NARUTO
〜九妖忍法帳〜 23話目




―森―

タズナの家を出て行ってから3日目の朝。

「疾ッ!」

朝靄の中、空気を裂く音が響き渡る。

力強い踏み込みによって地面が抉れ、鋭い蹴りが虚空を切り裂く。

ナルトはあの日の夜から、寝食を忘れぶっ続けで修行に取り組んでいた。

だが、ふと動きが止まる。

それは自分の方に近付いて来る気配を感じたからだった。

―このチャクラは・・・・・・・・・。

憶えのあるチャクラに眉を寄せ、木に掛けたジャケットを羽織り呼吸を整え始める。

やがて霧に覆われた人影は、徐々にその輪郭を顕にした。

「おはようございます。 ・・・朝、早いんですね」

霧の中から現れた人物は、先日再不斬を救った白であった。

髪を下ろし桃色の衣に身を包んだその姿。

小首を傾げて小さく笑う仕草、今の白を見たら十人中十人が美少女と答えるだろう。

火影のじぃさまなどは嬉々としてお茶に誘うだろう。

―・・・ちッ・・・男か。

それをどういう訳か、一目で男と見抜くナルト。

主な理由を挙げるとすれば、股間に搭載されたセンサーが反応しなかった為である。

「どうしました?」

「ん? いや何、少し残念だなぁ・・・って思っただけだ」

「?? ・・・残念・・・?」

「まぁこっちの話だ、気にしないでくれ」

「はぁ・・・・・・」

セリフの端に含まれた不当な気配を感じ、白の傾げた小首が更に傾く。

具体的に何が残念なのかは推して知るべし。

「ところで・・・君はこんな朝早くから何をしてたんです?」

白は言いながら抉れた地面を見渡す。

修行場となった森には、不自然な跡が幾つも刻まれていた。

「ん〜・・・散歩がてらに腹ごなしの運動でもしようと思ってな。 兄ちゃんは?」

質問に答える気がないのか、適当に答えるナルト。

「に・・・兄ちゃん? き、君、今・・・兄ちゃんって言いました!?」

「あ、ああ・・・そうだけど・・・もしかして違った?」

「兄ちゃん・・・兄ちゃん・・・ふ、ふふふ・・・ふふふふふふふふ・・・」

急にプルプルと打ち震える白。

「あ、あの〜・・・・・・」

ナルトは半歩下がりつつ戸惑った声を出す。

と、

「ありがとうございます!!」

「はい!?」

白はナルトの手を両手でガッシリと握り、何故か涙を流していた。

「今までボクを男だって分かってくれたのは再不・・・じゃなかった、職場の先輩みたいな人だけなんです!!
 他の人達は『可愛い』だの『付き合ってくれ』だの・・・・・・・・・まったく! どこに目を付けてるんだか!」

自分のキャラを忘れたかのように、ついでに言ってはいけない事を口にしそうになりながら、怒涛の勢いでまくし立てて行く。

昔から顔の所為で女扱いされる事が多かった白は、意外にその事にコンプレックスを持っていたりする。

初対面で男と認識してくれたのは、再不斬以外ではナルトが初めて。

その為、今の白はすこぶる上機嫌であった。









「すいませんナルト君。 手伝わせちゃって」

「白も大変だな、朝っぱらから」

「いえいえ、好きでやってる事ですから」

「なぁ・・・敬語使うのはナシにしねぇか? 同い年なんだしさ?」

「ふふっ・・・すいません。 でも、これが性分なもので」

薬草を摘む2人の間に、穏やかな空気が流れている。

5分ほど前にトリップしていた白も立ち直った。

ナルトは普通ならば敵に名乗ったりはしないのだが、既に白が仲間になる事は決定済みらしく、ごく普通に自己紹介していた。

白も普通なら名を明かしたりはしないのだが、ナルトに名乗られた時反射的に名乗り返してしまったのだった。

「さっきやってたあれ、散歩がてらの運動にしては随分と激しかったですね?」

相変わらず笑みを浮かべたままの白が、静かな口調で問い掛けた。

「ははっ。 まだまだ見習いだけど、一応忍者やってんだ俺」

「そうなんですか? でも・・・忍者は額当てをするものじゃ・・・」

一通り体を見渡すが、額当てらしき物はどこにも見当たらない。

「持ってるには持ってるんだが・・・・・・着ける気は更々ねぇな」

「・・・どうして・・・?」

ナルトが漂わせた里への嫌悪感を感じ取り、薬草を摘む白の手が止まる。

「里が嫌いだからかな」

「・・・・・・・・・」

戸惑いを浮かべた白に、事も無げにあっさりと本音を告げる。

「・・・じゃあ何で修行なんかしてるんですか・・・」

「夢の為だよ」

「夢?」

「ああ。 ・・・確かに里は嫌いだ。
だけどその中にも大切な奴等が居て、出来ればそいつ等には笑っててほしい」

ナルトは力強く断言する。

迷いや畏れを感じさせる事無く。

「君はその人達の為に強くなると?」

白の瞳から戸惑いの色が消える。

「そうだな・・・・・・夢って叶わなきゃ意味ねぇだろ?
 だから実現できる程強くなりてぇ。 ・・・でもまぁ、結局は自分の為に強くなってるのかもな」

「・・・・・・君にも、大切な人が居るんですね」

脳裏に浮かぶのは過去の自分。

薄汚れた路上の隅で、希望も無くただ膝を抱えていた自分。

「人は・・・大切な何かを守りたいと思った時に、『本当に強くなれる』ものなんです」

「ああ・・・それは俺も良くわかるよ」

白とナルトはお互いに笑い合った。

両者の今まで歩んで来た道、これから進む道は確かに違うだろう。

しかし、2人の根底にある想いは、限り無く近しいものであった。

「君は強くなる・・・また、何処かで会いましょう」

「ああ・・・」

白は立ち上がり、ナルトに背を向けて歩き出した。









―タズナの家―

サスケが修行を開始してから7日目の夜だった。

サスケは課題を達成し、カカシの体もほぼ完全に回復していた。

「はぁ〜・・・」

だが、カカシの顔色は優れなかった。

「はぁ〜・・・」

「さっきからウザイわね! いい加減にしてよ!!」

溜息を連発する担当に、サクラが容赦無く罵声を浴びせる。

「・・・ナルトに何かあったら・・・雪さん合わせる顔が・・・」

「相手が誰だか知んないけど、元々脈なんて無いんだからどうだっていいでしょ! 兎に角うっさいのよ!!」

「失礼な! あるよ脈!! ってゆーか赤い糸で結ばれてるよ!!」

脈云々ではなく雪の眼中にすら入っていないのだが、プライドの為か事実を受け入れようとしない。

不毛な言い争いを続けるカカシとサクラの隣で、サスケがかなり迷惑そうにしていた。

「ただいま〜・・・・・・」

戸口の開く音がし、一瞬で騒ぎが治まる。

「! おう今帰ったか! ・・・何じゃお前、超ドロドロのバテバテじゃな」

サスケ以上にボロボロになっているナルト。

「ナルト―――ッブべら!!」

感極まって飛び付こうとしたカカシだが、光速の右ストレートで呆気無く沈んだ。

「今までどこほっつき歩いてたのよ!!
 アンタの所為でサスケ君と修行できなかったじゃない!! (結構良い感じだったのにぃぃぃ!!)」

ナルトが居なかったので、当初の予定通りタズナの護衛に就いていたサクラ。

背後で内なる人格が『しゃーんなろ!』と吼える。

「初日代わってやったんだから良いだろ。
 それにどーせ脈なんざこれっぽっちもねぇだろうが」

自分が言ったセリフをそのまま言われ、サクラの口元がヒクヒクと引き攣った。

「よし冗談はそこまでだ! ナルト、サスケ・・・明日からお前らもタズナさんの護衛に就け」

地面に突っ伏していたカカシが復活。

曲がった鼻をゴキゴキと矯正しつつ、席に座りなおす。

何はともあれ、これで全員集合である。

「フ――・・・ワシも今日は橋作りでドロドロのバテバテじゃ! 何せもう少しで橋も完成じゃからな」

「ナルト君も父さんも余り無茶しないでね!」

「うむ」

「あい」

ツナミの口調はやや厳しかったものの、純粋に2人の身体を心配してのものであった。

「・・・・・・・・・」

食卓に着くと同時に、スヤスヤと寝息を立て始めるナルト。

溜め込んだ疲労を一気に快復させるつもりなのか、ピクリとも動かない。

その様子をジッと睨んでいるイナリ。

『大切なものは・・・この2本の両腕で守るんだ』

ボロボロのナルトが、大好きだったカイザと重なった。

『泣くな・・・イナリ』

―何で・・・何で!

何時の間にか涙が溢れ出していた。

「何でそんなになるまで必死に頑張るんだよ!! 修行なんかしたってガトーの手下には敵いっこないんだよ!」

両手でテーブルを叩き、堰を切ったように叫ぶ。

「いくらカッコイイ事言って努力したって! 本当に強い奴の前じゃ弱い奴はやられちゃうんだ!!」

「「「「「・・・・・・・・・」」」」」

イナリに集中する5つの視線。

「・・・・・・・・・あん?」

目を覚ましたナルトが、心底面倒臭そうに顔を上げた。

「お前見てるとムカツクんだ! この国のこと何も知らない癖にでしゃばりやがって!」

「あふっ・・・」

真面目に聞くつもりが無いらしく、眠たそうに目を擦っている。

「お前にボクの何が分かるんだ! 辛い事なんか何も知らないで・・・」

―・・・・・・・・・辛い事・・・。

額に指を当て、記憶を探ってみる。

だが、辛いと思った事は確かに無い。

里での冷遇や暴行は物心ついた時から当り前になっていたし、殺されかけるのも日常茶飯事だった。

うざったいと思う事はあっても、辛いと泣いた憶えは無い。

「何時も楽しそうにヘラヘラやってるお前とは違うんだよォ!」

―いや、だって毎日楽しいし。

ヘラヘラしているつもりはないが、辛い記憶と違って楽しい記憶ならばいくらでも出てくる。

アンコが居て、玉藻が居て、自来也が居て、夜空が居て、雪が居て・・・・・・。

テウチ ・ アヤメ ・ 三代目 ・ 紅 ・ イルカ ・ シカマル ・ いの ・ シノ ・ ヒナタ。

ついでにカカ死とガ逝とアス魔など、見ていて飽きない連中とも付き合いがある。(ちなみにコレは九妖としての苦い記憶に分類される)

「じゃあよぉ・・・お前は努力が無駄って断言出来る程・・・それこそ死ぬ気で足掻いた事があんのか?」

「っ!!」

不幸を不幸と捉えず、自分の力で幸せを勝ち取って来たナルトにとって、不幸な境遇に浸っているだけの人間など目障りでしかなかった。

「まぁ俺とお前のどっちが不幸かなんて比べるつもりはねぇし、比べる意味もねぇ。
 ただな・・・周りに一々愚痴るんじゃねぇ。 うざってぇんだよ・・・・・・それと同情してほしいんなら他を当たれ」

「! ・・・・・・」

何も言い返すことが出来ず黙り込むイナリ。

「ナルト!!アンタちょっと言い過ぎよ!!」

見かねたサクラがナルトを注意するが、ナルトは無言で席を外したのだった。









―その日の深夜―

小波に写った月光。

反射した優しい光が、膝を抱えたイナリを照らしている。

「ちょっと・・・良いかな?」

深夜の来客はカカシであった。

「ま!ナルトの奴も悪気があって言ったんじゃないんだ・・・アイツは不器用だからなァ」

イナリの横に腰を下ろし、独り言のように呟く。

「お父さんの話はタズナさんから聞いたよ・・・ナルトの奴も君と同じで子供の頃から父親が居ない」

脳裏に浮かぶナルトの父・・・・・・四代目火影。

里を愛し、里を守り、里の為に命と我が子を捧げた恩師。

「・・・・・・と言うより両親を知らないんだ・・・それに奴には友達の一人すら居なかった。 ホント言うと君より辛い過去を持っている」

里に疎まれ生きてきたナルトの事を思い、カカシは胸が痛くなった。

「けど! 辛いとイジケたり拗ねたりして、泣いている所は一度も見た事が無い。
 アイツは何時も・・・誰かに認めて貰いたくて、一生懸命で・・・その『夢』の為だったら何時だって命懸けなんだ・・・」

しかし、カカシが知っているのはあくまでも表向きのナルトである。

本当のナルトは自分の境遇を辛いとすら思っていないし、里の連中に認められ火影になる気も無い。

「あいつはもう泣き飽きてるんだろうなァ・・・だから強いっていう事の本当の意味を知ってる・・・。
 君の父さんの同じようにね・・・ナルトは君の気持ちを一番分かってるのかも知れないな・・・」

「え?」

そうとは知らず、カカシの言葉に真剣に耳を傾けるイナリ。

「アイツどうやら・・・君の事が放って置けないみたいだから」

「・・・・・・・・・」

ニッコリと目を細めるカカシに、イナリは複雑な表情を浮かべるのだった。









―翌日―

カカシ達はタズナ家で爆睡しているナルトをそのままに、橋を仕上げるタズナの護衛に赴いていた。

ところが、橋の上ではタズナの仲間達が倒れていた。

「どうした! 一体何があったんじゃ!」

駆け寄って抱き起こすタズナ。

「ば・・・化け物・・・」

まだ息はしているが、傷は決して浅くなかった。

―・・・・・・・・・まーさかなァ・・・。

カカシの頬を嫌な汗が伝う。

―! この霧・・・・・・。

霧と共に漂い始めた不穏な空気。

「来るぞォ!!」

逸早く気付いたカカシが叫ぶ。

サスケとサクラはタズナを守るように、背中合わせで陣形を整える。

―やっぱり生きてやがったな・・・さっそくお出ましか・・・!

カカシは片手で印を作りチャクラを練り上げる。

「ね!カカシ先生・・・これって・・・これってアイツの霧隠れの術よね!」

霧の彼方に潜んでいるであろう再不斬。

前回の恐怖が蘇ったのか、サスケの体が小刻みに震えている。

《久しぶりだな・・・カカシ。 相変わらずそんなガキを連れて・・・『また』震えているじゃないか…かわいそうに…》

何処からともなく薄ら寒い声が聞こえる。

サスケはクナイを握る手に力を込めた。

「!!」

突然現れた十数人の再不斬。

数日前のサスケならば絶望していた筈の状況下。

「武者震いだよ!!」

しかし額に汗を滲ませながらも、力強い眼差しで言ってのけた。

「やれ、サスケ♪」

そして、微笑みを浮かべたカカシが合図した。

飛び出したサスケは、再不斬達の隙間を駆け抜け、一瞬にして全員を切り刻んだ。

―・・・見える!

水飛沫が舞う中、元の立ち位置に戻る。

例え再不斬本人でないにしろ、前回成す術もなく敗れた相手に一矢報いる事が出来た。

サスケの実力は、今回の修行で飛躍的に伸びていた。

「ホ――水分身を見切ったか・・・あのガキかなり成長したな・・・」

十分に距離を開けた場所に、再不斬が堂々と姿を現す。

「ライバル出現ってとこだな・・・白」

「そうみたいですね」

その隣りに、面を被った白の姿があった。

「どうやらオレの予想・・・的中しちゃったみたいね・・・・・・」

「あ!」

サクラが白の姿に気付き、声を上げる。

「あのお面ちゃん・・・どう見たって再不残の仲間でしょ! ・・・一緒に並んじゃって・・・・・・」

「どの面下げて堂々と出て来ちゃってんのよ・・・アイツ!」

眼を吊り上げ前に踏み出そうとしたサクラ。

「アイツはオレがやる・・・」

「え?」

そこへサスケが割ってはいる。

「下手な芝居しやがって…オレはああいう『スカしたガキ』が一番嫌いだ」

自分の事を完璧に棚に上げ、キッパリと断言する。

それはもう、一分の迷いも無く。

「カッコイイ、サスケ君♪」

―サスケには突っ込まないんだよなァ・・・サクラの奴。

もしもナルトがこの場に居たら、何処からともなく取り出した鏡を無言でサスケの前に差し出していただろう。

「大した少年ですね。 いくら水分身がオリジナルの10分の1程度の力しかないにしても・・・あそこまでやるとは・・・」

緊張感の無いカカシ達と裏腹に、敵を冷静に観察していた白。

「だが先手は打った。 行け!」

「ハイ」

再不斬の命に従い、『瞬身の術』で消える。

―なに!?

脅威のスピードでサスケの眼前に現れた白。

しかも、手には千本を携え、既に攻撃の態勢が整っている。

遠心力を加えた鋭い一撃が眼前に迫り、サスケはそれをクナイで迎え撃つ。

そして2対の鋼は、甲高い音を奏で火花を散らした。









―タズナの家―

サスケが戦闘を開始している頃、取り残されたナルトは・・・・・・。

「スピー・・・・・・スピー・・・」

・・・・・・まだ寝ていた。

「・・・ああ〜、もう少しぃ・・・むにゃ・・・」

その上、他人ん家だというのにパンツ一丁で寝るマイペース振り。

ちなみに、何がもう少しなのかは本人しか分からないのだが、だらしない寝顔が全てを物語っていた。

「イナリーちょっと洗い物手伝って〜」

「う――ん! 今トイレ――」

ツナミとイナリもまた、平和な一時を過ごしていた・・・・・・。

「キャ―――ッ!!」

筈だったがしかし、それは唐突に壊される事となった。

「母ちゃん!」

悲鳴を聞きつけたイナリが慌てて台所へ駆けつけると、ガトーのボディーガードであるゾウリとワラジの姿があった。

滅茶苦茶になった部屋を見れば、自分の置かれた状況は一目で分かる。

「何だガキ!」

「出てきちゃダメ! 早く逃げなさい!」

炊事場の隅に追い詰められたツナミは、震えるイナリに向かって懸命に叫んだ。

「コイツも連れてくか?」

「人質は一人いれば良い」

―人質・・・!?

ゾウリの言葉を聞き、イナリの肩が大きく揺れた。

「じゃあ・・・・・・クク・・・殺すかァ?」

ワラジは心底嬉しそうな顔で刀を抜く。

「待ちなさい!! ・・・その子に手を出したら・・・舌を噛み切って死にます・・・人質が欲しいんでしょう?」

そう言ったツナミの目は本気だった。

もしもイナリに手を出せば、間違い無く死を選ぶだろう。

「フッ・・・母ちゃんに感謝するんだな・・・ボウズ」

「あ――あ・・・何か斬りてーなぁ・・・」

人質に死なれては元も子も無いと考え、渋々といった様子で刀を納める。

「お前、いい加減にしろ。 さっき試し切りしたばかりだろーが・・・そんな事より連れてくぞ!」

ゾウリは相棒に呆れつつ、ツナミを縄で縛り家の外へ連れて行く。

―母ちゃん・・・ごめん・・・ごめんよ・・・・・・ボクはガキで弱いから、母ちゃんは守れないよ!

イナリは床にへたり込み、己の無力さに涙した。

―それに死にたくないんだ・・・・・・ボク怖いんだ・・・。

そんな時だった。

『お前は努力が無駄って断言出来る程・・・それこそ死ぬ気で足掻いた事があんのか?』

ナルトの・・・・・・。

『アイツはもう・・・泣き飽きてるんだろうなぁ』

カカシの・・・・・・。

『本当に大切なものは・・・例え命が失うような事があったって・・・この2本の両腕で守り通すんだ!!』

そして、父カイザの声が聞こえた。

―みんなスゴイよなぁ・・・・・・カッコいいよなぁ・・・・・・みんな強いよなぁ・・・・・。

自分の両手を見つめ・・・・・・強く握り締める。

―・・・・・・ボクも・・・ボクも強くなれるかなぁ・・・父ちゃん!!

イナリは顔を上げ、涙と恐怖を振り払った。

「クク・・・アンタのそのキレーな肌見てると斬りたくなるねェ」

「ホラ、早く歩け」

ツナミは縄で縛られ、連れ去られようとしていた。

「待てェ!!」

「!」

「あん?」

「イナリ!!」

「何ださっきのガキじゃねーか」

小さな体を奮い立たせたイナリ。 それを馬鹿にした様子で振り向くゾウリとワラジ。

「(ボクだって・・・) かっ・・・! 母ちゃんから離れろ―――!!」

ツナミを助けたい一心で、台所から持ち出した包丁を投げ付ける。

しかし、所詮は子供。

飛んでいく包丁はゆっくりとしたスピードだった。

「フン!」

ワラジが刀の柄で難なく弾き、方向を変えられた包丁は家の窓ガラスを突き破った。

「うおおおおおおおお!!!」

「イナリ!」

「ったく・・・しょーがねェーガキだな!」

それでも諦めず突っ込んで来るイナリに向かって、ゆっくりと構えるワラジ。

イナリは確実に訪れる死を覚悟し、思わず目を閉じる。

だが、突然。

「「「「!!!」」」」

ドン! という爆発音が響き、タズナ家の壁に大穴が出来た。

「「「「・・・・・・・・・」」」」

必然的に集まる全員の視線。

パラパラと破片が降り注ぐ中、内側から開けた大穴を潜って寝起きのナルトが現れた。

「・・・ナルトの・・・兄ちゃん・・・?」

颯爽と現れたヒーローに、眼を白黒させるイナリ。

人の家の壁に穴を開けるという果てし無い迷惑行為をやらかし、何故か額から大量の血を流し、更にパンツ一丁で疵だらけの上半身を晒し、あまつさえ朝勃ちまでかまして仁王立ちしているという変態チックな佇まいにも拘らず、ナルトを見上げる眼差しは熱かった。

「・・・・・・・・・(うわぁ・・・)」

真っ赤になった顔を手の平で覆う未亡人ツナミ。

お約束として指の隙間からしっかり見ているのはご愛嬌。

ついでに『あの人のよりも・・・』 などと考え、旦那が死んでからご無沙汰している肢体が疼いたのも、彼女だけの秘密だ。

「良く頑張った」

ナルトは一言そう言ってイナリの頭を撫でる。

セリフだけ聞けばカッコ良かったかもしれないが、ハッキリ言って変態もいいトコである。

知らない内に三馬鹿達の仲間入りを果たしたナルトが、ユラ〜ッ・・・と2人の侍に向き直る。

「何だ。 誰かと思ったら・・・・・・タズナが雇ったダメ忍者か」

「お、おい! 頼むから止せ! ってゆーかアイツを刺激するな!!」

今にも刀を抜きそうなワラジに対し、どう見ても腰が引けているゾウリ。

アレを見たら再不斬だって引くだろう。

ワラジが平気だったのは、日頃から肌を露出しているからかもしれない。

「・・・・・・一つだけ」

「あ?」

「・・・一つだけ聞かせろ」

引き攣った笑顔を浮かべ、唸るように問い掛けるナルト。

「コレはどっちの仕業だ?」

持ち上げたナルトの右手には、血の付着した包丁が握られている。

頭に血が上った所為で、ザックリ割れた額から更にダクダクと血が流れる。

ゾウリは懸命に『オレじゃない! やったのはコイツだ!!』と首を振った。

「だ・・・大丈夫なの兄ちゃん?」

「・・・・・・ギリギリな」

イナリの問いに若干の間を空けて頷く。

「余所見してんじゃねェ!!」

それを好機と見たワラジが抜刀するが、

「てめぇごとき、余所見も糞もねぇんだよ・・・・・・ボケ!!」

ナルトは身を捻ると同時に拳打を繰り出した。

「〜〜〜!!」

鳩尾を貫かれ酸素を求め口をパクパクさせるワラジ。

たった一発の突きで勝負は決まった。

「ッ!!」

しかしナルトの怒りはまだ治まっていなかった。

「ヒッ!!」

倒れて痙攣していたワラジの顔面を情け容赦無く踏む。

「ギィ!!」

更に踏む。

「・・・!! ィグ!!」

踏む、踏む、踏む。

「・・・・・・・・・・・・」(虫の息)

顔の原型が無くなるまで踏み続けたナルト。

陥没した顔面から、グボッ! と嫌な音を立てて足を引き抜き、相方の無残な最期(まだ死んでない)に失禁しているゾウリに目を向ける。

「ひぃぃぃぃぃぃ!!!」

返り血を浴びたナルトは、それこそ般若と見紛うほど恐ろしかった。

「次はお前だ」

「た、頼む!! 見逃してくれ!! もうこの家業からも足を洗う・・・・・・だから!!」

涙と鼻水、冷や汗と小水を垂れ流しながら懇願する。

「って言ってるけど・・・・・・どうするイナリ?」

ナルトは生殺与奪の全権を当事者であるイナリに委ねた。

「・・・母ちゃんが許すっていうなら許す・・・」

母が無事ならば、もう何も望む事は無い。

「そっか」

イナリがそう言うのであれば、ツナミの判断に任せようと考える。

「んじゃツナミさん、どうしま・・・・・・・・・」

ツナミを見た途端、ナルト顔が凍り付いた。

「え・・・?」

トローンとした眼差しでナルトを見詰めるツナミ。

しかも縄で縛られている。

更に、終始ある一箇所を凝視していた為、その頬が桜色に染まっていたのだ。

ナルトの脳内で、連想ゲームみたいに誤解が膨らむ。

そして。

「死に腐れこの外道がっ!!!」

ノーモーションで繰り出した音速のローキックで、腰を抜かしたゾウリの顔面を打ち抜いた。

結局、ゾウリも相棒の後を追う事となったのだった。









「兄ちゃん、これからどうするの?」

ツナミの縄を解くイナリが尋ねる。

「そうだな・・・よっ!!」

ナルトは動かなくなった2人の侍に、念の為にと縄を打つ。

「とりあえず、おっさん達の所に行く・・・・・・ここはお前に任せときゃ安心だしな」

「え・・・?」

突然の事にキョトンとする。

「ツナミさんを助けようとしたんだろ?」

「ありがとうイナリ・・・・・・立派だったよ (・・・ナルト君のもね(はぁと))」

微笑む2人。

「に、兄ちゃん・・・母ちゃん・・・」

イナリは視界が霞んでしまう。

「くそ! もう泣かないって決めたのに・・・またナルトの兄ちゃんにバカにされちゃう・・・」

「ば〜か! 嬉しい時は泣いても良いんだぜ? ま、受け売りだけどな」

「兄ちゃん」

堪えきれず遂に号泣。

「・・・イナリ・・・」

貰い泣きしたツナミは、思わず息子を抱きしめる。

―・・・お袋か・・・。

ナルトは美しい母子の絆を、ほんの一瞬だけ羨望の交ざった眼差しで眺めた。

「さて、こいつ等が襲って来たって事は橋の方もヤベーな。 イナリ、ここは頼んだぞ!」

やがて気を取り直すと頬を張り飛ばし、タズナ達の元へ颯爽と向かった。

「兄ちゃん・・・頑張って」

「ナルト君なら、きっと大丈夫よ」

「うん! 分かってる!」

駆け出していったナルトの背中は、2人の良く知る英雄と同じものだった。

「「・・・・・・あれ?」」

しかし、徐々に遠退いて行く筈の背中が何故か逆走を始め、2人の元へ戻ってきた。

「ごめん。 服着るの忘れてた」

2人がズッコケたのは言うまでもない。







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