NARUTO
〜九妖忍法帳〜 26話目
黒いチャクラが歪に歪み、持ち主に纏わり付いて黒く蠢く。
圧倒的な存在感が、対峙した者に絶対の死を予感させる。
白は圧し掛かる重圧を振り解き、両手に武器を取った。
―先手必勝!
放たれた八つの閃光。
瞬間、吹き荒れたチャクラが、光速で突き進む千本の勢いを殺し尽くした。
捻じ曲がった鋼は音を立てて落ちる。
―あのチャクラが・・・守っているのか!?
白い首筋を冷い汗が伝った。
仮面の下で、端整に整った顔が激しく歪んでいる。
―・・・人間のチャクラじゃない・・・!
力を解放したナルトは、その全てが異常だった。
瀕死の重傷を瞬く間に再生した、恐るべき自己治癒力。
この世のものとは思えない黒く禍々しいチャクラ。
底知れぬチャクラを平然と収める許容量。
勝てる確率は限り無くゼロに近い。
―でも・・・ボクは負けない・・・・・・。
絶望的とも言える戦況の中、慣れ親しんだ武器を両手で強く握った。
そして残ったチャクラを掻き集め、全力で鏡から飛び出した。
「ッッ!!!」
光と化した白が、漆黒のチャクラに突っ込む。
敵の浸入を拒むチャクラが、信じられない力で押し返してくる。
その余波だけで皮膚が裂かれ、鋼を捻じ曲げる程の圧力で全身の骨が悲鳴を上げた。
それでも白は引かない。
否、引けなかった。
こうするより他、手立てが無いのだ。
このチャクラの防壁を破り尚且つ、ナルトを倒すにはこれしか方法がないのだ。
投擲による攻撃では、触れる事すら不可能。
術で仕留めようにも、術を行使するだけのチャクラが既に尽きている。
もし使えたとしても、傷を負わせた瞬間に全快するに違いない。
それ以前に、術を使う暇すら与えてくれないだろう。
故に、方法は一つ。
自身が防壁を乗り越え、急所への一撃で回復する間も与えず即死させる。
最もリスクを伴う手段だが、それ以外に道は無い。
白は荒れ狂う力の波に身を削られながら、それでも前へと突き進んで行った。
―ボクは・・・。
徐々にナルトとの距離が縮まり、身に掛る圧力は更に力を増す。
やがて、白の仮面に無数の亀裂が走る。
―ボクは・・・!
砕け散る仮面。
「負ける訳にはいかないんです!!」
そして遂に、チャクラの壁を突き破り、全てを掛けた一撃を繰り出した。
その狙いは米神。
如何に人間離れした回復力を誇ろうとも、脳を貫けば確実に死に至る。
だが白の執念の一撃は、ナルトに届かなかった。
型も無くただ純粋な力のみで放った一撃が、白の顔面を正確に捉えていたからだ。
「ガハッ!!」
ナルトはカウンターで突き出した拳に力を込め、思いっきり殴り飛ばす。
宙を舞った白は、受身も取れずに地面に叩き付けられた。
それと同時に、術者のチャクラが底を尽き、氷の世界が崩壊していく。
―・・・再不斬・・・さん・・・。
朦朧とする意識の中、白は再び立ち上がった。
立ち上がったといっても、ナルトの一撃が体の芯まで響いている。
手足の感覚が消え、指一本動かす事すら困難な状態。
視点が定まらず、景色が歪む。
鼓膜がやられているのか、耳の奥で雑音が聞こえ続けている。
だが五感の殆どが麻痺していても、近付いてくる化け物じみたチャクラだけはハッキリと感じ取れた。
―・・・再不斬さん・・・すいません・・・・・・。
チャクラとの距離が0になったと思った瞬間、もう一度宙を舞っていた。
・・・・・・・・・白の意識はそこで途切れた。
寅 ・ 巳 ・ 辰 ・ 戌。
印を組み上げたカカシが、手にした巻物を力強く地面に押し付けた。
【忍法口寄せ 土遁追牙の術!!】
すると巻物から飛び出した何かが、地中に潜り込んでゆく。
《フン・・・何をやっても意味ねーぜ。
お前にはオレの気配は全く掴めていない。
だがオレはお前の事は手に取るように分かる・・・。
カカシ・・・お前は完璧にオレの術中に嵌った》
勝利を確信している再不斬。
「ん?」
だが、両目を閉じていた所為で、足元から響く音に気付くのが遅れていた。
「くっ!!」
突然地面が砕け、穴から飛び出した犬が再不斬にの足に喰らい付いた。
咄嗟に左足は回避したものの、残った右足に牙を突き立てられる。
「!!!」
そして次々に飛び出してきた犬達が、両手両足・・・更に武器までも封じてしまった。
「目でも耳でもダメなら・・・鼻で追うまでのこと・・・」
「ぐっ・・・」
「霧の中で眼なんか瞑っているからそうなる・・・これは追尾専用の口寄せの術だ。
オレがお前の攻撃をわざわざ2度も血を流して止めたのも、この為だ・・・。
お前の武器にはオレの血の臭いがべったりとついている。
そいつらはオレの可愛い忍犬達でね、どの犬より鼻が効く・・・術中にはまっていたのはお前の方だ」
「くそっ・・・」
束縛から逃れようと力を込めても、満足に動く事が叶わない。
再不斬の顔が屈辱に歪む。
「最早霧は晴れた・・・お前の未来は死だ」
「オレの未来が死だと・・・お前のハッタリはもういい」
「強がるな・・・この状況でお前はどうする事も出来ないよ。 お前の死は確実だ」
「・・・・・・・・・」
「お前の野望は大きすぎた。
霧の国を抜け『抜け忍』となったお前の名は、すぐに木ノ葉にも伝えられたよ・・・。
水影暗殺…そしてクーデターに失敗したお前は数人の部下と共に野へ下った・・・と」
カカシが僅かに腰を沈めた。
「報復の為に資金作り、そして『追い忍』の追討から逃れる為・・・そんな所だろう。
ガトーのような害虫にお前が与したのは・・・」
正面から再不斬を見据えると、丑 ・ 卯 ・ 申の順に印を結んだ。
全身のチャクラが右手に集まり、空気が音を立てて震え始める。
【雷切り!!】
―なっ・・・何だ!! チャクラが手に・・・目に見える程・・・。
限界まで収束されたチャクラ。
ただそれだけの技。
しかしそれこそが、殺傷能力のみを追求したカカシ最強の技であった。
「お前は危険過ぎる・・・。
お前が殺そうとしているタズナさんは、この国の『勇気』だ。
タズナさんの架ける橋はこの国の『希望』だ。
お前の野望は多くの人を犠牲にする。
そうゆうのは…忍のやる事じゃあないんだよ」
「・・・そんなこと知るか・・・。
オレは理想の為に闘って来た・・・そしてそれはこれからも変わらん!!」
「もう一度言う」
「あ!?」
「諦めろ・・・お前の未来は死だ」
カカシ達の戦いが終わるのを待っているサクラとタズナ。
「ん・・・超濃かった霧が・・・段々晴れてきたぞ・・・」
「! あそこに2人・・・睨み合ってるみたいだけど・・・」
見通しの利き始めた前方に、ぼんやりとだが人影を見つける。
「良く見えんな・・・」
「どっちがカカシ先・・・あっ!! 動いたっ!!」
そして、その片方が勢い良く駆け出すのが見えた。
カカシは大きく右手を振り上げ地を蹴った。
そして最短距離を駆け抜け、再不斬の心臓目掛けて凄まじい速さで腕を突き出す。
「!!」
が、カカシの右手が貫いたのは、再不斬の心臓ではなく一本の丸太であった。
更に口寄せの巻物がクナイで地面に縫い付けられ、忍犬達も姿を消していた。
「変わり身!? (馬鹿な・・・あの状態でどうやって!?)」
四肢を封じられた再不斬には絶対に不可能な芸当である。
考えられる可能性は第三者の介入。
ただ、その介入者というのがカカシの思いもよらぬ人物だった。
「どぉも〜♪」
「九妖!?」
素っ頓狂な声を上げるカカシを他所に、再不斬の頭を捕まえて陽気に手を振る狐面の男。
顔が見えなくても、上ずった声から満面の笑みを浮かべている事が容易に想像できる。
「くっ何だてめぇは! さっさと放しやがれ!!」
「やですよ。 暴れられると困るんで」
逆に捕まっている再不斬は不機嫌そのもの。
頭に乗った手を振り解こうと必死だが、万力の様な力が込められていてビクともしなかった。
ある程度九妖の実力を知っているカカシは、一瞬だけ再不斬を気の毒そうに見やった。
「ところでさ・・・・・・何でお前が此処に居るのよ?」
「任務ですよ、カカシさんやナルトとは別件のね」
「別件? ・・・・・・っ! そうだナルト!」
「心配には及びません。 ホラ・・・あれ」
促された方に目を向けると、自分達の方に向かって来るナルト(影分身)の姿を確認できた。
「勝ったのか・・・あの少年に・・・?」
体のあちこちに傷を創っているものの、命に別状は無さそうだった。
それどころか、意識の無い白を肩に担ぐ余裕まである。
―チャクラが元に戻ってる・・・・・・九妖が封印を施したのか?
また、妖魔のチャクラも影を潜め、予想していた最悪の事態も回避出来そうだ。
「白!」
「安心しろ。 ちゃんと生きてっから」
ナルトが白を地面に寝かせ、九妖は再不斬の拘束を解く。
「・・・何の真似だ・・・」
「最早勝敗は明らかです。 貴方もこの状況で戦う程愚かではないでしょう?」
「チィ・・・」
「ってな理由で・・・カカシさんもその物騒な術を解いて下さい」
「・・・わかった」
牽制し合っていた再不斬とカカシは、九妖の提案を呑み自分の部下の元へ向かった。
「・・・ところでナルト、サスケはどうし「ナルトォ―――!! 無事だったのね―――!!」
カカシはサスケの安否を尋ねようとしたが、駆け付けたサクラによって遮られる。
もう辺りの霧はすっかり晴れており、お互いの姿も確認できるようになっていた。
「あれ? サスケ君は?」
仲間達の姿を確認し嬉しそうに手を振っていたが、サスケが居ない事に気付きその手を止めた。
「・・・向こうだ」
「?」
ナルトが示した方に目を向ける。
だがサスケが歩いてくる様子もなければ、人の気配がするわけでもない。
サクラの胸は不安で一杯になり、小さな肩が小刻みに揺れ始めた。
タズナはそんなサクラの姿を見て居た堪れない気持ちになり、そっと手を差し出した。
「・・・・・・・・・ワシも一緒に行こう。 そうすれば先生の言い付けを破った事にはならんじゃろ」
「・・・・・・・・・うん」
ややあって返事を返したサクラは、タズナの手を取り走り出した。
「サスケ君っ!!」
視界に飛び込んできたのは、ボロボロに傷付いたサスケ。
血の気の引いた肌に、幾つもの千本が突き立っている。
タズナの見守る中、サクラの手がサスケの頬に触れた。
「冷たい・・・これはもう・・・幻術じゃ・・・ないのね・・・」
「わしの前だからって気にする事はない・・・・・・。 こういう時は素直に泣いたらええ・・・・・・」
「・・・私・・・いつも忍者学校のテストで100点取ってた・・・」
「!」
「100以上もある忍の心得を全部覚えてて・・・・・・いつも得意げに、答えを・・・書いてた・・・」
しゃがみ込み、小さく丸められた背中が震えていた。
「・・・・・・ある日のテストでこんな問題が出たの・・・・・・。
『忍の心得 第25条を答えよ』って・・・それで私はいつものように、その答えを書いたわ」
「!?」
「・・・『忍びはどのような状況においても感情を・・・表に出すべからず・・・任務を第一とし・・・何事にも涙を・・・見せぬ心を持つべし』って・・・」
そう言ったサクラの瞳から、涙が止め処無く溢れていた。
「うっ・・・うっ・・・サスケ君・・・」
―これが・・・これが忍というものか・・・余りにも辛い・・・。
縋り泣くサクラを見下ろし、タズナは掛ける言葉を見つけられずにいた。
「・・・サクラ・・・サスケ・・・」
カカシはサクラが見た光景を察し、申し訳なさそうに目を伏せた。
―・・・・・・サスケが死んだって誤解してんなこりゃ・・・。
サスケを沈めた張本人は、バツが悪そうに影分身と顔を見合わせた。
「ん・・・再不斬・・・さん」
その隣で、再不斬の腕に抱かれた白が意識を取り戻した。
「気が付いたか」
「・・・戦いはどうなったんですか?」
「途中で邪魔が入った」
木ノ葉の陣営に知らない男が加わっている。
「・・・・・・暗部?」
容姿や佇まいから暗部だという事を推測する。
「ああ。 ・・・・・・あの野郎余計な事しやがって」
「『余計な事』って何ですか」
僅かな呟きも聞き漏らさない、相当な地獄耳の持ち主だった。
「俺が止めなかったら死んでたじゃないですか」
「ぐ・・・」
再不斬は暗部の言葉を否定しない。
正確にはしたくても出来ないといった感じだ。
まぁそれは良いとして、暗部の介入によって戦闘が中断したのは理解できた。
だが腑に落ちない事がある。
「何故ボク達を殺さないんですか? 彼等の援護が目的なら、再不斬さんを助ける理由など無い筈です」
「って言うかさ、そもそも何しに来たんだ?」
「アレです」
九妖は白とカカシの疑問に指一本で答えた。
「おーおー、派手にやられてェ・・・・・・がっかりだよ」
「「「!」」」
振り向いた先にはタズナ暗殺の黒幕。
「・・・ガトー、どうしてお前がここに来る・・・それに何だ・・・その部下共は!?」
その背後で武器を構え下卑た笑いを浮かべるガラの悪い集団。
「ククク・・・少々作戦が変わってねェ―――と言うよりは、初めからこうするつもりだったんだが・・・・・・」
ガトーはゴロツキ達が控えている所為か、5人を見下しふてぶてしい態度に出る。
「再不斬、お前には此処で死んでもらうんだ」
「何だと?」
「お前に金を支払うつもりなんて、初めから毛頭無いからねェ」
口元が厭らしく釣り上がる。
「・・・正規の忍を雇えばやたらと金が掛かる上、裏切られれば面倒だ・・・。
そこでだ・・・後々処理しやすいお前達のような抜け忍を雇い。
他流忍者同士の討合いで弱った所を数でもろとも攻め殺す・・・金の掛らん良い手だろう?」
―よく喋るな・・・。
「ま、一つだけミスがあったと言えばお前だ・・・再不斬。
霧隠れの鬼人が聞いて呆れるわ。
私から言わせりゃあなんだ・・・クク・・・ただの可愛い・・・『小鬼ちゃん』・・・ってとこだなァ」
「今のお前ならすぐぶち殺せるぜェ!!」
勝ち誇った笑い声が響き、雇い主につられるようにゴロツキ達もゲラゲラと笑った。
「そう言えば・・・そいつにはカリがあった」
「・・・・・・・・・」
白はきつく歯を食い縛り、睨み返す。
「ククッ・・・私の腕を折れるまで握ってくれたねェ・・・」
分厚く包帯を巻いた右手が掲げられる。
「まぁ、私に牙を剥いた事・・・存分に後悔してもらおうか」
ガトーが無事な左手を挙げると、ゴロツキ達が一歩踏み出す。
「じゃあな・・・・・・全員仲良く地獄へ逝くんだな」
踵を返し安全な人垣の中へと引っ込んで行った。
それが合図となって、ゴロツキ達が雄叫びを上げながら押し寄せる。
「ちぃ・・・九妖、お前こうなる事を予想してたのか?」
「あの手の連中が考える事は大概一緒ですしね」
「無駄な血は流したく無いって理由か・・・・・・ふん、お節介な野郎だ」
「まぁ褒め言葉として受け取っておきましょう・・・さて!」
パシッ! と拳と掌を合わせた九妖が、カカシ達を庇うように前に出る。
「ちょっと待て! あの人数と正面から戦り合うつもりか!?」
「はい。 ガトーを始末するのが俺の任務ですから」
再不斬は慌てて引き止めたが、九妖は言いたい事だけ言ってその場から掻き消えた。
ほぼ同時に、先頭を走っていた集団の首がまとめて飛んだ。
一瞬にして敵の前進が止まり、あちこちから悲鳴が上がる。
余りの早業に敵だけでなく味方さえも息を呑んだ。
再び血飛沫が舞い、肉の欠片が飛び散る。
今度の犠牲者は最後尾に控えていた男達。
だが九妖の姿は誰の目にも映らなかった。
仲間の異変に気付く時は、既に命を奪い去られた後なのだ。
頭を割り、顔を潰し、首を刎ね、胸を貫き、腹を裂く。
敵の合間を縦横無尽に駆け巡り、すれ違いざまに攻撃を叩き込む。
そして躊躇いも無く屍の山を築いていく九妖。
勝ちを確信していたゴロツキ達を、次第に恐怖が支配していった。
逃げ出そうと背を向ければ、狙い済ました一撃が襲ってくる。
逃走も抵抗も、何も出来ないまま、ただ震えながら殺されるのを待つ。
ゴロツキ達が全滅するまで、然程時間は掛からなかった。
「後はお前だけだ」
「ヒッ!」
漸く姿を見せた九妖は、腰を抜かし震えるガトーを見下ろす。
「た、助け!!」
乱暴に首を掴み、片手で宙に持ち上げる。
気道と動脈を圧迫し、酸素と血液の流れを止める。
「か・・・ひゅ」
ガトーの顔からは見る見る血の気が引いて行く。
そして。
「死ね」
圧力に耐えられなくなった首が、ゴキン!と鈍い音を立てた。
―オレは・・・死んだのか。
気が付くと、サスケは暗い闇の中に居た。
「サスケ君・・・うっ・・・うっ」
悲しげな声が自分を呼ぶ。
―この声は・・・サクラ!?
視界が徐々に光を取り戻した。
「・・・・・・サクラ・・・・・・重いぞ・・・」
「・・・・・・!!」
最初に目にしたのは、クシャクシャになったサクラの顔だった。
その脇には目を見開いているタズナが見える。
「サスケく――ん! サスケ君! サスケ君!! わぁああああああああ!!」
「!」
サクラは一瞬の空白の後、力一杯サスケに抱き付く。
―良かったのォ・・・サクラ。
その様子に目頭を熱くするタズナ。
「サクラ・・・痛てーよ・・・」
「あ! ご・・・ごめん・・・」
少々名残惜しそうに、サクラがサスケから放れる。
「それより・・・ナルトは・・・それにあの・・・お面ヤローはどうした?」
「動かないで! ナルトは無事よ! それと・・・あのお面の子なら・・・」
サクラの視線を追ってゆっくり体を起した。
「ッ!! 再不斬!!」
ナルトとカカシの隣に並ぶ再不斬を確認し、思わず声を上げた。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・?」
しかし再不斬は一瞬振り向いただけで、すぐに視線を外した。
「落ち着けサスケ・・・・・・こいつはもう敵じゃない」
「どういう事だ・・・?」
「オレ達と戦う理由が無くなったんだよ」
カカシは状況を掴めていないサスケに、今までの経緯をかいつまんで説明した。
「・・・なるほどな・・・大体の事情はわかった。 ・・・だが・・・」
サスケはナルトの手当てを受ける白をまじまじと見詰める。
「・・・あれを本当に・・・ナルトがやったのか・・・?」
「う・・・うん。 私もよく分からないけど・・・・・・多分」
信じられないのはサクラも同じだった。
「・・・ど、どうしたのサスケ君・・・? ・・・怖い顔して・・・」
「・・・何でもない・・・」
サスケはナルトに険しい視線を向けた後、自分の体を見渡した。
傷だらけではあるが、命に関わるような急所は狙われていない。
―・・・あいつ・・・初めから・・・。
白が加減して戦っていた事に気付き、ナルトが勝ったのもその為だろうと結論付けた。
それから暫くして、イナリの呼び掛けに応じ一足遅れで駆け付けた島民達が、戦いの後始末に右往左往していた。
ちなみに九妖に変化したナルトはガトーの会社を潰しに行った。
「・・・雪? ・・・珍しいな、こんな時期に」
カカシ達の元に残った影分身のナルトは、一人灰色の空を見上げていた。
「・・・・・・・・・」
「白・・・どうかしたのか?」
ふと、寂しげな表情で佇む白に気付き、声を掛けた。
「雪を眺めていて・・・・・・昔の事を思い出しました・・・」
白は空を見上げたまま、静かに呟いた。
「・・・もう随分昔ですが、ボクにも大切な人がいました・・・・・・ボクの両親です」
ゆっくりと目を閉じ、ぽつりぽつりと胸に仕舞っていた過去を語り始めた。
「ボクは雪深い小さな村に生まれました。 幸せだった・・・本当に優しい両親だった」
両親の顔を思い出したのか、顔には儚げな笑みが浮かんでいる。
「でも・・・・・・ボクが物心ついた頃・・・ある出来事が起きた」
「・・・ある出来事?」
「父が母を殺し・・・そしてボクを殺そうとしたんです」
「・・・」
語られる内容は穏やかなものではなかった。
「絶え間ない内戦を経験した霧の国では、血継限界を持つ人間は忌み嫌われてきました」
「あの術か・・・」
「はい。 一族はその特異な能力の為、様々な争いに利用された挙句。
国に災厄と戦禍をもたらす汚れた血族と恐れられたのです。
・・・戦後、その血族達は自分の血の事を隠して暮らしました。
その秘密が知られれば、必ず死が待っていたからです」
ナルトは黙って耳を傾ける。
「ボクの母は血族の人間でした・・・・・・それが、父に知られてしまった・・・。
気付いた時、ボクは殺していました・・・実の父をです・・・!!」
長い沈黙が訪れた後、再び白は口を開いた。
「そしてその時、ボクは・・・自分の事をこう思わざるを得なかった。
そしてそれが・・・一番辛い事だと知った・・・・・・。」
「一番辛い事?」
「自分が、この世にまるで・・・『必要とされない存在』だという事です」
「・・・・・・・・・」
ナルトには、白の気持ちが痛い程理解出来た。
今でこそ沢山の仲間に囲まれているが、嘗ては孤独の痛みを嫌と言う程味わった。
「君なら、きっと分かる筈です。
・・・再不斬さんは、ボクが血継限界の血族だと知って拾ってくれた。
誰もが嫌ったこの血を・・・好んで必要としてくれた・・・」
誰からも忌み嫌われ、誰からも必要とされなかった自分を、どんな形であれ必要としてくれる人がいる。
『今日からお前の血はオレのものだ・・・ついて来い!』
それがどんなに嬉しいか。
それがどんなに救いになるか。
『白・・・残念だ・・・。今宵限り、オレはこの国を捨てるつもりだ・・・。
しかし・・・!必ずオレはこの国に帰ってくる…この国を手中にしてみせる!!
その為に必要なのは慰めや励ましじゃない・・・本当に必要なのは・・・』
『分かっています・・・安心して下さい・・・。
ボクは再不斬さんの武器です・・・。
言い付けを守る唯の道具として、お側に置いて下さい』
『フッ・・・いい子だ・・・』
「嬉しかった・・・!!」
白の目尻に、大粒の涙が浮かんでいた。
再不斬と過ごした日々が、走馬灯のように思い浮かぶ。
例え都合の良い道具だと思われていたとしても、恨む気持ちは一切無い。
再不斬との出会いにより、自分の存在意義を確かめられた。
そして大切な者の為に戦う事が出来た。
自分の選んだ道に、後悔は無かった。
「でも・・・結局ボクは・・・再不斬さんの求めた武器にはなれなかった・・・」
白は涙を拭いながらこう続けた。
「再不斬さんにとって『弱い忍は必要ない』・・・君は、ボクの存在理由を奪ってしまった」
「そうでもねぇさ」
「え?」
迷いの無いナルトの言葉に、目元を擦る手が止まった。
「ガトーの部下が雪崩れ込んで来た時、あいつはずっとお前を守ろうとしてた。
お前の事をただの道具だと思ってんだったら、命を掛けてまで守ったりなんかしねぇよ」
「本当に・・・再不斬さんが・・・?」
「ほら、迎えに来てんぞ」
信じられない様子で目を白黒させる白に、ナルトはニッコリと笑って言った。
「白、そろそろ行くぞ」
旅の仕度を終えた再不斬の手には、白の分の荷物が握られていた。
「・・・・・・」
白は涙が零れそうになるのを懸命に堪えた。
「どうした・・・自分じゃ歩けないのか?」
「いえ、大丈夫です・・・・・・何処までも・・・着いて行きます」
「ふっ・・・いい子だ」
本当に嬉しそうに荷物を受け取ると、再不斬と共に雪の中を歩き出した。
ナルトは寄り添うように歩く2人の背中を、いつまでも見送っていた。
―街道―
日の暮れた暗い森で、焚き火の炎が揺れていた。
ここは波の国の国境付近。
波の国を旅立った再不斬と白は、暫しの休息を取り傷を癒していた。
「これからどうするつもりですか?」
「傷が癒えるまではどっかに身を隠す・・・その後は・・・・・・」
「その後は?」
「・・・・・・・・・・・・」
再不斬は元々計画性のある人間ではない。
波の国を旅立ったのはいいが、今後の身の振り方については何も考慮していなかった。
「・・・・・・考えてなかったんですか?」
「・・・・・・・・・」
図星を指されて思わず目を逸らす。
気まずい空気も流れ始める。
明るい話題に切り替えたいところだが、つい今し方失業した身の上ではそれも難しかった。
「当分の間就職活動でしょうね・・・・・・貯えもそう多くはありませんから」
「す、すまん・・・」
「再不斬さんにも、無駄遣いは極力控えてもらいますよ」
「・・・解った・・・」
「えーっと今の手持ちが・・・だから・・・食費はこれ以上削れないから・・・・・・この分だと」
指勘定しながらテキパキと指示を飛ばす少年に、大の大人がペコペコと頭を下げている。
威厳もへったくれもあったもんじゃない。
何度も計算し直し四苦八苦している白を手伝いたいのは山々だったが、銭勘定と無縁の再不斬には大分荷が重かった。
己の無力さを痛感したのか、焚き火の隅で三角座りを始め自分の殻に閉じこもってしまった。
その為、白の隣で一緒になって首を捻っていた、九妖の存在にも気付けなかった。
「あちゃ〜・・・これじゃ来月まで持たないねぇ」
「そうなんですよ・・・・・・・・・って何時の間に!?」
計算に熱中していた白も気付かなかったようだ。
「細かい事は気にしない」
毎度の事ではあるが、悪びれる素振りすら見せやがらない。
「2人とも行くアテがないんだったら、俺んとこに来ない?
任務は山程舞い込んでくるから、食うには困らないよ?
あ、里長にも文句は言わせないから、何も心配しなくていい」
「本当ですか!? 助かります!!」
そんな奴でも、今は仏に思えて仕方がなかった。
サウナから出た時は、夏の炎天下も涼しく感じる。
あれと似たようなものである。
「ふざけるな! 誰が貴様の世話に等なるか!!」
だが自分の世界から戻ってきた再不斬は、掴み掛からんばかりの勢いで拒絶した。
「ありゃりゃ・・・また随分と嫌われましたね」
「当たり前だ!! 大体てめぇには・・・「ご免!」がはっ!」
見事に体重の乗った拳が鳩尾にめり込み、ドスッ! と鈍い音を立てる。
「て・・・てめぇ・・・・・・」
呼吸を止められて、まだ喋ろうとする気迫が凄い。
「あれでオチないのか・・・・・・じゃあもう一発」
当然のように拳を作り、二撃目を加えようとする。
しかし、
「うっ!」
それよりも早く、再不斬の首に千本が突き刺さった。
「・・・・・・これで一週間は起きません」
キュピーン!と、白の目が怪しい光を宿していた。
話をややこしくしない為にも、再不斬には眠ってもらうのが良策である。
生活の遣り繰りが関わった時、2人の主従関係は逆転するようだ。
「では、先程の続きを・・・」
「了解」
ピクリとも動かない再不斬を放置したまま、九妖と白は取引を進めた。
「2人が所属するのは俺の部隊だ・・・ちなみに。
うちの隊は木ノ葉に従属してるわけじゃないから、誰にも縛られる筋合いはない。
まぁ里はうちの戦力を欲しがってるみたいだから、金が欲しい時だけ手伝ってやればいいよ」
「・・・・・・・・・」
メモを取っていた白はペンを取り落とした。
聞き捨てならない内容なのに、口調が軽すぎる。
忍の本質は、己の存在意義を求めず、ただ国の道具として存在することだ。
忍の定義を根本から無視し、尚且つそれを全く撤回する気が無い所が恐ろしい。
白は驚きはしたが、別に自分達にデメリットがあるわけではないので特に口を挟まなかった。
寧ろ、これ程破格の待遇を断る理由は何処にも見当たらなかった。
「では、これからよろしくお願いします」
白はペコリと頭を下げ、右手を差し出した。
「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったね」
「え?」
と、突然九妖の体から煙が立ち上った。
「暗殺戦術特殊部隊・第九班班長【九妖】。 ・・・本名【うずまき ナルト】・・・こちらこそよろしく!」
変化を解き仮面を剥いだナルトが、唖然とする白の手をしっかりと握り返した。
こうして霧隠れの鬼人とその右腕の少年は、正式にうずまき一家の仲間入りをする事となった。
同時にそれは、うずまき家の非常識人に振り回される再不斬の、苦闘の日々の始まりでもあった。
そしてこれは余談だが、固まった白が正気を取り戻すまで、結構な時間を要したらしい。