NARUTO
〜九妖忍法帳〜 09話目
―アカデミー・中庭―
俺・シノ・ヒナタの3人は、なるべく人の集まる場所を避けて食事を摂ることにした。
シノもヒナタもあまり騒がしいのを好まない性格だし、俺としても日頃から非常識な居候達と騒がしい(主に夜空)食事を朝晩と送っているので、せめて昼食ぐらいは静かにのんびりと食べたいのだ。
俺達は中庭の隅にある芝生の上に陣取り、広げたシートの中央に置かれた弁当を囲むように互いに向かい合わせに座っている。
ヒナタは最初から3人で食事をするつもりだったらしく、俺とシノの分の弁当を作ってきてくれていた。
俺は普段はせっちゃんに弁当を作ってもらっているのだが、そのせっちゃん達は昨日の夜から任務だったらしく今日の明け方に帰ってきた。
そしていつもは騒がしい夜空が胃を押さえてゲッソリしていたので、『大変な任務だったんだろうなぁ』と思い、さすがに弁当を作ってくれとは言えず、俺の弁当と皆の朝食を作ろうとしたせっちゃんに『今日は家の事はいいから休んでてくれ』と言ってそのまま家を出た。
だから昼飯は購買の方で買うつもりでいたので、ヒナタがのおかげでとても助かったのだ。
ちなみにシノも同じように弁当は持って来ておらず、購買で買うつもりだったようだ。
・・・と、そんなことよりも。
先程から良い匂いがする上に空腹も手伝って、俺の視線は目の前に置かれた弁当に釘付け。
お預けをくらった犬の心境が手に取るようにわかる。
そんな俺の心を察したのか、シノが肩を竦めながらヒナタに視線で合図を送ってくれた。
「それじゃあ、いただきます・・・」
行儀良く正座したヒナタはシノに促されて少し苦笑しながら、両手を合わせて食事の挨拶をした。
「いただきます!」 「・・・いただきます」
俺とシノも正座こそしていないものの、ヒナタに習って両手を合わせて後に続いた。
早速弁当のふたを開け紙袋から割り箸を素早く抜き取り、オカズを拾い上げて口に放り込む。
ちなみに今俺が食っているのは定番の玉子焼きだが、ふんわりとしていて甘さも程よく、実に俺好みの味だ。
まだ最初の一品目なのに、12歳とは思えないあまりの腕前に思わず感動してしまった。
でもヒナタがえらい剣幕で俺の方を凝視し、ゴクリと喉を鳴らしたのが気になった。・・・・・・その目元に浮かんだ筋は何? もしかして白眼?
「これ全部、ヒナタが1人で?」
「う、うん・・・一応・・・・・・もしかして・・・美味しくなかった?」
ヒナタが両手を胸の前で組んで、有り得ないことを不安気に聞いてきた。
「何言ってんだヒナタ? これが不味いんだったら、大概のモンは食えたモンじゃないぞ?」
「ナルト言うとおりだ・・・・・・実に見事なものだ・・・・・・」
左手に弁当箱を持ち右手に箸を持ったシノも、真剣な顔で俺の意見に同意を示す。 ただシノ・・・頬に米粒付いてんぞ?
「よ、よかった・・・」
弁当の評価が好評だったため安心してくれたようで、ヒナタは大きく息を吐いて胸を撫で下ろしていた。
「これだけ料理上手だったら、すぐにでも嫁に行けるな」
少々親父くさいと思ったのだが、頭に浮かんだことをストレートに口にしてみた。
「え、ええ!?」
だがウブなヒナタ相手には少しマズかったようで、ポンっと音を立てて茹蛸のよう真っ赤になってしまった。
しまった・・・もう少し言葉を選ぶべきだったな。 ・・・もしヒナタが俺の本性(夜の)知ったら卒倒しちまうんじゃねぇかなぁ・・・・・・。
俺は次から、ヒナタと話す時は言葉に気を付けようと堅く心に誓った。
「ごめんなヒナタ、親父くさいこと言っちまって・・・」
自分の失言を反省した俺は、ヒナタを落ち着かせようと思ったのだが・・・。
「ナルト・・・・・・お前が貰ってやったらどうだ?」
何を思ったのかは知らんが、相変わらずの無表情で自分の幼馴染に冷静に追い討ちを掛ける蟲使いの末裔により、事態は更に悪化してしまった。
―シノ君。 君はいきなり何を仰っておられるのですか?
俺に向けられたサングラスの奥に隠れた瞳が、禍々しくギラリと光ったような気がした。・・・・・・が、それはたぶん気のせいだと思いたい。
とにかくシノの一言でヒナタは赤くなった顔が更に真っ赤に染まり、頭から湯気を出して固まってしまった。
と思ったら、ガバッと立ち上がって走り出し、少し離れた場所で急ブレーキを掛け、その場に座り込み足元の芝生をえらい勢いでむしりながら何やらブツブツと独り言を言い出した。
―私がナルト君のお嫁さん!!? イキナリ、そんな事言われても・・・!!! でも全然嫌じゃない!! もしそうなったら嬉しいなぁ・・・
でもでも、ナルト君元々カッコいいし卒業して落ち着いたって言ってたから、私以外の女の子達ももしかしたら好きになっちゃうかも・・・。
それにいのちゃんもいつもはサスケ君サスケ君って言ってるけど、今日はナルト君のことずっと見てたし・・・・・・まさか!? いのちゃんも!!?
いのちゃん明るいしスタイル良いし顔だって私よりも可愛いし・・・いのちゃんが本気になったら私なんかじゃ敵わないなぁ・・・・・・・・・。
でもでもでも!!! 他の事では負けたってナルト君だけは絶対に諦めない!!! いのちゃんとは良いお友達でいたいけど・・・・・・・・・。
もしもナルト君に迫ったら・・・その時は! でもでもでもでも!!! そうなったら・・・お父様が何て言うか・・・最悪ナルト君が殺されちゃうかも・・・。
座り込んだと思ったヒナタが、急に拳を握って勢い良く立ち上がる。
かと思えば力なくその場にへたり込んだりと、立つ、座る、を交互に繰り返して、傍から見ていれば高速でスクワットをしているようにしか見えない。
俺達には背中を向けているため表情は見えないが、あの様子から察するに自分の中の何かと葛藤しているのだろう。
その背後に灼熱の炎や凍てつく猛吹雪が交互に浮かんでは消えていたが、それは俺が疲れていたため偶然見えた幻だと思われる。
ちなみにヒナタの呟きは俺には聞こえなかった。
俺の聴覚はシノほどではないが常人よりはかなり優れている筈なのだが、ヒナタの呟きは何と言うか本能が聞くのを拒絶しているような感じで、いまいち聞き取ることが出来ない。
唯一俺を癒してくれる筈の女の子から、不穏なチャクラを感じるのはひどく悲しいものがある。
しかもそのチャクラが、脳内妄想に突入した時のアスマにそっくりなのが尚更悲しい。
俺ではどうしようもないので隣のシノに助けを求めたのだが、
「気にするな少し旅に出ただけだ、・・・・・・じきに戻ってくるだろう」
の一言で斬って捨てられ、自分は幼馴染を放っておいて呑気に食事を再開しやがった・・・。
一体何処に旅立ったのか? 旅の目的は何なのか?
その事がかなり疑問だったのだが、聞いてしまうと何か大切なものを失いそうで結局聞くことは出来なかった。
しかし、ヒナタは俺の知らないところではいつもあんな感じなのだろうか?
ヒナタの様子を見て、何故か去年の大晦日の壊れた忍達の姿が鮮明にフラッシュバックしてきた。
木ノ葉の里で俺に好意的な人間は、必ずといっていいほど奇怪な行動に出る一面がある。
特に旧家の当主達の壊れっぷりは、『頭のネジが2〜3本飛んでいるのでは?』と思うぐらいヒドイ有様で、他の追随を全く許さない。
ヒナタの親父にしてもそうだ。
世間一般では厳格な名門の当主で通っているがその実態は、娘を溺愛するあまりヒナタに近付く男は誰であれ、お構いナシに半殺しにするような重度の親バカである。
以前アカデミーの教員の1人が、音楽の授業の後ヒナタが忘れて帰った笛を家に届けたのだが・・・・・・。
―去年の夏・日向家の門前にて―
俺は暗部としての任務を終えて、家に帰る途中だった。
正確には覚えていないが、時間は多分9時頃だったと思う。
夜だというのに夏のジメジメした空気が鬱陶しく、面なんぞ被ってられるかって感じだった。
でも万が一の時を考えて、仕方なく嫌々ながらも被っていた。
屋根から屋根へと跳び回り、さっさと家に帰って風呂にでも入ろうと考えていたのだが、デカい家の門前から言い争う声が聞こえてきた。
少し気になったので気配を絶って声の方向に近付いてみたら、ヒナタの親父がアカデミーの教師を問い詰めていた。
蛇足だがアカデミーの教師達の中で俺を人間扱いする奴など、イルカ先生以外には誰一人としていない。
だからこれがイルカ先生だったら助けていたが、その他の教師など知ったことではないので屋根の上から事の成り行きを楽しむことにした。
『だから、ち、違いますって!!! これはお嬢さんの忘れ物で・・・・・・』
『嘘を吐くなぁ! しっかり者のヒナタが忘れ物などするか!!
貴様が盗んだのだろう!! 言え! 一体何時盗み出したのだッッ!!!』
おそらく男の言っていることは本当なのだろうが、頭に血が上っている親父は欠片も信じていない。
その上会話がかみ合っていない・・・・・・と言うか親父は相手の話など聞いてねぇ。
中々面白い状況だったので、帰ってアンコや玉藻達に聞かせてやろうと思った。
『で、ですから! 先程から申し上げているように、私はお嬢さんの忘れ物を届けに来ただけです!!』
親父に脅えてヘコヘコと頭を下げる男だったが、
『貴様ぁ!! 私のヒナタたんの縦笛をしゃぶってハァハァしおったのだな!!
不届き者めが、そこに直れ! このワシが直々に成敗してくれる!!』
何をどう勘違いすれば、そんな面白い答えが出てくるのやら・・・。
男の意見など全くの無視である。
この親父の頭の中は多分こんな感じなのだろう。
ヒナタ=宝物 宝に近付く者=罪人(男限定) 罪人=問答無用 問答無用=死罪
日向家の現当主は中々面白い方程式をお持ちのようで・・・・・・。
しかも何だよ、そのヒナタたんって?
・・・・・・いつも、そんな風に呼んでんのかよアンタ?
瞬時に白眼を発動させ射殺さんばかりの視線で相手の男を睨みつけ、鬼も裸足で逃げ出すような剣幕で詰め寄り。
『ひぃぃ!! ご、ごごご、誤解です!!! 神に誓ってそのような事は!!!』
誇りなど遥か彼方へ投げ捨てて、土下座で誤解を解こうとする相手に対して、
『問答無用!!! 死してその罪を償えい!!!』
そう言って足元の相手の顔面を蹴り上げ空中に浮かせ、腰の入った掌低で向かいの家の外塀まで吹き飛ばす。
もろに攻撃をくらった男は壁に半分ほどめり込んだ。
すかさず『ハァー!!』と口から湯気を吐いて構えを取り直す親父。
ちなみに見せた構えは日向流体術奥義、【八卦六十四掌】の体勢だった。
俺の目の錯覚だったのかも知れんが、親父の足元に大極図の様な模様が現れた。
【逝くぜベイビー! 柔拳法奥義・・・】
・・・・・・・・・前半に聞こえた言葉は無視して・・・とにかく親父の口から、奥義の名が解き放たれた。
【八卦二掌!】
壁にめり込んだまま突きを喰らった男が、『グエェ!』とアヒルの様なうめき声を上げた。
【四掌!】
この辺で背後の塀に走った亀裂が深みを増していく。・・・・・・・・・隣の家の家主はさぞ迷惑した事だろう。
【八掌!!】
『イエーイ!!!』などとほざきながら、波に乗ってきた親父が更に突きのスピードを速めた。
【十六掌!!】
親父の二本貫手の連撃による高速マッサージで、『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』と電気椅子に座った死刑囚が痙攣するかの如く、何とも悲痛な悲鳴が夜の武家屋敷(まぁ武家じゃなくて忍だが)に高らかに響き、
【三十二掌!!!】
ヒートアップした親父のコンサートもクライマックスを迎え、『アタタタタ!!』とハイになった親父の掛け声や、『ひでぶ!あべし!たわば!』とか何処か世紀末を感じさせる、男の断末魔が聞こえ出した。
【六十四掌!!!!】
ここで遂に、背後の塀が人1人クッションにしていたにも拘らず、親父の放つ必殺奥義の衝撃に耐え切れず完膚なきまでに崩壊した。
技の中盤から気を失っていた男に対して、日向家秘伝の【八卦・六十四掌】で見事に止めを刺したわけだ。
だが親父はそれでも飽き足らず、塀を突き破り他人ん家の庭に倒れた男に、壊れた塀を乗り越え大股で歩みより、胸倉を掴んでそのまま真上に放り投げた。
結構上空まで舞い上がり、引力に遵って親父の頭上にボロキレと化した男がヒラリと落下していく。
それを視界に納めた親父が、全身からチャクラを放出し始め、上半身を捻じ切れんばかりに捻り力を溜める。
そして男と接触する瞬間に溜め込んだ力を解放し、全身のバネを利かせて体を回転させた。
【八卦掌 回天!!】
接触ギリギリのタイミングを白眼で見切り、ダメ押しに零距離射程からの回天をお見舞いし、男は星になって夜空に消えた。
当然ながらそんなものを喰らったら、高々中忍のアカデミー教師はひとたまりもない。
だが、男は辛うじて一命を取りとめ現在もリハビリ中である。
・・・・・・・・・・・・まぁどーでもいい話だ。
ちなみに、この1件は『名家当主の暴走が表沙汰になると色々とマズイ』との事で、ジィさんと御意見番の2人が揉み消した。
そしてこの事件の後、何処からとも無く『日向の屋敷には鬼が出る』との噂が流れ、めでたく木ノ葉の七不思議の1つに数えられる事になった。
事の詳細を知る一部の者は、『日向ヒアシの乱』と呼んでいたりするが・・・・・・。
とまぁこんな具合で、とにかく娘に近付く男は誰であれ敵視しているというわけだ。
普段はまともで俺には結構優しいのだが、ヒナタにちょっかい出したら間違いなく俺も敵と見なされるだろう。
無論実力を出せば負けることなど有り得ないが、俺は世話になった人に手を出すほど恩知らずではない。
去年のアレは・・・・・・・・・・・・・・・まぁ単なる事故だ。 きっとそうに違いない。
とにかく親を見習って俺を人間扱いしてくれるのはとても嬉しいが、出来ればこういう余計なところまでは見習わないでもらいたかった。
だが時すでに遅し。 シノやヒナタを見ている限りでは、親とタイプは違うがしっかりと余計な物まで受け継いでくれたらしい・・・。
何だか俺の心のオアシスが汚されたような、やりきれない想いで一杯だったが、俺にはどうすることも出来ず仕方なく食事を再開することにした。
・・・・・・・・・30分後。
シノ曰く、旅に出ていたであろうヒナタも、目的を果たしたのかこちらに戻ってきて食事を終えた。
現在はヒナタの入れてくれた茶を3人で啜りながら、残り時間をのんびりと過ごそうと考えている。
それにしてもヒナタの弁当は量も多かったし、どのオカズもとても美味かった。
まぁ念のため一通りメニューを紹介しておこう、ヒナタが作ってきたのは次の通り。
玉子焼き・春巻き・牛肉コロッケ・鶏のから揚げ・炒めたエノキのベーコン巻き・金平牛蒡・コーンサラダ・マッシュポテト・・・・・・・・・・。
とにかく色々なものが重箱に所狭しと並んでいた。 ・・・俺の嫌いな物が何一つ入っていなかったが・・・・・・偶然だろうか?
まぁそれはこの際おいといて、感想はなんと言うか・・・・・・・・・。
お袋の味ってやつかな?
って言っても俺には両親居ないし、そんなの分かんねぇんだけど・・・・・・。
せっちゃんはお袋っていうか姉ちゃんって感じだし・・・・・・
アンコや玉藻を母ちゃんなんて呼ぼうモンなら、その瞬間に間違いなく殺される。
・・・考えただけでも恐ろしい。
ごほん、まぁとにかく。
ヒナタの料理は真心が篭ってて、とても暖かい感じがした。
・・・しかし、本当にのどかで良い天気だなぁ。このまま横になって寝ていたい気分だ・・・。
吹き抜ける風がとても爽やかで、その風に揺られざわめく木々や空を飛びまわる鳥の歌声が耳に心地良い。
・・・唯一気になるのは、ヒナタがむしりとった大量の芝が積まれた山ぐらいだろう。
座ったままウトウトする幼馴染にそっと自分の上着を羽織らせるシノ。
のどかで微笑ましい光景だと思った。
俺も少しだけ眠ろうかと思ったのだが、
『ザザッ、ザザー! ガチャ! うずまきナルト! 大至急職員室まで来なさい!』
喧しい校内放送のせいで眠れなかった・・・・・・。
「ひゃう! ・・・・・・あれ? 私寝てたの・・・?」
おかげで空を舞う鳥たちも一斉に逃げ出し、せっかく気持ちよく寝ていたヒナタも目を覚ましてしまった。
「呼び出しのようだが?」
『また何かやったのか?』とでも言いたげに、シノが俺に顔を向けた。
「俺、何もやってねぇんだがなぁ・・・」
全く持って身に覚えが無い突然の呼び出しに、俺は首を傾げた。
『繰り返します! うずまきナルト!!
大至急職員室まで来なさい!!
て言うか来て下さい!!! お願いします!!!!
ちょ、ちょっと! 暴れないで下さい!!!
ぎゃ、ギャ―――!!! ガチャ!ザ―――・・・・・・・・』
・・・・・・何やらただ事ではないようだ。
「・・・・・・なんだこの放送は・・・」
「・・・・・・意味がわかんねぇ・・・」
「・・・・・・でも何か必死だったね・・・」
わけがわかんねぇ放送に2人も首を傾げ、釈然としないものが在ったが俺は立ち上がった。
「まぁ、とりあえず行って来るわ・・・ヒナタ、ご馳走様! 美味かったぞ!」
「う、うん!」
「・・・また後でな・・・」
「おう! んじゃな!」
俺は片手を挙げるシノとニッコリしたヒナタに手を振り返し、妙な呼び出しに猛烈に嫌な予感がして重い足取りで職員室へと向かった。
―職員室―
「だからうずまきを呼べと言ってるじゃねぇか!!!」
「ひ、ひぃぃぃぃい!! だ、だからすぐに来ますって!! 落ち着いて下さい!!!」
「んだとテメェ!! こんなに落ち着いてんじゃねぇか!!!
ふざけた事ぬかしてっと、コイツでブスッと殺っちまうぞ!? おおコラぁ!!?」
「ひぃぃぃ!!! こ、殺さないで!! だ、誰か助けて―――!!!」
―・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何してんだ、あの馬鹿?
ナルトはそう思った。
呼び出しに応じてやって来た職員室では、三馬鹿の頂点に君臨する猿飛アスマが大暴れしていたのだ。
しかも、職員室は嵐にでも遭ったかのように、滅茶苦茶に成り果てていた。
机がひっくり返り、壁や天井はひび割れ、あちらこちらに瓦礫の山が築かれている。
その中央では、左手で校長の襟元を締め上げ右手に持った愛用の武器を校長の首筋にあてがい、『いつでも殺すぞ!』と言わんばかりのアスマが睨みを利かせている。
アスマの手で天井スレスレまで吊り上げられた小太りでハゲの校長は、今にも失禁しそうな勢いで泣きながら必死に命乞いをしている。
他の職員達は校長を救うべく机や椅子でバリケードを築き、遠巻きにアスマの説得を試みてはいるが如何せん相手が悪い。
アスマは里でも五指に入るほどの腕利きの忍。
加えて常人には理解しがたい不可思議な思考回路の持ち主である。
さらに都合の悪いことは一切聞こえない上に、どんな状況でも自分を正当化することの出来る珍妙な特技を保有している。
この騒ぎも、『ナルトを救うためのジハードだ』とでも思っていることだろう。
職員達がいかに懸命にマニュアル通りの説得をしたところで、所詮マニュアルはマニュアル。
常識の全く通用しない相手や、その相手の行動による不測の事態に対応する事など出来はしないのである。
折角3人で楽しく平穏な一時を満喫していたと言うのに、自分が呼び出された理由がアスマのせいだったとは・・・・・・。
そう考えるとナルトは眉間に皺が寄るどころか、額に浮かんだ血管から血が噴き出そうだった。
「一応来たんだけど・・・」
何とか怒りを堪えて平静を装い、アスマに脅えてバリケードの後ろに隠れている職員達に声を掛ける。
「っ! うずまき!!!」
まるで汚い物でも見るかのように、職員達の視線がナルトに突き刺さる。
だがナルトは慣れている・・・と言うよりもそんな視線を向ける連中など、ゴミ以下にしか思っていないので全く気にしない。
「・・・何か用?」
呼ばれた理由はアスマだとは予想できるが、九妖の時はともかく、ナルトの時にアスマに会った事など一度も無い。
そのためナルトは、何故自分がアスマ呼ばれなければいけないのか?それ以前に何故アスマが自分のことを知っているのか?
そのことが激しく疑問だった。
「猿飛上忍がお前を呼べと言ったんだ! 理由など知るか!!」
しかしナルトに対する嫌悪感を隠しもせずに、1人の職員が感情のままに怒鳴り散らす。
そして他の者も同様に非難の目を向けている。
そんな職員達の態度にナルトは溜息を吐いて、机のバリケードを乗り越えアスマの方に向かって歩き出した。
「あの・・・・・・」
ナルトは、未だに校長を吊るし上げて脅しているアスマに声を掛けた。
するとアスマが、首の関節が外れそうな勢いでナルトの方を振り向いた。
「おお!お前がうずまきか!?」
そして振り向きざまに校長を窓に向かって放り投げ、右手に着けていた愛用の武器を素早く懐にしまう。
その手際、まさに電光石火!
ついでにアスマが放り投げた校長は、窓ガラスを突き破り窓の外に落ちた。
ガラスが刺さり血まみれになっているが、職員室は1階だったため高さもそんなに無いので一応生きている。
自分が投げ捨てた校長のことなど毛ほども気にしていないアスマは、漸くお目当てのナルトに会えて涎を垂らして喜んだ。
その様子を見て『やっぱり来なきゃ来るんじゃなかった』、そう思って顔を引き攣らせるナルトであった。
・・・・・・だが、ナルトの受難はまだまだ始まったばかりだった。