NARUTO
〜九妖忍法帳〜 10話目




―アカデミー校舎の裏・雑木林―

人気の無い雑木林。

『好きな男の子に告白したら想いが届く』

そんな有りがちなジンクスが昔からアカデミーで伝わる場所。

でもここで【うちはサスケ】に告白した女の子は、全員が完膚なきまでに振られた。

ついでに大分前だが、同じくここで告白した【A・S】さんは【K・U】さんに相手にもしてもらえなかった。

だが、それでもジンクスを信じて告白する女の子が後を絶たない場所である。

そんな場所をメッチャ場違いな2人組が歩いている。

1人はタバコを咥えた大柄でヒゲ面の男。

もう1人はヒゲ面の後ろを歩く金髪の少年。

ヒゲ面は今にもスキップしそうなほどご機嫌だが、金髪の少年の方は眉間に皺が寄り額に血管が浮いている。

・・・・・・言わなくても分かると思うが、アスマとナルトである。

昼休みも後残り15分。

ナルトはアスマに『大事な話があるから』と言われ、渋々だがこの場所に連れて来られた。

職員室でアレだけの騒ぎを起こしたにも拘らず、張本人であるアスマはまったく気にも留めていない。

あれから校長は病院に担ぎ込まれ、他の職員達は半壊した部屋の後始末に追われている。

・・・・・・それにしても。

昨夜あれだけ夜空が『遠くから見守れ』と念を押したのに、何故この男はこうも直接的な行動に出るのだろう?

まぁそれは多分アスマにしか分からない。









ナルトは職員達がどうなろうと知ったことではないが、シノ・ヒナタとの平穏な一時を邪魔された事にはかなりムカついている。

だが呼び出された理由が気になり、歩きながら考える。

―俺が九妖だってバレたのか? ・・・いや、それは無いな・・・。
 こいつには前にヤキ入れたし、俺の正体に気付いてんならこんな嬉しそうにするわけがねぇ。

アスマは紅との一件で、九妖を親の敵の様に嫌っているのでその可能性は薄い。

考えれば考えるほど、ますます理由が分からなくなってきた。

しきりに首を捻っているナルトだったが、物事を深く考えるのは嫌いなのですぐにやめた。

そしてもしも下らない用件で呼び出したのなら、この場でアスマを始末しようと心に決めた。

その証拠に歩きながら背後に組んだ掌にチャクラの渦を作り、いつでもブチ込める様にしっかりと準備をしている。

そんな中でアスマが足を止め、ナルトの方に体を向ける。

「イキナリで何だがな・・・・・・」

―本当に何の前フリも無く、突拍子も無い行動に出やがって・・・・・・。

そう思ってチャクラを更に圧縮し始めた。

だがアスマはそんなナルトの様子に気付かずに、照れくさそうに人差し指で鼻の下を擦って

「今日からオレの事をアニキと呼べ!」

胸を張り親指で自分を指しながらそう言い放った。


―・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?


ナルトは頭が真っ白になった。

同時に、準備していた螺旋丸は見事に霧散した。

「・・・どうした? 遠慮はいらねぇぞ?」

不思議な事を言っているのは自分なのに、さも不思議そうな顔で、固まっているナルトに手を伸ばす。

アスマの手が触れようとした瞬間、固まっていたナルトはすぐさま立ち直って冷や汗を掻きながらアスマから後ずさった。

そしてナルトは思った。

この男は何を言っているのか?

前々から救い様の無い変態だったが、遂にソッチに目覚めたのか?

紅さんにフラレたショックで逝ってしまったのだろうか?

いやそれはない。 この男がフラレた事実を認めるわけがないのだから。

だったら何故に俺がこの男をアニキなどと呼ばねばならんのか?

と言うかそれ以前になんで俺の事を知っているのだ?

色々と分からない事だらけだが、この男はヤバイ! そして後ろの純潔が危ない!

それだけは確かだと思った。

ナルトは完全に誤解しているが、アスマは別にそういう意味で言ったつもりはないのだ。

カカシや紅同様にうずまき一家の面々にある事ない事吹き込まれて、

ナルト=紅の弟の様な存在 + 自分=紅の恋人 ⇒ 自分 + ナルト=将来の義兄弟

と、元から出鱈目な情報に妄想と脚色が混ざって更に出鱈目になり、大体こんな感じの方程式が出来上がっているのだ。

だが、自分家の居候がそんな余計なお節介をしてくれた事など全く知らないナルトにしてみれば、

アスマ=変態  目覚めた変態=薔薇  薔薇=○○ル  ア○○=死んでも嫌だ!!

こんな具合に認識をしたのだ。

若干涙目になりながら、兎に角自分の純潔を守る為必死でアスマの腕を掻い潜る。


「うずまき何故だ!? 何故逃げる!!?」


アスマはアスマで、ナルトが逃げるのでムキになって捕まえようとしている。


「当たり前だ!! 何考えてんだよ!!!」


ありったけの大声で叫びながらアスマ手を捌き続けるナルト。


「アニキと弟のスキンシップに決まってんだろ!!!」


そもそも赤の他人にスキンシップもクソも無い筈だが、それを当たり前の様に強要するアスマ。


「ふざけんな!! 俺にそんな趣味はねぇ!!
 何が悲しゅうて処女散らさにゃイカンのだ!!!」



薔薇に対する嫌悪感剥き出しのナルト。

それでアスマが漸くナルトの誤解に気付いた。


「バ、バカ野郎!!! そういう意味じゃねぇよ!!!」

「他にどんな意味があんだよ!!?」



説明も無しにこんな場所に連れてこられて、そのうえアニキと呼べなどと言われれば誰だって誤解する。

しかもここは、アカデミーでも恋愛成就のジンクスで有名な告白スポットとなっている。

・・・・・・・・・まぁナルトはそんな物信じていないが。

はたして恋のキューピットが男同士の恋愛成就にも力を貸してくれるのかは疑問だが、アニキ発言と連れてきた場所がマズイ。

必死に誤解を解こうと試みるアスマだったが、ナルトは一向に耳を貸さず逃げ続けた。









―5分後―

「「はぁーはぁーはぁーはぁー・・・」」

別に怪しいことをしたわけではないので誤解のないように・・・・・・。

と、まぁ冗談はさておき。

ナルトは精神的な疲労から、アスマは肉体的な疲労から、互いに息が上がっている。

アスマは何故上忍の自分が高々下忍を捕まえられないのか少し疑問に思ったが、このままでは埒が明かないと思い捕まえるのは諦めた。

「・・・・・・わかった、ひとまず落ち着こうじゃねぇか」

乱れた息を整えその場に腰を下ろし、アスマが休戦の申し出をする。

「・・・・・・・・・・・・・・」

ナルトはまだアスマを警戒しているので、いつでも逃げれるように距離を置いて立っている。

「・・・・・・まず、あんた誰?」

アスマをジト目で睨みながら、知ってはいるが一応名前を問う。

「ふー・・・そう言や自己紹介がまだだったな・・・オレは猿飛アスマってんだ、今日から下忍の担当をすることになった」

胡坐を掻いて地面に座り、懐から取り出したタバコに火を着け紫煙を吐き出しながらアスマが応えた。

―それを最初に言うべきだろ・・・・・・まさか俺の担当じゃないだろうな?

ナルトは心の中でツッコミを入れながら、最悪の事態が頭を過り思わず眉間を押さえた。

「・・・・・・あんたが俺の担当?」

目を細め嫌そうに尋ねるナルト。

チームメイトはサスケとサクラな上に担当上忍がアスマでは最悪過ぎる。

その面子だけは何としても避けたかったので、僅かな希望を込めてそう尋ねた。

「いや・・・残念ながらお前の担当はオレじゃねー」

否定の言葉が出たので少し安心したが、疑問は余計に深まる。

「じゃあ・・・何で俺のことを知ってんだ? それに・・・」

自分は里の嫌われ者である意味有名だし、アスマが名前を知っていても不思議ではない。

ナルトはアスマが14年前の事件に特別な感情を抱いていない事は知っている。

しかし担当でないのなら、自分を探す理由など見当もつかない。

それに・・・・・・・・・、

「いきなりアニキって一体何考えてんだよ?」

どう考えても、アニキなんて単語が出てくるとは予想できないだろう。

「はっはっはっは!! いやいや悪かった! 説明が足りなかったな!」

当たり前である。

「んで、理由は?」

とにかく理由の気になるナルトはアスマに話の続きを促す。

「いや、紅がお前を弟みたいに可愛がってるって聞いてな
 恋人の弟だったら、オレにとっても弟みたいなものだろ? だからちょっと挨拶に来たわけだ!
 ああ、言い忘れたがオレと紅は将来を誓い合った仲だ。 気軽にアニキって呼んでいいぜ?」

キッパリそう言い切って、某熱血上忍の様に歯を光らせてにこやかに笑うアスマ。

ナルトは、アスマの言葉を聞き頭を抱えていた。

以前、紅には里の連中にヤラレた時に世話になったし、その後も町であった時は優しくしてもらっている。

【九妖】としては18禁な関係なので少し複雑だが、紅が【ナルト】としての自分のことを弟の様に思ってくれているのなら、それはそれで嬉しい。

だが紅がそれをこの男に話したとは考えられない。

おそらくどこかでそれを聞きつけた自称紅の将来の夫がであるアスマが、妄想で事実を捻じ曲げ自分を義弟だと思い込んでいるのだろう。

そう考えて一つの結論を導き出し、とりあえず貞操安全が保障されたことに安堵の息を吐いた。

そしてナルトは、なるべくアスマを刺激しない様に丁重にお断りすることにした。

「折角の申し出ですが、間に合ってますので結構です」

頭を深々と下げ、言いたい事を言ってすぐに逃げようとしたのだが・・・・・・、

「へへっ! 照れなくても良いんだぜ?」

アスマに回り込まれて逃げられない。

しかも不意打ちだったので両肩を掴まれてしまった。

それを振り解こうと必死なナルトだったが、肩を掴む手に込められた力が尋常ではない為ビクともしない。

さらにナルトの意見などまったく聞かず、顔を近づけて期待に満ちた瞳を向けてくる。

「い、いや本当に間に合ってますって!」

さっきの恐怖がぶり返してきたのか、ナルトは全身に鳥肌が立つのを感じた。

「はははは、紅と一緒で素直じゃねーなぁ・・・よーし!」

心の底から迷惑する紅に、長年ストーキングしていたのは伊達じゃない。

アスマは相変わらず都合の良いように解釈して、両手を広げてナルトを力いっぱい抱きしめようとしたが、

―両手が外れた!!今がチャンス!!!

そんな絶好の機会をナルトが見逃す筈も無く、一目散に校舎を目指して走り去る。









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・筈だったのだが。

「ぶっ!」

アスマに足を掴まれて勢いよくうつ伏せに転んでしまった。

落ち葉がクッションになったので痛みは無かったが、頭から着地したので顔は泥だらけである。

口に入った泥を吐き出していると、背中に纏わり付く視線を感じ再び硬直した。

地面に這いつくばったナルトが『ギギギッ!』と、油の切れたブリキの様に恐る恐る首だけで後ろを振り向く。


「いくら恥ずかしいからって逃げなくてもいいじゃねぇか・・・・・・なぁ、うずまき?

―げぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!


アスマが視界に入った瞬間、ナルトは滝の様な汗を流した。

何故なら『これでやっと目的を果たせる』と、いやらしく口元を歪めたアスマがヒゲを撫でながら自分を見下ろしていたからだ。

「さぁ義兄と義弟のスキンシップをしようぜ」

―お、犯される!!!!

アスマは倒れたナルトを、仰向けにひっくり返して馬乗りになる。

そしてワキワキと何かを揉む様な手つきで、ナルトに手を伸ばした。

ナルトはとっさに螺旋丸を打ち込もうとしたが目の前の変態のせいで、気が散ってチャクラを集中できない。

精密なチャクラコントロールが必要な螺旋丸を放つには、ナルトの精神状態は最悪だった。

焦らずに普通に体術で戦えばいいのだが、込み上げる生理的嫌悪感で完全にパニックになったナルトには考えつかなかった。

その間にもアスマの魔の手が徐々にナルトに迫ってくる。

まさに絶体絶命!

だがそこへ救世主が現れた!


「止めんか変態野郎―――――――ッ!!!!!」


「ぐおぅ!!!」



突如現れた紅のとび蹴りがアスマの側頭部にクリーンヒットし、ナルトの上に乗っていたアスマは林の中に吹っ飛んでいった。

「私が来たからにはもう大丈夫よ!!」

絶体絶命の危機に颯爽と現れた女神様は、ナルトを胸に抱き寄せて微笑んだ。

去年の忘年会ではナルトが紅を救ったが、今回は立場が逆になった。

吹っ飛んだアスマは、とび蹴りがいい角度で決まり完全に気を失っている。

「あの・・・・・・紅さん、助けてくれてありがとう」

状況がいまいち掴めないものの、ナルトは紅に心からの感謝を述べた。

ちなみにナルトは九妖の時同様に紅をさん付けで呼んでいる。

「でも、どうしてここに?」

紅に手を引かれて立ち上がりるナルト。

転んで服についた泥を紅に叩いてもらい、少し照れくさかった。

「さっき、放送でアナタの名前が呼ばれたから職員室に行ってみたんだけど。
 アスマがアナタを連れて行ったって聞いて、何だか嫌な予感がしたの・・・・・・」

取り出したハンカチでナルトの顔を拭いてやったりと、甲斐甲斐しく世話を焼きながら紅がここに来た経緯を説明する。

紅が放送を聞きつけて職員室に駆け込んだ時は、既にアスマがナルトを誘拐した後だった。

アスマのおかげで騒ぎの収拾に大忙しの職員室。

紅は男性教師の1人に事情を聞こうとしたが、ナルトの名前を出して忌々しそうに顔を顰められた。

うずまき一家に吹き込まれたことを抜きにして、紅はナルトを可愛がっていた。

だから紅はその男のナルトに対する態度が癪に障り、作業に戻ろうとするところをひっ捕まえて念入りにヤキを入れた。

『やめて!』と懇願する男を容赦なくはり倒し、そのままゲシゲシと蹴りを入れ、そのまま倒れた男を踏みつける。

男は若干嬉しそうにビクビクと痙攣していたが、遠くで見ていた同僚達が慌てて止めに入った。

紅の怒りを納める為に懸命に地に頭を擦り付けて土下座をする職員一同。

そして土下座したままで、紅が聞いていた事情を事細かに説明した。

怒りは収まらなかったが、事情を聞いてナルトの危機を知った紅はドアをブチ破って走り出した。

後に残されたのは幸せそうに痙攣する男と、呆然と土下座する職員達。・・・・・・そして紅に壊されたドアだけだった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

話を聞いて紅が自分の為に怒ってくれるのは嬉しかったが、そこまでやるとは予想できずナルトは少し顔を引き攣らせた。

「気にしなくて良いのよ? アナタは私の義弟になるんだから・・・♪」

青ざめたナルトを余所に、九妖との結婚式やら新婚生活やらを想像し頬を染めて体をくねらせる紅。

「・・・・・・・・・弟になる?」

ナルトは疑問に思った。

―俺を弟のみたいに思っているんじゃなくて、これからなる予定とは一体?
 しかも微妙に言葉のアクセントが違うし・・・・・・・・・はて?

「あの紅さん・・・弟になるってどういう意味なの?」

何か聞かない方が良さそうな気がしたが、聞かずにはいられなかったのでナルトは尋ねた。

「ナルト? ・・・アナタ雰囲気が変わったわね・・・。 まぁいいわ・・・」

紅の前で素の自分を出すのは初めてだが、紅は九妖との夜の営みについて考えていたりするので別に気にしなかった。

果たして上忍がそれで良いのだろうか?

「あのね、私、あなたのお兄さんと結婚するの」

そんな事実など何処にも無いのだが、紅の脳内では既に決定しているらしく、何の迷いも見せずに言ってのけた。

―・・・・・・・・・・・・・・・兄? 兄って誰? 俺にそんなん居たの!?
 いやいやいや! 居るならジィさんとか師匠も知ってるだろ!? そんなの聞いた事ねぇぞ!?
 でも紅さんマジで言ってるみたいだし・・・・・・まさか親父の隠し子!?

ナルトは誰の事を言っているのかが、分からなかった。

自分に兄が居るなど知らないし、そんなこと聞いた事もなかった。

うずまき一家のしたことを、まるで知らないナルトには当然の疑問だ。

暫く、まだ見ぬ兄を考え1人で唸っていたが、そんなモン元から居ないのだから答えが出るわけがない。
ナルトは一人で考えていても仕方が無いので、紅に聞いてみる事にした。

「あのさ・・・・・・紅さん、誰のこと言ってんの?」

「え? 九妖のことよ? アナタとは兄弟みたいなものだって聞いたけど?」

雪に吹き込まれたことを欠片も疑っていない紅は、ナルトが聞き返してきた事が不思議だった。

しかしナルトは絶対に出てくる筈の無い名前が出てきて、余計に訳が分からなくなった。

―兄弟と言われればある意味そうかも知れんが、それ以前に本人だし・・・・・・・・・。
 というか俺の知らないところじゃそういうことになってんのか?
 ってか結婚って・・・俺そんな約束したかな?

今日は本当に理解に苦しむ事が多すぎる。

アスマのアニキ発言といい、紅の言った事といい。

うずまき一家は良かれと思ってやったのだろうが、ナルトにしてみれば分からない不可思議なことが立て続けに起こり、頭がパンク寸前だった。

だが、

「ナルト! もう昼休み終わってるわ! 急ぐわよ!!」

「う、うん?」

「ああもう! シッカリ掴まってなさい!」

紅は生返事を返すだけのナルトを素早く脇に抱え、落ち葉を巻き上げながら校舎を目指した。

紅もナルトも気絶したアスマなど完全にほったらかしである。

・・・・・・・・・結局謎が謎を呼んだままでナルトの昼休みは終了することになった。







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