NARUTO
〜九妖忍法帳〜 19話目




―受付―

ナルト達第7班は本日の任務を済ませ、その報告に来ていた。

「・・・さて、カカシ隊第7「断る」・・・・・・最後まで言わせい!」

火影のジィさまが次なる任務を言い渡そうとしたが、ナルトは即答した。

「最近任務がショボイんだよ。 もっとおもしれぇのやらして」

片耳をほじりながらしれっと言う。

―・・・・・・一理ある。

―もー、めんどい奴。

「はははは、先生もそう思うぞ〜♪」

誰一人として三代目に同情する者は居ない。

サスケとサクラはともかく、せめてカカシ位はナルトを嗜めるべきだ。

「バカヤロー!! お前はまだペーペーの新米だろーが!
 誰でも初めは簡単な任務から、場数を踏んで繰り上がって行くんだ!」

人格の破綻したカカシの代わりに、血管を浮かせたイルカが席を立つ。

が、それはあくまでも演技。

(お前が駄々こねるのも珍しいな。 何かあったのか?)

ナルトの言動に疑問を抱き、アイコンタクトを図る。

(・・・最近ご無沙汰なんだよ・・・)

(はぁ? ご無沙汰って、アンコさんと玉藻さんがいるだろ・・・・・・ケンカでもしたのか?)

(いや・・・仲良くはしてるんだけど、最近ヤラしてくんないんだ・・・)

(・・・・・・里の外でナンパするつもりか・・・)

(ピンポ〜ン♪)

中々ろくでもない理由であった。

「もう下忍になって半年も経ってんだし、そろそろ良いだろ?」

ナルトが一応三代目にお伺いを立てる。

「ナルト! お前には任務がどーいうものか説明しておく必要があるな・・・・・・」

三代目はキセルをふかしつつ言った。

「いいか! 里には、毎日多くの依頼が舞い込んでくる」

長い長い説明が始まる。

依頼の種類や、能力別に任務が振り分けられるシステムについて、順を追って話した。

しかし一々言わなくてもナルトは分かっている。

三代目は『ダメだ』と遠回しに言っているのだ。

何故ならナルトは里の稼ぎ頭である。

暗部としての任務なら致し方ないが、高々下忍の任務で里を空けられたのでは堪ったものではない。

それにナルトが留守となれば、暗部九班の面々に任務を言い渡せなくなる。

だから絶対に里の中に繋ぎ止めておきたかった。

「・・・お前らはまだ下忍になったばかり。 Dランクがせいぜい良いとこじゃ」

三代目はDランク任務が綴られた巻物を掲げ、ナルトの訴えを退けた。

「う〜ん、イチャパラってリアリティに欠けるんだよな」

「分かってないな〜、事実は小説より奇なりって言うでしょ?」

だがまったく無視のナルト。 ・・・・・・ついでにカカシも。

「聞けェェェイ!!!」

あまりにもふてぶてしい態度に三代目がキレた。

「ウスラトンカチ共が・・・」

サスケが呆れる。

「火影様・・・どーもすみません」

何故かサクラが謝る。

「いいじゃないですかちょっと位」

「そうそう、あんま怒鳴ると寿命が縮むんじゃねぇか?」

そして反省のない年長者達。

「・・・・・・もういい。 好きにせい」

三代目は、もう何かどーでも良くなってきた。

「イルカよ、テキトーにCランクの任務でもくれてやれ」

「火影様? どちらへ?」

「帰って寝る。 今日は疲れた・・・」

そう言い残し、心底疲れた顔で席を立ったのだった。









―木ノ葉の里・正面入り口―

「静かな湖畔の森の影から イルカとアヤメの声がする〜♪
 アハンッ♪ イヤンッ♪ 膣内はダメ〜〜〜♪」

事実半分フィクション半分。

やや人聞きの悪い歌が、青く澄んだ空へと吸い込まれていった。

「ぉおお!! ナルト、中々良い声だね〜!」

誉めてどうする。

「ははは、まぁねぇ」

お前も照れるな。

「じゃあ今度は先生の喉を聞かせてやるぞ〜!
 ピンクロータ ピンクロータ こ〜ん〜や〜はッ♪
 ピンクロータ ピンクロータ あ〜さ〜ま〜でッ♪」

張り合って歌うな。

集合した門前でハイテンションに歌い続ける2人を見て、2人のチームメイトと1人の依頼人は思った。

「「「・・・・・・・・・」」」

しかしナルトとカカシはボルテージを上げ続け、連れが引いているのも気にしない。

カカシはともかく、ナルトがここまではっちゃけてるのも珍しい。

久方振りに禁欲から解放されるのが、心の底から嬉しいらしい。

「・・・おい。 本当にこんな奴らで大丈夫なのかよォ」

編笠を被ったガッチリとした体格の男。 依頼人であるタズナは、心の底から不安になった。

彼は波の国で橋の建設を生業としている、自称・『橋作りの超名人』である。

第7班に与えられた任務は、彼が橋を作る間の身辺警護。

だがタズナとしては、こんな奴らに身の安全を任せる気にはなれなかった。

「・・・・・・心配なのは分かる」

「まぁ先生はあんなのでも一応上忍だし、ナルトだってやる時はやる奴だから・・・・・・大丈夫よおじさん」

「だと良いんだが・・・」

「期待しても大丈夫よ・・・・・・多分」

「ああ、多分な」

「・・・・・・・・・」

・・・多分では困る・・・。 出来れば断言してもらいたい。

だがアレとアレには期待出来そうにない。

せめてサスケとサクラが使える奴である事を、心から願うタズナであった。









―道中―

「「じゃんけんポン!」」

暫くの間交互で歌っていたがそれも飽きたらしく、別の遊びを始め独自の世界に入ったナルトとカカシ。

「おし! 俺の勝ちだ! ち・よ・つ・と・だ・け・よ!」

チョキを出したナルトが大股で7歩進み、カカシの隣に並んだ。

「「じゃんけんポン!」」

そして再び交差する手。 今度もナルトが勝った。

「パ・ン・テ・イ・ス・ト・ッ・キ・ン・グ!」

笑顔で10歩進んだナルトと、本気で悔しがっているカカシ。

普通パーは『パイナップル』だろう・・・・・・。

まるで性に目覚め始めた中学一年生チックな低レベルさだ。

「ねえ、タズナさん」

このままでは里の信用に関ってくる。

てゆーか、この腐った空気を何とかしたい。

サクラが意を決して話し掛けた。

「何だ?」

『この馬鹿共をどうにかしてくれ』 と、思っていたタズナの意識を引き付ける事に成功。

「タズナさんの国って『波の国』でしょ?」

「それがどうした?」

「ねえ、カカシ先生・・・・・・その国にも忍者っているの?」

そして、殴りたいのをグッと我慢してカカシに声を掛けた。

「あ、いや、波の国に忍者はいない。
 ・・・が、大抵の他の国には、文化や風習こそ違うが隠れ里が存在し、忍者がいる」

「・・・・・・何気に木ノ葉ってデカイんだよな」

2人はじゃんけんを止めた。

「ナルト、ちょっとこっち持って」

「ん」

リュックから取り出した【『忍び五大国』の巻】 と書かれた巻物の端をナルトに持たせる。

「大陸にある沢山の国々にとって、忍の里の存在は国の軍事力に当たる。
 つまりそれで、隣接する他国との関係を保っているわけ!
 ま! かと言って里は国の支配下にあるもんじゃなくて、あくまで立場は対等だけどな。
 それぞれの忍の里の中でも特に、木ノ葉・霧・雲・砂・岩の五ヶ国は国土も大きく力も絶大な為。
 『忍び五大国』と呼ばれている。
 ―――で里の長が『影』の名を語れるのも、この五ヶ国だけで・・・・・・。
 その火影・水影・雷影・風影・土影のいわゆる『五影』は、全世界各国何万の忍者の頂点に君臨する忍者達だ」

広げた巻物を指差しながら、分かり易く説明していった。

「へー火影様ってすごいんだぁ! (あのショボイジジィがそんなにスゴイのかなぁ・・・なんかウソ臭いわね!)」

いかにも感動しましたとイイ子ぶるサクラ。

「昔の話だろ? 今はただのスケベ爺だし」

対するナルトは、思った事をストレートに口にした。

「ナルト、ホントの事言ったら火影様がカワイソウでしょ?」

カカシも否定はしなかった。

「ま・・・・・・安心しろ。Cランクの任務で忍者対決なんてしやしないよ」

「じゃあ、外国の忍者と接触する心配はないんだァ・・・・・・」

「もちろんだよ、アハハハ!」

サクラを安心させる為にニッコリ笑うと、桃色の頭に手を乗せた。

「・・・・・・・・・!」

「・・・・・・・・・」

その横ではタズナは顔を俯かせていたが、サスケ以外は誰も気が付かなかった。









7班とタズナは、街道を歩き順調に旅を続けていた。

するとナルト達の前方に水溜りが一つ。

―気付いちゃいるようだな・・・まぁいいか・・・。

ナルトは一瞬だけカカシに視線を流し、そのまま歩き続ける。

後方を歩いていたカカシは足元の水溜りに視線をやったが、足を止める事なく通過する。

だがカカシが背を見せた途端、水溜りから黒装束の2人組が姿を現した。

片方は一角、もう片方は双角、角を模した額当てをしている。

双角の忍が音も無く跳躍し、無骨な手甲に仕込んだ刃の鎖を振るった。

「!!」

絡み付く鎖は肉を抉りながらカカシを拘束してゆく。

「なに!?」

鎖の両端は2人組の手甲に繋がっていて、それが力一杯左右に引かれればどうなるか、誰の目から見ても明らかだった。

「え!!?」

「!」

「一匹目」

2人組みは驚愕の声を聞きながら、躊躇する事無く鎖を引いた。

「「「!!!」」」

ナルト以外の誰もが、その光景に目を奪われ息を呑んだ。

「キャ―――!!」

予想に違う事なくカカシがぶつ切りにされ、ボトボトと重量感のある音と紅い雨が場を支配する。

―こいつら確か・・・・・・鬼兄弟だったかな。

唯一ナルトだけは、冷静に相手を観察していた。

―実力足んねぇし性格も悪そうだし、別にスカウトしなくてもいっか・・・。

いや観察というか品定めだった。

将来自分の里を支えてくれそうな人材ならば、ぶちのめした後に誘拐するのだが、その選定基準は限りなく高かった。

―しかも野郎かよ。 あ〜、つまんねぇなぁ・・・もしも美人のくノ一だったら・・・・・・。

ナルトは既に鬼兄弟に興味を無くしたらしく、戦闘中であるにも拘らず妄想に弄り始めた。









―ナルトの脳内―

『くっ、放せ!!』

戦闘終了後、縛り上げた敵くノ一が、忌々しげに自分を見上げている。

『フッ、相手が悪かったな』

『何故殺さない! 一体何が目的だ!?』

『目的? そんなものは決まってるだろ?』

女の体を見下ろして、ぺロリと舌を出す。

『お前の肢体だよ』

『あ!? や、やめろ!』

『何だはじめてか・・・じゃあ少しは優しくしてやるよ』

『いやぁぁあぁあああ!!』

ビリビリと服を破き、泣き叫ぶ女を獣の様に貪る。









―現実―

人の道を外れに外れた思考も、実行に移さねば犯罪にはならない。

「「二匹・・・め!!?」」

しかし顔とチャクラに映しているのがよろしくなかった。

棒立ちになったナルトの背後を取った鬼兄弟は、感じた事のない恐怖に思わず後ずさった。

「あ、兄者・・・!」

噴出した膨大且つどピンクのチャクラにガタガタと怯え、兄に助けを求める乱暴者の弟【冥頭】。

「こ、こんなガキ1人に、何を怯んでいる!?」

弟を叱責しつつ、にやけ顔のナルトにブルブルと怯える冷酷な兄【業頭】。

「と、とりあえず、コイツから殺るぞ!?」

「わ、分かった!!」

大声を出して恐怖を振り払い、カカシの時と同様に鎖を振るう。

「無駄無駄、泣いても叫んでも、誰も助けに来ねぇよ」

「「な、何ィッ!!?」」

だが、ピンクのチャクラに阻まれて体まで届かなかった。

ナルトは無意識に放出したチャクラだけで、物理攻撃を完封していた。

「「!!!」」

鬼兄弟は無理やり力を入れようとしたが、今度は別の邪魔が入った。

―しまった!!

ナルトに気を取られ周囲への警戒を疎かにした結果、空中から放たれたサスケの手裏剣を察知できなかったのだ。

鬼兄弟の武器は手裏剣で木の幹に縫い付けられ、更にその手裏剣の穴にクナイを命中させられる。

―クッ!!

クナイという楔を打ち込まれ、鬼兄弟の鎖は完全に封じられた。

―外れぬ・・・!

業頭が忌々しげにサスケを睨むが、心の隅ではホッとしている。

わけのわかんねぇ不気味さを持つナルトよりは、至って真面目なサスケの相手をする方が楽なのだ。

「「グッ!」」

そんな事とは露知らず、鬼兄弟の手甲に着地し、水平に浮きながら2人を蹴り飛ばすサスケ。

瞬時に手首を回転させ、鎖を手甲から引き千切る鬼兄弟。

「ほらほら・・・ココが良いんだろ?」

ただ、ブツブツと呟きうっとりしているナルトが、緊張感溢れる戦闘を全て台無しにしている。

とりあえずナルトは怖いので標的から外す事にしたらしく、鬼兄弟は左右に別れタズナに向かって地を駆ける。

「!!」

―く、来るっ!! 私がやらなきゃ…やらなきゃ!!

クナイを構え、タズナを庇って前に出るサクラ。

「おじさん! 下がってェ!!」

「!!」

叫び声に反応したサスケは眉一つ動かさず、突き出された爪の前に踊り出る。

「ぐォ!!」

鬼兄弟の喉元に、狙い済ました腕刀がカウンターで繰り出された。

「「「!!」」」

それはサスケではなく、切り刻まれて死んだ筈のカカシであった。

死んだと思った場所を見れば、無数の丸太が転がっている。

そう、カカシは変わり身を使っていたのだ。

―カカシ先生・・・! 生きてたァ!?

安心と歓喜、その2つが入り混じった表情で、鬼兄弟を締め上げるカカシを見つめるサクラ。

―フン・・・でしゃばりが・・・。

美味しい所を持って行かれ不満気なサスケ。

―ほっ・・・・・・どうにか助かったわい。

安堵の息を吐き、冷や汗を拭うタズナ。

「ナルト・・・すぐに助けてやれなくて悪かったな。 ケガさしちまった。
 ・・・・・・お前がここまで動けないとは思ってなかったからな」

カカシの表情には落胆の色が含まれていた。

サバイバル演習であれだけの動きを見せたナルトが、何も出来ずただ突っ立っていた。

「とりあえずサスケ、よくやった。 サクラもな・・・」

カカシはナルトから視線を外し、サスケとサクラの労を労った。

「よォ・・・ケガはねーかよ、ビビリ君」

服に汚れ一つ付けず敵を圧倒したサスケは、優越感に浸りながらナルトを見据えた。

実はサバイバル演習の時から、こういう雪辱の機会を待ち望んでいたのだった。

「フフフ。 そんなに慌てなくても、ちゃんとしてやるよ」

ところがナルトは、脳内で調教を終えたくノ一と戯れ、視線すら向けようとしない。

「・・・・・・・・・!」

歯牙にも掛けて貰えず、サスケの額に血管が浮いた。

「ナルト! ケンカは後だ」

2人が揉める前に先手を打ったカカシだが、止める相手を間違えていた。

カカシ・サスケ・サクラ・タズナ・・・・・・。

結局この場に居る誰もがナルトが怯えていたと思い、この場に居る誰1人として、ナルトの実力に気付く事はなかった。









「ぐあっ! 目が〜〜!!」

「ちょ、ちょっと待て!! 煙っ!!! 止めろ!!」

鬼兄弟は縛られて木に吊るされた上に、下から火を焚かれて燻製にされていた。

「ああん!? 人様にケンカ売っといてその口の利き方は何だ!?」

ナルトはクワガタでも落とす様に、げしげしと木を蹴る。

「いだ、いだだだだだ!!!」

「わ、分かった、悪かった!! だから木を揺らすな!!」

振動で縄が食い込む。

ちなみに縛って吊るしたのはナルト、面白がって火を焚いたのはカカシだった。

「・・・・・・ねぇ、縛り方がマニアックじゃない?」

「随分と器用だね〜」

「「・・・・・・」」

サクラの尤もな疑問にズレた感想を述べるカカシ。

何故こんな縛り方をするのか理解できず、眉を寄せるサスケとタズナ。

「他にも何種類か覚えてるぞ?
 こいつらがキレイな姉ちゃんだったら見せてやるんだが、むさ苦しい男だしな」

対忍者用に改良した脱出不可能の亀甲縛りは確かに凄いが、使用する相手が男なのが残念だ。

「先生は雪さんを縛ってみたいなぁ♪」

「まぁせっちゃんならそれなりに楽しめそうだしね。
 それに比べてお前らは・・・・・・っとに、本当に使えねぇ奴らだな」

「「「・・・・・・・・・」」」

そこまでみそくそに言わなくても良いだろう。

サスケ・サクラ・タズナの3人は、悔し涙を流す鬼兄弟に同情してしまった。

「ま、冗談はさておき・・・・・・こいつら霧隠れの中忍ってとこか・・・・・・」

急に真面目な顔になるカカシ。

「こいつらは如何なる犠牲を払っても戦い続ける事で知られる忍だ」

「・・・何故、我々の動きを見切れた」

「おい、口の利き方に気を付けろっつってんだろ?」

片手をポケットに入れたまま、片足を上げるナルト。

罪人に対する情けなど、ミジンコの爪垢程も持ち合わせていない。

「な、何故我々の動きを見切れたか、どうしても知りたいです。 もしよろしければ教えて戴けないでしょうか?」

このガキはやると言ったら必ずやる。

僅かな時間で【うずまき ナルト】 の本質を見抜いた賢い鬼兄弟。

吊るされてるので居る位置は高いが、物腰は限りなく低かった。

「数日雨も降っていない今日みたいな晴れの日に、水溜りなんてないでしょ」

鬼兄弟を枝で突付きながら、カカシは子供の様にニコニコと笑う。

「あんた、それ知ってて何でガキにやらせた?」

「私がその気になれば、こいつらくらい瞬殺できます。
 ・・・が・・・私には知る必要があったのですよ・・・」

枝を捨て今度こそ真面目な顔になる。

「・・・この敵のターゲットが誰であるかを・・・」

「? ・・・どういう事だ?」

「つまり、狙われているのはアナタなのか? 
 ・・・それとも我々忍の内の誰かなのか・・・という事です。
 我々はアナタが忍に狙われてるなんて話は聞いてない」

「・・・・・・・・・」

タズナは一筋の汗を流した。

「依頼内容はギャングや盗賊など。
 ただの武装集団からの護衛だった筈・・・これだとBランク以上の任務だ・・・。
 依頼は橋を作るまでの支援護衛という名目だった筈です」

「・・・・・・」

カカシの一語一句に表情を曇らせていく。

「敵が忍者であるならば、迷わず高額な『Bランク』任務に設定されてた筈・・・。
 何か訳ありのようですが、依頼でウソをつかれると困ります。 これだと我々の任務外って事になりますね」

「この任務、まだ私達には早いわ・・・やめましょ!」

―何をほざいとるんだこの小娘は?

引き攣った顔でお伺いを立てる腰の引けたサクラを、心底白けた眼で見るナルト。

『任務に危険が伴うのは当り前の事だろう』 そう内心呟いた。

下忍となってからの半年の間に、サクラに対する見識は前よりもマシになった。

だがそれはマシになったというだけで、サクラのこういうところは相変わらず嫌いだった。

「ん―――――・・・・・・こりゃ荷が重いな!」

―おいおいおいおい!?

退けられると思っていた意見にカカシが肯き、焦り始めたナルトが食って掛かる。

「ちょっと待て! 何も途中で投げ出す事ねぇだろ!?」

「お前もさっきは動けなかっただろ・・・サクラの言う通り、お前らにはまだ早い!」

「あ、あれはちょっと呆けてただけだ! 次はちゃんとやってみせる!!!」

「口では何とでも言えるが、いざと言う時行動出来なければ意味が無い。
 この任務には人の命がかかってるんだ・・・・・・生半可な覚悟じゃ引き受けられないよ」

冗談など一切混ぜる事無く、キッパリ告げられた言葉に眼光を細めた。

「・・・・・・覚悟を見せりゃ良いんだな・・・」

ホルスターからクナイを取り出し、空高く掲げる。

「・・・・・・ナルト?」

逆手に握られたクナイを見つめ、カカシが呟いた次の瞬間。


「い・・・・・・・・・いって――――――ッッ!!!」


「「「!!!」」」

黒光りする鉄が、左手を紅く染めた。

「ナルトなにやってんのよ! アンタ!!」

サクラは慌てて駆け寄る。

「これで文句ねぇだろ・・・・・・おっさんは守る。 任務続行だ!!!」

そして周囲が驚愕の表情を浮かべる中、ナルトはクナイを引き抜き言った。

―すいません、確かに油断しすぎました! もう2度、戦闘中にバーチャルには入りません!!
 万が一入ったとしても、もう少し可愛気のある内容にします。 この・・・・・・左手の痛みに誓います!!

頼もしさを感じさせる不適な笑みだが、声出したら全てが台無しになってしまう事を考えていた。









―波の国・国境付近―

深い霧に覆われた運河を渡る一艘の小船があった。

「すごい霧ね、前が見えない!」

「そろそろ橋が見える・・・・・・その橋沿いに行くと、波の国がある」

タズナの友人である船頭が、緊張した面持ちで舵を取っている。

ゆっくりとしたスピードで水を掻き分けて進んで行くと、霧の中から大きな橋が姿を現した。

ただし大きいといってもまだ未完成。

途中で途切れていて、橋の断面から鉄骨が剥き出しになっている。

「ッキシッ!!」

「コ・・・コラ! 静かにしてくれ!
 この霧に隠れて船出してんだ。エンジン切って手漕ぎでな・・・・・・。 ガトーに会ったら大変な事になる」

「・・・すんません・・・」

大して大きくもない物音に怯えを隠せない船頭に、ナルトは素直に頭を下げる。

里外の人間には礼儀正しく接するらしい。

「・・・・・・・・・」

カカシはその様子をぼんやりと流し見て、数時間前の事を思い出していた。









―数時間前・道中にて―

「先生さんよ。 ちょっと話したい事がある・・・依頼の内容についてじゃ・・・」

ナルトの手当てをしていたカカシに、緊張を孕んだ面持ちのタズナが語り掛けた。

「あんたの言う通り、おそらくこの仕事はあんたらの『任務外』じゃろう…実は、わしは超恐ろしい男に命を狙われている」

「超恐ろしい男?」

「・・・・・・・・・」

復唱したカカシにこくりと肯く。

「誰です?」

「あんたらも名前ぐらい聞いた事があるじゃろう。 海運会社の大富豪・・・・・・『ガトー』と言う男だ!」

溜息を漏らし、語気を強める。

「え・・・!? ガトーって・・・・・・あの『ガトーカンパニー』の? 世界有数の大金持ちと言われる・・・!!?」

「そう・・・表向きは海運会社として活動しとるが・・・裏ではギャングや忍を使い麻薬や禁制品の密売・・・
 果ては企業や国の乗っ取りといった・・・悪どい商売を生業としておる男じゃ・・・」

ふつふつと湧き上がる怒りに震えながら、声に憎しみを乗せる。

「1年ほど前じゃ・・・そんな奴が波の国に目をつけたのは・・・。
 財力と暴力をタテに入り込んできた奴は、あっという間に島の全ての海上交通・運搬を牛耳ってしまったのじゃ!」

島民達の抵抗も虚しく、波の国はガトーの支配下に置かれた。

「島国国家の要である交通を『独占』し、いまや富の全てを『独占』するガトー・・・・・・。
 そんなガトーが唯一恐れているのが、かねてから建設中の・・・『あの橋』の完成なのじゃ!」

だが、まだ希望を捨てた訳ではない。

タズナは僅かな望みに命を掛けて、諦める事なく抵抗を続けている。

「なるほど・・・で! 橋を作ってるオジサンが・・・邪魔になったって訳ね・・・」

「じゃあ・・・あの忍者達はガトーの手の者・・・・・・・・・」

答えを導き出すサクラとサスケ、これで敵の素性は割れた。

―中々胆の据わったおっさんだな・・・・・・俺の里に橋作る時は、このおっさんに頼んでみよう。

ナルトはタズナに好感を抱いた。

人にはそれぞれの戦い方がある。

重要なのは相手に向かって行く勇気であり、自分が傷付く事を恐れない覚悟だ。

それがナルトの意見である。

「しかし分かりませんね・・・相手は忍すら使う危険な相手・・・何故それを隠して依頼されたのですか?」

「波の国は超貧しい国で大名すら、金を持ってない・・・。
 そんな高額なBランク以上の依頼をするような・・・まあ・・・お前らがこの任務を止めれば、ワシは確実に殺されるじゃろう」

カカシが確信に触れると、タズナが辛そうに顔を俯かせた。

「・・・が・・・」

すぐに顔を上げた。

「なーにっ! お前らが気にする事はない! ワシが死んでも10歳になる可愛い孫が一日中泣くだけじゃ!」

―・・・・・・肝が据わってんだか、図太いんだか・・・・・・。

開き直った様に、人の良心にチクチクと針を突き刺していく。

「あっ! それとワシの娘も木ノ葉の忍者を一生恨んで、寂しく生きて行くだけじゃ!」

『10歳になる孫』とか、『娘』とか思いつく限りの言葉で一気に畳み掛ける。

「いや何っ! 決してお前達のせいじゃないわい!!」

そして止めとばかりに『せい』の部分を強調し、爽やかな笑顔で締め括った。

タズナの言葉を解釈すれば、10人中10人がこう答えるだろう。

『お前らはいたいけな子供を泣かせる鬼畜なのか? 健気な娘に涙の海で溺れろと言うのか?
 さぁどうする? これを聞いて断るのなら、お前達は鬼だ! 悪魔だ!! 魑魅魍魎の類だ!!』

セリフに含まれたあからさまな副声音を聞き取った7班の背後には、もう春だというのに冷たい木枯らしが吹き荒れていた。

「そうですか、じゃあ我々はこの辺で失礼します。 道中お気を付けて」

だがカカシは片手を上げてペコリと頭を下げると、当然のように立ち去ろうとした。

『人の命がかかってる』との言葉は何だったのだろうか?

「!!! ・・・鬼じゃ・・・お前さんは鬼じゃ〜〜〜!!」

考える素振りも見せなかったカカシに、超崩れ落ちるタズナ。

「ちょ、ちょっとカカシ先生!?」

「・・・カカシ、お前・・・」

サスケとサクラは、救い様の無いろくでなしの担当に、ヒクヒク頬が引き攣るのを抑えられなかった。

「おっさん・・・・・・カカ死先生はろくでなしだけど、俺が力になってやるから安心しろ」

しかし、おいおいと泣き続けるタズナの肩に、優しく手が置かれる。

「こ、小僧・・・!!」

「ナルト! それでこそ男よ!!」

「・・・ウスラトンカチ・・・・・・ホンの少しだけ見直したぞ」

捨てる神あれば拾う神あり。

タズナが涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔を綻ばせ、サクラとサスケが尊敬の眼差しを向けた。

「その代わりさ・・・・・・・・・」

「「「???」」」

「おっさんの娘さん紹介してくれよ♪」

「「「!!!」」」

ところが、拾う神はカカシ以上のろくでなしであった。

「ああ、別にどうこうしようってわけじゃねぇぞ?
 ただお茶飲んだり、世間話したりするだけだから」

『嘘吐け!!』 と3人の心の声がハモる。

「じゃあそういうわけでカカ死先生、俺の為にも働いてもらうぞ」

「え〜〜〜!! だって今日はいちゃパラの新刊が出るしなぁ・・・」

返事を貰う前から勝手に自己完結済みのナルトと、めちゃくちゃいい加減な理由で断ろうとするカカ死。


「ふざけんな!! んな下らねぇ理由で俺のスウィートな夜を奪うんじゃねぇ!!!」


「「「スウィート!?」」」

そして何故かキレるナルトが、ポロリと本音が零らした。

このままでカカシが駄々をこねると、折角の里の外に出たのに、素敵な相手と一緒に素敵な一夜を過ごす素敵なチャンスが、巡ってくる前に潰されてしまう。

今里に戻れば絶対に発狂するだろう。

そして手当たり次第に女体を求め、最近特に発育の著しいいのやヒナタまで襲ってしまいそうだ。

自分にとっては信用に関る何よりも重要な死活問題であった。

「おい春野!! お前は行くよな!? 行くだろ!? 逝くって言え!!」

「ヒィィィッ!!」

勢いに任せてサクラの胸倉を掴み、激しく前後に揺さぶる。

「おい止めろウスラトンカチ!!」

「やかましい、外野はすっこんでろ!!
 春野ォォ!! さっさと承諾しねぇと今この場で犯すぞコラァァア!!」

サスケに羽交い絞めにされながらも、恐ろしい剣幕で詰め寄る。

「ひぃ!! いいい、逝きます!! 逝かせて戴きます!!」

貞操と命の危機を感じ取り、涙目で首を上下させるサクラの一言によって、7班の波の国逝きが決定したのであった。









―そして現在に至る―

「タズナ・・・どうやら此処までは気付かれてないようだが・・・。
 ・・・念の為、マングローブのある街水道を隠れながら、丘に上がるルートを通る」

「・・・すまん」

薄暗い穴を抜けた先には、マングローブの森が広がっていた。

「オレは此処までだ・・・それじゃあな、気ィつけろ」

「ああ・・・超悪かった」

暫くして船が岸に着き、ナルト達が舟を下りた。

岸から遠ざかる船を見送り、歩き出す。

「よーしィ! ワシを家まで無事送り届けてくれよ」

「はいはい・・・大丈夫ですよ。 (次に奴らが襲って来るとしたら・・・中忍じゃなく、上忍レベルに違いない・・・)」

カカシは生返事を返した。

低レベルな任務は嫌いだが、面倒な任務も嫌いだった。

・・・・・・・・・・・・・・・ダメ人間ここに極まる。

「・・・・・・・・・」

一方のナルトはやる気満々であった。

近くに潜む敵の気配を感じ取り、ギン! ギン! と左右に恐ろしい視線を放っている。

「そこかぁ―――っ!!」

怒号と同時に茂みに向かって手裏剣を投擲。

「なぁ!?」

「ちょ、ちょっとナルト!?」

「!」

「!!」

予測不可能な行動に、カカシ達が驚く。

「・・・・・・」

しかし、

「チッ・・・外したか」

茂みから返ってきたのは沈黙。

「・・・って何カッコつけてんの!! そんなとこ、初めから何もいやしないわよ!!!」

「あはは〜♪ 残念だったなぁナルト♪」

「カカシ、笑ってないで止めろ・・・」

「こら! 小僧!! 紛らわしいこと・・・すんじゃねェ!!!」

―他はともかくカカシ・・・お前は気付けよ!

周囲の反応に構うことなく、新たに手裏剣を構え直す。

「!」

カカシは微かな気配に表情を険しくする。

「そこかァ――っ!!!」

ナルトが180°方向を変えて腕を振る。

「だから・・・やめろ――っ!!!」

「グォ!!」

ゴチン! とサクラの拳骨が飛んだ。

「・・・いってーな、本当に誰かが狙ってんだよ!」

「はい、ウソ!!」

この中で、敵の気配を完璧に感じ取れているのはナルトだけであった。

カカシは手裏剣の飛んだ方に近付き、茂みを掻き分けた。

「ナルト! アンタなんてことすんのよォ!」

「何だ・・・ウサギか!」

木の根元に泡を吹いたウサギが1羽。

―あれはユキウサギだ・・・今は春。 ・・・あの毛色は何だ?
 ユキウサギは、太陽の光を受ける時間の長さによって毛の色が変わる。
 ・・・・・・白色は日没が早くなる冬の色だ。

ユキウサギの体毛は、日の長い春先にも拘らず雪の様に白かった。

―これは、光があまり当たらない室内で飼われた『変わり身用』のユキウサギ・・・。
 ・・・・・・さっそくお出ましか。

視線を泳がせ姿無き敵に警戒を強めた矢先、背後に強烈な殺気を感じる。

「!! 全員伏せろ!!」

空気を切り裂いて飛来した何かに、体を伏せつつカカシが声を上げた。

「「「!」」」

サスケがタズナを伏せさせ、ナルトとサクラも姿勢を低くする。

身を屈めたナルト達の頭上を通過した巨大な物体は、先にあった木の幹にめり込んで回転を止めた。

飛んで来たのは身の丈を超える大刀だった。

―コイツは確か・・・。

カカシの見据える先にあったのは、大刀の柄に立つ1人の男だった。







もどる     もくじ     すすむ

inserted by FC2 system