NARUTO
〜九妖忍法帳〜 20話目
木の幹に水平に刺さった大刀。
それを足場に1人の男が背を向けて立っている。
短く刈り込んだ黒髪、白い布で覆った口元、残忍な眼付き。
引き締まった上半身を剥き出しにしていて、真横を向いた額当てには霧の紋章が刻まれている。
「へ―――、こりゃこりゃ。 霧隠れの抜け忍、【桃地 再不斬】君じゃないですか」
黙っていても他者を威圧する佇まいだが、カカシは両手をポケットに突っ込み軽い挨拶でもするかのように語る。
―霧の忍刀七人衆の1人・・・・・・うわっ、思いっきりせっちゃんの先輩じゃねぇか。
「邪魔だ、下がってろお前ら。 こいつはさっきの奴らとは『ケタ』が違う」
何気なく一歩前に出たナルトを片手で制し、再不斬と視線を交える。
「(こいつが相手となると―――) このままじゃあ・・・ちとキツイか・・・」
表情がキリリと引き締まり、額当てに手が掛かる。
「写輪眼のカカシと見受ける・・・・・・。 悪いが・・・じじいを渡してもらおうか」
布に隠れた口元が動く。
「?」
―写輪眼だと!?
『写輪眼』。 初めて聞いた単語に疑問符を浮かべるサクラと、過敏に反応を示すサスケ。
―カカシ、油断できる相手じゃねぇぞ・・・。
敵の力量を初見で見極めたナルト。
カカシと再不斬の実力は拮抗していた。
「卍の陣だ。 ・・・タズナさんを守れ・・・。
お前達は戦いに加わるな。それが此処でのチームワークだ」
カカシもそれを理解して、部下に指示を出すと、額当てを上げた。
「再不斬・・・まずはオレと戦え」
額当ての下から、件の写輪眼が顕になる。
目元を縦に走る傷跡と、紅い瞳。
そして、瞳孔を囲う巴形の紋様が特徴的だった。
「ほー・・・噂に聞く写輪眼を早速見れるとは・・・・・・光栄だね」
自分の力量に絶対の自信を持っているのか、切り札を出されても臆さない再不斬。
「ねぇサスケ君・・・シャリンガンって・・・・・・一体何なの?」
「写輪眼・・・。
いわゆる瞳術の使い手は、全ての幻・体・忍術を瞬時に見通し、跳ね返してしまう眼力を持つと言う・・・。
写輪眼とは、その瞳術使いが特有に備え持つ瞳の種類の一つ・・・」
睨みを利かせているカカシの隣で、サスケがサクラの問いに答える。
「・・・しかし、写輪眼の持つ能力はそれだけじゃない」
「え?」
言葉が途切れ、サクラが首を傾げる。
「クク・・・御名答。 ただそれだけじゃない。 それ以上に怖いのは、その眼で相手の技を見極め、コピーしてしまう事だ」
サスケの言葉を引き継ぎ、背中を見せていた再不斬がナルト達に向き直った。
「オレ様が霧隠れの暗殺部隊にいた頃、手配帳にお前の情報が載っていたぜ。
それにはこうも記されていた・・・千以上の術をコピーした男・・・コピー忍者のカカシ」
―な・・・何なの・・・火影のじいさんにしろ、この先生にしろ・・・・・・そんなにスゴイ忍者だったの!?
自分の担当は、普段のダメ振りからは想像も出来ない修羅場を潜っていた。
サクラが目を丸くしてカカシを見上げる。
―・・・どういう事だ・・・・・・写輪眼は・・・うちは一族の中でも、一部の家系にだけ現れる特異体質だぞ。
その隣では、サスケが顔を顰めていた。
写輪眼はうちは一族特有の血継限界であり、うちはの血を持たぬ者に発現するなど有り得ない。
さらにカカシの写輪眼は片目のみ・・・・・・。 自分の知識とは明らかに異なっている。
「さてと・・・お話しはこれぐらいにしとこーぜ。 オレはそこのじじいをさっさと殺んなくちゃならねェ」
だが疑問を整理できないまま、戦いが始まろうとしている。
「!!」
再不斬から発せられた言葉に、身を竦ませたタズナ。
サスケは思考を打ち切り、ナルトとサクラ同様にタズナの護衛に就いた。
「つっても・・・カカシ! お前を倒さなきゃならねェーようだな」
言い終わると同時に木を蹴り、刺さった大刀・・・【首切り包丁】を引き抜きつつ跳躍する再不斬。
「「「!!!」」」
そして空中で姿を消した。
「あそこだ!!」
「!!」
「しかも水の上!?」
聞こえた水音に一同が振り向くと、首切り包丁を背負った再不斬が水の上に立っていた。
人差し指と中指を立てた右手を胸の前に、同じく左手の人差し指と中指を立て天を指している。
どうやら既に印は組み上がっているようだ。
―かなりのチャクラを・・・・・・練り込んでやがる!
カカシの表情が険しくなる。
「忍法・・・・・・【水遁 霧隠れの術】」
「消えた!?」
術の名と共に霧が立ち込め、再不斬は白い粒子の中へ消えた。
「まずはオレを消しに来るだろうが・・・。
奴は霧隠れの暗部で、サイレント・キリングの達人として知られた男だ。
・・・・・・気が付いたらあの世行きだった・・・なんて事になり兼ねない」
視界を奪われた所為か、カカシの額に僅かだが汗が浮かんだ。
「オレも写輪眼を全て使いこなせるわけじゃない・・・お前達も気を抜くな!」
担当の呼び掛けにサスケ達の鼓動が早くなる。
―・・・霧が濃くなってやがる・・・カカシ、マジで大丈夫かな?
ナルトは腰を落とし攻撃に備えた。
《8ヶ所》
やがて1m先の物すら見えなくなった頃、濃霧の彼方から、底冷えするような声が響いた。
「!! え? なっ・・・何なの!?」
《咽頭・脊柱・肺・肝臓・頸静脈に鎖骨下動脈・腎臓・心臓》
「!!」
「!!」
サクラとタズナの心臓が飛び跳ねた。
敵の姿が見えない為、余計に恐怖感を募らせる。
―サイレントキリングなんだから、自分で居場所バラすなよ・・・・・・減点1。
再不斬を勧誘する気なのか、採点を始めるナルト。
・・・・・・図太いというか何と言うか・・・・・・。
《・・・さて・・・どの急所がいい? クク・・・・・・》
「・・・・・・・・・」
せせら笑う再不斬の声に反応したカカシが、左眼の写輪眼のみを見開き、胸の前で印を組んだ。
「「「!!」」」
途端に空気が凍り付き、サスケ達の肌に殺気が突き刺さる。
―ス・・・スゲェ、殺気だ!
次元の違う殺気に当てられ、サスケの体から冷や汗が噴出す。
―・・・・・・眼球の動き一つでさえ気取られ、殺される。 そんな空気だ。
・・・小一時間もこんなところに居たら、気がどうにかなっちまう!
恐怖に呑まれ呼吸が荒くなり、圧し掛かる重圧に精神が擦り減っていった。
―上忍の殺意・・・。
自分の命を握られる感覚・・・。
ダメだ・・・これならいっそ死んで楽になりたいぐらいだ・・・。
磨耗した精神が導き出した答えで、手にしたクナイをより一層握り締める。
「サスケ・・・」
「!」
耳に届いた静かな声色で正気を取り戻した。
「安心しろ・・・お前達はオレが死んでも守ってやる」
笑顔で振り返ったカカシに、サクラとサスケが頬を染める。
―春野は良いが、うちは。 男同士で頬を染めるな・・・・・・気持ち悪ぃ。
約一名青ざめているが、この際無視しておく。
「オレの仲間は絶対に殺させやしなーいよ!」
カカシのセリフが終わり、サスケとサクラが恐怖の呪縛から逃れた瞬間。
《それはどうかな……?》
払った恐怖を呼び戻すような声が聞こえ、首切り包丁を逆手に構えた声の主が、ナルト達の陣形の中心に現れた。
「終わりだ」
「「「!!!」」」
全員まとめて薙ぎ払う腹積もりか、自分を軸に回転しようとしたが、割って入ったカカシに止められる。
カカシはサスケとサクラを突き飛ばし、再不斬の腹にクナイを突き立てた。
―なる程、躊躇はしねぇか。 プラス1点!
逸早く後方に飛び退いていたナルトは、再不斬の評価を一つ上げる。
「・・・・・・・・・」
カカシは突き刺したクナイに体重を掛け、根元まで押し込んでいく。
穴の空いた腹部からは、ポタポタと透明な液体が零れた。
「(水分身か) 後ろだ!!」
「!」
ナルトの叫び声に振り向くと、そこには包丁を横に構えた再不斬の姿があった。
「遅い!」
クナイを突き刺していたのは分身であり、それが水へ還った時には既に、再不斬の首切り包丁が間近に迫っていた。
「ギャーッ!!!」
サクラは、刺激の強すぎる光景に悲鳴を上げてしまった。
横一文字に振りぬかれた大刀が、カカシの上半身と下半身を胴から真っ二つに切り離したのだ。
―水分身の術!? ・・・・・・・・・!!
だが再不斬が浴びたのは生暖かい返り血ではなく、冷たい水飛沫だった。
―まさか、この霧の中で・・・・・・コピーしたってのか!?
降り掛かる水飛沫に眼を奪われた一瞬。
「動くな・・・」
「!!!」
その一瞬の隙を衝かれ、首筋にクナイをあてがわれる。
「終わりだ」
「ハハ・・・」
上忍同士の勝負に決着が付き、極度の緊張から解放されて笑顔になるサクラ。
「・・・・・・」
冷や汗を拭いつつ、ホッとするサスケ。
「「・・・・・・・・・」」
しかし、カカシとナルトは未だ警戒を解いてはいなかった。
「・・・・・・クク」
そして、再不斬は覆す事の出来ない状況で尚、余裕たっぷりの含み笑いを漏らす。
「・・・ククク・・・終わりだと?」
「!」
「・・・分かってねーな。 サルマネ如きじゃあ・・・このオレ様は倒せない・・・絶対にな!」
「・・・・・・・・・」
絶対的な自信の元に断言したその声色に、カカシの眉がピクリと動く。
「クク・・・・・・しかしやるじゃねェーか!
あの時、既に水分身の術はコピーされたって訳か・・・・・・。
分身の方に『いかにもらしい』台詞を喋らせる事で・・・オレの注意を完全にそっちに引き付け・・・。
本体は霧隠れで隠れて、オレの動きを伺ってたって寸法か・・・」
「・・・・・・」
相手を陥れる、二重三重に仕掛けられた巧妙な罠。
「けどな・・・・・・」
再不斬が賞賛の言葉を送った後、声のトーンが落ちた。
「オレもそう甘かぁねーんだよ」
背後から聞こえる声と感じる気配。
「!!!」
「そいつも偽者!!?」
またも水に還った再不斬を見てサクラが叫ぶが、それよりも早く再不斬の本体が、両手で振りかぶった大刀を横に払った。
カカシが地に這いつくばって攻撃をかわすと、非常識なサイズの大太刀が空を切った。
小回りの利かない超重武器は一撃目を外せば隙が生じる。
空振った隙に反撃に出る算段であったカカシだが、再不斬は愛刀の弱点など知り尽くしていた。
振り抜いた刃を地面に噛ませ、大刀の柄を支点に後ろ廻しを放つ。
「!!」
流れる様な一連の動作に隙は無く、しゃがみ込んだカカシの脇腹に直撃を喰らわせ、遥か遠方に吹っ飛ばす。
―今だ!
そして愛刀を引き抜くと、腰を抜かすタズナを目掛けて地を駆ける。
「!! まきびし!? ・・・・・・くだらねぇ」
だが足元に仕掛けられたまきびしに気付き前進を止められ、舌打ちをしつつ瞬身の術で姿を消した。
―あ・・・あのカカシ先生が・・・・・・蹴飛ばされた・・・・・・!?
―体術もハンパじゃねェ・・・!!
サクラとサスケの目が見開かれる。
―身体能力は再不斬が上か・・・それに意外と頭も切れる。 ・・・プラス2点。
ナルトだけが見当違いの事を考えていた。
―! ・・・な、何だこの水・・・やけに重いぞ・・・・・・
水の中に叩き込まれ、水面に顔を出したカカシは違和感を感じた。
水が全身に纏わり付き、まるで泥沼に嵌ったかのように錯覚してしまう。
「フン・・・バカが!」
そんなカカシをあざ笑うように、背後の水面に立った再不斬が印を組む。
「!」
【水遁 水牢の術!】
―!! しまった!!
チャクラを練り込んだ水を掻き集めると、球状の牢獄を作り出してカカシを捕える。
―水中に一時逃げ込んだつもりが・・・大失策だ!!
身動きの取れないカカシは、悔しげに顔を歪めた。
「ククク・・・ハマったな。
脱出不可能のスペシャル牢獄だ!! お前に動かれるとやり難いんでな」
水牢に片腕を突っ込み、再不斬が口元を吊り上げる。
「・・・さてと・・・カカシ、お前とのケリは後回しだ。 ・・・まずは、アイツらを片付けさせて貰うぜ」
カカシから視線を外し、ナルト達に狙いを定め、顔の前に2本の指をかざす。
【水分身の術!!】
―! くっ・・・ここまでの奴とは・・・!
「!」
「!」
先程の戦闘で一度還元した水が再び型を成し、岸に居たナルト達の前に立ちはだかった。
「ククッ・・・偉そーに額当てまでして忍者気取りか・・・・・・」
両腕をだらりと下げた水分身が、ゆっくりと口を開く。
―・・・俺、してねぇぞ?
ただ、ナルトは額当てをしていなかった。
ちなみにイルカに貰った額当ては、自分の部屋の引き出しに大事に仕舞ってある。
「だがな・・・本当の『忍者』ってのは、いくつのも死線を越えた者のことを言うんだよ」
まぁそれはさておき。 水分身の再不斬が印を結ぶ。
「つまり・・・。
オレ様の手配帳に載る程度になって・・・初めて忍者と呼べる。
お前らみたいなのは忍者とは呼ばねェ・・・・・・」
次第に体の色が薄れてゆき、完全に視界から消える。
―面が割れてる忍ってのもどうかと思うが・・・・・・つーか、俺狙ってるじゃん。
ガチガチに固まるサスケやサクラ達と違い、声に出さず突っ込みまくるナルト。
再不斬の位置は掴んでいるが、カカシ達の目がある為キョロキョロと周りを見渡している。
「ナルトォ!!」
最初の予想に違わず、眼前に姿を現した再不斬が蹴りを放った。
―ああ、やっぱり!
かなりの距離を派手に吹っ飛んだナルトだが、直撃の瞬間に自分から飛んで衝撃を殺していた。
「ただのガキだ」
状況はまさに絶望的だった。
再不斬に対抗できるカカシは捕えられ、残っているのは下忍3人。
如何に四代目火影の実子であろうとも、如何に【うちは一族】の末裔であろうとも、忍になって間もない少年達に、鬼人再不斬の相手は務まらない。
「くっ! お前らァ!! タズナさんを連れて早く逃げるんだ!!
コイツとやっても勝ち目はない!! オレを水牢に閉じ込めている限り、こいつはここから動けない!」
そう判断したカカシは声を荒らげる。
「水分身も本体から、ある程度離れれば使えない筈だ! とにかく今は逃げろ!!」
「「「・・・・・・・・・」」」
だが恐怖に呑まれている下忍と、一般人のタズナには届かない。
―・・・・・・何故水中で喋れる?
一応冷静なナルトは、ムクリと体を起こし、その冷静さをどーでも良い事に使っている。
「お前ら何やってる! 早く逃げろ! 俺が捕まった時点でもう白黒ついてる!
オレ達の任務はタズナさんを守ることだ!! それを忘れたのか!?」
再度指示が飛んだがやはり反応できない下忍達。
「クッ・・・クックックッ・・・・・・ほんっとに! 成長しねェな。 いつまでも忍者ゴッコかよ?」
その様子を見て、再不斬が嘲笑を響かせた。
「オレぁよ・・・お前らくらいの歳の頃にゃ、もうこの手を血で紅く染めてんだよ・・・」
―・・・すいません、僕もです。
重く圧し掛かる殺意の中、相変わらず不真面目なナルト。
「鬼人・・・再不斬!」
そしてシリアスなカカシ。
「ほう・・・少しは聞いた事があるようだな」
「その昔・・・『血霧の里』と呼ばれた霧隠れの里には、忍者になる為の最大の難関があった・・・」
「フン・・・あの卒業試験まで知ってるのか・・・」
一瞬だけ・・・ホンの一瞬だけ、再不斬の顔が忌々しげに歪んだ。
「・・・あの試験?」
「クックックッ・・・・・・生徒同士の『殺し合い』だ」
「・・・・・・・・・」
サクラが問い、どこか自嘲気味に吐き出された言葉。 カカシの顔が苦渋に満ちた。
「同じ釜の飯を食った仲間同士が、2人1組になり殺り合う・・・どちらかの生命尽きるまで・・・・・・」
吐き捨てる様に再不斬が言う。
「それまで助け合い、夢を語り合い、競い合った仲間達だ・・・」
脳裏に浮かんだ霧に覆われた紅い荒野。
累々と積み重なった屍の山・・・それは、まだあどけなさを残す少年少女の骸ばかりであった。
友の悲痛な叫び声が耳にこびり付き、刻んだ肉の感触が手に纏わり付いた。
「そんな・・・ひどい」
平和な木ノ葉で生まれ育ったサクラには、到底及びもつかない光景。
戦乱の時代に生きたカカシとしても、仲間同士で殺し合うなど考えたくもないことだ。
「十数年前・・・霧隠れの卒業試験が大変革を遂げざるをえなくなる」
しかし今はもう、その試験は存在していない。
「・・・・・・その前年、その変革のキッカケとなる悪鬼が現れたからだ・・・」
「変革・・・?」
「・・・・・・・・・」
「変革って・・・? その悪鬼が何したっていうの?」
「何の躊躇もなく・・・何のためらいもなく・・・。
まだ忍者の資格も得ていない幼い少年が・・・100人を越えるその年の受験者を喰らい尽くしたんだ・・・」
暫しの間を空けて、サクラの問いに悲痛な声で答えたカカシ。
言い終えると、鋭く細めた視線を再不斬に移した。
「楽しかったなぁ・・・・・・アレは・・・・・・」
霧隠れの試験が翌年に改革を遂げた元凶である悪鬼は、禍々しい笑みを漏らし下忍達に殺気を叩き付けた。
「!!!」
負の感情を宿す瞳に射貫かれ、恐怖の余り膝が震え出すサスケ。
ところがナルトは、
「嘘吐け」
鬼人の殺気を物ともせずに、ぬけぬけと言い放った。
「え?」
「あ?」
「へ?」
「ナルト?」
間の抜けた声を出したのは、上から順にサクラ・サスケ・タズナ・カカシである。
「無理すんなって・・・・・・お前本当は繊細で心優しい奴なんだろ?」
「・・・・・・小僧、いきなり何を言ってやがる?」
「フッ・・・例えば・・・」
カカシ達だけでなく再不斬までもが、気が触れたのではないかと心配してしまったが、ナルトはニヒルに笑う。
「お前が7歳の時・・・縁日で持ち帰ったヒヨコが、その一週間後に死んで大泣きした」
「!!」
そして再不斬本人しか知らない筈の、いや、本人ですら忘れていた筈の過去の汚点を暴露した。
「次に8歳の時・・・好きな女の子に告白したが、顔が怖いと断られた!」
「!!!!」
見る見る青褪めていく再不斬。
「まだまだあるぞ!! 11歳の時!
割と早めに下の毛が生え揃ったんで、剃ろうかどうしようか悶々と悩んでいた!!」
「!! な・・・何でそんな事まで・・・!!」
あたふたと慌てるその様は、霧隠れの鬼人と名を馳せた威厳ゼロであった。
「これで止めだ!! 14歳になるまで、男と女が同じ布団に寝たら子供が出来ると思ってた!!!」
「ち、違う!! それは13の時までだ!!」
思わず弁明してしまうが、それは前に挙げられた事柄の肯定に他ならなかった。
「・・・キモッ!」
「「・・・・・・」」
思わず顔を顰めて身震いするサクラ、可哀相な人を見るような目を向けるサスケとタズナ。
「再不斬・・・・・・お前・・・」
止めとばかりにカカシの冷ややかな視線が突き刺さる。
「・・・・・・出鱈目だ」
「何で目を逸らす?」
再不斬の本体は否定するが、首筋を伝う冷や汗の所為で説得力に欠ける。
「小僧・・・一応聞かせてもらうが・・・・・・その出鱈目な話は誰に聞いた・・・?」
出来れば本体自ら切り刻んでやりたいのだが、カカシを捕えていなければならないので動けない。
したがって、本体の怒りをそのまま引き継いだ水分身が、肩を小刻みに揺らしながら恨めし気な声を発する。
「アンタの後輩だよ。 そりゃ〜もの凄い笑顔で教えてくれたぞ?」
笑いを堪えながら答えるナルトに、今までにない程の殺意を覚える。
同時に情報源である後輩とやらにも。
―後輩・・・・・・。 ・・・まさか、睦月の奴か?
自分の秘密を知っていそうな者が約一名脳裏を過ぎったが、該当する鬼○郎カットの女とは余りにもキャラが違いすぎる。
かつて【霧の紅姫】という通り名で各国に名を馳せ、特別上忍でありながら霧の忍刀七人衆に比肩した霧隠れ史上最強の呼び声高いくノ一。
人との馴れ合いを好まない性格で、自分とは妙に馬が合った女だった。
ただその女は数年前に死んだ筈だし、冷酷な微笑を漏らす事はあっても、ナルトが言うように『もの凄い笑顔』をした所など見た記憶がない。
―あ、そっか! せっちゃんが死んだと思ってんだコイツ・・・。
だが、再不斬が知らないだけで、その女・・・・・・【睦月 雪】は生きている。
ついでに性格も随分と変わっていて、再不斬が知る雪像とは似ても似付かなくなっていた。
その上うずまき家の中だけとはいえ、再不斬の秘密を暴露しまくっているのであった。
「まぁあれだ・・・・・・気を落とすな。 この事は俺の胸の中にそっと仕舞っといてやるから」
そして散々暴露しまくったナルトは、何事もなかったかの様にヒラヒラ手を振る。
「・・・・・・・・・殺す」
無論ただで済ます程再不斬が温厚な筈もなく、言葉が終わると同時に強烈な殺気を放ち、水分身の姿が掻き消えた。
「!!!」
10m以上の間合いを一瞬で詰め、繰り出した肘で腹部を抉る。
さらに両足が地から離れた所で、肘から先を伸ばして追撃の裏拳を叩き込んだ。
しかも地面を背にしている為、衝撃の逃げ場は何処にもない。
「ガハッ!!」
高速の二連撃をまともに喰らい、内臓へのダメージで吐血。
「サスケ君っ!!」
「サスケ!!」
一言付け加えるならば、サクラとカカシの叫びでも分かるように、的にされたのは何故かサスケだった。
―もしかして俺の所為なの?
もしかしなくてもアンタの所為です。
「・・・・・・このガキを始末したら次はお前の番だ」
サスケを足蹴にした再不斬は、手加減なしの殺気をナルトに浴びせる。
―・・・このままほっといたら間違いなく殺されるな・・・うちはの奴。
ナルトは踏み付けられるサスケを気の毒そうに見やり、
「ハァ・・・」
溜息を吐いて歩き出した。
「・・・!」
「お、おい小僧!?」
「ナルト!! 何考えてんのよ!?」
カカシ、タズナ、サクラが戸惑うが、お構い無しにズンズン歩く。
「フン・・・バカが」
真っ直ぐ近付いてくるナルトの顔に、サスケを踏み付けていた水分身が蹴りを繰り出す。
「ッシャアァッ!!」
「!!!」
が、ナルトは飛んで来た蹴り脚に、これ以上無いタイミングで肘を合わせた。
肘と向う脛、衝突すればどちらが砕けるのか? それは比を見るよりも明らかである。
「お疲れ」
衝突の結果、水分身が動きを止めた刹那だった。
背後に回り込んだナルトの、右足のホルスターから引き抜かれた鋼が首を掻っ切る。
そして再不斬を模した水は、あるべき姿へと還っていった。