NARUTO
〜九妖忍法帳〜 25話目




遂に始まった上忍同士の戦い。

前回は最終的に勝ちを拾ったが、ナルトの援護が無ければ結果は違っていたかもしれない。

「サクラ! タズナさんを頼むぞ!!」

カカシ自身もその事をよく理解している。

「! ・・・・・・ (・・・そうよね・・・サスケ君を信じて、私は私のやるべき事を!)」

サクラはナルトにはこれっぽっちも期待していなかった。

―何じゃ・・・この超凄い霧は・・・視界ほぼ0じゃないか・・・。

「敵もやたら気合が入っているわ! タズナさん、私から離れちゃダメよ!!」

「おお、サクラ」

サスケだけに期待を寄せ、クナイ片手にタズナの元へ戻った。

―霧隠れっつたって霧が濃すぎる・・・これじゃ再不斬自身何も見えない筈・・・・・・。

全てを覆い隠す濃霧、カカシの顔には惑いの色が広がっていた。

と、その時。

真っ白い霧の彼方に、空気を切り裂く音を聞いた。

すぐに音の正体に気付くが、視界が利かない為対処が遅れる。

カカシは研ぎ澄ました聴覚だけを頼りに、音の出所を探る。

「!」

手裏剣の飛んで来る方向をつかみ、左手に構えたクナイで全て叩き落した。

「よくぞ避わした・・・流石は写輪眼のカカシだ」

「!」

すると、突然背後から聞こえる再不斬の声。

カカシは慌てて身を翻した。

「だが・・・次・・・お前がオレを見た時、それは全ての終わりだ・・・」

―目を・・・! 閉じてやがる!!

《お前は写輪眼を過大評価し過ぎた》

「なに・・・」

《ククク・・・お前は事象の全てを見通しているかの様にほざいていたが・・・結果、その先読みはハズれている》

再び霧と同化する再不斬。

《カカシ・・・お前にはオレの心も未来も見えてはいない。
 写輪眼とは・・・つまり、そう思わせる為の透遁法!!
 突き詰めて言えば、洞察眼と催眠眼の両方を持ち合わせた瞳術・・・。
 その2つの能力を使い『姿写しの法』から『心写しの法』。
 そして『術写しの法』へと透遁し・・・自分にはあたかも未来が見えているかのように振舞う》

白により写輪眼のシステムは看破されている。

《まずはその洞察眼でオレの動きを即座に真似て同様を誘い・・・》

『姿写しの法』

《オレの心の揺らぎを確信したお前は、更にオレになりきる事で『心の声』を決め付ける》

『心写しの法』

《そして・・・焦りまくるオレの動揺がピークに達した時を見計らい、お前は巧妙なワナを仕掛ける・・・》

『術写しの法』

《催眠眼で幻術を使い、オレに印の結びを先出しさせて・・・後はそれを真似するだけ・・・。
 だったら話は簡単だ。 まず、この濃霧で姿を消しお前の洞察眼を封じ・・・》

「!! ぐォ!! (くそ! この視界でガードが遅れる!!)」

腕を交差して防ごうとするが間に合わない。

「くっ!」

吹っ飛ばされたカカシが、地面にクナイを噛ませ体勢を立て直す。

《ククッ・・・オレ自らも眼を閉じ、接近戦に置ける催眠眼の可能性を封じる》

「くっ・・・何故だ・・・それはお前の視界を奪う事にもなる筈・・・」

《忘れたのか・・・・・・》

「なにっ!?」

《オレが音だけでターゲットを掴む『サイレント・キリング』の天才だと言う事を!!》

カカシは己の迂闊さに歯を食いしばった。

―ちくしょう・・・サスケとナルトも心配だってのに・・・これ程の悪条件下での闘いは久しぶりだ。

このまま敵の術中に嵌れば、それこそ全滅である。

―冷静になれ・・・考えるんだ・・・奴は何処を狙ってくる?

精神を落ち着かせ、思考を研ぎ澄ます。

一瞬の空白の後、カカシの脳裏に閃く物があった。

―! マズい!!

再不斬のそもそもの狙いは、カカシを倒す事ではなくタズナを殺す事だ。

カカシは振り返ると同時に、力強く地面を蹴った。

その読みが外れる事は無く、サクラ達の背後に薄笑いを浮かべた再不斬が現れた。

「えっ!?」

「!!」

振り向いたサクラ達の目の前に、今まさに斬撃を加えようとする再不斬が見える。

大きく振りかぶられた大刀。

その太刀筋の間に、突風のように滑り込むカカシ。

「遅い!!」

そして振り下ろされる首切り包丁。

「きゃああああ!!」

深い霧の中に、サクラの悲鳴が木霊した。









「!! (今のはサクラの声!!何かあったのか!!カカシのヤローは何をしている!?)」

サクラの悲鳴が聞こえ、サスケの胸に焦りが募る。

―畜生! このままじゃマジでヤバイ・・・オレが何とかするしかない。

ギリギリのところで致命傷は避けているが、体力の限界が近付いている。

「いっててて! くっ・・・そ・・・ふんッ!」

隣のナルトに目を向ければ、背中に刺さった千本に手が届かず悪戦苦闘している。

間違い無くアテに出来そうも無い。

―眼は不思議と慣れてきた・・・。

サスケは目眩を堪え、両足に力を込めた。

―致命傷となる秘孔を狙ってきるのに・・・ことごとく外されている・・・。
 それどころか仲間を気遣いながら戦っている・・・・・・段々とボクの動きを・・・。

落ち着き払ったサスケの様子に、白は引っ掛かりを覚える。

―・・・・・・あの少年には何かが見えている・・・!!

理屈は何も無かったが、それを確信した。

「君は・・・よく動く・・・けれど次で止めます・・・。 (運動機能・反射神経・状況判断能力・・・君の全ては限界の筈・・・)」

両手に千本を持ち、体を沈める。

―来る!! 落ち着け・・・集中しろ・・・そして見切れ!!

サスケは呼吸をする事さえ忘れ、両目に意識を集中した。

そして、飛び出した白を確認し、真横へ飛び退き地面を転がる。

―完全に見切った!? そんな・・・・・・!!

戦いが始まって初めて、白の攻撃が完全に外れた。

いや、外れたのではなく外された。

しかし、白の驚愕はまだ終わらなかった。

―あの両眼・・・まさか!! 写輪眼・・・!!?

自分を睨みつけるサスケの瞳。

それが先程までの黒から赤みを帯びた色に変わり、瞳孔の周りにふたつ巴が浮かびあがっていた。

「・・・・・・君は・・・!! そうか・・・キミも血継限界の血を・・・」

白の声は微かに震えていた。

「(何て子だ・・・まだ不完全だけど・・・戦いの中でその才能を目覚めさせるなんて・・・)
 だとすれば、そう長くは戦えません・・・ボクの術はかなりのチャクラを使うので、術による移動スピードを保つのにも限界があります」

「!!」

「恐らく戦いが長引けば長引くほど・・・ボクの動きはキミの『読み』の範疇に入ってしまう・・・」

長期戦になれば、破れる可能性も十分にある。

「キミの眼はもうボクを捕え始めている。 ・・・ならば!!」

白は顔を伏せ、両手に八本のクナイを構えた。

―ストレートにキミを狙うのは浅はか・・・! ・・・・・・彼を使い誘き寄せる。

2人の戦いを他所に、未だ背中の千本と格闘しているナルトに狙いを定める。

「・・・・・・これでカタをつけます!!」

―!! 何だとっ!! ナルトに!?

そして鏡から飛び出した白が、凄まじい速度で襲い掛かった。









カカシの胸元が大きく切り裂かれ、流れ出た血がボタボタと滴っていた。

「くっ・・・!」

「!!」

「カカシ先生!!」

「ガードに入るのが遅れたなァ・・・カカシ!」

傷口を押さえ、殺気を叩き付ける。

「ガキどもを助けたいという一心が、お前の頭に血を昇らせ・・・更に濃い霧をかけたか・・・。
 ・・・・・・大層な眼を持っててもよ・・・敵の動きを読む力が鈍っているぜ」

八方塞のカカシに対し、再不斬の顔には余裕の笑みが浮かんでいた。

「ククク・・・もっと楽しませてくれよォ・・・カカシ。 借りは楽しく返したいんでなァ!」

首切り包丁を持ち上げ、付着した血液を振り払う。

「心配しなくても、あのガキ共は白がそろそろ殺してる。
 最もお前もすぐやつ等と同じ場所に送ってやる・・・精々あの世で、己の力の足りなさを泣きながら詫びるんだな!」

「サスケ君は、あんな奴に簡単にやられてりしないわ!! ナルトだって!!」

嘲笑を響かせる再不斬に向かって、サクラは力一杯吼えた。

―しゃーんなろー! しゃーんなろー! しゃーんなろー!

内なるサクラもやや暴走気味に吼える。

「その通りだ・・・」

「!」

「オレはアイツ等の強さを信じてる。 ナルトの意外性・・・そして、サスケは木ノ葉の最も優秀な一族の正統血統!!」

「・・・・・・!! まさか・・・」

再不斬の表情が僅かに曇った。

「そうだ・・・奴の名は『うちは』サスケ。 ・・・あのうちは一族の『血継限界』をその血に宿す・・・天才忍者だ!!」

「あの悲劇の一族の末裔か・・・・・・。 (どうりで成長が早い・・・)」

かつて他国にまでその名を轟かせたうちは一族。

その末裔であるのならば、サスケの成長振りも頷ける。

「だが、それは白とて同じ事。 白の秘術を破った者はいない。 過去、一人としてな・・・」

白に絶対の信頼を置く再不斬。

何の迷いも無く言い切った後、印を結び霧の中へと姿を消した。

「また消えた!!」

《オレもそろそろカタをつけるか・・・》

「サクラ此処を動くな」

「え!あ…うん!」

カカシはタズナをサクラに任せ、霧の中へ身を投じる。

「聞いてるか再不斬・・・お前はこのオレが、写輪眼だけでこの世界を生きてきたと思うか・・・」

ベストの留め金を外し、一本の巻物を取り出した。

「オレも元暗部にいた一人だ。 オレが昔、どんな忍だったか・・・次はコピーじゃない・・・オレ自身の術を披露してやる」









サスケは冷たい地面の上に、力無く倒れ伏していた。

両の瞼を閉じて、ピクリとも動かない。

『くっ! 間に合え!』

ナルトを助ける為、身の危険を顧みず飛び出した結果。

『ッ!!! ・・・・・・・・・』

頭部に強い衝撃が訪れ、目の前が真っ暗になったのだった。

そう・・・・・・・・・。






「悪いなうちは、暫く眠っといてくれ♪」






他ならぬ・・・・・・・・・助けようとしたナルトの手によって。

「ふぅ〜〜〜、これで邪魔者は消えたな」

ナルトは助けに来たサスケを手刀で眠らせ、同時に、攻撃を仕掛けた白の手を掴んで捕えていた。

「・・・・・・何のつもりです」

腕を掴まれた白が険しい声で問い掛ける。

彼にはナルトが理解出来なかった。

自分の仲間を眠らせた不可解な行動。

長時間の戦闘で多少スピードが落ちているとはいえ、全力で放った一撃をいとも容易く見切る実力。

最も、実力の方に関しては思い当たる節がいくつかあった。

白は戦闘が始まってからずっと、再不斬すら手玉にとるナルトを危険視し、ナルトに対しての攻撃だけは全て急所を狙っていたのだ。

しかし、全力で行っていたにも拘らず、それ等が尽く外されていた。

それどころか、わざと攻撃を受けているようにも見えた。

「真面目に闘う気が無いんですか・・・君は・・・」

本気になれば自分と対等に戦うことも出来る筈なのだが、それをしようとしないナルト。

「あはははは! 悪ぃ悪ぃ! やっぱバレてたか!」

理解に苦しむ白を余所目に、ナルトは掴んでいた腕をあっさり放した。

「で・・・・・・君は、一体何がしたいんです?」

「理由は二つある。 一つはお前の実力が知りたかった」

「では、もう一つは?」

「・・・単刀直入に言うぞ・・・俺と組まねぇか?」

「・・・・・・・・・・・・」

楽しそうに語るナルトに、頭の中が真っ白になる。

「ん? どうしたんだ?」

「・・・・・・・・・・・・すいません・・・耳の調子が・・・」

自分の耳を疑うべきか、それとも目の前で首を傾げている人物の頭の構造を疑うべきか・・・。

つい今しがた命の遣り取りをしていた相手に、どの面下げて『仲間になれ』などとほざいているのだろうか?

忍として様々な状況を経験してきたけれど、今回のようなケースは初めてだ。

てゆーかこれが最初で最後だろう。

森で会ったナルト君は、もう少し真面目だったような気がしたんだけど、あれは気の気のせいだったのかなぁ。

などなど、浮かんでくる疑問は後を絶たない。

「しゃーねぇな・・・もっかい言うからちゃんと聞いてくれよ? ・・・・・・俺の仲間になってほしい」

ナルトはやれやれと頭を振って、右手を差し出した。

「お断りします」

「!!」

だがソッコーで断られ、ショックの余りその場に座り込んで『の』の字を書き始めた。

「言った筈です・・・ボクには叶えたい夢があると・・・」

「・・・・・・・・・」

白の決意は固く、どうあっても戦いは避けられそうにない。

「その夢の為なら、ボクは忍になりきる」

「・・・・・・そっか」

ナルトが漸く真面目な顔になった。

「もし、違う形で出合えたら・・・・・・君とは良い友達になれたかもしれませんね」

「俺はお前とは友達のつもりだぞ・・・・・・森で話した時からな」

「・・・気付いていたんですか・・・」

「はは・・・・・・まぁな」

「ふふっ・・・どこまでも不思議な人ですね、ナルト君は」

「よく言われる」

白とナルトは互いに笑い合う。

「じゃあ、そろそろ始めましょうか」

「だな」

両者の顔から笑みが消え、白は後方に飛び退き、ナルトは立ち上がって拳を握った。

間合いを外した白は、鏡の中へと潜り込む。

手に携えた武器は、やはり千本であった。

「お互い取るべき道は一つ。 ボクの全身全霊を以って・・・・・・君を殺します!!》

刹那、冷気を伴った殺意が、雪崩のように押し寄せる。

―・・・大した殺気だ。

だが、それをものともせず、真っ向から受け止める。

―行きます!!

鏡から鏡へ移動し、その直線状にいるナルトへ夥しい数の斬撃を繰り出した。

―狙いが正確すぎるんだよ!

しかし、僅かに身を翻し最小の動きで避け切る。

音速を凌駕する白の連撃が、触れる事さえ許されない。

何故なら驚異的な速度を誇る代わり、その軌道が直線に限られているからだった。

―バカな! 完全に見切っている!?

桁外れの戦闘力を垣間見、戦慄する白。

「どうした・・・? 来ねぇならこっちから行くぞ!!」

ナルトは背後を振り向くと、右手に力を溜め本体が潜む鏡に突進する。

そして、握り固めた拳に大量のチャクラを乗せ、恐ろしい速度で振り抜く。

音を立てて砕け散る氷の鏡。

降り注ぐ破片が、光を反射して煌めいている。

膨大なチャクラで破壊力を水増しした一撃は、燃え盛る炎すら耐えた氷の壁を悠々と打ち抜いた。

―ッ!! 攻撃の予備動作がまるで見えない!!

天井の鏡に移動して、辛うじて難を逃れた白。

―今度はあそこか。

それでもまだ、ナルトの両眼に正確な居場所を捉えられている。

―直接攻撃ではダメージは期待出来ない・・・・・・ならばこれでどうです!

白は天井の鏡から、脳天目掛けて千本の雨を降らせた。

当然ナルトがジッとしているわけもなく、後方に飛び退いてかわす。

と、千本を投げると同時に飛び出していた白が、着地の瞬間を狙い背後から足払いを放つ。

―やべッ!!

空中で身を捻り受身を取ろうとするが、それよりも速く白の片手が印を刻んでいた。


【秘術! 千殺水翔!!】


的を貫く水刃。

切り裂かれたナルトが、血をぶちまけながら地面に落ちる。

一撃目を囮に背後を取り、二撃目の蹴りで空中に浮かせ、身動きが取れなくなったところで【千殺水翔】による包囲攻撃。

だが・・・・・・白の攻撃はまだ終わっていなかった。


【秘術! 魔冬氷縛!!】


ナルトの体に纏わり付いた水がチャクラを含んだ冷気に晒され、結晶となって四肢の自由を奪う。

全身の七割を凍り付けにされ、満足に動く事も出来ない。

血の気が引いた指先は、赤を通り越して紫に変っていく。

「・・・これで終わりです・・・」

白は青白い息を吐くナルトを見下ろし、酷く冷淡な声で言った。

そして片手ではなく両手で印を結び、術の名を解放した。


【秘術 氷芽狂咲!!】


突如、ナルトは体内を駆け巡る悪寒と、それに伴う激痛に襲われる。

「ガハッ!!」

口から吐き出された血の塊。

内臓が損傷しているのか、食道を通り血がせり上がって来る。

「ぐァ!!」

やがて体の内側から、樹木を象った紅い氷刃が、皮膚を食い破って次々に芽吹いた。

噴出す鮮血が冷気で結晶となり、紅い雪となりキラキラと輝いている。

その光景は、まるで花弁が風に舞っているようだった。









―?―

「・・・・・・何だ此処は?」

白と闘り合っていた筈の俺はいきなり意識が飛んで、気が付けば何故か森の中に居た。

痛みには慣れてるつもりだから、あれ位で失神する筈はねぇんだがなぁ。

まぁ考えても仕方ない、あんまり良くねぇがとりあえずは良いとしよう。

今は状況の把握が先決だ。

まず穴だらけにされた筈の体は、ビックリするくらい元通りになっている。

次に辺りは夜闇に包まれていて、空を見上げれば真ん丸い月が昇っている。

どうやら場所だけじゃなく時間もずれてるな。

「やれやれ」

「!」

いきなり背後から声を掛けられ咄嗟に身を翻した。

が、誰も居ない。

「・・・・・・どうして君はそう、人が良いのかな?」

姿は見えないが、どこか呆れたような声が聞こえてくる。

声の感じからして性別は男。

歳は・・・・・・大体俺と同じ位だろう。

「どういう意味だ?」

質問をはぐらしつつ、全ての神経を研ぎ澄まし、相手の居所を探る。

「例えば・・・・・・」

だが、何故か察知できない。

声の主には気配がなく、チャクラがなく、匂いすらもまるでない。

そして声の出所も分からない。

まるで、森全体が語りかけてくるような感覚だ。

「白君っていったかな・・・喰らう必要もない彼の術を、わざわざ喰らってあげた事とかね」

その言葉に俺はかなり面食らった。

「・・・・・・・何時から見てた?」

「ん〜最初からかな・・・」

ひょっとして、霧隠れの追い忍だろうか?

「ハズレ。 僕が見ていたのは君だ」

・・・・・・声に出したつもりはないぞ?

「あはははは。 ここは僕の空間だからね、口に出さなくても分かるんだよ」

「プライバシーもクソもねぇな・・・それ」

「何か人に知られたくないやましい事でも有るのかい?」

まぁ・・・有るといえば有る。

むしろ有り過ぎる。

ん? そういえばさっき何て言ったあいつ?

「やましい事でも有るのかい?」

ボケは望んでない、その前だ。

「ああ・・・ここが『僕の空間』って事?」

そう、それだ。

何の契約も無しに、他人を別の場所に転移させるなんざ不可能だ。

親父が使ってたっていう【飛雷神の術】も、移動場所に座標を示す術式を刻む必要がある。

ついでに、それによって移動できるのは術者本人のみ。

自分の望む場所に、対象のみを移動させるのは不可能な筈。

口寄せみたいに呼び出す対象と契約を結んでれば別だが、俺とこいつには何の接点も無い。

「う〜ん、説明が難しいんだけど・・・ここはいわゆる・・・精神世界ってやつかな」

精神世界?

イタチの【月読】みたいなもんか?

「うん、まぁ大体当たってる」

何とも嬉しそうな声で言う。

しかし、何時の間に術を掛けたのか・・・いや、それ以前に何の用があって俺を呼んだのかね・・・・・・。

「まぁいいか・・・・・・で、用件は?」

「君に一言忠告したくてここに呼んだんだ」

「忠告?」

そんなことして、こいつに何のメリットがあるんだ?

「君が夢の為に戦っているのは分かる。
 それが大切な人の為だって事も分かるし、とても良い事だと思う。 ・・・・・・でもね」

声が余りにも真剣だったので、俺も真面目に聞く事にした。

「君が傷付く事で心を痛める人達が居る。
 君の夢を叶えようと、共に戦っている人達が居る。
 君の力になりたくて、一生懸命努力している人達が居る。
 そして・・・・・・・・・君が愛し、君を愛してくれる人達が居るんだ」

「・・・・・・・・・」

「それを忘れないでほしい」

「・・・・・・・・・」

「だから、余り無茶をしちゃダメだよ・・・・・・良いね?」

何故こいつが・・・俺にこんな忠告をするのかは分からない。

でも、悪ガキを嗜めるようなこいつの口調は、不思議なくらい心に響いた。

「分かった・・・・・・約束する」

「良かった・・・・・・じゃあ、そろそろお別れだ」

俺がそいつに名前を聞こうと思った途端、

「ああ最後に一つ・・・・・・・・・・・・あんまり浮気しちゃダメだよ?」

そんなお節介なセリフと同時に・・・・・・・・・世界が暗転した。









―現実―

幾多の氷樹に体を貫かれ、グッタリと四肢を投げ出しているナルト。

その傍らに、淋しげに佇む白の姿があった。

「・・・君は本当に強かった・・・」

ただ一言呟いて、紅い雪が舞い降りる中、踵を返して歩き出した。

・・・・・・・・・・・・その時だった。

「!!!」

爆風のような闘気が白の背中に叩き付けられた。

―そ・・・そんなバカな・・・!!

振り返った先に見たものは、ナルトから漏れ出した禍々しいチャクラ。

それは、空間全体を揺さぶる程の、およそ人間に持ち得る筈のない量だった。

通常のチャクラと異なり、赤みを帯びた燈赤色をしていた。

やがて燈赤から赤銅、赤銅から真紅へ、真紅から漆黒へと染まる。

螺旋を描き立ち昇がる奔流。

地中を駆け巡るチャクラによって、固い地面が砕かれている。

背後の景色を捻じ曲げ、白の秘術が織り成す世界が黒く塗り潰されてゆく。

白はその光景に縛られ、一歩も動く事が出来なかった。

「・・・この術・・・俺の血を凍らせて、内側から串刺しにしやがったのか・・・・・・容赦ねぇな」

死んだと思っていたナルトが、凍り付いた手足に力を込めた。

「正気ですか!? そのまま動けば粉々になりますよ!!?」

無理に動けば四肢が砕け散る。

「!!!?」

筈だったが、動きを封じている氷が蒸発を始めた。

ナルトは真っ赤な蒸気を上げながら、纏わり付く氷を砕き、無理矢理立ち上がる。

突き立った千本が弾かれるように体から抜け、氷の刃は跡形も無く消えた。

更にズタズタに引き裂かれた体が、傷一つ残さず元通りに復元されていく。

―!! あ、あれだけの傷が、完全に塞がっている!?

「悪いが、ここからは本気で戦る。 ・・・・・・死んでも恨むなよ」

「ッッ!!! (あ、あれは・・・・・・・・・)」

白は己が目を疑った。

―狐・・・!?

螺旋を描いていたチャクラが、ハッキリと獣の姿を象っている。

―・・・・・・有り得ない・・・!! チャクラが具現化するなんて!
 ・・・・・・そ・・・それに・・・なんて醜悪なチャクラなんだ!!

そして、血の色をした狐の両眼が、獲物を見据えるように細められた。

嫌がおうにも浮かぶ死のイメージ。

遥か昔に捨て去った筈の感情が、魂の奥底から蘇ってくる。

それは、恐怖という名の感情であった。









「「!!」」

突如、激しい悪寒が背筋を駆け抜け、カカシと再不斬の動きが止まった。

―・・・!! ・・・再不斬の奴か・・・!? ・・・いや違う!!

―何だ・・・このチャクラは・・・嫌な感じだ・・・カカシ!?
 いや・・・カカシにしちゃデカ過ぎる・・・誰だ!?

自分が戦っている相手では、まず有り得ない量のチャクラだ。

しかも人間のそれとは、根本から何かが異なっている。

―この禍々しいチャクラは・・・・・・まさか!!

カカシはそのチャクラに表情を険しくした。

「ナルトの封印が解けたのか!?」

忌まわしい記憶が蘇り、全身に嫌な汗が滲み出る。

万が一九尾が解放されれば、自分の命はもとより、波の国そのものの消滅も十分に考えられる。

精鋭が揃う木ノ葉ですら、たった一夜にして壊滅に追い込まれたのだ。

「! ・・・この感じ・・・。 (助かった、まだ完全に封印は解けていない!)」

記憶にある九尾のチャクラと今感じているチャクラに、ごく僅かだが確かな違いがある事に気付く。

しかし、事が事だけに楽観出来ない。

―今ならまだ間に合う!

胸の傷口に親指を突っ込み、拭い取った血を開いた巻物に擦り付けた。

「聞こえるか再不斬・・・・・・お互い忙しい身だ・・・お前の流儀には反するだろうが・・・」

素早く巻物を閉じ、それを手にしたまま印を結ぶ。

「次で白黒つけるってのはどうだ!」

《フン・・・面白い・・・! この状況でお前に何が出来るのか・・・。 カカシ・・・見せてもらおう!》

【鬼人 再不斬】 対 【コピー忍者 カカシ】。

両者の闘いは最終局面に突入する。

・・・・・・決着の時は近い。







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