NARUTO
〜九妖忍法帳〜 15話目
―正午―
『ジリリリリリリリリリリ(カチ)・・・・・・』
カカシは右目を擦りながら、けたたましく鳴り響く目覚ましを止めた。
すぐ傍で、胡坐を掻いたナルトが奪い取った鈴を掌で弄んでいる。
「・・・・・・まさかお前にやられるとはな」
「先生、何か不満そうだな?」
「そりゃーお前・・・・・・アレは反則でしょ?」
「おんやぁ?ルールなんて無いんだし、とやかく言われる筋合いはないんだけどなぁ?」
「うぐ・・・!」
半目で睨むカカシをふてぶてしい態度であしらうナルト。
カカシは反論したかったが、あまりにも正論だったので言葉に詰まった。
終了間際
4発目の攻撃・・・つまり最後の一手をかわしたカカシだったが、ナルトは初めの宣言を翻して平然と5発目を放ったのだ。
拳はカカシの眼前を通過したが、ナルトはすぐに手首を返し開いた手中から砂埃を放った。
それがカカシの視界を塞いだのだった。
「最初の宣言で手数を印象付け、サスケの動きを辿ることでオレに先入観を与える。
尚且つ、線の攻撃に慣れさせておき、急激に点へと切り替える・・・・・・。
・・・・・・見事としか言いようが無いな・・・・・・・・・。 おめでとう! 合格だ!」
「え!? マジで!?」
合格の言葉にパァーっと花が咲き、明るくなるナルト。
本来この試験の答えは『チームワーク』にあるのだが、その場のノリでカカシは頭からその事がスッパリ抜け落ちていた。
カカシは試験云々を抜きにして見ていて飽きないナルトの、今後の成長に期待を寄せていたのだ。
しかし実際には、五影すらとっくの昔に超えている超規格外の存在である。
ついでに大晦日にあっさり自分をぶちのめした相手でもある。
が、まだカカシはどちらにも気付いていなかった。
暫くして、サスケとサクラも丸太の前に集合した。
2人はナルトの左右にへたり込み、疲労の色を隠せない。そして腹の虫が大きな鳴き声を上げている。
カカシは腕組みをして、座り込む2人を見下ろすといつもの調子で口を開いた。
「おーおー腹の虫が鳴っとるね・・・・・・君達。 ところでこの演習についてだが・・・・・・」
告げられるであろう合否の判定に、サクラは顔を上げ、サスケは下を向いたままだが耳を澄ました。
「サスケ、サクラ。 お前らはアカデミーに戻る必要もないな」
「「!!」」
カカシの言葉を可と受け取り、2人の表情が明るくなる。
―え? 私・・・・・・気絶してただけなんだけど・・・いいのかなアレで。 (愛は勝つ!!しゃーんなろ!!)
内心呆気に取られるも、そのさらに奥ではガッツポーズのサクラ。
「フン」
あれだけの力を見せたのだから、『受かって当然』と言った感じのサスケ。
2人ともすでに合格した気になっている。
「つーことは2人とも・・・・・・」
そんな中、1人だけ怪訝そうな表情をしたナルトが、先を予想しながらも呟く。
するとカカシはニッコリ笑ってこう言った。
「・・・・・・そう。 2人とも・・・忍者をやめろ!」
「「!!!」」
―そのころ火影の執務室では―
『あっ! あっ! あん! ああん!! イクぅ―――!!!』
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
三代目・イルカ・夜空。3人の目がピンク色の画面に釘付けになっていりする。
真昼間から仕事そっちのけでAV鑑賞というのは、人としていかがなものか・・・・・・。
「ふぅ・・・。 ご馳走様」
画面上にスタッフロールが流れる中、『濡れ場以外はどうでもいい』とばかりに、三代目がリモコンを手繰り寄せ取り出しボタンを押した。
ちなみにデッキから出てきたビデオのタイトルは、『淫乱くの一・お色気忍法帖!レッスン2!縄抜け編』と記してあった。
「中々の上物やったね!」
何故か達成感一杯の夜空が、爽やかな顔で三代目に親指を立てる。
「ほっほっほ! そうじゃろう! わざわざ暗部に水の国から持ってこさせた新作じゃ!! よかったじゃろ、イルカよ?」
緩みきった顔でキセルをふかし、イルカに同意を求める三代目。公私混同も甚だしいが、ここまで来るとむしろ褒めてやりたい。
里の最高権力者を筆頭に、既におかしくなり始めている木ノ葉だった。
「はい!! 縄抜けは忍者の基本! 教育者としても大変興味深い作品でした!!」
無理のある自己弁護を図るイルカだが、血走った目と鼻に詰めたティッシュのせいで説得力皆無。
教育者の前に彼も1人の男。
彼女がいても見たいもんは見たいのだ。
○○○ーだってもちろん大好きだ。
イルカはおもむろに立ち上がり、裾を直すフリして息子のポジションを整えた。
その行動は男なら誰でも理解できるので、分かっていてもあえてつっこまない優しい2人だった。
「ズズズ・・・・・・ふぅ〜・・・。 あ、ところでナルトの試験、どげんなったとやろ?」
茶を啜りながら、反抗期の息子を宥める夜空が唐突に話を切り出す。
「おお! そう言えば今日じゃったの。・・・・・・ナルトなら大丈夫じゃろ」
三代目と夜空は昔からナルトの実力を知っているため全く心配していない。
「ナルト達、第7班の上忍・・・。 どんな先生なんです・・・厳しい方なんですか?」
だが、最近素のナルトを知ったイルカとしては、やはり少し心配だった。
・・・・・・・・・AVは見ていたが。
「・・・・・・カカシのことか・・・腕は確かなのじゃが・・・」
「・・・・・・人格の方が・・・あれやね・・・」
両者言葉に詰まり眉間に皺が寄る。2人の話についていけないイルカは2人の様子に首を傾げた。
「む? お前、カカシに会ったのか?」
「・・・・・・・・・ついでにアスマさんにも会ーたよ」
不覚にもアスマの顔を思い浮かべてしまった夜空は、痛み出した胃を押さえた。
「さぞ迷惑だったじゃろう・・・・・・すまんな・・・」
身内の恥を晒してしまった三代目は、熱くなった目頭を袖で拭って『情けない・・・』と愚痴をこぼした。
「あの・・・・・・三代目? 話を戻してもよろしいですか・・・?」
「ん? おお、すまん。まぁ見た方が早いじゃろ・・・ホレ!」
遠い目で窓の外を見つめていたが現実に呼び戻され、懐から取り出した資料をイルカに渡す。
―!! こ・・・・・・これって・・・!
イルカは目を見開き、記してあった信じられない内容に冷汗を流した。
「そ・・・そんな・・・」
「カカシのテストはちと難しいかも知れん・・・。 子供は素直なものじゃからのォ・・・」
「だ・・・だからって・・・これ・・・全くの0じゃないですか・・・!」
「そう・・・カカシは今まで、1人も合格者を出しておらん。 全て全滅しておる・・・」
三代目はそう言って、キセルを返し灰を落とした。
「・・・ナルトは、本当に大丈夫なんでしょうか・・・?」
「案ずるな。 ナルトは試験の答えを知っておる。 だから何の心配もいらん」
「え!? そうなんですか!?」
俯いていたイルカの顔が上がり、表情が一変して明るくなる。
「うむ! きっと今頃は合格しておるじゃろう。 わし等は宴会の準備でもしておればいいのじゃよ」
「・・・・・・そう・・・・・・ですよね! あいつなら私が心配しなくても大丈夫ですよね!!」
火影が太鼓判を押すナルトなら、何があっても大丈夫! イルカの不安はキレイさっぱり消え去った。
2人の話が一段落ついたところで、ずっとそわそわしていた夜空がテーブルを叩いた。
「難しい話しは仕舞いにしよーや!!んじゃ!上映会の続きやね!!」
「フフフ! 次はこれじゃ!」
三代目が手に取ったのは、『淫乱くの一・お色気忍法帖!レッスン3!変化編』。
早い話がコスプレものだった。
「夜空! ティッシュ!! ティッシュはどこだ!?」
鼻を押さえるイルカからは、先程までの真剣さは微塵も感じられない。
きっとこれも、皆が心からナルトを信頼しているからだろう。・・・・・・・・・多分。
そしてこれは余談だが、2本目のビデオを見終わった後も、暫くの間は誰も席を立とうとしなかった・・・・・・。
―演習場―
「ちょ・・・ちょっと!どういうことよ!?
確かに鈴は取れなかったけど! 何でそこまで言われなきゃいけないのよ!?
それにどーしてナルトだけはいいの!?」
鈴は取れなかったが、忍者になることを否定されるとまでは思っていなかった。
そしてサクラはナルトが鈴を取ったとは思っていない。
色々と納得がいかず、カカシに抗議の声を上げる。
「お前ら2人とも、忍者になる資格のねぇガキだってことだよ」
「あ、俺は鈴取ったぞ? ・・・ほら」
「「!!」」
ナルトがさりげなく鈴を取り出し、サクラは驚きのあまり声を失い、サスケはプライドがガラガラと崩れる音を聞いた。
自分が出来なかったことを、万年ドベがやってのけた。
何かの間違いだ。
性質の悪い冗談としか思えない
「サスケ君!!」
信じがたい事実を突きつけられたサスケが、感情に任せてカカシに食って掛かった。
「だからガキだってんだよ」
カカシは突進してきたサスケを容易く組み伏せ、腕を固めて頭を足で踏みつける。
「サスケ君を踏むなんてダメ――!!」
だがカカシはさらに足に力を籠めた。
顔を地面に押し付けられた上に満足に動く事もできず、サスケはかつて無いほど屈辱に顔を歪めた。
「お前ら忍者なめてんのか? あ!? 何の為に班ごとのチームに分けて演習やってると思ってる」
「え!? ・・・どーゆーこと?」
「つまり・・・・・・お前らはこの試験の答えをまるで理解していない」
「だから・・・・・・さっきからそれが聞きたいんです!」
「・・・・・・ったく、それはチームワークだ」
「「!」」
呆れた様にカカシが言うと、サスケとサクラはハッとして顔を上げた。
「3人でくれば・・・間違いなく鈴を取れただろうな」
現にナルトは1人で鈴を奪って見せ、サスケは後一歩のところまで追い詰めた。
飛び抜けた実力を持ちながらも、惜しむらくは協力する姿勢が見られなかった事・・・・・・。
―・・・って・・・ちょっと待って!
「なんで鈴2つしかないのにチームワークなわけェ!?
3人で必死に鈴取ったとして一人だけ我慢しなきゃなんないなんて、チームワークどころか仲間割れよ!」
あからさまに矛盾した試験内容。
納得できないとサクラがいきり立つが、カカシは顔色を変えない。
「当たり前だ! これはわざと仲間割れするよう仕組んだ試験だ。
この仕組まれた状況下でもなお、自分の利害に関係なくチームワークを優先できる者を選抜するのが目的だった。
・・・・・・それなのにお前らときたら」
ようやく試験の真意を告げられ、サクラは反論できずに黙り込んだ。
「・・・サクラ・・・お前は目の前のナルトじゃなく、どこに居るのかも分からないサスケのことばかり。
サスケ! お前は2人を足手まといだと決めつけ、個人プレイ。
班は任務で行う! たしかに、忍者にとって卓越した個人技能は必要だが、それ以上に重要視されるのは『チームワーク』」
それぞれの欠点を指摘するカカシ。
ナルトにも言いたい事はあったが、鈴を取られた自分が言っても負け惜しみにしか聞こえないのでやめておいた。
―うんうん、やっぱ連携は大事だよな・・・。 協調性の無い奴と一緒に任務なんかやりたくねぇし。
《愚問だ。 もっとも、木ノ葉の忍はそれ以前に信用できんが・・・》
2人とも自分が仲間と認めた者との信頼関係は大切にするが、それ以外は知った事ではない。
カカシの話を他所に、ナルトは色々と思うところがあって、腕組みをしてしきりに頷いている。
それを見たカカシは、ナルトが自分の話しに聞き入っていると勘違いし、少しだけ微笑んだ。
「チームワークを乱す個人プレイは、仲間を危機に落とし入れ『殺す』ことになる。 ・・・・・・例えばだ・・・・・・・」
カカシは表情を戻しポーチを漁る。
「サクラ! ナルトを殺せ! さもないとサスケが死ぬぞ!」
そして取り出したクナイを逆手に持ち、動けないサスケの首筋にあてがった。
「!!」
突然の出来事。 その場に緊張が走る。
パニックになったサクラは、ナルトとサスケの顔を交互に見比べおたついている。
「と・・・こうなる」
暫くして、カカシがクナイを収めるとサクラは安堵の息を吐いた。
「人質を取られた挙げ句、無理な2択を迫られ殺される。 任務は命がけの仕事ばかりだ」
サスケを開放したカカシは、3人に背を向けて歩き出し石碑の前で足を止める。
「これを見ろ、この石に刻んである無数の名前。 これは全て、里で英雄と呼ばれている忍者達だ。
・・・・・・だが、ただの英雄じゃない。彼らは皆、任務中に殉職した英雄達だ」
3人に背を向けたままのカカシからは、のんびりとした雰囲気もふざけた態度も全く感じられなかった。
そしてカカシの声は深い後悔と自責の念に彩られていた。
「これは慰霊碑。この中にはオレの親友の名も刻まれている・・・・・・・・・」
そう言って目を閉じ、亡き親友に黙祷を捧げた後、静まり返る3人に顔を向けた。
「・・・お前ら・・・! 最後にもう一度だけチャンスをやる。
ただし昼からはもっと過酷な鈴取り合戦だ! 挑戦したい奴だけ弁当を食え・・・・・・と言いたいところだが・・・・・・」
ここで一旦言葉を切ったカカシに、3人は首を傾げたが、
「鈴を奪えなかった2人は飯抜きだ。 ナルト・・・お前は弁当食ったら帰っていいぞ」
続けて飛び出した言葉に、サスケとサクラは落胆の色を隠せなかった。
「だが、もし2人に弁当を食わせたりしたらお前も失格にする。 ここではオレがルールだ、わかったな」
カカシはそれだけ言って睨みを利かせ、素早く姿を消した。
「・・・・・・・・・・・・」
消えたように見せかけて、物陰から様子を窺うカカシ。
彼はもしもナルトが自分の言葉に従った場合、泣く泣く失格にするつもりでいる。
先程はつい勢いで合格にしてしまったが、やっぱり教育者としての手前後任に伝えるべきことは伝えなければならないのだ。
その為カカシの中では理性と欲求。
2つの感情が激しく戦っていた。
ちなみにカカシの脳内では、
≪ナルトだけでも合格にしちゃえばいいんだよ!! そうすれば雪さんとイチャパラできるだろーが!!≫
≪だめた! 先生とオビトの教えを忘れたのか!?≫
≪ケッ! 良い子ぶってんじゃないよ! 欲望のままに動いて何が悪いのさ!!≫
≪うぐ! で、でもやっぱりだめだ!!≫
≪嘘吐け!! 今、目が泳いだだろ!?≫
≪う、うるさい!! だまれ!! 口で言っても分かんないなら、こうするまでだ!!!≫
≪な! ちょ、ちょっと落ち着いて!!≫
≪問答無用!! 【雷切り!!】≫
≪ギャ―――!!!≫
そんなやりとりが行われていた。
1人で悶えながら様子を窺うカカシに、ナルトが顔を顰めていた。
そして玉藻には頭に輪っかを乗せヒラヒラの衣装を纏ったカカシと、チンピラの様な風体のカカシの戦いが、見えたとか見えなかったとか。
まぁそれはさておき、ナルトは手に持った2つの弁当を凝視していた。
万が一鈴を取れなかった時の2次手段として、カカシが食う予定だった弁当に一服盛ったのだが・・・・・・・・・。
―どっちだ!? どっちが当りなんだ!?
影分身に渡した下剤は無味無臭。
ナルトの優れた鼻をもってしても、毒入りの弁当を看破する事は出来なかった。
大概の毒には耐性のあるナルトだが、以前軽い気持ちで雪の新薬の実験台になった時は死ぬかと思った。
雪が調合する薬はどれも危険極まりない代物で、もちろん効き目はバッチリ。
それ故たかが下剤と言えども油断は出来ない。
下手をすれば玉藻ですらポックリ逝きかねないのだ。
念には念をと考えていたのだが、かなり墓穴を掘ったナルトだった。
しかしナルトは閃いた。
「ほら・・・・・・2人とも食え」
《・・・・・・鬼か・・・・・・おぬしは・・・・・・》
何も知らず空腹に悶える哀れな子羊達を生贄に捧げる事を・・・・・・。
「!」
「ちょ、ちょっと!? 何言ってんのよ!? 失格になりたいのアンタ!?」
いきなり弁当を差し出された事で、2人はかなり戸惑った。
「いいから食えって! 腹減ったまんまじゃ取れるもんも取れねぇだろ?」
「でも私・・・ずっとアンタを嫌ってたのに・・・それにサスケ君だって・・・」
こんなに心優しくしてくれるナルトを何故意味もなく嫌っていたのか?
サクラは急に自分が恥ずかしくなり俯いてしまった。
今まで冷たい目で見ていた事もあり、ナルトの好意(サクラ視点)を受け取れない。
だが、ナルトは気にした風もなくこう言った。
「ば〜か! お互い様だろ? 俺は年下の言うことイチイチ気にするほど、小せぇ男じゃねぇんだよ!」
《嘘を吐け。 その子供の戯言にイチイチ反応していたのは何処の誰だ?》
―うるせぇぞ玉藻!
玉藻のつっこみにもナルトは表情を変えず、まるで父親のような笑みを浮かべている。
それを見た何も知らない2人は、心から感動していた。
「・・・ナルト・・・」
「・・・ドベ・・・お前・・・・・・」
10年以上に渡って『ドベ』・『九妖』・『素』、その三つの顔を使い分けてきたのは伊達じゃない。
上忍すら化かすナルトの演技力は、一介の下忍に見抜けるものではなかった。
その為ナルトはサクラの中では『頼れるお兄さん』に、サスケの中では『気に食わないが結構いい奴』になっていた。
真実を知らないのは哀れとしか言いようがない。さすがに今回ばかりは玉藻も少しだけ2人に同情したのだった。
「・・・・・・でも・・・・・・もし先生にばれたら・・・・・・」
「大丈夫だ。 チームワークだって誤魔化すから」
―いいからさっさと食えや!!
目の前に差し出された弁当に喉を鳴らしながらも、手を出しては引っ込めるサクラに内心苛立つナルト。
「・・・・・・大丈夫だ。今はアイツの気配はない」
―いや・・・思いっきり見てんぞ?
「うちはだってこう言ってんだし、ちゃちゃーっと食っちまえば大丈夫だって! な、春野!
それに昼からは俺も手伝ってやるから、鈴だって簡単に取れるって!」
ナルトは何が何でも弁当を食いたくないので、しつこい位に受け取れと催促する。
「ナルトの言うとおりだ。昼からは3人で鈴を取りに行く。
足でまといになられちゃこっちが困るからな。 サクラ、お前も受け取れ」
初めてナルトの名前を呼んだサスケが、照れくさそうに頬を染めてソッポを向いた。
「・・・・・・サスケ君・・・・・・」
「うし! これ食ったら作戦会議だ! 先生に俺等のチームワークを見せてやろうじゃねぇか!」
爽やかにウインクして2人に弁当を手渡す似非紳士・・・・・・。
その名も【うずまき ナルト】。
またの名を暗部第九班班長にして、木ノ葉最強の忍【九妖】と言う。
が、それはこの際関係ない。
そして3人のやり取りを見ていたカカシが胸を撫で下ろしているとも知らず、サスケとサクラは弁当に箸を付けた。
「ナルト・・・お前・・・メシはどうするんだ?」
弁当を半分ほど食べてから、不意に疑問に思いサスケはナルトを見た。
「え゛!?」
その問いにナルトの肩がビクリと震えた。
「ご、ごめんナルト! ・・・ハイ・・・アンタもお腹空いてるんでしょ・・・」
申し訳なさそうにしたサクラが、慌てて弁当を差し出し、サスケもサクラに続いた。
既にサスケとサクラから自分に対する嫌悪感などは感じない。
しかも2人には、自分が助かるための生贄にした負い目がある。
無碍に断る事もできず冷汗が流れる。
「・・・年下が気ぃ遣うんじゃねぇよ。 俺は兵糧丸でも食っとくから、お前等は遠慮せずに食えって」
真剣に自分を気遣い弁当を分けようとした2人を見て、湧き上がる罪悪感で目が泳いだナルトだった。
「ナルト・・・ありがとう・・・」
「・・・悪い・・・」
―ふう・・・危なかった・・・。
袖で額を拭うナルトさえ除けば感動的なワンシーン。
とその時、
「お前ら―――――!!!」
轟音と共に立ち込めた煙を突き抜け、凄まじい形相・凄まじい速度でカカシが飛び出してきた。
サクラの怯えた悲鳴が木霊し、サスケは咄嗟に身構え、ナルトはわざとらしく素っ頓狂な声を上げた。
だが3人の眼前で止まったカカシは、とても優しげな笑顔で言葉を投げかけた。
「ごーかっく♪」
「・・・・・・え!?」
「「・・・・・・・・・」」
サクラは呆気に取られ、サスケは何かの罠かと勘繰り、ナルトは無事試験が終わったと溜息を吐いた。
「合格!? 何で!?」
一瞬呆けたサクラだが、思いもよらぬ合格発言に首を傾げた。
「お前らが初めてだ」
「え?」
「今までの奴らは、素直にオレの『言うことをきくだけ』のボンクラどもばかりだったからな。
・・・・・・・・・・・・忍者は裏の裏を読むべし。 忍の世界でルールを破る奴は、クズ呼ばわりされる」
カカシは空を見上げ父・・・サクモを想う。父は英雄と呼ばれるべき、尊敬に値する忍だった。
三忍を凌ぐとさえ謳われた父は、任務と仲間の命を秤に架け、その末に仲間を選んだ。
だが忍は任務の遂行を第一にしなければならない。
里も救った仲間もサクモに侮蔑の言葉を浴びせた。
サクモの行動は忍としては間違っていたかもしれない。
しかし決して責められるようなものでもなかった筈。
それを余人は理解しなかった。
サクモの息子であるカカシすらも・・・・・・・・・。
ほどなくしてサクモは自らの命を絶ち、それ以来、カカシはルールを守ることに固執するようになった。
「・・・・・・けどな!」
そんなカカシは1人の友と出会い、その友はカカシですら否定した父の行動を称えてくれた。
ずっといがみ合っていた2人は、漸く和解したその日の内に永遠に別れることになった。
友はカカシに左目の【写輪眼】と、ある言葉を遺して静かに逝った。
カカシはその言葉で人生を変えられ、その言葉を今も胸に刻み生きている。
そして、カカシの生き方を変えさせたその言葉とは・・・・・・。
「仲間を大切にしない奴は、・・・・・・それ以上のクズだ!」
空を仰ぐカカシの表情は窺えない。
だが、ナルトも含めて3人は初めて、自分達の担当に尊敬の念を抱いた。
《主よ・・・・・・・・・》
静かに語りかけた玉藻の声に、ナルトは耳を傾ける。
―・・・・・・・・・何だ?
《賭けをせぬか・・・?》
―賭け?
《・・・ああ、こやつが雪を落とすか否かのな・・・・・・》
―賭けになんねぇだろ・・・・・・・・・それ。
《フ、今のこやつを見て少しばかり期待しただけだ・・・・・・忘れてくれ》
珍しく真面目なカカシに、2人の主従は人知れず微笑むのだった・・・・・・・・・。
「これにて、演習終わり! 全員合格! よォーしぃ! 第7班は明日より任務開始だァ!!!!」
カカシは親指を立てて高らかに宣言し、皆一様に合格を喜びあった。
今回の演習でカカシ・サスケ・サクラの3人がナルトの認識を新たにし、ナルトもまた3人の評価を改めた。
色々あったがそれぞれに得る物は有っただろう。・・・・・・・・・これから先、その株がどう転ぶかは分からないが・・・・・・。
「あ! ちょっと待った! 今日は合格祝いに先生が奢ってやる! 第7班は夕方6時に酒酒屋に集合!! 遅刻するなよ?」
3人を呼び止めたカカシは再び親指を立てて叫び、当然そろって『アンタが言うな!』とつっこまれ、今度こそ解散となった。
だが、雪印の下剤の入った弁当を食べた2人が無事な筈もなく。
サスケとサクラは謎の腹痛に襲われ、トイレから出ることが出来なかった。
その為ナルトとカカシは閉店まで、ずっと待ち続けたらしい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ自業自得だが。