「雷の国でのS級任務の時だ」

「そんな所に行った覚えなんかこれっぽっちないわよ!!」

紅さんを引っ張りながら、ありもしない事実を淡々と語り始めるアスマ。

妄想だろうがなんだろうが、その目は大マジだった。

「忘れたのか? オレとお前は敵の奇襲を受け、小さな祠に身を隠した。 2人はその祠の中で」

「厳密には『ワシの書いた小説の中で』だがな」

熱を込めて語りに入ったアスマの横合いから、全ての元凶が聞き捨てならない事をサラッと言いやがった。

「「お前が原因かぁ!!」」

俺と紅さんは近くに転がっていた酒瓶を投げ付けた。

が、ムカつく事にあっさりとかわされた。

「あんたが原因なんだから何とかしやがれ!!!」

「やれやれ・・・・・・面倒だのぉ」

本当に面倒くさそうに、懐に手を突っ込む極悪蝦蟇使い。

もう一度殺り合うか? おお?

「おいアスマ」

蝦蟇使いのオッサンはアスマの前に薄っぺらい物をちらつかせた。

「・・・・・・・・・・そ、それは・・・!!」

すると何処を見ているのか分からなかった濁った両目が、見る見る正気の光を帯び始めた。

「紅の入浴写しんべッぅ!!」

目の前のお宝に飛びつこうとしたアスマは、前に出た勢いを利用されビールジョッキでぶん殴られた。

気の毒な事に喋っている最中だったので舌を噛んだようだ。

半開きの口から、歯形の付いた舌がダラリとはみ出ている。

「・・・容赦ねぇな」

「ワシゃ男は好かん!」

好きとか嫌いとかのレベルじゃない気がするが・・・・・・。

まぁ紅さんも助かった事だし、深く突っ込むのは止めておこう。









アスマの暴走が止まり、騒ぎは収まった。

「ま、待て! 話せば分かる!!」

アスマを暴走させた犯人は、現在進行形で紅さんがボコっている。

自分をモデルに官能小説なんぞ書かれりゃ誰だって切れるわな。

しかも絡みの相手はアスマだし。

当然ながら、件の小説は細かく切り刻んで焼却処分した。

「シチュエーションに不満があるのなら今から書き直す!! だから助けてくれ!!」

「そういう問題じゃないでしょうが!!」

反省の色がまるで感じられない為、紅さんの怒りがヒートアップしていく。

壁際に追い詰めボディにパンチの嵐を見舞い、顎が浮いたところにアッパーをねじ込む。

「しゃ、写真のアングルが気にいらなかっタベシッ!?」

崩れ際に余計な事を言ったが為に、アッパーで強引に立たされ再度滅多打ちにされる。

仮にもこれで伝説の三忍の一人だと思うと頭が痛い。

そして自分の師匠兼親代わりだと考えると余計に頭が痛い。

「覗いた上に写真まで撮るなんて、絶対許せないわ!!!」

俺は間の空かない打撃音と絶え間ない悲鳴をBGMに、没収した写真の束を一枚一枚鑑賞している。

しかしまぁ・・・遠くから撮影したわりによく撮れてるな。

・・・・・・いかん、なんか体がポカポカしてきた。

特にとある場所に血が行き始めたので、写真の束を懐にしまった。

「やだ〜〜〜!! 返してっ! か〜え〜し〜てっ!! お〜れ〜の〜!!」

「これの所有権は紅さんにありますんで、あなたには渡せません」

「うそだ〜!! 家に持って帰って色々やる気なんだ〜!!」

「しませんよ、誰かさんじゃあるまいし」

縛られたアスマがジタバタもがくので、踏み付けて体重を掛けてやった。

「あの、恐れ入りますが・・・」

この騒ぎを聞きつけた女将さんが、部屋にやって来た。

「もう夜も更けておりますので・・・・・・もう少しお静かに・・・」

迷惑しているとはいえこっちは一応客なので、あまり強く言う事も出来ずやんわりと注意して下がって行った。

申し訳なくなった俺は、師匠とアスマを雁字搦めにし猿轡を噛ませた。

「ん〜!! んっんん〜!!!」

「黙れ」

2人が海老の様に跳ねるので、蹴り付けて寝かし付ける。

他の親父達は俺が手を下さずとも、既に畳の上で高イビキを掻いて爆睡している。

あの騒音の中で眠れるなんて、無神経極まりない連中だ。

ちなみに、綱手姫は白を連れてどっかに行ってしまった。

「えへへっ・・・」

シズネさんは酒瓶を抱えて何故か笑っている。

「・・・・・・・・・疲れる」

とてもじゃないがこんな場所で一夜を明かす気にはなれなかった。







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