NARUTO
〜九妖忍法帳〜 27話目




―火の国―

火の国の外れにある宿場街。

規模はそれ程大きくないものの、温泉・賭場・郭・と三拍子揃っている為、自然に人が集まり活気で溢れ返っている。

波の国を出発したナルト達は、旅の骨休めをしにこの街へ立ち寄っていた。

ちなみに此処に再不斬は居ない。

何故なら、白の反対に耳をかさなかったナルトが、郵送で木ノ葉に送ったからである。

「再不斬の奴、今頃どの辺りだろうな?」

「あんまり考えたくありませんね」

「快適な旅を満喫してくれてるといいんだが・・・」

「ダンボールに詰められて快適も何もないでしょうに・・・・・・再不残さんが何も覚えてない事を祈りますよ」

「そんな事より、日が暮れない内に今夜の宿を探さねぇとな」

再不斬の報復に頭を抱える白を他所に、事の元凶であるナルトは全然気にしていない様子だった。

意固地になっている再不斬を説得するには、自分よりも顔見知りである雪が適任だと判断した為だ。

家に着く頃には言い包められているだろうと、呑気に鼻歌を歌っている。

白は自分だけ悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

「此処で良いんじゃないですか・・・」

最早開き直ったのか、広げたガイドブックを指差して見せる。

「ん〜・・・【松の湯】?」

「二ヶ月前にオープンしたばかりですが、料理が美味しいって評判だそうです」

「ふむふむ」

「『豪華露天風呂有り! 可愛い女の子達がお出迎え致します!!』 ・・・って載ってますけど、どうします?」

如何にもナルトが喰い付きそうなポイントを的確に抑えている。

「OK、決まりだ!」

狙い通りナルトは大喜びで親指を突き出した。

「楽しみですね(料理と風呂)」

「ああ楽しみだ(女の子)」

噛み合っているようで噛み合っていない2人だった。









―宿屋―

2人は地図を頼りにお目当ての宿に辿り着いた。

オープンしたてというだけあって、外観も綺麗なものである。

本の情報に間違いは無く、若くて可愛い仲居が大勢居た。

「へへへへへ」

「・・・・・・涎、拭いた方が良いですよ」

破顔したナルトから距離を離す白。

とりあえず知り合いと思わるのは嫌だった。

「・・・・・・マッサージとかやってねぇのかな?」

「あったとしても別料金ですよ多分」

下心が丸見えのナルトに、白は呆れた顔で溜息を吐いた。

「安心しろ、金は腐る程ある!」

ナルトははち切れんばかりの財布を取り出し余裕の笑みで答えた。

ちなみに中に入っている金は、ガトーの会社からパクッてきた金だったりする。

「夜になったらイイとこ連れてってやるからな♪」

「え!? いや、ボクは・・・その・・・」

急な提案に赤くなりモジモジしだす白。

どうもこっち方面は初心らしい。

「何事も経験だ・・・今日で男になれ」

「そ、そんな事言われても・・・その・・・まだ・・・・・・こ、心の準備が・・・ゴニョゴニョ」

ナルトの声は届いていなかった。

茹蛸になったまま、人差し指をツンツンと付き合わせている。

ナルトは暫くの間白がこっちに戻ってくるのを待っていたが、何時までも門前でだべっていると商売の邪魔になるので白を引き摺って店の中に入る事にした。

「!!!」

が、玄関に入った瞬間慌てて引き返した。

「ちょ、ちょっとナル「馬鹿! 名前呼ぶな!!」

速攻で白を担ぎ、瞬身の術で可能な限り遠くへ移動する。

「ああビックリしたぁ〜!」

ナルトはバクバクと跳ねる心臓を押さえ、屋根の上で寝返りを打った。

「ビックリしたのはこっちですよ! 急にどうしたんですか!?」

「知り合いが居た」

「知り合い?」

店からは結構な距離がある為見つかりはしないが、念の為姿勢を低くして様子を窺う。

「ほら・・・店の外でキョロキョロしてるだろ」

「ああ、あの女の人ですか」

「隣のおっさんもそうだ・・・・・・2人とも木ノ葉の忍だ」

店先には見知った顔があった。

キバの母、【犬塚家】当主【犬塚 ツメ】。

シノの父、【油女家】当主【油女シビ】。

戦闘以上に追跡のスペシャリストである2人。

「一体何してるんでしょうね?」

「・・・・・・分からん」

滅多にお目にかかれない組み合わせに眉を寄せるナルト。

「でもボク達はただ宿に泊まるだけだし、これと言って問題は無いでしょう」

「だといいんだが」

何となく嫌な予感がして顔色が優れない。

「別の宿を探します?」

「・・・少し時間をくれ」

ナルトは目を閉じて、周辺の気配を探ってみた。

すると、街の彼方此方から忍のチャクラが感じられた。

「どうですか?」

「数は全部で11・・・・・・内9人が上忍クラス、残りの2人は五影クラスだ・・・」

「ただ事じゃありませんね・・・・・・街を出ますか?」

2人は険しい表情を見せる。

これ程までに上忍が集うなど滅多なことではない。

何かが行われる・・・あるいは既に行われているのかも知れない。

「いや・・・殆どが俺の知り合いだ。 暫くは様子を見たい」

ナルトは厄介事に巻き込まれるのは御免こうむりたいのだが、知り合いに万が一が起きる事が心配だった。

―再び【松の湯】―

「「「「いらっしゃいませー」」」」

ナルトは白と相談した末に、女将と数名の仲居さんに出迎えられ建物の中へ入った。

ちなみに現在は九妖に姿を変え、愛用の面で顔を隠している。

・・・・・・逆に目立つだろうに。

「ねぇねぇ・・・あのお客さん新婚さんかしら」

「多分そうでしょうね・・・それにしても随分若い奥さんよねぇ」

「・・・・・・・・・・・・」

白は仲居の女の子達の内緒話でプッツンしそうになっている。

「どーどー。 落ち着け・・・深呼吸だ」

キレられたら面倒なので肩を軽く叩いて宥めつつ、さっさと受付を済ませた。

受付を終えた2人は、和室へと案内される。

「どうぞごゆっくり」

用件を済ませた仲居は、三つ指突いて一礼するとそっと襖を閉めた。

「さて、夕飯まで結構間があるな・・・」

「そうですね・・・何しましょうか?」

「何しようか?」

特にやる事がない2人。

「暇ですね」

「暇だな」

旧家の当主達の動向を探る為にも、部屋を離れるわけにはいかない。

「しりとりでもやるか」

「いいですよ」

ナルトが自分でもどうかと思うような微妙な提案をすると、白もやはり微妙とは思たっが代案があるわけでもないのでOKを出す。

「じゃあ俺からな」

という理由で、しりとりスタート。

「びんごぶっく」

「くさりがま」

「まきびし」

「し、しのびしょうぞく」

「く・・・・・・く・な・い」

「い? い・りょ・う・は・ん」

「「あ」」

終了。

何の盛り上がりも無くあっさりと。

何処からとも無く寒い風が吹く。

空気が重い、そして沈黙が痛すぎる。

「さ、さてと、術の勉強でもしようかな」

「ぼ、ボクも忍具の手入れをしないと」

2人ともかなり苦しい言い訳で自分を誤魔化す事にしたらしい。

ついでに、お互い背を向けた状態で滝のような悔し涙を流していた。

「ん?」

ナルトは目元を擦りながらふと顔を上げた。

「どうしました?」

続けて白も顔を上げる。

おもむろに気配と足音を殺し、自分達の部屋と隣の部屋とを隔てる襖に近寄るナルト。

白もナルトに倣い後に続く。

ナルトはそのまま襖を開けようとしたが、中から話し声が聞こえ手を止めた。

「・・・・・・」

「!?」

指に唾を付け、紙製の襖にそっと覗き穴をこさえる。

「な、なにしてるんですか?」

「ん、諜報活動」

真顔で穴を覗いているナルトに、白はどう突っ込んでやるべきか真剣に悩んだ。

今時こんなベタな覗き方はアカデミー生でもやらない。

だがすぐバレそうなやり方なのに、ナルトの気配の絶ち方が上手すぎて誰も気付けなかった。

そして覗かれているとは知らず、隣の部屋ではこんなやり取りが行われていた。









数えて丁度10人の忍達が、長台の前に座布団を敷いて座っていた。

「あの方が相手となれば我々だけでは手に負えん」

神妙な顔で腕を組んでいる着物の中年、【日向家】当主【日向 ヒアシ】が言った。

「なに弱気になってんスか!」

「・・・援軍を頼むべきだ・・・」

静かに呟いたのは油女シビ。

「でも誰に頼むんだい? 例え暗部・・・いや三代目でも厳しいんじゃないのかい?」

シビの提案に難色を示す犬塚の女当主ツメ。

「そんなもの必要ありませんよ!!」

「カカシはどうだ? あいつなら多少なりとも対抗できるかも・・・」

備え置きの饅頭を頬張るデブ・・・もとい大柄な体躯の中年、【秋道家】当主【秋道 チョウザ】。

「いや・・・3秒と持たないだろうな。 それに今彼は里の外に居る」

目を閉じて首を横に振る長髪の中年、【山中家】当主【山中 いのいち】。

「暗部じゃ駄目、三代目も無理、カカシは論外、そしてあんた等はこの有様・・・・・・はぁ〜情けないねぇ」

眉間を押さえて溜息を吐く巨乳・・・ゲフン! 【賭】一文字の羽織を着た女性。

初代火影の孫であり、伝説の三忍の紅一点【綱手姫】である。

「相手があの方では仕方ないですよ」

綱手の一言に肩を落とす中年達をフォローする黒い着物の女性、綱手の義理の姪であり付き人でもある【シズネ】。

「誰か適任の者は居ないのか?」

「はい! はいはーい!」

「くくくっ・・・」

「シカク、何が可笑しいんだい?」

重苦しい雰囲気(一名を除く)の中、一人肩を揺らしている傷顔の中年、【奈良家】当主【奈良 シカク】。

「綱手様はご存知ないでしょうが、居るんですよ・・・一人だけ。 あの方と戦り合えそうな男がね」

「んもぉ〜♪ ハッキリ言っちゃって下さいよ、シカクさんったらぁ♪」

「(さっきからウザイねコイツ) 今の木ノ葉にそれ程の手錬が居るのか?」

若干米神を痙攣させてはいるが、シカクの言葉に興味を惹かれた綱手。

「ほらほら! こ・こ・に♪」

「(殴りてぇ〜!) ええ、あの四代目に勝るとも劣らない忍です」

綱手同様に米神をヒクつかせながらも、シカクは確信に満ちた表情で断言した。

「そいつの名は?」

「ふふふっ! それは猿飛 ア・ス「九妖です!」・・・マ?」

全員からずっと無視されても騒ぎ続けていた男・・・猿飛 アスマは間の抜けた顔でフリーズした。

アスマの期待を裏切ってキッパリと言い放ったのは、アスマから最も遠い位置に座っている新米上忍の夕日紅だ。

「九妖?」

「・・・聞いた事ないねぇ」

長い間里を離れていたシズネと綱手は、自信たっぷりといった紅の様子に首を傾げた。

「う、うむ、あの者ならば互角以上に渡り合えるだろうな」

「・・・・・・下手をすれば殺してしまうかも知れん」

「この旅館が吹っ飛んじまうかもね」

「旅館だけならいいけど、街ごと消滅しないか心配だよな」

「ま、まぁ有り得ない話ではないが、彼も手加減くらいは心得ているだろう・・・・・・・・・なぁシカク?」

「悪ぃないのいち。 そこまで頭が回らなかった」

当主達は顔色が非常に悪い。

鮮血に染まった狐の面が思い浮かび、冷や汗ビッショリである。

「まぁお前達にそこまで言わせるんなら、かなりの腕なんだろうね。 で、一体どんな奴だ?」

実物を見ていない綱手は、九妖の人物像が浮かばなかった。

「粗野で野蛮なクソ野郎っスよ!!
 しかも! あろう事かオレの紅に横恋慕して、色々チョッカイ出してくる変態っス!
 そんで何かってーと暴力で物事を片付けようとしやがって! あ〜ヤダヤダ! 思い出したくもない!!」

何時の間に再起動したのか知らないが、九妖に対するマイナスのイメージを植え付けようと、誹謗中傷の限りを尽くすアスマ。

紅の両眼から夥しい殺気が噴き出し、障子の向こう側からも僅かだが殺気が漏れた。

「うるせーぞアスマ」

「・・・ハイ・・・」

いい加減鬱陶しくなってきた綱手が、ギロッ! と眼光一閃。

一線を退いたとはいえ流石伝説のくノ一。

視線のみで熊も殺せそうである。

したがって睨まれた髭熊は、大人しく正座するより他なかった。









紅が殺気を収めアスマが静かになったところで、中断した会話が元通り再開される。

「シカク、話の続きだ」

「はい。 九妖は三代目直属の部下で、暗部の小隊長を務める男です」

「・・・直属も何も暗部はみんなそうでしょう?」

綱手の隣で聞いていたシズネは疑問を抱いた。

「あ、いや、何て言うか・・・あいつの場合、三代目の指示以外は一切受けねーんだ・・・何があっても」

「いいんですかそれって?」

「よくはないんだけど、文句言ったら九妖の部下に殺されちゃうからね」

色々と問題尽くしではあるが、いのいちを始め遠い目をする先輩達に、シズネはそれ以上何も突っ込めなかった。

「・・・随分とふざけた奴だな」

当主達の偏った意見を聞いて、綱手の中でかなり極端な人物像が構成されていた。

「違います!」

綱手の一言が気に入らなかった紅は乱暴に台を叩いた。

各人の前にあった湯飲みから跳ねた茶が、長台の上を汚した。

「へぇ・・・お前の意見は他と違うみたいだねぇ」

湯飲みを持ち上げて台を拭く。

面白そうに細められた目は、手元ではなく紅に向いていた。

「本当の九妖は・・・強くてぇ・・・優しくてぇ・・・頼りになってぇ・・・」

当の紅は頬を赤らめてウットリしていて、綱手なんか少しも見ちゃいなかった。

「熱くて、大きくて、それでいて硬くて・・・ああんっ!」

段々話が脱線していき、仕舞いには自分だけの世界に浸りクネクネと身悶えている。

どうにも逝っちゃった感じで近くに寄りがたい。

「も、もっと具体的にお願いできますか? (ハァハァ!)」

ドン引きしている周囲とは逆に、妙に興味津々のシズネ。

何故か生唾を呑みながら身を乗り出した。

紅とは別の意味で怖い。

「誰も部分的な特徴までは聞いてねーよ・・・。 ・・・シズネも深く突っ込むのはおよし」

壊れた2人にもっともな突っ込みが入る。

しかし興奮したくノ一達は、話に熱中しすぎて聞いていなかった。

「じゃあ、九妖って奴をこっちに遣すよう猿飛先生に頼むって事でいいな」

無視された綱手は不機嫌になり、一方的に話を打ち切ろうとする。

「駄目っス! 絶対に認めないっス!!」

ところが話が纏まり掛けた所で、発言権を奪われた筈のアスマがごね始める。

「貴様の意見など聞いてはおらぬ」

「そもそも呼んだ覚えはないんだけどねぇ」

「・・・・・・帰れ」

冷たくあしらうヒアシ、素朴な疑問を口にするツメ、特に正直がモットーのシビは言いにくい事もズバッと言う。

「目を覚ませ―――!! あんたら全員騙されてるんだぁ!!」

「確かに騙されたと思ったよ。 息子の担当がよりによってお前になったって聞いた時はな」

「子供達も大変だろうに・・・。 ごめんよいの・・・不甲斐ないパパを許しておくれ」

「泣くないのいち、辛ぇのはお前だけじゃねーんだぜ」

辛口のコメントを返すチョウザ、目頭を押さえるいのいち、シカクは泣き出した友人に酒を勧めた。

「ふざけんじゃねー!! オレの指導は完璧だ!!
 その証拠に実力もメキメキ伸びてるだろ!? 何処に問題があるってんだよ!!」

保護者から寄せられたクレームに、とうとうブチ切れるアスマ。

「貴様が担当というのがそもそもの問題なのだ。 そんな事も理解出来ぬのか?」

「・・・馬鹿め」

「家は紅が担当で本当によかったよ」

「いいなぁ犬塚・・・出来る事なら今からでも換えてほしいよ」

「チョウザ、無い物強請りしたってしょうがねーよ」

「こんな上司の下でも才能を開花させられるなんて・・・いの、パパは鼻が高いよ。 くぅッ〜〜〜娘に乾杯!!」

「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」

湯飲みを掲げる一同。

これだけの面子の前では、一上忍に過ぎないアスマなど空気扱いである。

「『乾杯!!』じゃねーよ!! っつーか、てめぇんとこの娘の成長はオレの指導の賜物だっつーのッ!!」

「ギャーギャー喚くんじゃないよ! 他の客に迷惑だろうが!!」

何時まで経っても口を閉じないアスマに、気の短い綱手が怒声と一緒に湯飲みを飛ばす。

「へぶしっ!!」

湯飲みが砕けると同時にアスマも弾かれるように吹っ飛んだ。

「「「「「「「「「あっ」」」」」」」」」

運悪く、宙を舞った巨体が背後にあった襖に大穴を開けた。

突発的な事故だったので、裏側に居たナルトと白は対処の仕様がなかった。

咄嗟にアスマは避けたのだが、綱手達とは顔を合わせる羽目になってしまった。

「・・・何だお前ら?」

スッと目を細め、射抜くような視線を向ける綱手。

白は兎も角、ナルトの風貌は怪しさ爆発である。

(こ、怖そうな人だなぁ)

(やっべーな・・・どうしよう・・・)

本来ならば非は明らかに綱手側にあるのだが、ナルトと白には覗いていた負い目があるので大きな態度には出られない。

2人とも見掛けは平静を装っているが、背中に大量の冷や汗を掻いていた。

「どうも皆さん、お久し振りです」

とりあえず頭を下げるナルト。

それに対して綱手とアスマ以外は反射的に挨拶を返した。

「お前ら知り合いか?」

「知り合いも何も・・・彼が例の九妖ですよ」

「・・・・・・この胡散臭い奴が?」

いのいちが九妖を紹介するが、綱手の視線は険を帯びたままだ。

「つ、綱手様・・・失礼ですよ」

綱手の気持ちも分からない事もないが、面と向かってハッキリ言うのもどうかと思うシズネだった。

「す、すみません。 綱手様も悪気はないんです」

「・・・・・・・・・・・・はは、別に気を遣っていただかなくても結構ですよ」

ナルトにはシズネの何気ない一言が恨めしかった。

悪気がない。

つまり見たままの感想。

初対面の相手から『胡散臭い』の一言を引き出せる自分が情けなかった。

「・・・・・・ところで、随分豪華な顔ぶれですが、何かあるんですか?」

だが何時までも凹んでいても仕方ないので、ナルトは怪しまれない程度に探りを入れた。

後に暗雲を背負い込んでいても、やるべき事は忘れないナルトだった。









さて。

事の発端は今から三週間前、綱手がこの街へ訪れた事から始まる。

松の湯に部屋を取った綱手は、すぐさま賭場へと繰り出した。

綱手は生粋のギャンブル狂で、その類稀な勝負弱さを武器に、一代で巨額の借金を作り上げた女傑なのだ。

彼女が賭場に足を運ぶ度に必ず借金が増える。

潰れる金貸しも増える。

胸を張って自慢する事ではないが、綱手は今まで借りた金を返した例がない。

返済を迫る借金取りを煙に巻いて、夜逃げ同然でこの街へやってきたのだった。

綱手は街に着くなり、またも懲りずにギャンブルに興じていた。

既にドップリ泥沼に浸かっている状態なのでもう怖いものなしである。

そして三時間後、財布をスッカラカンにして宿に帰りついた。

夜になり『もう血も出ねー』とかなんとか言ってやさぐれた綱手は、気分転換にシズネを伴って露天風呂に入っていた。

湯船に盆を浮かべてシズネに酌をさせ自棄酒を煽っていると、邪気に満ちたおぞましい視線を感じた。

『・・・・・・私の肌をタダで拝もうなんざ、いい度胸してるじゃないか!』

と気が立っていたのか元からの性分なのかは定かではないが、覗いている奴はボコボコにしてやろうと決めた。

脱衣所を飛び出して、走りながら浴衣に袖を通す綱手。

一足遅れでシズネが後に続く。

ところが、森を抜け藪を掻き分けて視線の出所に辿り着いた時、覗きは忽然と姿を消していた。

それこそ最初から誰も居なかったかのように、一切の形跡が残っていなかったのだ。

いくら酒が入っていたとはいえ、綱手は自分が気配を読み違えた事が腑に落ちなかった。

結局その日は思い過ごしという事で片付けたが、その翌日。

朝風呂に入っている時、再び同じ視線を感じた。

綱手の勘は正しかった。

昨夜同様に急いで風呂を飛び出したが、またも覗きは居なかった。

そして同じ事が何日も続いた。

覗きの視線は感じても、姿を捉える前に逃げられてしまうのだ。

気性の荒い綱手が癇癪を起こすまでに、そう時間は掛からなかった。

それからというもの、ヒステリックになった綱手は他の客にまで殺気を撒き散らし、その所為で旅館から客足が遠のいてしまった。

普通の客ならば力ずくで追い出すことも可能だが、運悪く相手は伝説の三忍。

返り討ちにされるのが目に見えている。

困り果てた女将はシズネに泣き付いて、木ノ葉に依頼して上忍達を派遣してもらったのである。









「・・・・・・すいません、一つお聞きしたいんですが・・・・・・その覗きってまだ見つかってないんですか?」

状況を説明されたナルトは激しく困惑していた。

冗談抜きに一国を落とせるだけの面子が揃っているのに、痴漢如きを捕まえられないとはどういうことだろうか。

ナルトの含みのある物言いに、綱手の顔が顰められる。

「いや、日向、油女、犬塚の3人が姿を確認した」

「まぁ、そうでしょうね。
 日向の白眼・油女の蟲・犬塚の忍犬、これで見つからないんじゃ誰がやっても見つけられませんよ」

「ああ、お前の言う通り、この3人は到着したその日の内に探し出してみせたよ」

「その後はどうしたんですか?」

「覗きの現れる山にトラップを仕掛けて、シズネと紅を囮に私達が四方から攻撃を仕掛けた」

段取りは文句無しに良かった。

紅とシズネの裸で覗きを燻り出し、のこのこ出て来たところを予め近くの藪に待機した綱手達でボコボコにする手筈だった。

覗きは作戦開始・・・・・・つまり紅とシズネが風呂に入ってから10分もしない内に現れた。

スケベの本能でピンクの波動をキャッチしたのか、望遠鏡片手にスキップでの登場だった。

『さぁ、(血)祭りの始まりだ』 と鬱憤の溜まっていた綱手を先頭に、木ノ葉の実力者達が一斉に襲いかかった。

しかし、

「・・・藪から飛び出したまでは良かったのだがな・・・」

「・・・相手が予想以上に手強くてね・・・」

「・・・結果は見ての通りだ・・・」

「・・・惨敗だったな・・・」

「・・・面目無い・・・」

「・・・よく生きてたよなオレ達・・・」

ボコボコにされたのは綱手達の方だった。

とは言ってもくノ一達は大して傷を負っておらず、擦り傷やタンコブ程度である。

その代わり男性陣が女性陣の分まで、もうホント気の毒なくらいボロボロにされたようだ。

「これだけの上忍を返り討ちに出来る覗きっていうのも、いまいち想像出来ませんね・・・」

行儀良く正座した白が、傷だらけの面々を見渡してポツリと言った。

ナルトは米神を押さえ、唸るような声でこう返した。

「・・・1人だけ・・・その芸当が出来そうな奴に心当たりがある・・・」

10名もの上忍(五影クラス含む)を倒す実力を備えたスケベ・・・・・・。

ナルトの脳内に白くて長い物が浮かんだ。

でも多分違う。

違うと思いたい。

違ったらいいな。

いやマジすんません、違ってて下さい。

「だ、大丈夫?」

どんどん項垂れていくナルトを、隣に座っている紅が心配そうに見やった。

「・・・・・・綱手さん覗きの特徴を教えていただけますか」

「口で説明するより見た方が早い」

綱手はテーブルの上のリモコンを取り、テレビのスイッチを入れた。

するとシズネが腰を上げ、備え付けのビデオデッキに一本のテープを差し込む。

ナルトはゴクリと喉を鳴らし、食い入るように画面を見つめた。

『むっほぉ〜〜〜♪ ええのぉ〜ええのぉ〜♪ ぴっちぴちじゃのぉ〜〜〜♪』

程なくして、巻物を背負った白髪の大男が望遠鏡片手にはしゃぎまくっている映像が、21インチのブラウン管にバッチリと映し出された。

更にゴロゴロと地面を転げながら、『次の新刊はこのネタで決まりだ』とほざきつつ頻りにメモを取っている。

ナルトは激しい眩暈に襲われ、テーブルに頭を叩きつけてしまう。

「どうしたんですか?」

「・・・・・・ほっといてくれ・・・」

・・・・・・言えない・・・・・・『すいません、この人僕の師匠なんです』 なんて口が裂けても言えない。

狐面の隙間から、涙が洪水のように溢れていた。

とても最強の暗部とは思えない。

「おい、こいつ本当に大丈夫なんだろうね?」

「なんだか私も不安になってきました」

綱手は元よりシズネにまで疑われ始めた。

自信を持って推薦した筈の当主達も互いに顔を見合わせる始末。

そんな中、ナルトは静かに顔を上げた。

「・・・殺す・・・」

あまりにも温か味が感じられない声色だった為、全員が動きを止めてしまった。

綱手とシズネは、その言葉が自分に向けられていると思い咄嗟に身構えた。

紅と白がかなりビビリながらも何とか宥めようと試みる。

「な、何もそこまで怒らなくてもいいんじゃないかしら?」

「そ、そうですよ。 女性に暴力を振るうのはよくありませんよ」

「・・・・・・あんのエロ親父、今日という今日は許さねぇ。 殴って千切って細かく刻んで山の奥に埋めてやる」

怒り心頭のナルトには、誰の言葉も聞こえていない。

絡み付くような陰湿なチャクラを漂わせ、ブツブツと独り言を言っている。

内容は主に自来也を誅殺する算段である。

すっかり自分の世界に篭ってしまったナルトは、ふらりと立ち上がり自分の部屋に戻る。

途中転がっていたアスマの顔面を思いっ切り踏んでいたが、他の物は見えていないのか全く気付いていなかった。

「ふふふっ、待ってろよぉ・・・」

リュックの中から忍具を取り出し手入れを始める。

「あ、危ない奴だな」

「ホント、夢に見そうな光景ですね」

自分達が狙われているわけではないのに、悪寒が止まらない一同であった。







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