NARUTO
〜九妖忍法帳〜 13話目
―演習場―
「やー諸君。おはよう!」
5時間近く遅れて来たカカシから謝罪の言葉は無く、いつも以上に眠そうな目で3人に片手を挙げた。
昨日は菊の花束を抱えオールナイトで雪の家を探していたのだが、途中で漸く演習の事を思い出し渋々切り上げてきたのだ。
「おっそーい!」
待ちくたびれたサクラが大声で怒鳴り、腕組みをしたサスケが無言で睨む。
5時間の遅刻、反省の無い態度、さらにカカシの言葉に従い朝食は抜いてきた。
そのため空腹が2人の怒りに拍車を掛け、カカシに対する黒い感情が沸々と湧き上がっている。
「いやー今日は目覚ましの調子が悪くてな・・・・・・」
しれっと真顔でウソを吐く担当に、新人2人は『この男に何かを期待するのはやめよう』と思った。
これでサスケとサクラはまた1つ大人になった。
一方ナルトは、そんな3人に背を向けて1人マイペースに忍具の確認をしていた。
ナルトも朝食は食べていないが、任務中はそんな事はざらにあるので慣れている。
去年の大晦日には周りの理不尽な仕打ちに暴走したが、ナルトは余計な事さえなければ温厚?な性格である。
今回は全員同じ条件なので、特に目くじらを立てたりはしなかった。
そして今日の演習が少しばかり楽しみになっていたのであった。
変態ではあるがカカシの実力は確かなものだ。
演習の内容は分からないが、実力を出さず能力を制限した状態で試行錯誤しながら合格と認めさせる。
下手な任務よりもよっぽど難易度は高い筈だ。
―クナイが4本、手裏剣・起爆札がそれぞれ20枚、兵糧丸が一袋・・・10粒あるな。
後はせっちゃんの調合した無味無臭の薬が3瓶・・・・・・
何だこれ・・・下剤?何でこんなもんが混じってんだ?・・・・・・まぁいいか。
う〜ん・・・使用する忍術は、変わり身・分身・影分身の3つだけにしとこう。
さーてこれでどうやって戦うかな?
地面に並べた忍具を前にワクワクしながら頭を捻っていた。 ・・・時折首を傾げてはいるが。
まぁそれはさておき、ナルトは基本的に物事を前向きに考えるようにしている。
本人の性格もそうだが、それがナルトの師匠の教えでもあるからだ。
『人生とは楽しんでナンボだ! 己の捉え方1つで、この世は天国にも地獄にも変わるもんだのぉ!』
かつて、師である自来也と出会ったばかりの頃。
豪快に笑う白髪の男から大きな掌で頭を撫でてもらった。
とても暖かかった。
『父親とはこんな感じなのか』、と蒼い瞳で自来也を見上げた。
続けて自来也はこうも言った。
『罵りなど意に介すな! 運命など打ち砕け! お前を愛する者を守り貫け!
それができるお前は他の誰よりも強い。 このわしが言うんだ! 間違いねーのぉ!!』
ナルトの頭に乗った手が、金色の髪を乱暴に掻き混ぜた。
すっかりボサボサになった髪を気に留めることもなく、ナルトの瞳は自来也を写し続けた。
そして大柄な男の目尻に、大きな光の粒を見る。
『三代目・・・この子を英雄として扱って下さい』
『ナルト・・・何もしてやれない・・・ダメな父親でゴメン・・・・・・』
旅先で三代目の手紙を受け取り、自来也は自分の弟子の最期の言葉を知った。
弟子の喪を弔う為に里に舞い戻り、そこで見た光景に目を疑った。
四代目の想いも虚しく、里はナルトを英雄ではなく化け物と蔑んでいた。
だがナルトは、里中の狂気の渦中に身を置きながら1粒の涙も流さなかった。
そして愚痴の1つも言わず、己の運命を悲観することもなかった。
そんな姿が自来也の胸を抉ったのだった・・・・・・・・・。
ナルトは自来也の言葉を胸の中で繰り返していた。
自来也の言葉はナルトの心に一石を投じた。
物心ついた時から泣く事を知らなかった子供は、同時に他の表情も乏しかった。
感情はあったが、それを表に出す事が出来なかった。
自分が笑えば大人達は顔を歪め拳を振り上げた。
自分が里を歩くだけで子供達は笑いながら石を投げつける。
もし泣くことができたら、『化け物が涙を流すのか!』とでも罵られるだろう。
そんな自分を庇い、心を裂いて泣いてくれる人もいた。
家族になろうと言ってくれた人もいた。
だが、
誰かを守れ。
守られる存在ではなく、守る存在となれ。
初めて言われたその一言が、心の奥に浸透していくのが分かった。
だからこそ、自来也を師と認めた。
自由奔放に生きながら、強い力と強い意志の両方を兼ね備えた自来也に憧れた。
いつか彼の様に強く、そして暖かい笑顔でみんなを安心させてやりたい。
その一心でナルトはそれまで以上に修行に励んだ。
それからというもの、僅か5歳の子供は他者が見れば自殺としか思えないような過酷な試練を己に課し始めた。
『主! これ以上傷付くな!! おぬしに死なれたら私は・・・・・・!!』
『これ以上強くならなくてもいいじゃない!! 私がアンタを守れるようになるから!!!』
『ナルト・・・! すまん! ・・・すまん!!』
『坊主! もうやめろ! このままじゃ死んじまう!!』
『ナルト君! お願い・・・だか・・ら・・や・・めて・・・・・・!!』
玉藻が、アンコが、三代目が、テウチが、アヤメが・・・。
当時ナルトを支えてくれた一部の者達が、涙を流し懇願したがナルトは耳を貸さなかった。
そして、
『みんな、泣かないで? ・・・強くなるから・・・大切なみんなが泣かなくていいように・・・絶対強くなるから・・・・・・』
自来也と修行の旅に出る前の日、ナルトは微かに微笑み、さらなる地獄に望んで足を踏み入れた。
感覚を研ぎ澄ます為、術で一時的に五感を1つずつ潰し、猛獣・毒蟲が埋め尽くす森に進んで身を投じた。
毒に対する耐性を身に付ける為、猛毒を塗った刃物で自らの体を貫いた。
チャクラの絶対量を上げる為、筋肉が裂けて細胞が壊死するまでチャクラを練り上げた。
度重なる恐怖と激痛の地獄をくぐり抜け、少年は伝説と謳われる自らの師に迫る程の力を手にした。
しばらくして修行を終え帰ってきたナルトは、自分の大切な者達に笑って見せた。
その顔はとても穏やかな、傍にいるだけで安心できるような柔らかいものだった。
『ほら! 笑えるようになったよ! これでみんな泣かなくてもいいよね!?』
その言葉を聞いた者達は声を上げて泣いてしまった。
この世の闇ばかり見て育った筈の幼子が、自分達に優しい言葉を掛けて笑ってくれた。
何にも負けずに真っ直ぐに生きる。
ナルトの心の在り方が何よりも強く、何よりもキレイで、誰一人として零れる涙を堪えられなかった。
本人は意識していないが、彼を愛する者達はそんなナルトの生き方に惹かれていたのだ。
『坊主! よく頑張ったな!!』
『ナルト君・・・・・・無事でよかった!!』
『ナルト! 心配させるんじゃないわよ!!』
『その通りだ!! 私など夜も眠れなかったのだぞ!!』
『こらこら! おぬし等、少しは手加減せんか!!』
自来也との修行を経て笑顔を手にしたナルトは、自分が愛し、自分を愛してくれる者達に揉みくちゃにされた。
『ねぇ師匠! ちゃんと笑えたのに何でみんな泣いてんの!?』
わけが分からずなすがままにされたナルトは、自来也の方へ顔を向けて必死で叫んだ。
『わはははは! 嬉しい時は泣いてもいいんだよ!』
額を抑えて高らかに笑う自来也だったが、手の平で隠れた目元にはやっぱり涙が浮かんでいた。
修行中はただじっと見守っていただけだが、傷ついたナルトの看病をしている内にすっかり父親の心境になってしまったのだった。
ナルトも旅の間の自来也の言葉はすべて胸に刻み、ずっと自来也の背中を見ていた。
旅の間で2人の間にはそれまで以上の師弟の絆が結ばれ、気が付けばナルトの師匠兼父親代わりとなっていたのだ。
ナルトが前向きな性格に育ったのも、自来也の影響によるところが大きいと言えるだろう。
まぁ余計な事まで教えてくれたお茶目なお師匠様ではあるが・・・・・・・・・・・・。
《・・・・・・随分と昔の事を思い出したものだな》
―ははは、あん時はみんなに泣かれて大変だったな・・・。
《わ、私は泣いていないぞ!!》
素直でない玉藻は焦って否定するのだが、心の動揺が直接ナルトに伝わっているため全然隠せていなかった。
―まぁ・・・そういうことにしといてやるよ。
荷物の点検を終え忍具をポーチに仕舞ったナルトは、玉藻に苦笑しつつ立ち上がりカカシ達に体を向ける。
「カカシ先生。 俺はいつでもいいよ」
「ん?そうか・・・。よし!12時セットOK!」
カカシは背負ったバックから目覚ましを取り出し、丸太の上に置いてアラームをセットする。
数分前に目覚ましの調子が悪いと言っておきながら、取り出した時計は正確に時を刻んでいる。
これはギャグなのか? つっこんでも良いのか? それとも人を馬鹿にしているだけなのか?
サスケとサクラには中々判断が難しいところだった。
カカシの破綻した人間性に顔をしかめる2人を無視して、カカシは試験内容の説明を始めた。
「ここに鈴が2つある・・・これをオレから昼までに奪い取ることが課題だ」
カカシがポケットから糸のついた鈴をつまみ出し、3人の前ににちらつかせる。
「もし昼までにオレから鈴を奪えなかった奴は、昼飯抜き!
あの丸太に縛りつけた上に、目の前でオレが弁当を食うから」
―朝飯食うなって・・・そういうことだったのね。
カカシは目覚ましを乗せた丸太を指差し、カカシの言葉を聞いたサスケとサクラは腹の虫が鳴いた。
―うわ〜、大人気ねぇ〜!
《あんなの担当とは主も大変だな。 それに、あの性格では雪の心は掴めんな》
ナルトはカカシの低い評価をさらに下げ、玉藻は主人に同情しつつ毒を吐いた。
「鈴は1人1つでいい、2つしかないから・・・必然的に1人は丸太行きになる」
カカシの指先で音を鳴らす鈴に3人の視線が集まる。
「鈴をとれなかった奴は、任務失敗ってことで失格だ!
つまりこの中で最低でも1人はアカデミーへ戻ってもらうわけだ・・・」
ここに来て初めて、カカシの眼光が鋭くなり、サスケとサクラは生唾を飲んだ。
ナルトは黒いジャケットを羽織り直し、地面を2〜3度つま先で蹴った。
「手裏剣も使っていいぞ、オレを殺す気で来ないと奪れないからな」
「でも!! 危ないわよ先生!!」
「まぁ本人がいいって言ってんだし構わんだろ・・・・・・黒板消し(改)は避け切れなかったけどな」
(ビキ!)
ナルトに悪気は無かったのだが、忘れていた恥を掘り返されてカカシの額に青筋が浮いた。
雪に好かれる為にはナルトに取り入る必要がある。
だが、カカシは基本的に大人気ない男なのでそれとこれとは話が別だった。
「世間じゃさぁ・・・実力の無い奴に限って吠えたがるんだよね〜・・・・・・
ま・・・アカデミー史上最年長のダブリはほっといて、よーいスタートの合図で始めるからな」
(ムカ!)
カカシの放った悪意のこもった矢が、見事ナルトの心臓に突き刺さった。
なるべく考えないようにしていたことをハッキリと告げられ、額に青筋が浮く。
そのままナルトはゴキゴキと右手の関節を鳴らしながら、前に出した左足に体重を乗せ体をゆらりと沈めた。
「そう慌てんなよ。まだスタートとは言ってないだろ」
「「!!!」」
ナルトが地面を蹴る瞬間に、カカシは一瞬でナルトの背後に移動して両腕の関節を極めた。
そして自分の姿を捉えきれず口を開けて驚く下忍達に顔の筋肉を緩めていた。
どこまでも大人気ない男だ。
仮にも里一番の忍がこんなのでは、三代目も気苦労が多い事だろう。
―うそ・・・・・・!まるで見えなかった。
―・・・これが上忍か・・・。
上忍の実力を目の当たりにしたサスケとサクラは、ナルトの腕を掴むカカシを凝視した。
ナルトはカカシの動きを完全に見切っていたが、第三者によって動きを封じられていたため動けなかった。
―・・・・・・すまん玉藻、おかげで頭が冷えた。
ナルトの動きを封じたのは玉藻だった。
体の内側からチャクラで負荷を掛ける事で、一瞬だけナルトの動きを制限したのだ。
《いや、私の方こそ出過ぎたマネをした・・・・・・許してくれ》
―本当に感謝してんだ、謝んないでくれよ。
《クスッ♪ 『どういたしまして』と言うべきだったかな?》
―ああ、違いねぇな・・・。
「「「・・・・・・・・・」」」
心を共有するもの同士で良い雰囲気になっていたが、この場で玉藻の存在を知っているのはナルトだけ・・・・・・。
しかも体内にいる玉藻の姿が見えるわけがないので、他の3人には1人微笑むナルトがイタイ人に見えていたりする。
その証拠にカカシも固めていた両手を放し、ナルトと距離を置いた。
「ナ、ナルト?アンタ・・・大丈夫なの・・・?」
腰の引けたサクラがおずおずと呼びかけ、ナルトは2人の花園から戻ってきた。
「ん?悪い・・・聞いてなかった。何の話だっけ?」
玉藻とのひと時で心洗われたナルトが唐突にカカシに話を振った。
「え!? ・・・えーと、オレを殺すつもりで来る気になったな? なったよな?
それからオレを認めてくれたかな? ・・・頼むから認めたって言ってくれ!」
だが急に話を振られたカカシは、それらしいセリフが思いつかずかなり慌てた。
「ま、まぁ、あれだ! これでやっとお前等を好きになれそうだ!」
「先生・・・意味が分かんねぇんだけど」
「ゴホン! とにかく始めるからな! よーいスタート!!」
カカシはナルトの指摘を無視し試験を始める事で強引に話を終わらせた。
「「・・・・・・・・・」」
サスケとサクラは顔を見合わせた後、顔をしかめながらもその場を散った。
取り残されたナルトはポリポリと頭を掻いて、林の中に向かったのだった。
「忍たる者―基本は気配を消して隠れるべし (よし、みんなうまく隠れたな。 ・・・しかしナルトの奴は気配がバレバレだな)」
上忍のカカシに掛かれば下忍の気配を掴む事など容易い。
基本に忠実なサスケとサクラを褒めてはいるが、隙を窺う2人のおおよその位置は把握してた。
しかしナルトに関しては、隠れていても気配で現在地が丸分かりだったのだ。
―こりゃあ噂通りみたいだな・・・。
ナルトのアカデミーでのダントツの低成績と、目の当たりにしたレベルの低さを照らし合わせ思わずため息を吐いた。
ワザと気配を隠さずに林の中へ隠れたナルトは、カカシとは違った意味でため息を吐いていた。
―昔師匠がやった試験と同じ内容だな。 ・・・どうしよう? 答え分かっちまったよ・・・・・・。
この試験は三代目から自来也へ、自来也から四代目へ、四代目からカカシへと受け継がれた、何気に伝統のある試験だったりする。
アカデミーを卒業したばかりの下忍が、上忍から鈴を奪うのはハッキリ言って無理。
鈴取りによって個々の技量を測るという目的も兼ねてはいるが、それはあくまでも建前である。
ナルトは自来也に話を聞いていたので、この試験の真意が分かってしまったのだ。
《ネタのバレた手品ほどつまらんものは無いな。どうするのだ、主よ?》
―確かにつまんねぇな。 ・・・鈴とっちまおーかな?
《クククッ、そうこなくてはな!・・・主の手並み、しかと拝見させてもらおうか?》
―・・・了解! 退屈はさせねぇよ。
ナルトは両手の指を十字に交差し、一体の影分身を作り出す。
「俺がカカシと闘り合ってる間に、こいつを弁当に盛っといてくれ」
ナルトはポーチから下剤の小瓶を出して影分身に渡した。
備えあれば憂いなし。忍に卑怯もクソも無い。
不意打ち騙し討ちは当たり前。
使えるモンはすべて使うのだ。
「よろしくな」
もう1人の自分に目配せをして、ナルトはカカシの元へ飛び出した。
「どーも」
カカシが声の方向に目をやると、ナルトが片手を挙げて立っていた。
「どーもって・・・あのさぁ・・・お前ちっとズレとるのぉ・・・・・・」
「ははっ、その髪型のセンスほどじゃねぇよ」
「忍の基本は気配を絶っての隠密行動だ。 お前みたいに、堂々と敵の正面に出てくるもんじゃないよ」
「どの道気配消すのは苦手だし、先生も俺の位置は分かってたんだろ?」
「・・・・・・まぁな」
ナルトが軽い口調で吐いた嘘を真に受けて、カカシは一瞬だけ右目を細めた。
実際ナルトがその気になれば、カカシ程度では気配を捉える事などできない。
本気のナルトの気配を捉える事が出来るのは五影クラスの忍だけ。
完全に察知できるのは玉藻か自来也ぐらいのものだろう。
―考え無しのおバカさんかと思ったら、そうでもないみたいだな・・・・・・。
何気に失礼な感想だが、ここに来て初めてカカシは忍としてのナルトの評価を改めた。
―あのウスラトンカチ・・・・・・何考えてやがる・・・。
その一方で木の枝の陰から様子を窺っていたサスケには、ナルト達の会話は聞こえなかった為ナルトの行動が理解できなかった。
反対側の茂みに身を伏せたサクラも、それは同様だった。
ともあれ、サスケとサクラ、2人の観客を前にナルト達の戦闘が始まる。
「忍戦術の心得・その1、体術!!・・・を、教えてやる」
「うす! ・・・・・・・・・ってコラ!」
気合の入った声を上げ構えを取ろうとしたナルトだが、若干の間を開けてつっこみを入れた。
カカシは腰元のポーチをあさり一冊の文庫本を手に取ると、パラパラとページをめくり読書に耽る。
取り出した本はナルトの師匠こと自来也著作、ご存知カカシの愛読書『イチャイチャパラダイス・中巻』であった。
子供達(約一名除外)の目の前でエロ小説を読むのは、教育者としてどうだろう?
「? どうした、早くかかって来いって」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
完全にナメきった態度のカカシに、ナルトは冷えた視線を投げ掛けた。
「あ、これか?・・・ま!別に気にすんな・・・
お前等相手じゃ本読んでても関係無いから」
ナルトの実力を知らないカカシは軽蔑の視線を意に介さず、小説が濡れ場に差し掛かり赤面していたりする。
《・・・・・・あ奴に己の浅はかさを後悔させてやるがいい!》
カカシの暴言に真っ先に反応したのは、主人にベタ惚れの玉藻。
ナルトに伝わったイメージは、おろし金で摩り下ろされるカカシだった
―・・・・・・言われなくてもそのつもりだよ!!
馬鹿にされた本人は、カカシの態度と読んでる本が気に入らない。
自来也は認めているが、書いてる本までは認めていなかった。
阿吽の呼吸で両者の意見は完璧に一致。
とは言え、あまり実力を出しすぎても後が面倒だ。
ひとまず『カカシの態度を改めさせる』、それがナルトの課題となった。
「・・・・・・・・・」
だらしなくニヤつくカカシに向かって、ナルトはゆっくりとした動きで歩を進める。
カカシは本を読みながらも目の端でナルトの動きを追っていた。
が、
「!!!」
突然土煙が上がると、カカシの視界からナルトの姿が消えた。
「まずは挨拶代わりだ!!!」
下忍では到底不可能な速度。一瞬で背後に現れ、セオリー無視の廻し蹴りを一閃。
―速い!!!
横っ面を目掛けて飛んでくる蹴りのスピードは、明らかに中忍クラスのものだった。
空を斬った右足がカカシの髪をかすめ、数本の銀髪が宙を舞って地面に落ちた。
「・・・チッ!」
ナルトは舌打ちしながらも口元は笑っていた。
―どういうことだ?この子の成績は目も当てられない程ヒドイ筈だった
体術の成績は確かに良かったが、今の・・・スピードだけなら中忍並みだぞ・・・・・・?
カカシは予想外の事態に困惑した。
ほんの一瞬だけとは言え、上忍が下忍の姿を見失うという失態。
資料と一致しないナルトの実力に、酷く違和感を感じ始めた。
―・・・・・・アカデミーの評価が正当なものじゃなかったのか・・・・・・。
ナルトは九尾の器として里中から疎まれている。
それによってアカデミーの教師達が、正当な評価を下さなかったと判断する。
「先生、余所見してると危ねぇぞ?」
表情が曇ったカカシを気にせず、戦闘の続行を主張し構えをとるナルト。
―こりゃあ、遊んでやれる相手じゃないな・・・・・・。
気を取り直し、本を閉じてポーチの中に仕舞う。
「少し見くびってたよ。 ・・・・・・今度は自信を持って言える! やっとお前を好きになれそうだ」
「そいつはどうも」
カカシはアカデミーを卒業したばかりの下忍相手に、カカシの気分は高揚していた。
人格を抜きにすれば彼は優秀な忍。
幾多の死線をくぐり抜けた感が、この少年は強敵だと告げている。
最初は嫌々担当になったのだが、本当の意味で楽しくなってきたカカシだった。
そして表情を引き締めたカカシを見てナルトは再び口元を吊り上げ、最近下がりっぱなしだったカカシの評価を少しだけ上げてやった。
「す―――っ・・・・・・」
そしてナルトは空を見上げ大きく息を吸い込み、息を止め・・・・・・・・・、
「っしゃあぁ!! いくぞ!!!」
取り入れた空気で膨張した肺を一気に収縮させた。
「来い!!」
空気が震えるようなナルトの咆哮に、カカシも滅多に上げることのない咆哮をもって応えた。
忍同士の戦いでは絶対に有り得ない光景だが、両者はより一層闘志が高まっていった。
攻めるはナルト、守るはカカシ。
ナルトはカカシの間合いへ踏み込み、膝を胸元まで引き上げる。
―前蹴り! 狙いは喉元!!
カカシは先を読んでナルトが膝から先を伸ばす前に、足の裏でナルトの脛を押さえた。
―残念!!
だがナルトはカカシのズボンの裾を掴み足首を脇に抱えると、ふくらはぎを下から膝で固定して脛に向かって肘を降り下ろした。
「甘い!!」
直撃すれば間違いなく骨が砕ける一撃。
カカシはナルトの肘に、横合いから掌底を入れることで攻撃の軌道をずらした。
「はっ! まだまだぁ!!」
肘打ちを逸らされたナルトはすぐに抱えていた足を離し、掌底で伸びたカカシの腕を捕らえた。
その腕を引き込むと、ガラ空きになった横腹を中段の廻し蹴りで狙う。
「チッ!」
腕を押さえられた状態のカカシは、膝を引き上げてナルトの脚を受け止める。
だがナルトの蹴りを止めた瞬間、奇妙な違和感を感じた。
―何だ!? ・・・・・・軽い?
ナルトのスピードは中忍と比べても何ら遜色のないものだ。
だがスピードの割には重さが乗っていなかった為、威力の方は大したことはなかった。
ナルト本来の体術は、有り余るスピードに体重と大量のチャクラを乗せて打ち出すスタイル。
それによって桁外れの破壊力を有している。
だがそれをやると絶対に怪しまれるので、スピードを押さえた上に体重を乗せない攻撃を繰り出していた。
『スピードはあっても威力はない。 その弱点を補う為に急所を狙った攻撃で戦う』
『弱すぎても怪しまれるので、適度に長所と短所を織り交ぜる』
それが最近ナルトが考えた『下忍となったナルト』の設定だった。
―ウソでしょ! 何でナルトがまともに闘り合ってんのよ!?
サクラは上忍を相手にしたハイレベルな攻防に目を奪われていた。
ついこの間までのナルトからは考えられないような強さ。
明晰な頭脳を誇るサクラも、この異常事態には思考が追いつかなかった。
―・・・バカな! あのスピードはオレと同等・・・!!
ドベのナルトが自分に匹敵するものを持っていた。
サスケは屈辱に拳を握り締めていた。
アカデミーでは常にトップの座をキープし、これからもそうだと思っていた。
もし敵わない相手がいたとしても、いずれは追いつく自信が有るのでそれほど気にすることはなかった。
例え相手が上忍であってもそれは不変のものだった。
だが、ずっと見下していたナルトに追いつかれるなど、彼のプライドは許さない。
―・・・まさか、オレよりも! ・・・っ! そんな筈があるか!!
頭を振って胸に過ぎった1つの不安を無理やり打ち消す。
エリート意識の強いサスケは現実を受け止める事が出来ず、独り激しい焦燥感に駆られていた。
サスケとサクラが混乱する中、ナルトとカカシはいったん間合いを外し川岸で睨み合っていた。
両者の距離はおよそ10メートル。
警戒を怠れば一瞬でやられる。
自然体ではあるが、お互いに油断は無い。
「喉・脛・アバラ・・・・・・お前が比較的脆い場所を狙っていたのはそういうことか」
カカシはナルトの狙い通りの解釈をしてくれた。
「汚ねぇ・・・・・・とか言わなぇよな?」
髪をかき上げながら挑戦的な視線を投げる。
忍の戦いに正々堂々など当てはまらない、実際に殺ったもん勝ちというのが現状である。
戦乱の時代を生き抜いたカカシに、それを責める気は無い。
むしろ忍の在り方をよく理解しているナルトに驚嘆していたぐらいだ。
「敵の急所を狙う・・・、殺し合いの基本中の基本だ。 弱点を補う為によく考えたな」
初めに言ったように、体術に関するレクチャーを始めるカカシ。
「だが・・・・・・、お前の攻撃が急所にしか来ない以上、同じ相手に2度目は通用しない」
欠点を指摘する言葉とは裏腹に、カカシのナルトへの評価は鰻登りだった。
今までは『師の息子』『雪の弟』としてナルトを見ていたのであって、ナルト個人を見ていたわけではなかった。
しかし戦っているうちに、いい意味で予想を裏切ってくれたナルトに段々興味が湧いてきた。
《主も楽しそうで何よりだ》
鈴取りが始まってから、黙ってナルトの行動を見守っていた玉藻が何気なく呟いた。
―この程度の力しか出さないんじゃ、けっこう難しいかもな・・・・・・鈴。
《クク・・・心にも無い事を・・・》
ナルトの満足感・昂揚感を感じてご満悦の玉藻、これだからナルトの内側は止められない。
―じゃあ、続きをやりますか。
ナルトは拳を打ち鳴らし、カカシに向かって突進していった。
ここに『ナルトVSカカシ』の、第二ラウンドの火蓋が斬って落とされた。