NARUTO
〜九妖忍法帳〜 21話目




とりあえず水分身は片付いた。

カカシ達が唖然としてるが知ったこっちゃない。

大体俺が殺ったのは水分身で、本体の一割以下の力しかねぇんだ。

そんなに驚く事無いだろ・・・・・・これ位の芸当なら旧家のガキんちょ(シカマル・シノ・いの・ヒナタ)もやってのけるぞ?

まぁそれはどーでもいいとして、うちはの次はカカシだ。

何気に物陰に潜んでる奴が居るんだが、今はカカシを助ける事に専念するか・・・・・・。

「フン・・・水分身を殺った程度でいい気になるなよ」

「あ〜はいはい・・・・・・分かってますよ。 端から本体を殺れるとは思ってねぇ」

岸に近付きながら、再不斬の嘲笑めいたセリフに答える。

「けどテメェはそっから動けねぇし、片手が塞がってんだろ・・・」

別に素で殺り合わなくても、カカシを助け出す位なら現状でもやれる。

「そんだけハンデがあんだ。 俺でも十分戦り合える」

「クク・・・・・・大層な口を利くじゃねぇか。 勝算はあるのか?」

どっからどう見ても馬鹿にしているとしか思えない顔だ。

少々ムカつくがここはぐっと我慢。

俺は頭の中で再不斬をぶっ飛ばし、左右の指を交差した。

「勿論! 【影分身の術!!】」

「ほー・・・・・・影分身か。 それもかなりの数だな・・・」

派生させた分身は20体。

「跳べ!!」

内17体を跳躍させ、クナイや手裏剣を投げ付ける。

「フン!」

再不斬は押し寄せる凶器の中からクナイを一本掴み、その一本を以って鉄の群れを叩き落していく。

それも片手だけで・・・。

―むぅ・・・・・・中々やるな・・・・・・。 視界を埋め尽くす程の量なのに。

確かな修練に裏打ちされた確かな技術。

カカシを追い詰めた戦略もかなりの物だったし、十分合格ラインは超えている。

是非とも欲しい人材だ。

《オラオラオラオラぁ!!》

「甘いぞ小僧ォ!!」

跳躍した分身達が次から次に投擲を繰り返しているが、鋼が鳴り響き火花が散り続けるだけで、一向に当たる気配はない。

それどころか、再不斬は飛んで来たクナイを正確に弾き返すことで、防御をそのまま攻撃に転じ分身の数を減らしていく。

・・・・・・・・・だがそれで良い。

この攻撃はあくまでも本命を隠す為の眼眩しに過ぎないのだ。

再不斬の注意が分身に向いている隙に、岸に残した3人の分身と再び印を組む。

【影分身の術】  【変化】

俺を入れた3人がそれぞれ1体の影分身を作り出し、後の1人は変化でクナイに化ける。

5人に増えた分身達とクナイを片手に4本ずつ、両手合わせて8本のクナイを指の谷に挟み、その中に変化した分身が紛れ込む。

「・・・・・・・・・」

《《《《《・・・・・・・・・》》》》》

俺が無言で指示を出し、残りの5人が頷き湖に向かって跳躍する。

分身を手にした俺が岸から真っ先に、少しの間を置いて他の5人が空中から、計48本のクナイを時間差で放つ。

「何度やっても同じ事だ!!」

最初に向かわせた影分身を片付けた再不斬は、第二波のクナイを見据えて腕を振るう。

「ばーか!」

「!!!」

だが俺の目論見通り、数本のクナイを弾いた所で、変化を解いたクナイが再不斬の腕を捕える事に成功。

残りのクナイを避ける手段は、水牢から腕を抜くかその場を離れるかの二択だ。

どちらを取るにしても、カカシを解放する以外道は無い。

「チィッ!!!」

《!!》

結局再不斬は水牢から腕を抜く方を選んだ。

「ウラァ!!」

そして背中の大刀を一閃。

飛来した凶器をまとめて弾き返し、空中の影分身を一蹴した。









再不斬の腕に張り付いていた影分身は、役目を終えると同時に姿を消した。

―・・・嘘でしょ!?

NO.1ルーキーのサスケですら歯が立たなかった水分身を瞬殺した身のこなし。

枷があったとはいえ再不斬本人を出し抜いた機転。

サクラは事の成り行きを、ただ呆然と見ている事しか出来なかった。

―バ・・・バカな・・・!?

ダメージの残る個所を庇うように、腹部を押さえながらナルトを凝視するサスケ。

たった今。 目の前で繰り広げられたのは、有り得ない光景だった。

―・・・アレが・・・あのナルトだと!?

イタチ以外の人間に嫉妬を抱くなど、生まれて初めての経験である。

知らず知らずの内に、心の奥底では黒い感情が胎動を始めていた。

―・・・さて、この後どうすっかなぁ・・・・・・。

ナルトはチームメイトの反応など、ぶっちゃけどーでも良かった。

―アイツめちゃめちゃ怒ってんな・・・・・・。

問題は勧誘する筈の再不斬を怒らせてしまった事。

―あ! つーか、万が一カカシに殺されたらスカウト出来ねぇじゃん!!

冷静さを欠いた状態でカカシと戦うのは拙い。

―しまったぁ〜〜〜!!!

勢いでやってしまったとはいえ、自分のした事を振り返り頭を抱えて唸り始める。

―・・・・・・しゃあねぇ・・・・・・いざとなったら戦闘に割り込んで・・・・・・。

そして何気に物騒な結論に辿り着いたのだった。

「・・・・・・・・・」

再不斬は岸で悶えるナルトを睨み、首切り包丁の柄を握り締めた。

鬼人と畏れられ、幾多の忍を震え上がらせた自分。

目の前の下忍はその自分を畏れるどころか、手玉にとって虚仮にした。

「やるじゃねぇか・・・・・・糞ガキが」

・・・・・・許せる筈がない。

気が付けば水面を爆発させ、言葉が終わるよりも先に駆け出していた。

「何処に行くつもりだ再不斬・・・・・・お前の相手はオレだ」

だが、水牢から抜け出たカカシが行く手を阻む。

「・・・ナルト・・・見事だった。 後は任せろ」

再不斬の正面に立ち背中だけで語る。

「どうも・・・(頼むから殺すなよ〜!?)」

ナルトは片手を挙げて謙遜しつつ、心の内でかなりドキドキしていた。

「チッ! ・・・大人しく待ってろ糞ガキ。 後で必ず殺してやる」

再不斬は僅かに視線をやった後、眼前に佇むカカシを見据えた。

「「・・・・・・」」

やがて水の滴る前髪の隙間から覗くカカシの写輪眼と、怒りに染め抜かれた再不斬の眼光が交差する。

「言っておくがオレに、2度同じ術は通用しない・・・さてどうする?」

「・・・フン!」

短く言葉を交わし、水面を弾いて後方へ高く跳躍する両者。

【【丑・申・卯・子・亥・酉・丑・午・酉・子・寅・戌・寅・巳・丑・未・巳・亥・未・子・壬・申・酉・辰・酉・丑・午・未・寅・巳・子・申・卯・亥・辰・未・子・丑・申・酉・壬・子・亥・酉!!】】

寸分違わぬタイミングで着水した後、寸分違わぬ速度で膨大な量の印を結ぶ。

【【水遁・水龍弾の術!!】】

となればやはり術の名も同じ。

全く同質の言霊に伴い、穏やかな水面に強大なうねりが生じた。

チャクラによって命を与えられた2頭の水龍は、互いの胴に牙を突き立て合う。

「うおお!!」

「キャ―――ッ!!」

「ぐっ!」

下手をすれば地形すら変え兼ねない衝撃の余波は、岸で傍観していたタズナ達の元にも押し寄せた。

それ程までに両者の術は凄まじかったのだ。

術者達の間に立ち昇った巨大な水柱と、豪雨の様に降り注ぐ大量の水飛沫からも、霧隠れの鬼人と写輪眼のカカシの高いレベルが伺える。

―あの量の印を数秒で・・・しかも全て完璧に真似てやがる。

サスケは新たな衝撃に備えて腰を落とし、写輪眼を使いこなすカカシを食い入るように見つめている。

―な・・・何なの? これって忍術なの!?

サクラはタズナを庇いながら、垣間見たカカシの能力に目を丸くした。

―やばいな、このままだと確実に死ぬ・・・。

自分だけ樹上という安全地帯に非難していたナルトは、再不斬の敗北を予想し顔を顰めた。

―おかしい・・・・・・どういう事だ・・・。

波の治まらぬ水上で、首切り包丁とクナイの鍔迫り合いの最中。

再不斬はひどく違和感を感じていた。

カカシが自分の動きを真似ているのであれば、その動作に僅かでも遅れが生じる筈である。

仕切り直しの為に愛刀を背に収め間合いを外すと、示し合わせたようにカカシも退く。

円を描いて移動すれば同じく移動する。

「!!!」

足を止め右手で天を指す様に印を結ぶが、やはり結果は同じ。

しかも一点の淀みも無く、まるで鏡を見ているのかと錯覚してしまう程精巧な動きだった。

―こいつ・・・オレの動きを・・・

苛立ちながら右手を下らせると、

―完全に・・・「『読み取ってやがる』」

「!!!」

今度は動きだけでなく、心の声までも言い当てられた。

―? ・・・なに!? オレの心を先読みしやがったのか?

―あっちゃ〜・・・・・・勝負あったな。

動揺を隠せない再不斬の様子に、樹上で観戦しているナルトは手で顔を覆った。

―くそ! こいつ・・・「『胸糞悪い目つきしやがって』・・・か?」

「!!!」

カカシは組み直した酉の印を正確に真似、静かな声で追い討ちを掛けた。

まるで全てを見透かすかのような写輪眼。

「フッ・・・所詮は二番せんじ・・・」

その瞳に捉えられ、再不斬は抜け出す事の出来ない深みに嵌っていく。

「「お前は、オレには勝てねェーよ・・・サルやろー!!」」

とうとう2人の声は完全に重なった。

「!!! てめーのその猿真似口・・・二度と開かねェようにしてやる!」

余程腹に据えかねたのか再不斬は、怒り一色に顔を染め上げ我武者羅に指先を動かした。

「!!!」

ところが、

―あ・・・アレは!

印が完成する間際、再不斬の手が止まった。

―オレ? ・・・そんなバカな!! 奴の幻術か!?

何故なら、カカシの背後に己の姿を垣間見たからだ。

【水遁 大瀑布の術!!】

再不斬の動きが止まった隙にカカシが術を完成させ、写輪眼の中の巴が激しく渦巻く。

「な・・・なにィ!!」

最早印を組む事すら忘れ、驚愕の声を上げる。

―バカな!! 術を掛けようとしたこのオレの方が・・・追いつけない!

湖全体が牙を剥き、恐ろしい水量が眼前に迫っている。

「グアア・・・!!」

だが再不斬は混乱した思考のまま、成す術も無く押し寄せた濁流に飲まれた。

「ぐォっ!!」

余りの急流に押し流され巨木に背を打ち付け、更にカカシの放った4本のクナイが四肢を貫く。

「終わりだ・・・」

頭上から聞こえる死の宣告。

「何故だ・・・お前には未来が見えるのか・・・!?」

「ああ・・・・・・お前は死ぬ」

ずぶ濡れになった死刑囚に冷淡な声が浴びせられた。

「・・・・・・・・・」

ちなみに、何を考えているのか、リュックから狐の面を取り出そうとしている不埒な輩が約一名。

―!! 飛針!? いや、千本か!?

「「「「「!!!」」」」」

だがその不埒者が行動に出る前に、何処からとも無く飛んで来た細長い針が再不斬の首を穿ち、上忍同士の戦いに唐突な幕が下りる事となった。

「フフ・・・本当だ、死んじゃった♪」

倒れ伏す再不斬を樹上から見下ろす、仮面を付けた人影。

長い髪を後ろに結い上げ、胸元まである前髪を左右に分けて縛っている。

背丈はサスケよりもやや高い程度、どうやらまだ少年のようだ。

再不斬程の忍を瞬殺してのけた少年の実力に、サスケ・サクラ・タズナが呆然とする。

―は・・・ははは・・・。 人材が・・・優秀な人材が・・・将来の暗部が・・・・・・。

んで、ナルトは別の意味で呆然となっていた。

精神が遥か彼方に旅立ち、完全に目が逝っている。

そんな中、カカシは木から降りると、細長い武器・・・【千本】を突き立てた再不斬の首に指を当て、念の為に脈を取った。

―・・・・・・確かに死んでるな・・・。

死亡を確認し屈んだままで樹上を見上げると、少年は丁寧に頭を下げた。

「ありがとうございました。 ボクはずっと・・・・・・確実に再不斬を殺す機会を窺っていた者です」

「確かそのお面・・・・・・お前は霧隠れの追い忍だな・・・・・・・・・」

「流石・・・・・・よく知っていらっしゃる。
 あなたの仰る通り、ボクは『抜け忍狩り』を任務とする・・・霧隠れの追い忍部隊の者です」

あっさりと質問に答え頭を上げた。

―背丈や声からして・・・まだナルト達と大して変わらないってのに・・・追い忍か・・・。
 ただのガキじゃないね・・・どーも・・・。

カカシは僅かな引っ掛かりを覚えるが、確証が持てず意味深な視線を向けただけだった。

「・・・・・・あなた方の闘いも、ひとまず此処で終わりでしょう」

そんな視線に構う事無く、再不斬の元に一瞬で移動する少年。

「ボクはこの死体を処理しなければなりません・・・何かと秘密の多い死体なので・・・」

「それじゃ失礼します」

再不斬を肩に担ぎ、軽く頭を下げて音も無く姿を消した。

「ふ―――。 さ! オレ達もタズナさんを家まで連れて行かなきゃならない。 元気良く行くぞ!」

カカシは一部始終を見届け、普段の様に額当てを戻して言った。

「ハハハッ!! 皆、超すまんかったのォ! ま! ワシの家でゆっくりしていけ!」

無事に窮地を乗り越えた事で、安堵の為か豪快に笑うタズナ。

「「「!」」」

だが、そんな矢先。

「なに!? え・・・!? どうしたの!?」

カカシの体が崩れ落ち、壊れたナルト以外の3人が駆け寄った。

―か・・・体が動か・・・ない・・・写輪眼を使いすぎたな・・・。

カカシはサクラの声を最後に、意識を手放したのだった。









―森―

カカシ達が戦闘を繰り広げた所から、それ程離れていない場所だった。

追い忍の少年が、足元に横たえた再不斬を見下ろし、懐から取り出した医療器具を広げている。

「まずは、口布を切って・・・血を吐かせてから・・・」

手順を確かめるように独語しながら手にした鋏を近づけたが、まるで生気を感じさせなかった再不斬に、伸ばした腕を掴まれた。

「・・・いい・・・自分で・・・やる゛・・・」

体を震わせつつ口元の布を引き下ろし、擦れた声が森に響く。

「なんだぁ・・・もう生き返っちゃったんですか・・・」

「ったく、手荒いな・・・・・・【白】」

再不斬は少年の名を呼び、体を起こすと首に刺さった千本に手を掛け、痛がる素振りも見せず無造作に引き抜いた。

「あ! 再不斬さんこそ、あまり手荒に抜かないで下さい。 本当に死にますよ」

「いつまでその胡散臭ぇ仮面着けてんだ! 外せ!」

忠告に不機嫌そうに顔を顰める。

「かつての名残でつい・・・」

仮面を外す白。

顕になった素顔は、女性と見紛うほどに整っていた。

「それに、猿芝居にも使えたもので・・・。 ボクが助けなかったら、あなたは確実に殺されてましたね」

ニッコリ笑ってそう言った。

白は再不斬の仲間であり、再不斬を殺しに来たのではなく助けに来たのだった。

「仮死状態にするなら、わざわざ首の秘孔を狙わなくても・・・。
 もっと安全な体のツボを狙えば良かっただろーが・・・相変わらず嫌な野郎だな・・・お前は・・・」

「そうですね!」

口から血の塊を吐き出し不満げに訴える再不斬だが、白は笑みを深めるだけでサラリと流す。

「再不斬さんのキレ―な体には、傷を付けたくなかったから・・・。
 それに筋肉の余り付いていない首の方が、確実にツボを狙えるんです。
 ・・・・・・まぁ一週間程度は痺れで動けませんが・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

嫌味をものともしない白に溜息を吐く鬼人。

「でも・・・再不斬さんなら直に動けるようになりますかね」

「・・・まったく。 お前は純粋で賢く、汚れがない・・・そういう所が気に入っている」

諦めたように口を動かし、不機嫌だった表情を緩めた。

「フフ・・・ボクはまだ子供ですから」

そして白は立ち上がる。

「いつの間にか・・・・・・霧が晴れましたね・・・。 ・・・次、大丈夫ですか?」

木々の合間から覗く海を見据え、笑みを消して問い掛けた。

「ああ。 次なら・・・写輪眼を見切れる」

再不斬は答える。

その言葉には、何の迷いも見当たらなかった。

「ええ、写輪眼もですけど・・・・・・」

「あん?」

だが白が言葉を濁す。

「あの金髪の子ですよ、ボクと同い年位の・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「どうしたんですか?」

プッ! と口元を押さえる例の金髪が頭を過ぎり、忘れかけていた怒りが沸沸と蘇って来た。

傍らに潜ませていたので、白にも会話の内容は筒抜けだっただろう。

「・・・再不斬さんがあそこまで動揺するのも珍しいですよね? そんなにショックだったんですか?」

「・・・・・・白、死にたくなければその事には触れるな・・・分かったな!?」

「はぁ・・・それは良いんですが、あんまり力むと、傷口・・・開きますよ?」

しつこい位釘を刺したが、白は首を傾げる。

「・・・それと・・・同じ布団で寝た位じゃ、子供は生まれませんよ?」

「触れるなと言ってるだろうが!! グォ!! 傷口がッ!」

若干頬を染めつつぼそっと呟かれ、頭に血が上ったのが拙かった。

首に空いた穴から血が噴出し、慌てて止血する再不斬。

「あ〜・・・だから言ったのに・・・」

白はやれやれと肩を竦め、包帯を取り出し始めた。









―タズナの家―

穏やかな海沿いに、小さな家が軒を連ねている。

その中の一軒がタズナの家だった。

「・・・やっと着いた・・・」

何とか異世界から帰還したナルトが、玄関先でダルそうに呟いた。

此処に着くまでの間、ずっとカカシを担いで歩いていたので結構疲れていた。

とりあえず先程のショックからは立ち直っているようだ。

何故ならあの後、冷静になって思い返してみたところ、再不斬が生きているという結論に辿り着いたからだ。

@追い忍を名乗った少年が使用した武器は、極めて殺傷能力の低い千本。

A再不斬の体をその場で処分せず、わざわざ持ち帰った。

B何となく怪しい。

まぁ三つ目はアレだが、ナルト本人はそれで納得している。

普通は敵が生きてたら厄介な筈だが、再び勧誘のチャンスが巡って来た事に喜びを覚えていた。

そして追い忍を名乗った少年もかなりの腕前だった。

再不斬の他に勧誘の対象が増え、発狂しそうな程嬉しいナルトであった。

「お〜い! 今帰ったぞー!!」

―ん?

廊下から聞こえてきた足音に振り向く。

「お父さん! 良かった、無事だったのね!」

タズナの姿に、顔を綻ばせる黒髪の女性。

名を【ツナミ】といい、タズナの娘である。

「勿論。 俺が護衛してる以上、『お義父さん』には指一本触れさせないから」

「は、はぁ・・・」

ナルトは背負っていたカカシをあっさり投げ捨て、右手でツナミの手を取り、左手を肩に回した。

人間には到底不可能な脊髄反射を見せられ、生返事を返すのが精一杯なツナミ。

姿を確認してから肩を抱かれるまで、0,1秒も掛らなかった。

「あ、あの・・・」

「名前? 【うずまき ナルト】です」

「いや、そうじゃなくて・・・・・・・・・・・・アレ・・・」

戸惑いながら開けっ放しのドアを指差した。

「か、カカシ先生―――!?」

「このままだと溺れるぞ!? 早く引き上げてやるんじゃ!!」

投げ捨てられたカカシが河に沈みかかり、サクラ達が慌てふためいている。

「ああ、全然大丈夫。 腐ってるけど上忍だから」

ナルトのセリフは、何の根拠もないものだった。

故意にやった訳ではないのだろうが、ちょっと位心配するべきだろう。

「・・・・・・まぁそう言う事でしたら・・・・・・立ち話も何ですから、中でお茶でもどうぞ」

ツナミは、これ程一点の曇りも無く言い切るのであれば、多分大丈夫なんだろうと判断し、ナルトを家の中へと招き入れた。









一行がタズナの家に着いてから数時間が経過。

「ええ! そんな事があったの!?」

「いやー、大変だったよホント。 お姉さんにも見せて上げたかったなぁ」

「やだねぇ♪ お姉さんだなんて〜、私今年で29だよ♪」

ナルトはツナミとすっかり打ち解けていて、あつかましくも茶など出して貰っていた。

「いやいや、まだ10代でも十分イケるって。 どう、今夜辺り俺と?」

「あはははは! Hねぇ!」

どこまで本気なのか分からないセリフだが、ツナミは『10代』 というのが嬉しかったらしい。

照れ隠しにナルトの背中を叩き、その勢いは背骨をへし折らんばかりだった。

「おい・・・あの小僧はいつもあんな感じなのか?」

久方振りに娘の笑顔を見れたのは嬉しかったが、何か嫌な予感がするタズナ。

「・・・・・・知らないわよ。 そんな事」

話を振られたサクラは、うんざりした顔で首を振った。

自己紹介の時に女好きを公言していたナルトだが、実際にナンパする所を見せたのは初めてだった。

しかし、それはサクラにとってはどーでも良い事である。

「・・・・・・・・・」

「カカシ、気が付いたのか?」

横になっていたカカシが目を開け、サスケが声を掛けた。

「カカシ先生・・・・・・具合は大丈夫?」

枕元に座り、心配そうに覗き込むサクラ。

「・・・何か寒いんだけど・・・」

写輪眼による疲労よりも、体が凍えるのが辛い。

再不斬との戦闘でずぶ濡れになった挙句、疲弊した体で海に叩き込まれたのが効いた。

まぁ後半部分は記憶にないのだが・・・・・・。

「多分風邪でも引いたんでしょ・・・。 はぁ・・・カカシ先生が動けないんじゃ、先が思いやられるわ」

『ナルトはアレだし』 と言ってチラリと視線を向け、サクラは重い溜息を吐いた。

「でも、ま! あんな強い忍者を倒したんじゃ、お陰でもう暫くは安心じゃろ!!」

「そうよね、あんなのがホイホイ出てくる理由ないもの!」

タズナとサクラが笑い合っていると、カカシは上体を起こし顎に手を当てた。

「・・・・・・・・・いや、おそらく再不斬は生きてる」

「「「!!?」」」

暫しの思考の末に、ある結論に至った。

ただナルトとの違いは、状況を事細かに分析している事。

そしてそれを周りに説明した。

「・・・・・・超考えすぎじゃないのか? 追い忍は抜け忍を狩るもんじゃろう!」

「いや・・・クサイとあたりをつけたのなら・・・出遅れる前に準備しておく。 ・・・それも忍の鉄則!
 ま! 再不斬が死んでるにせよ、生きてるにせよ。 ガトーの手下に更に強力な忍がいないとも限らん!」

体を縮こまらせ布団に包まるという何とも情けない格好だが、言っている事は正論だった。

演習と違い実際の任務では何が起こるか分からない、

故に何時如何なる時も常に、最悪の事態を想定しておかなければならないのだ。

「先生! 出遅れる前の準備って何しておくの? 先生とーぶん動けないのに・・・」

「クク・・・お前達に修行を課す!!」

具体的な内容としては、まず下忍達のレベルアップを図る事。

「えっ! 修行って・・・!! 先生!! 私達が今ちょっと修行した所でただが知れてるわよ!
 相手は写輪眼のカカシ先生が苦戦する程の忍者よ!!」

だがカカシの提案を激しく拒絶するサクラ。

―しゃーんなろ―――!! 私達を殺す気か―――っ!!

だって、まだ死にたくねーもん。

「サクラ・・・その苦戦しているオレを救ったのは誰だった? ・・・お前達は急激に成長している」

表も裏も一杯一杯のサクラに対し、カカシは頭を振った後満面の笑みを見せた。

「特にナルト!! お前が一番伸びてるよ!!」

「ナルト君、おかわりは?」

「あ、いただきます。 どうもすいませんねぇ・・・」

「・・・・・・・・・」

無視。 ・・・・・・それも完璧に。

新たに茶を勧められ、里では絶対に見せない笑顔を振りまいている。

ツナミとの話が盛り上がり、担当やチームメイトなど眼中に無いナルト。

「と・・・とは言ってもだ。 オレが回復するまでの間の修行だ・・・。
 まぁ、お前らだけじゃ勝てない相手に違いはないからな・・・」

こう言う時は話し掛けるだけ時間の無駄である。

無視された事に傷付きながらも、プライドの為か平静を装うカカシ。

「でも先生!! 再不斬が生きてるとして、いつまた襲ってくるかも知れないのに修行なんて・・・」

そして一々突っ込んでやる程親切ではないサクラ。

「その点についてだが、一旦仮死状態になった人間が・・・元通りの身体になるまでかなりの時間が掛かる事は間違いない」

「成る程な。 ・・・その間に修行するってわけか・・・・・・面白くなってきやがった」

珍しく熱いサスケ。

ナルトの実力を垣間見た所為で、少しでも早く修行したかった。

「面白くなんかないよ・・・」

だが、冷ややかな声が突き刺さった。

「!!」

「!?」

声の方向を見やると、帽子を目深に被った小さな子供が土間に立っていた。

子供は靴を脱いで家に上がると、真っ直ぐにタズナの元へ近付く。

「おおイナリ!! 何処へ行ってたんじゃ!!」

子供の名はイナリ。 正真正銘、タズナの孫である。

「お帰り・・・じいちゃん・・・」

「イナリ・・・ちゃんと挨拶しなさい! おじいちゃんを護衛してくれた忍者さん達だよ!」

「いいんじゃいいんじゃ。 なぁイナリ」

躾に厳しいツナミと、孫を甘やかすタズナ。

頭を撫でられていたイナリは、ナルト達を白い目で見渡し、指を指してポツリと言った。

「母ちゃん・・・こいつら死ぬよ・・・」

―母ちゃん!?

『こいつ』とか『死ぬよ』とか、普段であれば間違いなくぶっ飛ばしていたであろうセリフよりも、ツナミを『母』と呼んだ事に驚いた。

「ガトー達に刃向かって勝てる理由ないんだよ」

「「・・・・・・・・・」」

カカシとタズナが驚いた顔でイナリを見詰める。

「あの、『そんな事』は『どーだって良い』んだが・・・母ちゃんって・・・・・・ツナミさんの事?」

「ええ、私の息子よ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

いくら何でも既婚者に手を出すわけにはいかない。

『今日中に落としてやる』 と意気込んでいたナルトは、部屋の隅で三角座りを始めた。

「フン、バッカみたい! ・・・・・・死にたくないなら早く帰った方が良いよ・・・」

「何処へ行くんじゃイナリ?」

部屋を出て行こうとしたイナリは、タズナの声に振り返った。

「部屋で海を眺めるよ・・・」

そしてその一言を最後に襖は閉ざされた。









―?―

生い茂る木々に覆われた薄暗い森の奥深く。 再不斬の隠れ家はそこにあった。

傷付いた身体を回復させる為、再不斬がべッドで横になっている。

「・・・・・・!」

傍らの椅子に腰掛けた白が、戸の開く音に目を向けた。

「あんたまでやられて帰って来るとは・・・霧の国の忍者は余程のヘボと見える!!」

部屋に踏み入る3人の男達。

中央に立つ小柄な男が『ガトー』。

黒いスーツを着ていて、白髪頭にサングラスといういっそ清々しい位の悪役振りだ。

まぁ、この男は実際に人々を苦しめている悪人なのだが。

で、その左右を固めているのが、ガトーの専属ボディーガード。

諸肌を脱いだ眼帯の巨漢が『ワラジ』、ニット帽を被ったロン毛男が『ゾウリ』。

この2人が侍魂を持っているかは怪しいが、帯刀しているので一応侍に分類される。

「部下の尻拭いも出来んで何が鬼人じゃ・・・笑わせるな」

護衛が居る為か高圧的な態度を取るガトー。

「・・・・・・・・・」

だがあっさり無視された。

侮辱された雇い主の代わりにゾウリとワラジが前に踏み出し、刀のつばに親指を掛け抜刀の姿勢に入る。

―・・・居合か?

眉一つ動かさない白。 視線は2人の手元を追っていた。

「まぁ待て・・・・・・なぁ・・・」

ガトーは余裕たっぷりに2人を制し、ズカズカとベッドに歩み寄る。

「黙っている事はないだろ・・・何とか・・・」

尚も言葉を発しようとしない再不斬を見下ろし、その顔に手を伸ばした。

「!!」

だが次の瞬間、横合いから伸びた別の手に掴まれ、手首に強烈な痛みが走った。

「汚い手で再不斬さんに触るな」

視線を横にずらすと、鬼人の付き人が端整な顔立ちを怒りに歪めていた。

華奢な身体付きからは想像も付かない力が、肉を潰し骨を軋ませる。

「ぐっ! ・・・お前・・・!!」

痛みに耐え切れず、呻き声が口を突く。

自分の悲鳴に侍が鯉口を切り、二振りの刃が鞘を滑るのが見えた。

「「!!」」

しかし、気が付けば両断される筈だった白が二本の刀を一瞬で奪い取り、逆手に握ったそれを交差させ持ち主の首に突きつけているではないか。

―バ・・・バカな・・・。

―一瞬で・・・移動した・・・。

ゾウリとワラジは驚愕を浮かべ、刀を振り抜いた姿勢のまま硬直している。

「やめた方がいいよ・・・ボクは怒っているんだ」

―化け物かよ・・・。

冷たい怒気を発する少年に、ゾウリは生唾を飲み大量の冷汗を流した。

「次だっ・・・次失敗を繰り返せば・・・此処にお前らの居場所は無いと思え!!」

ガトーは捨て台詞を吐いて逃げて行ったが、白はどうでもよさそうに握っていた刀を投げ捨て、椅子に腰を下ろす。

「白・・・余計な事を・・・」

そして乱暴に戸が閉まった後、再不斬は漸く言葉を発した。

あの騒ぎの中眉一つ動かさず・・・・・・・・・って、元から無いのだが、まぁそれはさておき。

ガトーを殺すつもりで、密かにクナイを握っていた。

「分かっています・・・ただ、今ガトーを殺すのは尚早です。 ここで騒ぎを起こせば、また奴らに追われる事になります」

ガトーが死ぬのは構わないが、再不斬は抜け忍である。

カカシとの戦いで傷付いた今、騒ぎになって追い忍に居場所を嗅ぎ付けられるのは拙い。

「今は我慢です」

そう考えた白は笑顔で諭した。

「ああ・・・そうだな」

再不斬は短く答え、深い眠りに就いた。

来たるべき再戦に備えて・・・・・・・・・。







もどる     もくじ     すすむ

inserted by FC2 system