NARUTO
〜九妖忍法帳〜 18話目




―火の森―

「よーし! 今日も張り切っていくぞー!」

「おお―――!!!」×7

無邪気な子供といい年こいた大人が、オレンジ色の空に向かって高々と拳を掲げる。

「・・・・・・・・・」

最近ではすっかり見慣れた光景を見つめる。

多分今の俺は、さぞ冷たい目をしている事だろう。

「あれー1人だけ暗い人がおるね? ちゃんと周りの空気ば読まないかんよ?」

「ウルサイダマレ」

俺があからさまに不機嫌に答えると、夜空は不思議そうに首を傾げる。

「カルシウムが足りとらんとね」

好き勝手ぬかす大馬鹿にかなりムカついた。

「グゲッ!」

だから返事の代わりに腰を入れたボディブローを一発、もちろん標準装備でチャクラを乗せてやる。

「〜〜〜〜!!!」

蹲って痙攣する夜空を無視して、俺の弟子・・・・・・旧家のガキんちょ共に視線を向け。

「皆さんに言っておきたい事があります。 とっても大切な事なので良く聞いて下さい」

切なる願いを篭めて訴える。

「自分で紹介しといて何なんですが・・・・・・・・・正直、こいつ等を見習うのは止めて下さい」

俺が指差したのは、隣に並ぶアンコ・玉藻・雪の3人。

「ちょ! 失礼ね! 何が気に食わないってのよ!!」

「そうだ! 大体お主は心が狭すぎるのだ!」

「隊長〜! ヒドイじゃないですか〜!」

何かギャーギャー騒いでるが何も聞こえない。

「ウルサイダマレ。 ナニモシャベルナ」

俺が感情を込めずに言うと、ピタリと騒音が止む。

「九妖さん何怒ってんスか?」

シカマル、俺はお前らに怒ってるわけじゃない。

「オレ達には何の不満もない」

シノ、お前にはなくとも俺にはあるんだよ。

「そうよー。 みんな良い人じゃなーい」

いの、悪い奴等じゃないってのは分かってるんだ。 俺の言い分も聞いてくれ。

「ケ・・・ケンカはダメです・・・」

ヒナタ、ケンカなんかしねぇよ・・・・・・するだけの気力がない。

「はぁ・・・・・・」

思わず溜息を吐く。

こいつ等の指導を始めて早一ヶ月、時が過ぎるのは本当に早いものだ。

特に最近は忙しく、表では下忍として働き、影では暗部の仕事とガキんちょの指導。

二束ではなく三束の草鞋、比喩でも誇張でもなく寝る間も惜しんで頑張っている。

まぁそれは別に嫌ではないのだが、少し疲れているのかもしれない。

4歳の頃からアカデミーと暗部の両立を図ってきた俺も、慣れない先生家業は流石に疲れる。

ちなみに俺が先生になったキッカケは約一ヶ月前、玉藻に呼び出されたのが始まりだった。

先生になる前日の晩に、玉藻から一通の手紙を受け取った。

手紙には、

『明日の夕方、森の外れにて待つ。
 ただしナルトとしてではなく、九妖としての主に用がある。 任務が終わり次第必ず来てくれ。
 それと、くれぐれも面の着用を忘れぬように。 おぬしが来るまで待っておるぞ(はぁと)』

と、達筆な字で書かれていた。

しかも手紙の隅には口紅が・・・・・・。

手紙を読み終えた俺は『ククク・・・この好きものが』と涎を垂らして喜んだ。

だがその翌日、呼び出しに応じて向かった場所には、玉藻だけでなく旧家のガキんちょ共までいた。

そのガキんちょというのは、シカマル・いの・シノ・ヒナタの4人。

俺は玉藻と仲良く談笑している4人が不思議で堪らなかった。

だがそれ以上に不思議だったのは、いのとヒナタが玉藻を『先生』と呼んでいる事。

その時はまだ数日前の慰霊祭で一騒動あったばかり。

ジィさんからも、『旧家の子らがお前の正体を嗅ぎ回っておるから、一応気を付けておけ』 と言われたばかりだった。

そんな草の根も乾かぬ内に何故接触しているのかが分からず、首を捻っていると、玉藻は俺に気付き近づいて耳打ちをしてきた。

とりあえず話を聞いてみると、ガキんちょ達と甘栗甘で偶然出会い、色々あって師弟の絆を結んだと言う。

しかし後になって自分が人に物を教えるのが苦手なのを思い出したそうだ。

まぁ確かに気が短いし、人の指導には向かないだろう。

てかそれ以前に、玉藻の妖術と人間の忍術とでは根本的に性質が異なる。

一応幻術は一通り扱えるが、それ以外の人間の術に関してはからっきしなのだ。

その為、鍛えてやると約束したは良いが、実際にはどう指導して良いのかが分から一晩悩んだらしい。

そして思案の末に、アンコや夜空への指導経験を持つ俺に、白羽の矢を立てたとの事だった。

俺は玉藻の話を一通り聞いて、正直迷った。

正体がバレるのを避けたいのは事実だが、ガキんちょ共は期待に満ちた目で見つめてくる。

おそらくは玉藻が何か言ったのだろうが、ここまで期待されていて無下に断るのは気が引けた。

俺は暫しの間、どうしたものかと考えていたのだが、

『・・・九妖さん、お願いします』

『・・・この通りだ・・・』

シカマルとシノに頭を下げられ、

『・・・ダメ・・・ですか・・・?』

泣きそうなヒナタに見つめられ、

『ねーいいでしょー、九妖さん・・・・・・いいえ・・・・・・。 九妖せ・ん・せ♪』

いのに先生と呼ばれ、

『主ぃ・・・・・・今更断るわけにはいかんのだ・・・すまんが手伝ってはもらえぬだろうか?』

玉藻に耳元で囁かれ、

『いいよ』

一秒掛からずに頷いてしまった。

こうして俺はガキんちょ共の策略・・・もとい熱意に絆され、玉藻の色香・・・ではなく嘆願に応じ、先生となったのだ。

・・・・・・まぁ今思えば嵌められた気がせんでもないが、とりあえずは良しとしよう。

んで、始めの内は俺と玉藻の2人で教えてたんだが、それではどうにも効率が悪かった。

さっきも言ったように玉藻は指導には向かないし、俺は俺で習得している術はそんなに多くない。

俺の持つ忍術はチャクラの使用量がデカ過ぎる為、下忍が使えば下手をしなくても死んでしまう。

幻術は個人的に苦手なので、幻術返し以外まともに習得していない。

こんな具合に、完全な戦闘型である俺では、教えられる事に限りがあるのだった。

だが、使い物にならないヘッポコ指導者達と違い、修行に明け暮れるガキんちょ共は無限の可能性を秘めていた。

任務を終え疲れた体に鞭打っているのに、ダメ教師の所為で伸び悩むのはあまりにも申し訳ない。

俺はこのままではいかんと危機感を覚え、新たに指導員を増やす事を決心し、手頃な暇人を引っ捕まえた。

そしてその暇人というのがアンコ達だったのだ。

ちなみにこいつら。

俺が頼んだ時は思いっきり渋っていたのに、いざガキんちょに引き合わせ『先生』と呼ばれると、途端に態度を変えやがった。

夜空とせっちゃんはだらしない笑顔になり、アンコに至っては地面を転げまわって悶えていた。

その様子を見て俺達が顔を引き攣らせたのは言うまでもない。

で、最初の頃は家の連中の奇怪さに面食らっていたガキんちょ共だが、次第に慣れた・・・というか打ち解けたというか・・・まぁ兎に角仲良くなれた。

それに家の連中、人格には問題があるものの腕の方は間違いなく一流である。

体術のスペシャリストである夜空。

医療術や封印術など幅広く扱えるせっちゃん。

基本忍術から禁術に至るまで、大概の事は器用にこなせるアンコ。

そこへ俺と玉藻の2人を合わせた計5人の教師陣によって、それぞれの特性を伸ばすべくこの一ヶ月の間みっちり鍛え上げた。

だが今思えば、それがそもそもの間違いだったのかも知れない。

5人掛かりの指導の甲斐あって、ガキんちょ共はメキメキと力を付け始めてはいるのだが・・・・・・、

「え〜・・・自覚はないでしょうが・・・・・・。
 皆さんは最近家の連中の悪影響で、少々バカになりつつあります」

最近家の連中に良く似てきた気がする。

「「「「????」」」」

だが、やはり自覚症状は出ておらず、ガキんちょは訝しげな表情になった。

「な! ちょっと九妖! バカって何よバカってー!?」

その代わりアンコが俺の胸倉を掴んで激しく揺さぶる。

「グェ! いのちゃんだって・・・お前のそういう・・・ガサツなところに・・・似てき・・・て・・・」

「誰がガサツなのよ誰が!!」

「こらこらアンコ止めぬか・・・・・・本当の事だろう」

酸欠になりかけた俺を玉藻が助けた。

「ぐ! 言ってくれるじゃないぃ・・・そう言う人を舐め腐った態度が、シカマルに悪影響を及ぼしてるのよね」

アンコはギリギリと歯を鳴らし反撃に出る。

「な、何を言うか!! あの小僧の性格は元からであろう!! 私の所為ではない!!」

言われて一瞬ビクっとした玉藻。

「でもアンコさんの言う通り〜、前より酷くなってると思いますよ〜?」

「確かにそうやね・・・何か最近、シカマル君だけやなくてヒナタちゃんまで図太くなってきとるし・・・」

そこへせっちゃんが横合いからニコニコと追い討ちを掛け、復活した夜空が腹を擦りつつ頷いた。

「〜〜〜〜!!」

言い返せないのが悔しいのか地団太を踏む玉藻。

「元はといえば、貴様ら全員▽〇★狽ネのがいかんのだ!!」

「そ、それは酷いですよ〜!! それを言うなら夜空さんだって@‰刀諱烽カゃないですか〜!!」

「んな!! 何でそこまで言われないかんと!? せっちゃんやら∝※♂∀やろーもん!!」

「うっさいわよアンタ達!! この〒〆◆■共が!!」

やがて聞くに堪えない醜い言い争いがエスカレートしていき、バカ共は不穏なチャクラを放出しながら睨み合う。

「お前ら・・・・・・ケンカなら他所でやれ」

一応止めてはみるものの、最早俺の声は届いていない。

このまま放置したいのは山々なのだが、そうすると絶対に術を使い出す筈だ。

「・・・・・・【螺旋丸弐式】」

俺は不毛な言い争いに終止符を打つべく、チャクラの球を放り投げた。

バカ共の手前に着弾した螺旋丸は地面を抉り、盛大な音を立てて土埃を巻き上げる。

結構チャクラを練りこんでいたが、まぁあいつらなら大丈夫だろう。

口で言っても分からん奴らは、体に直接教えてやらねばいかん。

俺は被害を最小限に抑えた後、クルリと方向転換してガキんちょ共に向き直る。

「毎度毎度騒がしくてごめんね。
 まぁ具体的に誰がどうとは言わないけど、なるべく気を付けておいてね・・・・・・以上」

見慣れた光景とはいえ、これは教育上あまりよろしくない。

俺が謝罪と忠告をすると、ガキんちょ共は揃って苦笑した。

「オレは別に図太くても良いっスよ」

「まー、ガサツってのは心外だけどねー・・・」

「・・・でも・・・みんな良い先生だから・・・・私楽しいです・・・」

「・・・・・・まぁな」

その言葉を聞いて俺は肩を竦める。

「はぁ・・・・・・ま、良いか。 それじゃあ、あいつらが回復しだい稽古始めようね」

俺の可愛い弟子達は、良くも悪くも逞しく成長しているようだ。

ここは弟子達に免じて許しておこう・・・。









あれから一時間後。

わりと早めに回復したうずまき一家こと、なんちゃって教師陣の面々は、それぞれ自分の担当の子供達への指導を開始していた。

では、それぞれの組を順番に見ていこう。









―夜空・雪・ヒナタ組―

「ハッ! ハッ!」

ヒナタは白眼を発動させ、汗だくになりながら何度も掌打を繰り出す。

「ははは。 まだまだ甘かよ!」

的確に繰り出される攻撃を、涼しげな顔の夜空が足だけで器用に捌く。

―う〜ん・・・・・・ちっと踏み込みが足らんね。

2人の身長差は35cm。

しかも柔拳は掌でチャクラを流し込まなければいけないので、必然的に手技が中心となる。

それに対して夜空は足技を中心とするスタイル。

手と足では間合いの差は明白、加えて35cmの身長差。

当然2人のリーチにはかなりの開きがある。

「ヒナタちゃん! もっと踏み込んで下さい!」

組み手を見守る雪が、ヒナタの欠点を指摘。

「フッ!!」

ヒナタは夜空の蹴りを掻い潜り、腰の入った掌打で肺を狙った。

「よっ!」

しかし、夜空は足払いを仕掛け、体勢を崩す。

「クッ!!」

ヒナタは慌てて立て直しを図るが、夜空が足を刈ったと同時に一回転。

返しの踵で再び足を払う。

「ヒナタちゃん! お腹!!」

「せや!」

そして、真横に浮いたヒナタの腹に向かって前蹴りを放った。

「っっっ!!!」

ヒナタは雪の声に反応し、両腕を交差して蹴りを受け止めた。

―お、重い!!

夜空はかなり手加減しているが、ヒナタにとっては強烈な衝撃である。

―・・・・・・防いだごたるね。

ヒナタを弾き飛ばし、伸びた足を戻す夜空。

蹴られた位置から3メートル程離れた場所で、立ち上がったヒナタが構えを取る。

「も、もう一度お願いします!」

「ダメですよ〜。 もう30分経ってます〜」

続行を主張するヒナタを雪が止めた。

「で、でも・・・あと少し・・・」

「ダ・メ・で・す!」

「う〜・・・わ、分かりました・・・」

何とか頼み込んでみたが、雪に詰め寄られやむなく断念。

「ふぅ・・・今日はいけそうだったんですけど・・・」

「ふふふ、ホントですね〜。 始めと比べて大分上達しましたよ〜?」

ヒナタは悔しそうな顔をした後、夜空の方を見た。

その足元には直径2メートル程の円が描かれている。

夜空は組み手の間、円の中からは一歩も出ていない。

もうお分かりかと思うが、ヒナタに与えられた課題は手段を問わず夜空を円内から弾き出す事であった。

ヒナタは課題を達成できず悔しいとは思ったが、それは純粋な向上心から来るものであって、けしてネガティブな感情ではなかった。

「それでは〜、楽しい楽しい医療術のお時間です〜♪」

「クス・・・今日は何をするんですか?」

「ん〜・・・・・・【掌仙術】なんてどうでしょう〜?」

「掌仙術・・・・・・確か治療系の術ですよね?」

「大当たり〜♪」

楽しそうに笑う雪と、期待に胸躍らせるヒナタ。

「どっこらしょ。 体術に医療術・・・・・・任務明けなとに、よー頑張るねぇ・・・」

夜空は2人の傍に腰を下ろし、しみじみと言う。

「ヒナタちゃんは努力家ですから〜、私も教え甲斐あります〜」

「そ、そんな、私なんかまだまだです! もっと頑張らないと!」

雪に撫でられ両手を振って謙遜するヒナタ。

うずまき一家の元で修行を始めてから一ヶ月。

短い期間ではあるが、その中で出会った人達との触れ合いは、ヒナタに大きな変化をもたらした。

まず性格が明るくなった。

以前は一族から『出来損ない』のレッテルを貼られ、両親と妹以外認めてくれる者がいなくて悩んでいた。

だが、九妖を始めとするうずまき家のメンバーを見ていると、悩んでいる自分が馬鹿馬鹿しくなってくる。

何があっても前向きで、辛い事があっても笑い飛ばす・・・・・・というよりも、その元凶を完膚なきまでに叩き潰しそうな勢いの人達。

まるでナルトを見ているようだ(アタリ)と思ってしまう。

そんなうずまき家の影響で心が強くなり始めたヒナタは、それに比例して実力の方も着実に伸びてきている。

『白眼で人体透視出来るし、医療班に向いてるんじゃない?』 との九妖の奨めで習い始めた医療忍術。

当初は自分に出来るか不安だったが、持ち前の根気強さと柔拳で培ったチャクラコントロールのお陰で、乾いた砂が水を吸うように著しい成長を見せた。

体術に関してもそれは同じで夜空の指導の下、柔拳を活かす為に足技の習得にも精を出している。

だが、そんなヒナタも最近はナルトの頭痛の種となっていたりする。

何故ならば、

「修行もですけど〜、ナルトさんゲットの方もぜひ頑張って下さいね〜♪」

「ナルトは愛の多か男やけんね〜・・・将来絶対に愛人作るけん、そいつらば蹴散らすのは大変かよ?」

本人がいる傍で色々と吹き込んでいるバカ共に、

「そっちは大丈夫です!! 何があっても一番になってみせます!!」

思いっきり感化されているからだ。

・・・・・・まぁ何はともあれ、心身共に逞しくなりつつあるヒナタであった。









―アンコ・いの組―

「195・・・196・・・197・・・198・・・」

いのは背中にアンコを乗せて、黙々と腕立てをしていた。

「・・・199・・・・・・にひゃ〜くッ・・・!!」

ノルマ達成と同時に力尽き、地面に寝転がる。

「はい、ご苦労様。 5分休憩ね」

アンコがいのの上から立ち上がった

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。 ねーアンコさん、何で私だけこんな地味な訓練なわけ・・・?」

いのはややウンザリした表情で愚痴る。

「何? 私の指導に文句でもあんの?」

「も、文句はないけどー!
 もうちょっと・・・こう・・・術の一つでも教えてほしいかなー・・・って思ったり思わなかったり」

底冷えするような視線を受けて、慌てて言い訳をする。

アンコはやれやれとかぶりを振た後、腰に手を当てていのを見下ろす。

「いの、ちょっとそこに座んなさい」

「え〜〜〜?」

アンコは座れと言うが、いの的には疲れているのでもう少し寝転んでいたい。

「あん?」

しかし、眼前の師匠に逆らうのは利口な選択ではないので渋々正座した。

「アンタは術を覚える前にやる事がいっぱいあんの! 分かる!?」

「それは分かるけどー・・・・・・。
 他のみんなは術の習得に入ってるし、このまま差を付けられたら癪じゃない・・・」

力説するアンコを他所に、いのは眉を寄せる。

いのはこの一月の間、来る日も来る日も基礎訓練のみを行ってきた。

その一方でシカマル・シノ・ヒナタの3人は、それぞれの師によって技や術の習得を始めている。

・・・・・・何故自分だけが術の習得を許されないのか?

極度の負けず嫌いであるいのは、歯痒さを隠し切れずにいた。

アンコはそんないのの様子に苦笑する。

彼女もまた極度の負けず嫌いである為、いのの気持ちは痛いほど良く分かるのだ。

「・・・まぁ気持ちは分からなくないけど、今は我慢!
 私が教える術を使いこなすには、まず下地を整えないとダメなのよ」

気を落としたいのを不憫に思ったのか、珍しくまっとうな講義を始めた。

「下地?」

「ナ・・・ゴホン! 九妖から体・幻・忍の三術で苦手なのはどれだ? って聞かれた時、アンタ何て答えた?」

「別に苦手な物はないって言ったわー」

「じゃあ私から聞くけど、三術の中で得意なのは何?」

「う〜ん・・・・・・強いて言えば忍術ねー」

「いの、それはアンタが自分の武器だと自信を持って誇れる程の物?」

突如アンコの表情が険しくなる。

「・・・それは・・・」

問われたいのは言葉に詰まる。

いのは秘伝忍術を伝える【山中家】の跡取りとはいえ、まだまだ駆け出しの下忍。

【心転身】は使えるが、それはお世辞にも武器と呼べる代物ではない。

そもそも諜報活動の為の術であり、単独の戦闘では決め手とはなりえないのだ。

「もう自分でも分かってるみたいね・・・・・・。
 そう、アンタは苦手な物がないオールラウンダーである反面、いざって時に頼れる物がない器用貧乏なの」

「・・・・・・・・・・・・」

いのは言い返したりはせず、黙って拳を握り締めた。

アンコの言葉は全て事実なのだ。

もしも三術のどれか一つに特化した敵と戦う場合、相手の土俵に引きずり込まれれば成す術もない。

自分自身でも薄々感づいていた欠点だが、改めて指摘されるとやはり辛いものがある。

だがアンコは、悔しさに震えるいのを見やり微かに微笑んだ。

「・・・九妖がさ・・・アンタの師匠に私を選んだ理由。 ・・・一体何だと思う?」

不意に声を掛けられ、いのは首を横に振った。

「私とアンタが似たタイプだからよ」

いのに欠点を指摘したアンコだったが、実のところは同じような経験をしていた。

「・・・そうなの?」

「ええ。 ・・・・・・昔の話だけど」

「・・・・・・意外」

「でしょー?」

アンコはカラカラと笑う。

「いの、自信持ちなさい! この私が鍛えてやってんだし、力は間違いなく伸びてるわ。
 ・・・確かにこの一月は基本ばっかやってたけど、アンタもそろそろ術の習得に入るから」

その言葉通り、地味な基礎訓練ではあったものの、体力・反射神経・チャクラ量・チャクラコントロールなどは確実に成長していた。

いのに基礎を徹底させた理由は、術を使えるまでにチャクラ量を増やし、術の反動に耐えうるだけの体力を付けさせる為であった。

アンコとしてはもう少し鍛えたかったのだが、この方は大変雰囲気に流され易い。

肩を落とす愛弟子を見ている内に、心の底から湧き上がって来る何とも言えない衝動に駆られ、当初の予定を大幅に変更したのだった。

「え!? でもさっきはまだだって・・・」

当然の事ながら、さっきと言ってる事が全然違うので、いのは戸惑いがちに尋ねた。

「細かい事は気にしない! 私が良いって言ってんだから良いの!
 まぁ、少し早い気はするけど・・・・・・術の行使に耐えられるだけのスタミナは付いてるしね」

ノリは間違っているが説得力のある内容。

「え? その為の訓練だったの?」

短い期間とはいえ、アンコの性格は大体把握していたつもりであったが、そこまで計画性のある人物とは思っていなかった。

「そうよ。 ・・・・・・何? もしかしてただの嫌がらせだと思ってたわけ?」

「・・・・・・まぁ・・・ほんのちょっと・・・」

あまりにも意外だったので、いのはポロッと本音を漏らしてしまう。

「・・・・・・・・・」

「ゴ、ゴメンなさい!! うそよ、うそ! ちょっとした冗談だから本気にしないでー!!」

それによりアンコがへそを曲げ、いのは慌てて機嫌を取る。

そして10分もの間、延々と美辞麗句を並べ立てる事で、漸く機嫌を直してもらったのだった。









―玉藻・シカマル組―

さてさて、うずまき家の中である意味最も物騒な方に鍛えられているシカマルは・・・・・・。

「うおっ! あぶねっ!! ちょ! うわああああぁ!!」

大分切羽詰っていた。

「え〜い!! ちょこまか逃げずに向かってこんか!!」

玉藻は逃げ惑う獲物ことシカマルに腹を立てる。

とは言っても玉藻は切り株に腰掛け、その場から一歩たりとも動いていない。

ではシカマルは何から逃げているのか?

「んな無茶言わないで下さいよ!! 大体何なんスかこの影は!!? 死にますって!!!」

それは玉藻の影であった。

彼女の足元から伸びた影が周囲の影を取り込んで大きさを増し、無数の腕となってシカマルを追い回している。

しかもその影はシカマルの使う影と違い立体化していて、容赦なく周りの木々を握り潰していく。

「た、玉藻さん!! ちょっとは手加減して下さいって!!」

「やかましい!! そんな事をしたら稽古にならんではないか!!!」

「なります!! 十分なりますから!!! てか、コレ洒落になってないっスよ!!! 前々から言ってんじゃないスか!! 」

何だかんだと言いながら、黒い魔手を紙一重で避け続ける。

ただ、当たり前だが顔色は優れない。

もうこんな命懸けの修行を一ヶ月も続けているのだ。 そりゃ図太くもなるだろう。

「ぐぬぬぅ!! ちょこざいな・・・!!」

一方玉藻は、自分の攻撃が掠りもしない事に、癇癪を起こしていた。

「ならば総攻撃だ!! 逝けい!!」

軍師にでもなったつもりか、右手を掲げて采配を振るう玉藻。

「ゲッ!!」

命令に応じて、激しくうねる黒の群れ。

一応死なない程度の手加減はしているのだが、当たれば怪我では済まないだろう。

―あんなのに付きあってられっか!!!

背後から押し寄せる異形を、Bダッシュで振り切るシカマル。

出来る事なら地蔵スーツでやり過ごしたいところだが、そんな都合の良い物は存在しない。

一瞬現実から逃げたくなったシカマルは、慌てて頭を振って正気に戻り、木々の合間をジグザグに移動して時間を稼ごうと試みた。

しかし影の群れは圧倒的なパワーで遮蔽物を粉砕。

更に二手に分かれて挟み撃ちを仕掛けてきた。

―や、やべェ!!

そして先回りしていたもう一つの群れが、急ブレーキを掛けたシカマルの眼前に迫る。

「殺った!!」

むちゃくちゃ不穏当なセリフを吐きつつガッツポーズの玉藻。



『ジリリリリリリリリリ!!!』



だが、突如目覚ましの音が鳴り響き、影はシカマルに触れる寸前で霧散した。

どうやら制限時間を設けていたようだ。

「ハァ〜〜〜・・・・・・助かった〜・・・」

「チッ・・・命拾いしおったか」

へたり込んで今日も生き延びた事を天に感謝するシカマルと、今日も逃げ切られた事を憎々しげに舌打ちをする玉藻。

―命拾いっ・・・・・・て、殺す気かっつーの・・・。

毎度の事だが容赦の欠片も無い師匠に冷汗を垂らす。

「何だその目は?」

「・・・・・・何でもないっス」

「・・・・・・まぁよい。 では次のメニューに移る」

玉藻はスタスタと近付き涼しい顔で無茶を言う。

「い!? あのー・・・・・・休憩は?」

「何だそれは?」

命懸けの鬼ごっこで疲弊し切ったシカマルはかなり嫌そうな顔で尋ね、さも不思議そうに首を傾げられた。

それを見てシカマルは盛大な溜息を吐き、ガックリと肩を落とした。

目の前にいるのが自分の担当上忍であれば、『めんどくせー』 の一言で済ませるのだが、この方にそんな事を言えば命の保障はない。

念入りにヤキを入れられた上に、翌日の訓練が激しさを増すのは目に見えている。

今の段階ですら相当堪えているというのに、これ以上のものをやれば過労死してしまう。

玉藻はアメとムチを使い分けるいのやヒナタの師匠と違って、ムチ一辺倒の大層偏った師匠であった。

しかも自分の指導に玉藻が付いたのは、

『シカマル君はチャクラのスタミナさえ増えればグンと強くなれるよ。
 って事で君の師匠は玉藻に決定したから。 ・・・・・・・・あ、拒否権はないからね?』

との九妖の言葉であった。

『いや、拒否はしねーんスけど、何で玉藻さんなんスか?』

理由を尋ねたところ、

『ああ、この中で影を使えるのは玉藻だけだからね』

何とも適当な理由が返ってきた。

シカマルは最初の内はまぁ良いかと軽く考えていたのだが、マンツーマンの指導が始まると同時に玉藻が鬼コーチと化したので、もう少し慎重に考えるべきだったと激しく後悔した。

しかし、最初から拒否権など与えられていなかった為、シカマルではどうにもならかったのだが。

まぁともかく、やり方はどうであれ、シカマルは着々と力を付けている。

日に日に強くなっているのは嬉しいのだが、ここのところ毎晩のように玉藻が夢に出るのは勘弁してもらいたい。

起きてる間に嫌って程しごかれているのに、唯一安らげる夢の中ですら追いまわされては、気の休まる暇が無い。

思い返せばこの一月の間碌な夢を見た例がなく、汗びっしょりで目を覚ます事が多くなった。

ちなみに夢の内容はこんな感じである。

『もっと死ぬ気でチャクラを捻り出さんか!! やる気が出ぬというのであれば、私が直々に死に際まで追い込んでくれる!!』

自分の欠点であるチャクラの絶対量を増やす訓練中、危機感を出す為に直撃スレスレの位置に火球を飛ばしてきたり。

『威力が弱いと言っておるだろうが!! 捕まえたらその瞬間にくびり殺せ!! 出来んというなら貴様をくびり殺すぞ!!』

最近父から習った【影首縛りの術】の練習中、威力が弱いと叱責を受け、玉藻の影にどつかれたり。

・・・・・・・・・まぁどれもこれもいつもの修行風景である。

というか、その日の修行内容をそのまま夢に見るのだ。 そう・・・まるで本日の復習だと言わんばかりに・・・・・・。

「ほれ! ボンヤリしとる暇はなかろう! 次だ次!」

「・・・・・・へ〜い」

そしてそれは偶然ではなく、全て玉藻の手によるものだったりする。

玉藻はかなり極端な性格をしており、気に入らない奴には容赦しないが、気に入った奴にも別の意味で容赦しない。

その為、自分の弟子が少しでも強くなれるように、夜な夜なシカマルの家に赴き幻術を掛けているのだった。

かなり余計なお世話ではあるのだが、その事実を知る者は誰一人いない。

したがってシカマルの悪夢は、まだまだ続きそうである。









―九妖(ナルト)・シノ組―

シノとナルトは穏やかに談笑しながら修行を進めていた。

ただし2人が立っているのは湖の上であり、水面歩行の真っ最中である。

ちなみに他の3人も水面歩行はマスターしているのだが、それはうずまき一家の指導によるものではない。

ナルトは最初に木登りを教えようとしたのだが、子供達は担当である紅とアスマの指導の下、既に木登りを終えて水面歩行に入っていた。

それを知ったナルトは『他所は進んでるんだな〜』 と、自分がやる気のない担当に当たった事を再認識しつつ、下忍となって日が浅い内に木登りをマスターしている子供達に驚いた。

そこでナルトは、基本的な事は担当上忍に任せ、自分達は実戦向けの技術を教え始めたのだった。

「今日は何をやる?」

ナルトの授業は好評のようで、シノはウズウズしていた。

「ん〜そうだね〜・・・・・・体術はどうだろう?」

「・・・いやだ」

しかし今回はナルトの提案に難色を示す。

「おや? 反抗期かな?」

「・・・忍術が良い」

ナルトは提案を却下されても別段怒らず、おどけた風に言うと、シノは自分の意見を述べた。

「忍術・・・って、この間影分身教えたよね? もう覚えたの?」

「・・・・・・・・・」

シノは無言で印を組み、3体の影分身を作り出してみせる。

「おお〜〜〜!!」

パチパチと森に拍手が響き渡る。

影分身を教えたのは3日前。

ナルトは宿題のつもりで一週間の猶予を与えていたのだが、シノは人知れず努力した結果、たったの3日で習得して見せたのだ。

「うんうん。 修行の成果は現れてるみたいだね」

ナルトは腕を組んで大きく頷いた。

本来大量のチャクラを必要とする影分身の術は、上忍でも使える者が少ない。

では何故下忍のシノが使えるのか?

それはひとえにナルトの修行と、それをやり遂げたシノの努力の賜物である。

ただしシノが行った修行というのは、チャクラ量を増やす為のものではなくシノ本来のチャクラを引っ張り出す修行である。

シノは元々下忍レベルを超越した膨大なチャクラを有していたが、それを体内の蟲に与え続けている為、実際に使用できるチャクラはそれ程多くなかった。

そこでナルトは、普段蟲にチャクラを与えているのだから与えたチャクラを蟲から吸い上げる事も可能なのではないか・・・・と考えた。

それは長い油女の歴史でも類を見ない試みであったが、シノは試してみる価値は十分にあると判断した。

しかし現実は厳しいもので、チャクラの供給を止めた途端、体内の蟲が暴走を始めたのだった。

腹を空かせた蟲達は宿主に激痛を与え、シノは何日も眠れない夜が続いた。

だがシノはその苦痛を乗り越え、蟲達を完全に制御する事に成功したのである。

そして現在は自分の意思で、チャクラの切り替えが可能なまでに成長しているのだ。

「見ての通りだ。 別の術を教えてくれ」

それにより、高レベルの術が習得出来るようになったシノは、次々と新しい術を求めていた。

「それは構わないけど・・・・・・何が良いの? 火遁? それとも水遁?」

ナルトも成長したシノを嬉しく思い、巻物を買い込んで伝授する術を躍起になって探している。

何せ自分の持つ術は燃費がすこぶる悪いので、如何にシノといえども使いこなせる術は少ない。

「術の系統はどれでも構わない。 だが出来れば遠距離系の術が好ましい」

「成る程、遠距離ねぇ・・・・・・。 あ、ちょっと待っててね」

しかしシノは次から次へと催促してくる。

偏った術しか持たない身で、飲み込みの早い弟子を持つと色々と大変である。

―え〜印の順は・・・・・・・・・。

ナルトは後ろを向きコートの内ポケットからメモを取り出し、シノに気付かれないように覚え立ての術を復習する。

・・・・・・・・・一応師匠としての面子があるらしい。

「・・・・・・よし! 今日は水遁に挑戦してみようか?」

いそいそとメモを仕舞い、颯爽と振り向く。

「今から手本を見せるから、よ〜く見てるんだよ?」

「ああ」

『師の勇姿を目に焼き付けろ』 と心で唱え、深呼吸を一つ。

その後クナイを空高く放り投げて、シノに確認できる速度で印を組み上げる。

【水遁 散霊水虎!!】

すると2人の手前の水面が渦巻き、その中から飛び出した1頭の虎が、空中のクナイに向かって牙を剥く。

そしてクナイは虎の顎により粉々に砕け、役目を終えた虎は唯の水へと戻っていった。

「さぁ、次はシノ君の番だよ?」

ナルトは『決まった・・・』 と密かに悦に浸りながら、後に続くようにと促す。

「やってみよう」

シノは簡潔に答えると見様見真似で印を結んだ。

―嘘!! 一回見ただけで全部覚えた!?

先程見せた術に必要な印は12・・・・・・自分は暗記するまで結構練習した。

そんな自分とは対照的に、優等生のシノは完璧に再現してみせた。

これで術が発動すれば、師匠の面目は完膚なきまでに丸潰れ。

だが水面が渦巻き、獣がいざ飛び出そうという瞬間、出現しかけた虎は姿を維持できず、グニャリと歪んでしまった。

「・・・・・・・・・失敗だ」

「ふはははははは!! まぁ気を落とすことないよ! この術も一応Cランクだし、一発で成功したら苦労しないって!!」

何とか面目を保てたナルトは、安堵のあまり大人気なく爆笑した。

「・・・・・・・・・3日後には使いこなしてみせる」

ムッとしたシノは挑戦的な目で師匠を睨む。

―こいつの場合マジでやりそうだな・・・。 ・・・俺も新しい術、練習しとこ・・・。

シノは口にした事は意地でも実行してのける。 その為ナルトは焦りを隠せず、面の下で引き攣った表情を浮かべた。

まぁこういう風に、かなり大人気ない師弟関係ではあるが、お互いに成長を続ける2人であった。









―PM9時―

もう日が暮れて随分と時間が経った頃、子供達の修行は終了した。

「本日の稽古はこれにて終了! 皆気を付けて帰るように!」

「「「「ありがとうございました!!」」」」

総勢九人の師弟は、互いに挨拶をして解散した。

去り際にニコニコと笑い合う師弟もいれば、バチバチと火花を散らす師弟もいる。

だが見た目は兎も角、それぞれ師弟の絆は本当の意味で固いものだ。

ナルト曰く、『何ちゃって教師陣』 の指導と、子供達の修行は、まだまだ続く。







もどる     もくじ     すすむ

inserted by FC2 system